第七録:この世界で─ 四節「贈り物」
初依頼から数日経ち、仕立て屋が休日。
俺や夜天羅はカルステ一家に混じり団欒を過ごしていた、そんな穏やかな昼下がり裏口のドアベルが鳴った。
「俺が出ますよ」
「ありがとう」
「ありがとうね〜」
この数日でリグレさんやセイナさんとは少し砕けた話し方をする様になった、夫妻から感謝されつつ裏口近くにいた俺が立ち上がりドアへ向かう。
ドアを開けた先にいた来客、それはギルドの配達員だった。
あぁ、なるほど…アレの素材が来たのか、荷物を受け取り互いに挨拶をして配達員は去っていった俺は荷物と一緒にリビングに戻る。
「おや、荷物ですか?」
「これなにー!!」
「こないだの初依頼の素材です」
「おー!あの素材届いたんじゃな!」
「そういえば二人が何を倒したか聞いてなかったわね」
各々が興味がある様子、俺は夜天羅に視線を送ると彼女は頷くどうやら同じ考えだったようだ。
「じゃあ開けてみようかのう」
リビングの上に大きめの包装紙を置いた、紐で縛られたそれを夜天羅が解く。
包装紙が解けて現れたのは──
「わぁ!!きれいな赤色!!」
紅色の艶やかな毛皮が綺麗に処理され畳まれて入っていた。
「………」
「………」
はしゃいでいるリリーちゃんとは対比に絶句して固まっているカルステ夫妻…多分二人ともこれが何の毛皮か気がついている。
「わー、うわぃ!?」
毛皮を触ろうとしたリリーちゃんを目にもとまらない速さで抱き抱えて止めるセイナさん。
その顔には冷や汗が伝っている。
「あの…ヨリツグさん?これ、は?」
リグレさんは絞り出した様な声でこちらに問いかける。
「クリムゾンヴォーパルの毛皮です」
「のじゃ!」
名を口にすると後ずさるカルステ一家。
…後から聞いた話このクリムゾンヴォーパルの毛皮は相当価値が高いらしい、一等級という限られた者しか討伐できない魔物の素材、それだけで価値は高い。
しかもヴォーパルの毛皮は”王族の紅”と言われるほど美しくこの毛皮で作った服はそれだけで一財産築けるほど。
「と、討伐されたと聞いていましたが、まさかお二人だとは…」
「リリー、絶対、絶対に触っちゃダメよ!?」
「えー?」
不満な声を上げるリリーちゃん。
セイナさんの対応は正しい、これが他人のものならね。
「大丈夫じゃよ?これはリグレどのにあげるものだしのう」
「……………はい?」
夜天羅の発言を信じられないと言った風なリグレさんとセイナさん。
「い、いやいやいやいやいや!!何を仰っているんですか!?」
「そうよ!これは、ちょっと受け取れないわよ!?」
「でも…俺、所有者登録はリグレさんにしちゃいましたよ?」
二人が受け取ってくれないのはわかっているだから受け取らざる得ない状態に持っていく。
所有者登録、要はシリアルナンバーみたいなもので一部の高価な素材は盗難などが発生する為にこれが必須だ。
「!?!!!」
その情報を理解して夫妻は驚きを隠せない。
にゃうん?
「?」
リリーちゃんとコイスケだけが状況を把握できてなく首を傾げている。
「まぁなんじゃ感謝の印じゃ受け取ってほしいんじゃ」
「これでセイナさんやリリーちゃんに服を作ってあげてください」
クリムゾンヴォーパル討伐の理由はほとんど毛皮目当てだがこの世界において自分たちの実力がどこまで通用するのか知りたい側面もあった。
「…………わかりました、有難く頂戴します」
俺たちが折れないとわかったからか毛皮を受け取ってくれた。
「これが、王族の紅か…」
「まさか…私の裁縫師人生で触れることができるなんて…」
恐る恐る毛皮に触れるリグレさん、半ば強引だったが喜んでくれている様だ。
「リリーも触りたい!!」
「二人がくれた物だから優しくねリリー」
「うん!」
リリーちゃんは毛皮に近寄るとその小さな手で毛皮に触れた。
「わぁーさらさら!!」
ニコニコと目を輝かせてる、その様子を見ているとこれだけでも贈った甲斐がある。
そんなドタバタが収まり、リグレさんは慎重に毛皮を作業場に持って行った、作業場に入ったリグレさんはそのままずっと出てこないままだった。
「ごめんなさいね、あの人ったら集中すると出てこないのよ…多分今日はもう出てこないわ」
職人魂に火がついた、そんな感じだろうかこの日はセイナさんの言う通りリグレさんを見る事はなかった。




