第三十六録:望郷 一節「遺言」
「うわー!!お前様ぁ!!!大丈夫かの!?今すぐ手当するから安静にして待つのじゃ!!」
うにゃー!!!にゃんにゃんにゃー!!!
夜天羅にコイスケが心配して駆け寄ってくれる今の俺は誰から見てもボロボロだからな…。
気持ちは嬉しい、俺は安心させる様にコイスケを撫でる。
「俺は後でいいから先に夜天羅の治療からだ」
「わー!ヤテンラ!ヨリツグ!二人ともうごかない!!」
ドロシーが慌てて現れて俺たちを諌めるその背後にはトリーナさん達がいた…ドロシーが一番まともなことを言っている、それに少し笑ってしまう。
「と、とと、とりあえず治療!!!エイミー!」
「ひとまず、初級の治癒魔術を施します!!」
クラシックさんとエバーリンデさんが大慌てで俺たちの治療に取りかかろうとしたその時、指を鳴らす音が響く。
「ッ!!身体が!?」
「おわ!なんじゃ!?」
俺と夜天羅の傷や衣服の損傷までが元に戻った、思わず自分の身体をペタペタと触る。
「お疲れ様…ヨリツグ、ヤテンラ」
音の主はステンノ神、まさか魔法で俺たちを治したというのだろうか?
「ステンノどの…魔法を?」
「ん?そうよ、決着がつくまでは力を温存しなきゃいけなかったから使えなかったけどもうその必要ないからね」
ステンノ神の顔はどこかスッキリしない顔をしていた…無理もないか、元凶であるリネットの主人格は最期まで沈黙を貫いた。
「ッ!?リネットの遺体が!?」
夜天羅が驚きの声を上げる、声に釣られてその方向へ視線を向けた。
「!!………皮肉なもんだな」
「本当にね…貴方の国の言葉を借りるなら因果応報ってやつよね」
リネットの遺体が石になっていく、奇妙なことに遺体から血液が流れていなかった。
死を恐れ、不死を目指し外道に落ち人ではないなにかになり果てには石になるか…確かに因果応報と呼べるだろうな。
「…なんでリネット、彼女は石に?」
近くにいたアルケイドさんがステンノ神へ質問を投げかける。
「神の力で無理やり身体を維持していたのよ…その証拠に血液がないでしょう?これは魔力を血液の代わりにしているから、死んで維持できなくなれば魔眼の暴走が自らを蝕むの…だから──」
ステンノ神は天上を指を指した、全員の視線が天上に集められた…そこには予想だにしない光景が広がっている。
「あら〜!!魔法が解けていくわね〜」
「これだけのものを魔力だけで構築していたのも驚きだわ!」
「興味深いですね…」
「う、うわー!!」
「石化の魔眼、その本質は固定…リネットが死ねばこうもなるわよ」
トリーナさんたちの驚愕も無理はない、天井から光が差し始めている。
「これが…全部魔法とはのう」
「ヤテンラ!ヤテンラ!壁が消えていくよ!!」
崩壊、瓦礫が落ちてくるみたいな感じではなくサラサラと砂の様に霧散していく、リネットが死んでからそう時間は立ってないにも関わらず下層まで崩壊が進んでいるという事はリネットが死んだ時点で崩壊は始まっていたんだろう。
そうして…この国を覆っていた石は全て消え去り朝日が俺たちを照らした。
「んー!!ひっさびさの陽の光は気持ちいいわ
ね!!千年ぶりかしら?」
ステンノ神は背伸びをして朝日を拝んでいる、長い暗闇の国は終わりを迎えた…息を吸うと朝特有の少し冷たい澄んだ空気が肺を満たす。
"敬虔なる望郷"とはよく言ったものだ、クイーンズガーデンから眺める景色には何か…懐かしさを覚える。
朝焼けの森を眺めつつ隣に座っている夜天羅の手を握る、彼女もすぐに手を握り返してくる。
「綺麗じゃな」
「あぁ…」
大規模な戦闘を終えた俺たち全員は何をするでもなくただただ景色を眺める、みな…疲れて落ち着きたいのだ。
「あ!!」
エバーリンデさんが声を上げた、指を指したのはリネットの遺体の方向。
国を覆っていた石の様にリネットの身体も砂の様に消え始めていた。




