【第五章】──時喰らいとの決戦と、記憶のすべて
夜明け前。森の奥、異様な静けさが辺りを包んでいた。
そこに立つ、一真とリィナ。彼らの前に現れたのは、これまでの“時喰らい”とは異なる、より禍々しく、巨大な存在だった。
――《時喰らい・核》。
その姿は、人型の輪郭を保ちながらも、全身が歪んだ時空のひび割れで覆われ、触れた空気すら腐食させる。
「……ついに、来たな」
「この存在こそ、“世界の時を喰らい続けるもの”。あなたの記憶も、その中に……」
リィナの言葉を遮るように、核が呻くような音を発する。
そして、脳裏に直接響く“声”が、一真に語りかける。
> ――還れ。おまえの世界へ。
忘れろ。この世界を。あの女を。
すべては幻。おまえの“後悔”が生んだ、虚構の夢。
ぐらり、と視界が揺れた。
記憶が溢れ出す。
病院の白い天井。
昏睡状態にある恋人。
「助けて……誰か、助けて……」というか細い声。
そして、最後に見た彼女の笑顔――
「っ、これは……!」
一真の中で、ふたつの世界が重なり、揺れ始める。
「あなたは、彼女を救うために……記憶の境界を越えて、この世界に来たのよ。一真さん!」
リィナの叫びが、迷いを貫く。
――そうだ。これはただの夢なんかじゃない。
ここで出会い、笑ってくれた“彼女”がいる。
そして、ここにもまた、“守りたい命”がある。
「……俺は、帰らない。いや、違う。“この世界”を――守る!」
光が弾ける。
一真の紋章が最大まで輝き、“記憶武装”が真の形を現す。
――《レコーダー・コード:イグジスト》
それは、“過去の記録”と“未来の選択”を斬り裂く剣。
「リィナ、力を貸せ!」
「ええ――“あなたと共に在る”って、決めたから!」
ふたりの想いが重なり、時喰らいの核へと飛び込む。
黒き存在が咆哮をあげるも、その刃は確かに届いた。
斬り裂くのは、絶望の連鎖。
繋ぐのは、今ここにある“記憶と想い”。
――そして、戦いの果て。
光の中で崩れていく時喰らいの残滓。
一真は、意識の奥で“誰か”の声を聞いた。
> 「ありがとう、あなたのおかげで――わたし、生きたままで、また……」
声が、静かに消えていく。
次の瞬間、彼はリィナの手をしっかりと握りしめていた。
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さあ、すべての“選択”を終えた先に――
【最終章:ふたりの世界、はじまりの朝】