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異世界帰還録  作者: 夜縹 空継
第一章:旅立ち
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第一録:月の瞳と鬼 三節「一目惚れした夜」

─そうして儀式の夜を迎えた

本堂の内陣、ご本尊をまつる場所には蝋燭(ろうそく)がゆらゆらと周囲を照らしている。

いくら普段から見慣れている場所とはいえ周りは暗く蝋燭に照らされた

鬼を模した仏様のご本尊(ごほんぞん)は失礼ながら不気味に感じる。

外陣(げじん)には普段、参拝などに必要な道具等を置いているが

今は俺が寝るための布団が敷いてある人が10〜12は座って入れるほど広い。

本堂でわざわざ道具を移動させたのは俺がご本尊の真正面に布団を敷いておく為

しかも布団の横にはご丁寧に和服の寝巻きまで用意されている。


「…さて、どうなることやら」

ごろんと布団に寝転び寝れない状況に悶々とする。

儀式とは呼べない内容の儀式に不安を感じつつここまできたら

後は野となれ山となれと少し無責任な気持ちになる。

薄く照らされた自分の指を見た薬指には昼に渡された指輪がはまっている。

「…こんなの新婚初夜じゃねーか」


儀式なんて大層な言い分だが状況はもうそれでしかないような流れだ

婚姻の証である指輪をはめて夜に伴侶を待つ。

年頃の未成年になんてことさせんだよ、いや…まぁ…昔基準だと16はいい大人か?

そもそもなんで16で儀式を?千里眼があるならこの時代を知っているはず…。

俺が18歳の時でもいい気がするが…そこはまで見通せなかったとかか?

─突然、フッと柔らかな風が吹いた蝋燭は消え辺りは真っ暗な闇に包まれる。


「!!」

流石に驚き布団から飛び起きて膝立ちになり辺りに神経を巡らし警戒をする

窓のない本堂で風なんて吹くはずがない。

ましてや蝋燭が消えるほどの風なんてありえない、異常事態。

暗闇の中耳に神経を集中させ周りを探る

しかし何も聞こえない…ただただ静寂だけが耳に響く。

何分たっただろうか、暗闇が時間の感覚を狂わせ無限を感じさる。


すると、パキッ…カラ…カラ…軽い木材の様な物が落ちる音が聞こえる

一瞬家鳴りかもと思うがそれにしては音がおかしい。

何かがこの本堂で起こっている、次の瞬間、─蝋燭が燃え上がった。

蝋燭その全てが前触れなく燃え始めた何が起こったのか分からなかった

暗闇に慣れ始めた目には眩過ぎる光、細めた目を今度は光に目を慣れさせる。

暗闇よりは早く光を受け入れて周りが良く見える

どうやら俺は後ろをご本尊の反対を向いてしまっていた様だ。


「…其方(そなた)が我の伴侶になる男かの?」

ご本尊の方向から聞こえてきたのは綺麗な声だった。

とても昔話で語られる鬼の様な恐ろしい声ではなかった、意を決して振り返る

ご本尊が崩れ木の破片が当たりに落ちていた。

そのご本尊の空洞だったであろう場所に鬼女が立っていた。


─目を奪われた、ハッキリ言って一目惚れだ。

彼女を目にした俺は鬼やご先祖のしがらみ

そんなものは些細な事と思えるほどに彼女に心を奪われた。

ハッとなり彼女から目線を逸らす。

「多分…俺だ、けど、話をする前にそこにある寝巻きを着てくれないか」

彼女に見惚れていたせいで全裸に気が付かなかった

俺は寝巻きを指差し着用を促した。

(つが)った後でよいじゃろ?」

全裸のままご本尊のある内陣から降りて自分に近づいてくる彼女。

「ストッ、止まって!止まって!

 とにかく着てくれ!お願いだから!説明するから!!」

必死の懇願、あんな格好で近づかれたらこっちの理性が持たん!

タチが悪いのはする気満々なとこだよ!なんで!?

こっちはもう心を射抜かれてんだ!理性がギリギリなんだよ!?


「…むぅしょうがないのぅ」

目の前の彼女は渋々ながら承諾してくれる以前として目を背けた状態

しかし衣擦れの音が心臓に悪い。

「ほれ、着てやったぞお前様よ」

お前様なんて今日日聞かない呼び名をされる昔の人?鬼だからだろう

改めて彼女の方へ視線を向けた、綺麗な人だ…。

「ッ、まず自己紹介からしません?俺は覡 縁嗣」

「わしは夜天羅、よし(つが)うか」

足早に名を名乗り着たばっかりの服を脱ぎ去ろうとする夜天羅。

「待って!待って!早い!行動が!」

「なんじゃ!夫婦は番うもんじゃろ!!」

ぎゃ、逆ギレ!?いやこれは違うのか!?

予想外の連続で混乱しっぱなしだ。

「じゃなくて!俺はまだそういうの許されない歳なんだよ!」

「!?」


めちゃくちゃ驚いてるな…無理もないか

ジェネレーションギャップどころの騒ぎじゃない…

彼女からすればもはや歴史の勉強だ。

「お、お前様いくつなんじゃ」

「16になったばっかりだ!あ、待って!今の時代じゃ16でもダメなんです!」

先手で情報をだし牽制をする。

「なっ、十六でいかんのか!?」

「そうです、ダメなんです!」

伝わらないのを承知で指でバッテンマークを作る。

18からじゃないと色々ダメなんだよ色々と!


「う〜むそうじゃとどうしたもんかのぅ」

「…来空(らいくう)め、どうなっておるんじゃ?」

どかっと布団の上に座る夜天羅は右手で顎を触りながら考え事をする。

本来ならそのまま…って流れだったんだろうな

しかしなんで番う流れに持っていこうとするんだ?

「と、とりあえず俺は両親を呼んで…」

「それはいかん、決していかんぞお前様」

考え事をしていた夜天羅はバッと顔を上げて

俺を止める、その顔は真剣そのもので鬼気迫るものを感じる。

「その顔は何も知らんなお前様」

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