第十五録:次に向けて 五節「ただ決勝で」
俺たちは不安を抱えて大会当日を迎える
予選は正直、準備運動にすらならなかった
俺とウルは予選で当たる事なく
本戦トーナメント表でも順当に行けば決勝で当たる事に。
多分…俺たち二人が当たらない様にしたんだろう
ギルドランクも加味していると話していたしな。
今は野外ステージで他の催し物が行われていた
その間、俺たち選手は舞台裏に控え準備をする
前座の催し物が会場は盛り上げ、いよいよ大会が始まる。
「さー!!始まりましたァ!第28回ルスティアアームレスリング大会!!
予選を勝ち抜いた強者の登場だァ!!」
司会の女性が声高らかに熱意のある宣言。
呼応する様に湧き上がる観客たち。
それを合図に俺たちは舞台裏から登場する
総勢16名の屈強な男たちが並ぶ。
視界が順に自己紹介を始める。
全員が自分が優勝するものと思っている
自身の技量、力に絶対の自信がある。
他の14人には悪いが俺が警戒するのはウルのみ
「今大会の二人のジョーカーが一人!ギルド等級は一等級!
美女三人を連れ街を歩く姿はみなさんご存知
ウルスタン・ザ・バレンタイン!!!!」
いつも通りキメ顔をするウル。
なまじ美形で様になってるから腹立つな
周りからは妬みを込めたブーイングがあがる
…声をあげているのは男性だけなのがなんとも虚しい
ブーイングが収まり次の選手が紹介されていき
順番的に仕方がないが最後は俺だ。
「そして!最後はこの男!最後のジョーカー!
魔族を連れ生の人間を破壊するほどの
パワーを持つ!異邦者のヨリツグだぁ!!!」
…聞き捨てならん事を言ったなこの司会。
てかなんで昇格試合の事知ってんだ!?
可能性としてあの対戦相手が漏らしたのか?
「総勢16名による自身のプライドを賭けた
熱い戦いが今年も幕開けだァァァ!!!」
司会の声と突き上げた拳により加速する熱気。
割れんばかりの声をが重低音の様に体に響く。
俺たちは舞台から降り第1試合の準備が始まる
関係者席に戻ると夜天羅が出迎えてくれた。
「お前様!ワクワクするのう」
「…だな」
確かにワクワクはするが同時に
かなり緊張はしている、夜天羅はお祭りを楽しんでる。
にゃんにゃー?
足元のコイスケを抱き上げて撫でる
何か落ち着かないときはついついコイスケを撫でまわしてしまう。
「やあ!まさかだね!ヨリツグ」
声をかけてきたのはウルだ
正直俺は驚いている、コイツが大会に出る事にだ。
「よう、しっかしお前こういう大会出るんだな?」
「まぁね!商品ためさ!」
「ヤテンラー!」
「こんにちはですわ」
「どうもー」
「三人とも!」
少し遅れて現れたのはウルの恋人たちだ
三人も夜天羅と同じくお祭りを楽しんでいる様だ。
「今きたのは宣戦布告さ!負けないよ!」
「そのセリフそのまま返すぜ」
笑い合い軽口を叩くがウルから負ける気がないのが
伝わってくる、まぁそれは俺も同じだ。
「お!僕の試合が始まるね!言ってくるよ!」
「頑張ってーウル!」
三人の声援を受けて舞台へ向かうウル
しかし、すぐに戻ってくる事になる。
瞬殺とはこの事だ、気がついた時には試合が終わっていた。
あまりの電光石火に司会の実況が止まる。
「し、勝者!!ウルスタン!!早い!?
何が起こったのか理解ができません!!圧倒的だ!!」
戻ってきたウルは髪を払い事も無げな様子。
やはり速い…これで全力ではないと言うのだから恐ろしい。
「ま、余裕だね!さて、次はヨリツグじゃないか?」
「だなぁ…勝ってくるわ」
「ファイトじゃ!お前様!」
にゃんにゃんにゃにゃー!!
最愛の夜天羅と相棒のコイスケから
これ以上のない声援を受けて舞台に立つ。
相手は2メートルある巨漢、アームレスリングの
競技台に腕を乗せているが全てが小さく見える
俺を見て自分は優位と思っているのか
その表情に余裕が見える。
俺も相手と同じく競技台に手を
乗せ相手と手を握り試合開始を待つ。
「では…」
ピーッ開始の合図が鳴り響く。
俺は力を込め相手の腕を競技台には叩きつけた
すると─バギィ!!!
「うお!?」
台が砕けると共に対戦相手は横転してしまう。
自分でした事に驚く、まさか…こんな弱いとは
思わなかった。
相手の強さを見誤ってしまった。
「し、勝者!!ヨリツグ!!噂に違わぬ
パワーを見せつけて圧勝、圧倒的だぁ!!!」
一瞬の静寂ののち歓声が湧き上がった。
それを聞きながら席に帰る。
「お前様!すごいのう!!」
にゃんにゃーにゃにゃ!!
「ありがとう」
夜天羅の賛辞を受け取りコイスケを撫でる。




