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異世界帰還録  作者: 夜縹 空継
第四章:オーザンガール編
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余談「聖夜」

寒い冬の日、世間が浮き足出す12月のこの日。

子供から大人までが心躍らせる年の瀬のイベントの一つ…クリスマスがやってきた。

街中に目的の物を買い帰宅の道中にふと空を見上げる、時間はまだ17時だと言うのにもう暗く月と星が空を彩っていた…そこに白い粒がポツリと降ってきた。

「…雪か」


パラパラと雪が降ってくる、ホワイトクリスマスってやつだ。

明るい街灯が白い雪を照らし街の風景に加わる、なんだかその光景に思い耽ってしまう。

…多分、いや確実に浮かれてるまさか恋人と過ごすクリスマスなんて浮かれないってのが無理あるだろう。

本当に人生何がある変わらんものだ、去年のこの日は親父の知り合いの所で手伝いをしていた。


「まぁ…今それが役に立ってんだからなぁ」

手に持った紙袋を見て過去の自分を褒めてやる、夜天羅の事があるから今はもう辞めてしまったが手伝いの報酬がそれなりにあり定期的にやっていたので少しは貯金ができた。

「冷えてきたな…」

突風に晒された身体が冷たさに驚く、俺は足を早めて家へ向かう。

白い息を吐きながら階段を上がっていく見慣れた登り慣れた階段。

上がりきった先には寺と両親と住む自宅が見える。


しかし…俺が向かうのはその奥、表からは見えない書院へ向かった。

夜天羅へのプレゼントを隠して部屋に入る。

「おー!お前様!待っておったのじゃ」

明るく出迎えてくれる恋人の夜天羅もうそれだけで心が躍る、荷物と上着を置いて暖かな部屋に入っていく。

事前にクリスマスっぽく部屋を飾り付けを二人でしていたので部屋の雰囲気はそれっぽくなっている。


「じゃあ…並べるか」

「うむ!」

俺は近場の店で受け取ったピザとフライドチキンを並べ、夜天羅は食器の配膳と飲み物を取ってきてくれる。

「これは本当にジュースなんじゃよな?」

「あぁ、それっぽいジュースだよ…ちょっと子供っぽいけど好きなんだよなコレ」

小さい頃はこの日に飲める特別な物だったな…親父と一緒のものを飲んでるって感じがして楽しかった思い出がある。


「よし…準備完了だな」

「おー!豪華じゃな!」

こたつの上には贅沢な食事が広がる、ピザにチキンにコーンスープなど…ザ・クリスマスって感じのラインナップだ、俺たちは座りグラスを持つ。

「………」

「どうした?」

「いやぁ…異国の生誕祭で違和感がすごくてのう」


多分…これが普通に近い反応なんだろうな、日本は良いとこどりみたいにクリスマスはするしハロウィンもする…いや?海外も割とするか?

「まぁ、楽しいイベントとして考えたら良いよ」

「そうじゃな!じゃあ乾杯じゃ!」

夜天羅から差し出されたグラスに自分のグラスを軽く当てる、カンッ…と甲高い軽い音が短く響いた。


「んー!こってりしてるのう!和食にはない味で美味しいのじゃ」

普段はお袋の料理を食べておりこんな本格的なピザは初めてだ、夜天羅自身も和食が好きだし洋食はあまり慣れないのもあるな。

「こっちは天ぷらみたいじゃが、ザクザクじゃ」

楽しそうに食事を頬張るその新鮮な様子に俺は用意してよかったと嬉しくなる。


…それなりの量があったが夜天羅と話しながら食べているといつの間にか完食した。

「なくなったのう、いやー満腹満腹ごちそうさまなのじゃ」

「ごちそうさま」

二人でゴミの片付けなどを済ませてゆったりとした時間が流れてゆく。

「ほー…この光の祭りはすごいのう」

夜天羅がテレビに映るイルミネーションを見ながらポツリと言葉をこぼす。

「再来年は画面越しじゃなくて生で見に行こうぜ」

「楽しみにしておくのじゃ」


静かに俺の隣に来て肩を寄せて俺の腕を抱きしめてくる…最近はちょっとだけこのスキンシップにも慣れてきて動じなくなってはきた…が内心は心臓バクバクだ。

確かな夜天羅の温もりを感じつつ二人でテレビを見る。

「あっそうだ」

「んー?どうしたんじゃ?」

「ちょっと待ってて」

俺は夜天羅にそれだけを伝えると玄関付近に置いた夜天羅へのプレゼントをの紙袋を取り出して部屋へ戻る。


「はい、クリスマスプレゼント」

「!!」

夜天羅はびっくりした顔をして固まるがすぐにあたふたと手を動かす。

「あの、お、お前様、わしはそんな欲しい物などは!居候の身じゃし!」

欲しい物がないは多分本当に無いんだろうと思う、本人は宝石などには興味がないと言っていたしな。

「まぁまぁこれはこれから必需品になるし受け取ってくれ」

「必需品?」


夜天羅はおずおずと紙袋を受け取り中の物を取り出す、俺が夜天羅へ贈ったのは───

「これは…お前様がよく持っている板では?」

「そうスマートフォンってやつだ」

現代の必需品スマホだ、夜天羅の封印が解かれ書院で生活して約八ヶ月半ほどが過ぎた。

予想以上に夜天羅の現代への適応早い、電子機器も割とすぐに慣れてテレビで視聴できるサブスクなんかも使いこなしている。

そんな経緯もあり普段の生活から大丈夫と判断した。


「これで離れたとこにいても連絡を取り合えるし親父やお袋とだって話す事ができる、現代じゃ必需品だな」

「…………」

「夜天羅?」

「お前様ぁ!!」

「うお!?」

静かにスマホをこたつへ置いたかと思えば急にガバッと勢いよく抱きついてきた夜天羅。

それを受け止め勢いあまって抱きしめてしまう。


「ど、どうし──んむぅ!?!!?」

混乱した状況の俺へ夜天羅はさらに追い討ちで口付けを始める、一度落ち着いてもらおうと夜天羅と距離を空けようとするもガッチリと首元に両腕を回されて離れるに離れられない。

そうしてるうちにゆっくりと床へ倒れてゆき俺は夜天羅に押し倒された形になる。

「…………」

「や、夜天羅?」


異様に…夜天羅が艶っぽく妖艶に見えてしまう、クリスマス…恋人と二人きり…。

状況でいえばもう"そういう雰囲気"が完成されきっている、普通ならもうこのまま…っと流されてしまいたい…きっと俺からアクションを起こせば…だがそうはいかない。

俺たちがそういう事ができるようになるのは二年後だ。


「す、すまんお前様…わしの事を想ってくれるのが嬉しくて…つい…」

「まぁ…その全然大丈夫」

なにが大丈夫なものか危うく理性がぶっ飛びかけた、初めて会った夜よりも危なかった。

あと少し押されてたら俺からキスをし返すとこだったわ…。

夜天羅と俺は起き上がり座り直す。


「じ、じゃあ使い方を教えるよ」

「う、うむ!!」

二人して妙にドギマギしてしまっている…だが離れず隣でくっつきながら簡単な操作を夜天羅に教えてゆく。

…始めて過ごす聖夜、普通の恋人同士のようにはいかないがこんな幸せは世界に俺たちだけなんじゃないかとそう思うほどに心が満たされる、そんな特別な日だった。

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