余談「縋ること:後編」
「……とりあえず、お前らはなんでここに来たんだ?」
俺はアイアンクローを逃げ出されない程度に力を緩めてやる。
「…………デ、デートです」
「深夜の寺にデートに来るバカがいるかよ」
「アンタらだってそうじゃない!」
俺に向けて指差す女の幽霊…まぁ側から見たらそうなんだろうが…あいにくだな。
「俺はここの住職の息子だよ」
「!!」
「…本当は何しに来たんだ?さもなくば…」
俺はハッタリでポケットから数珠を取り出す、こいつらには"寺の息子"という情報を与えたそんなやつが数珠を取り出せば祓われると誤解するだろう。
「ほ、本当にデートなんだ!!」
「嘘なんかついてないわよ!」
二人の態度に嘘をついている様子はない…悪霊でもないなら二人を信用してもいい。
「はぁ…わかった」
俺はアイアンクローをやめて開放、夜天羅も女幽霊を開放してやる。
すぐさま女幽霊は男幽霊へと駆け寄る……なんだか俺たちが悪いみたいだ。
「僕たちは夫婦地蔵あると知ってここへ来たんだ」
夫婦地蔵…あぁなるほどな、こいつらと俺たちの行き先は同じだったわけだ。
「お参りでもするつもりだったのかよ」
少し冗談めかして言ってやる、幽霊がお参りとはなぁ…不思議な感じだ。
「あ、あぁ…そうだよ」
「私たちは…成仏できる場所を探しているの」
「デートとは…」
「それが地蔵の場所を選んだのかのう?」
なんか…理屈が合ってるようで合ってない…不自然な感じが拭えない。
「僕たち死者には縋るものがありません…祈りを捧げるのはいつだって生者です…だから」
「夫婦地蔵にお参りすれば…私たちは生まれ変わっても一緒でいられるかも知れないから…」
切実な二人の想い…互いを想い合う。
成仏が怖いのではない一緒に居られなくなるのが堪らなく耐えられない、だからなんでもいいから似た様なご利益に縋るしかない…
でもこの二人は理解している、成仏しなければその尊い慈しむべき想いが呪いになると。
「…わかった、ついて来い案内する」
「ここで会ったのも何かの縁じゃ」
「ほ、ほんと!?ありがとう!」
「なんだいいやつじゃない!」
パァと明るくなる二人…幽霊とは思えない明るさだ、俺が会ったことのあるやつがアレなやつだったからなぁ。
「僕は因幡 孝之助」
「私は餅月 潤美」
「覡 縁継だ」
「夜天羅じゃよ」
みなで自己紹介を済ませて再び目的の場所へと歩みを進める。
二人は幽霊らしく宙に浮き飛んでいる。
この二人のことは知っている…いや正確には思い出した、あれは二年前のニュースだ近くの場所で事故があったそれもそれなりの規模の大事故、二人はそれの被害者だ。
「ねぇ夜天羅…さんは鬼なの?」
餅月は気になり夜天羅に問いかける、その視線は夜天羅のツノだ。
「んー?そうじゃよ」
「げ、現代に鬼がいるなんて…」
幽霊も大概だけどな…そう言いたかったが俺は言葉をグッと飲み込んだ。
「安心するのじゃなんも取って食ったりせんのじゃ」
軽く…談笑しつつ歩いていた俺たちは目的の場所へ到着する。
そこには寄り添う二人のお地蔵さんが静かにだが確かにいた、その優しい顔が俺たちを歓迎している。
「これが…夫婦地蔵」
「あ、あれかな二礼二拍手だっけ?」
「それは神社じゃ」
「気持ちがこもってりゃ何でもいんじゃねーか?」
「…それが寺の息子の台詞?」
「普通に合掌一礼でよいのじゃ」
「そ、そっか!」
二人は姿勢を正して合掌、間を置いて深々と一礼する…願いを込めて長い、長い一礼。
「…これで生まれ変わっても二人で入れるかな?」
「きっと大丈夫さ!」
因幡と餅月は身を寄せて抱き合う…二人の様子からタイムリミットが近い事を察せられる。
悪霊になるのには個人差があるが一つ確かなのが循環しない魂は澱んでゆく事…澱んだその先は悪霊。
「…この寺の御神体じゃったわしからもお主らの幸福を願ってるのじゃ」
「えっ!?」
「神様!?」
「その道半じゃよ、色々訳あってのう…500年封印して貰ってたんじゃ…力は無いからお主らの希望は叶えてやれんが…」
「そんな!気持ちだけでも嬉しいです!」
「最期に神様に出会えるなんてね…」
「二人なら大丈夫だろ…誰だって自分の唯一無二を探してる、俺やアンタらはそれを手に入れた、例え記憶を消しても身体が違っても魂はその唯一無二に向かって行くと俺は思う」
これは本心だ、そうだったらいいなと本気で思っている。
俺ももう一度出会うなら夜天羅がいい…夜天羅じゃなきゃだめだ。
「縁継くん…」
「…確証はできないし幽霊だなんだを信じて日の浅い俺の持論だ、気休めぐらいに受け取ってくれ」
「アハハ!ありがとう!」
「いいわね、それをわたしも信じるわ」
夫婦地蔵の前、二人は淡く光を放ち始める…いよいよ二人が天に昇る準備を始めた。
因幡と餅月は見つめ合い最期に口付けを交わす
唇を話しそのまま見つめ合い空に消えていった
「お幸せにのー!!」
夜天羅の声が聞こえたかどうかはわからない、ただ…夏の満月と晴天の夜空だけが俺たちを見守っていた。




