第三十八録:あの子のために 二節「セフィロト」
「──な、何を言って!?」
ステンノ神の言葉が理解できない、依頼が自分を殺す事?何を考えているんだ。
「間違いじゃないわよ、私は神として死んで人になるわ」
「人に…ですか?ど、どうして?」
アルケイドさんも混乱気味に尋ねる。
神から…人へ…まずなぜ人にならねければならないのか。
「…私の神としての魂はもう限界なのよ、だから神を捨てる…この子の側にいるにはそれしかないのよ」
「魂の限界…」
「そ、千年間、補給もなしに無茶しまくったツケね…本当はあなたたちと別れた後はひっそりと消える予定だったのよね」
「まてまて!そっちも聞き捨てなんのじゃが!?」
「アハハ!ごめんなさい、実は力を取り戻す魔法は命と引き換えなのよ」
「はい!?」
どんどん出てくる新情報に頭が痛くなる、まぁ…ステンノ神は俺たちを必要以上に巻き込まない様に情報を伏せていたんだろう。
だが…そうは言ってられない状況になってしまった、自分の妹が残した忘形見…ルシュエーラと生きるための選択として神から堕ちる。
…似ている、夜天羅と似た状況だ。
「…そういうことなら協力は惜しまない」
「うむ!」
「それで…実際私たちは何を?」
クラシックさんはメガネを指で整えてステンノ神へ問いかける。
「受肉魔法"セフィロト"を行うわ、必要なのは優秀な魔術師と身体よ」
「か、かか、身体!?」
「そう、身体を錬成させるわ」
「なるほど、ホムンクルスですか」
…魔法をよく知らない俺からすればかなりぶっ飛んだことを言っている様にしか聞こえない。
「…話し腰を折る様で悪いがそのホムンクルスって殆ど人じゃないのか?」
「まぁそうね、でも人ではないはこれから作るのは言ってしまえば新鮮な死体よ…魂がない限り動きはしないわ」
人の身体だけを1から創造するのか…科学で言うところのクローンってことか。
「じ、人体のれ、れれ、錬成自体は回復魔法の延長みたいな…感じだよ、ま、まぁ今の時代、一人でできる人はいないかな…」
神だからできる…たしかに人を創造した神なら造作もないだろう、俺と夜天羅の怪我を一瞬で治すほどだ。
「それで…ヨリツグとヤテンラに数体の魔物を狩ってきてほしいのよ」
「人体の素材かの?」
「そ、話が早くて助かるわ」
「ま、魔物!?」
「普通…人体の錬成には人の一部を使用するはずですが」
「ま、普通ならそうなんだけど寿命はこの子に合わせてあげないとね」
「人より長生きなんかの?」
「えぇ、この子はハーフだから普通の人より長寿よ…エルフほどじゃないけどね」
ステンノ神はルシュエーラへ視線を向ける、そうか…半神半人なら寿命は長いのか。
「だから魔物で強化した人体?」
「そ、人体錬成できるギリギリのラインで強化をするわ、人を超えてしまうと"セフィロト"は発動できないからね」
「この"セフィロト"の本来の使い方は罰なのよ」
「罰…ですか?」
「普通の受肉なら神に戻る事は可能よ…"セフィロト"は神という存在殺して人へ落とす罰、神界では死より思い罰ね」
人への限定は罰ゆえか…神から人に堕ちるのは普通なら耐え難いだろう、人の上に立つ存在のとしてのプライドはズタズタ。
「トリーナたちはもちろん魔法の準備よ」
「い、今更ながらだけど…わ、私たちにつ、務まるのかな…」
不安を口にするエバーリンデさん、この四人は魔法の要になる…不安に思うのは仕方がない。
「そこは問題ありませんよ、私が最期にクイーンズガーデンを起動して皆様の能力を底上げさせてもらいます」
メディが答える…しかし不穏な文言が耳に入ってくる、最期だと?
「おぬし…最期とは?」
「…同じく私の魂も限界なのです、そして私は受肉できるほど魂の強度がありません」
「そ、そんな!」
「いいのですよアルケイド様、私は琉唯様とルシュエーラ様を守れた事だけで満足なのです」
…全てが万事解決とはいかないものだ、出したくもない犠牲が付いて回る。
すぐに犠牲を飲み込めるほど俺たちは薄情ではない、だが避けられないなら…犠牲を胸に、痛みを胸に忘れぬ様に進むしかない。




