余談「淡く散る想いは心の火炉へ。」後篇
私たちを追い抜いて現れた女性。
恐る恐る視線を上げて目の前の光景を視界に収める、覡君の横に並んだ長身で私から見ても綺麗な女性───その女性の額にはツノが生えていた…噂の魔族!?
霜田や茜たちも同じく驚いていた。
混乱するが一つ確かなことはこの二人は深い仲という事だろう、夜天羅と呼ばれた女性が覡君へ腕を絡めた時点で明白だ、そして──
呆然とした私の耳に所々、知りたくもない言葉が情報が入ってくる。
「わしと旦那様の付き合いは一年以上じゃよ」
一年…以上…その言葉が頭の中で何度もリピートされる、ハハッ…初めから勝ち目なんて──あぁ…私は覡君に惚れてたんだなぁ…こんな、こんな終わった瞬間に気がつくなんて。
残酷な事実に現実に血の気が引いてゆく。
そこから何をどうしていたかなんて記憶は定かじゃない、気がつけば寮の自室のベッドで横になっていた。
暗い部屋の中で天井をボーっと眺める、何もする気が起きない。
霜田と茜が受けた依頼には体調が優れないと断った。
私の初恋は自覚した時には終わっていた、行動を起こす事すら出来なかった…自覚した瞬間に失恋。
わかっていた、見て見ぬふりをしていた。
覡君を見ていた私にはずっとわかっていたのに
彼に誰か大切な人がいることなんて…わかっていたのに…。
あぁ…後悔だけが私の胸を掻きむしり叫びたいくらい心が痛い。
死んでいった淡い想いを抱き続けて捨てる勇気がもてない…でも心の中のもう一人の私がこう言ってくる。
「そんな物を後生大事に抱えているの?」
そんなこと私が一番よくわかっている、でも捨てる事に戸惑いが生まれる。
これを捨て去ってしまった時、私はまた人を好きになれるだろうか?もしかしたら次なんてないかもしれない。
そう考えるとこの想いを手放す事ができない。
「…後ろばっか見てもしょうがないじゃない」
また…もう一人の私が厳しくも静かな口調で言い放つ、手が震える。
私の目の前にはパチパチと爆ぜる火炉…今までも私は心の炉に迷いや悩みを焚べて前に進んできた、今回もそうする、出来るはずだ。
だが手は一向に終わった恋を離そうとしない。
「…声を掛ける勇気さえなかったくせに」
「うるさい…そんなこと!全部!全部!わかっている!でもこんなキラキラして多幸感に酔いしれそうな想いを手放すなんて!」
「だから…次を求めればいいじゃない、それを抱いている限り次の可能性を殺し続けるだけ」
「─────」
そうだ…私は、私はっ
「前に進みたい!!」
「ん、できるじゃない」
私は勢いのままに感情のままに淡い想いを燃え盛る火炉に投げ込んだ。
火炉に背を向けもう一人の私を過去にして前に進む、教訓という名の墓標を心に立てて歩みを進めて行く、瞳の涙を拭いながら。
そうだ…私は一人で立てないほど弱くはない、過去は縋るものではない。
さようなら、実る前に死んでいった恋心。




