第四十七録:準備運動 五節「一仕事」
───「うわーん!!なんですか!このバカみたいな依頼書の量は!?」
高く積まれた紙の束、その向こう側で泣き言が聞こえてくる…姿を見ずともどんな表情をしているかわかる。
「仕方がありませんよ、国中の依頼書の写しなんですから」
「うぅー…」
私の言葉の返事はうめき声だった確認作業を進める、ハミルトンの気持ちもわからないこともない。
ゴルドーとの密談後に写しを集めはじめた、ギルドの依頼書は国でも共有をしている為に写しの収集は簡単だった。
…今日で1週間は同じ作業をしている。
日々新しい依頼が舞い込み最初は確認しても減らず増えていく一方だった…しかしそれも終わりが見えてきている。
現状…怪しい候補は3つの依頼がある。
そのどれもに共通するのは正体不明の魔物の討伐だと言うこと、金払いが異様にいい事…なぜこんな好条件の依頼が残っているかと言う謎だ。
写しだからわからないが何らかの魔術を施されていても不思議ではないが…恐らくはスパイが意図的に隠している、実験に相応しい相手を探すために。
…歯がゆいのが私たちがそれについて調べる事ができない事だ、動けば察知され逃げられてしまう。
「あー!!終わりましたぁ!!!」
私は顔を上げると紙の束は消えてハミルトンが視界に映る、よほど疲れたのか机に突っ伏す。
「お疲れ様です、すごいですねハミルトン」
素直に彼女を称賛する、ハミルトンの情報処理能力はずば抜けていた…私も低くはないがそれでも比較にならない。
私は席を立ち一仕事終わったハミルトンへ甘いコーヒーを机に置く。
「うぅ…ありがとうございます…」
机から顔を上げてコーヒーを啜る、私も席につき一息つく。
「追加はなさそうですね」
「はいぃ…この3つが怪しい依頼ですね」
改めて依頼を確認する。
場所はアルカラド近くの森、モースリンガーの洞窟と海か…
「降魔礼讃はなんでわざわざギルドへ依頼をだしたんですかね?違法ギルドならまだしも…」
「一つは怪しまれない為でしょう、私たちもこうして調べなければ気がつきませんが下手に隠せばもっと早くバレていたでしょうね」
「もう一つは?」
「質です」
「質?」
「えぇ、違法ギルドに訪れるのは色々理由はあれど落ちぶれた者が行き着く場所、実験をするなら質の悪い非検体は不要です。」
「なるほど…」
「あとは私の能力は身内以外に知られてませんからね…触れただけで情報が盗まれるなんて思わないでしょう?」
敵の油断…と言うよりは予想外だろう。
私たち近衛騎士や国が強いのは常に魔法や魔術とは違う生まれついての異能を警戒しているからだ。
この異能は人間族にだけ現れる非常に希少な事例だ、竜人、獣人、妖精、魔族にはない特性…
まさかそんな異能持ちが近衛騎士に何人もいるとは思わないだろうし異能は魔術の様に決まった形がない、警戒しようにもその膨大な労力に見合わない。
「さて…2日ほど休みましょうか」
「え!?いいんですか!!」
「1週間働き詰めでしたからね、それに疲労した状態で戦場に赴くのは死を招きます」
「確かに…じゃあ!ご飯行きましょうよ!」
「私とですか?ご友人と会ってきてもいいんですよ?」
「私に友人はいません…」
「あぁ…」
確かハミルトンは記者で嫌われてましたね…少し無神経なことを言ってしまった。
「わかりました、行きましょうか…今回は私の奢りでいいですよ」
「本当ですか!やったー!!」
はしゃぐハミルトンを見つつコーヒーを一口飲む…まるで妹でもできた様だ。
「ほら!ザディルさん行きますよ!」
「はいはい、そんな焦らずに」
浮き足だっているハミルトンは率先して扉に向かう、席を立ち扉な方へ歩みを進める。私たち二人は散らかった部屋を後にして街へ繰り出すことにした。
豪華な食事は景気付けには丁度いい…調べは終わった後は動くだけだ…今度は必ず見つけ出してやる、そう自身を鼓舞する。




