第三十六録:望郷 二節「葬い」
「当然よ、リネットの身体も消えるわ……ほんとバカな子、人して亡くなれば葬いをしたのに…これじゃなにもしてやれないわよ」
物悲しそうな顔を見せたステンノ神、リネットを恨んでいるのは事実、過去の所業も許せない…でも最後くらいは友として親、しき隣人として、弔ってやりたい気持ちがあったのだろう。
それに葬いは残された側の踏ん切りでもある、だがステンノ神はそれさえできない。
主人格であるリネットと最期の対話は願わず、友だった頃の幸福だった記憶が彼女の心に曇りを与え蝕む、俺は……リネットの最期の言葉を伝えるか迷う。
理由はあれがリネットの主人格である確証がない、別人格の言葉はステンノ神からすれば何の意味もないものでむしろ心に余計なしこりができる、でも…俺は……知るべきだと思う。
「……ステンノ神」
「んー?」
口が重たい…全身に緊張が走るたった一言がとてつもなく重い。
誰かの言葉を伝えるそれだけの事、だがその言葉は明確に心に残る、良くも悪くも…一度、深呼吸をしてから俺は次の言葉を口にした。
「…ありがとう、だって」
ステンノ神の表情が一瞬固まり、リネットの遺体の方へ視線を向けた。
消えかかった頭部その顔に浮かぶ表情は──
「───ッ…ほんとバカな子よ」
ステンノ神は右手で両目を覆った…その手の隙間からは一筋の涙が頬を伝う。
誰も声をかける事なんてできなかった、ただ静かにステンノ神と消えゆくリネットを見守る。
登り切った太陽が長い影を作る、遺体の影だけが音もなく短くなり霧散していく…ついに跡形もなくなりリネットの遺体は風と共にどこともなく消え去った、そこには何も無かった様に。
…俺たちだけが知るリネット・ユーネリカの本性とその末路、きっと…誰も信用しないだろう
明確な証拠はなくあれが本当にリネット・ユーネリカだと証明ができない。
「さ!今度は私が貴方たちに協力をする番ね」
そう言って俺たちの方へ振り返るステンノ神の顔は晴れやかに見える、彼女の中で過去に区切がついたのだろう。
「協力…ですか?」
「力を貸してくれたんだからお礼するのが筋でしょう?貴女たちは何を望む?」
ステンノ神はトリーナさんたちへ問いかける、予想もしていなかった事態に四人は悩んでいた、何を頼もうかを。
「ま、決まったら言いなさい、それから貴方たちはどうする?」
「俺たちかぁ…」
「うーむ……」
夜天羅と共に考え込む、トリーナさんたちと違い何を頼むかの悩みではなく願いが何もない。
「あ」
夜天羅が何かを思いつき短く声をあげる、俺は彼女へ視線を向けた。
「……この世界に日本からの漂流物なんかがある場所に心当たりはないかの?」
「うーん…千年前の情報でいいならロッドロックとかファーネイル、アキレウサス、幻林星…あとはディープホワイトくらいかな?」
多いな…それだけ漂流物が流れ着いているわけだがなぜこうも日本の漂流物がある?
恐らくは全てが過去の遺跡だろう、あるかどうかは微妙なとこだでもこの情報はありがたい。
それに次元を超えての漂流物に時間は関係ない、ディープホワイトの件がそれを物語っている…こっちの世界ではニ千年前だがあの寺は鎌倉時代の物、時の流れが狂っている。
「助かるのじゃ!」
「ですね…ディープホワイトはすでに探索済みなんで他を当たります。」
「そう?」
向かう先が明確になったのは大きな収穫だな…街に帰ったらまずは挙げられた遺跡の依頼でも探してみよう。
「あの〜私たちは当時のお話をお聞きしたいです〜その時代を知るステンノ様にしかできないことなので〜」
トリーナさんはステンノ神への頼み事が決まったようだ、確かに千年前を知る者に出会うなんて考古学者らしい頼みだ。
「そんなことでいいの?」
「はい!我々は考古学者、元々この場所を調べるために来たんです!」
「あらそうなのね…それならお安いご用よ、けどまずは休みましょうか魔力も体力も使い果たしているからみんなお疲れでしょう?」
そう言われればそうだ…ステンノ神の力で傷は言えたが疲れは取れない、トリーナさんたちも同様に魔力が底をついている。
懐から時計を取り出して時間を確認して全員へ提案を持ち掛けた。
「……ですね、今は早朝だから昼ぐらいから行動しますか?」
「賛成〜」
「あ!ちょ、ちょっと待ってね!も、もうすぐ来ると思うから」
「何が来るんじゃ?」
「ん?」
遠くから何かが走ってくる様子が見られた、最初は敵かと思ったが…なるほど。
「ほう!ミハエラのゴーレムかの!」
走ってきたゴーレムはエバーリンデの隣で止まりそのまま次の命令を待っている。
「そ、そう!荷物番をしていた子!あ、合図を出したら私の元にく、来る様に設定していたの」
「ほう!便利じゃなー」
ゴーレムを加えて俺たちは石化の解かれた城に入り休める場所を探す。




