【第一章/中盤】──時を喰らう世界
【第一章/中盤】──時を喰らう世界
「ここは……どこなんだ。日本じゃない、ってのは分かる」
一真は深呼吸しながら、あたりを見渡した。
大理石のような床、浮遊する光の粒、そして星空を封じ込めた天蓋。空気すらほんのり甘く、まるで夢の中にいるような感覚だった。
少女――リィナは、石造りの円卓に手を置き、静かに言葉を紡いだ。
「ここは、セラフィード。精霊と魔法、そして“時の因果”が巡る世界……あなたの世界とは、たぶん、時の流れそのものが違う」
「時の……流れ?」
「うん。たとえば、この世界で一日が過ぎるあいだに、あなたの世界では、何年、何十年も流れることがあるわ。逆もまた、ね」
一真は理解が追いつかないまま、重くなる頭を押さえた。
「なんで……そんな場所に、俺がいる?」
リィナは黙った。
しばらくの沈黙のあと、彼女は言った。
「“時の鍵”は、異世界の記憶を持つ者しか継げないの。過去を悔い、未来を求める強い意志を持つ者――あなたは、呼応してしまった」
「俺が? そんな……」
何かを選んだ覚えはない。だが心の奥で、仕事と日常に押しつぶされ、立ち止まることすら許されなかった日々を思い出す。
「あなたの“記憶”には、強い歪みがある。わたしには、それが……見えたの」
リィナの瞳が、一真の中を覗くように揺れた。
「だから、私の禁術が、あなたを呼んでしまった……」
一真は彼女の言葉に戸惑いながらも、問いかけた。
「……お前の目的はなんだ?」
リィナは答えた。
「たったひとつだけ。過去を変えること。愛する人を、もう一度この手で……救うこと」