第三録:仮初 四節「迷子」
「これは!」
考えていた事が半分的中した。
舗装された道の近くの樹木、そこには獣がつけた爪跡があった
俺の肩くらいの高さにつけられた樹木の傷深く抉れ獰猛な何かと予想ができる。
それに…
「お前様、この傷最近のものじゃ」
傷を見た夜天羅の表情は真剣で強く周りを警戒している、そう爪痕が新しい。
古いものなら木の成長と共に色や形が変化する
しかし今自分たちが発見した爪痕がある箇所は
新鮮な色合いをしている、木の屑も真新しい。
「だな…出会う前に人里に着きたいな」
うにゃ!!
コイスケが俺の足を前足でペシペシと軽く叩いていた。
「どうした?」
にゃうにゃー!
視線を向けた瞬間に道から飛び出して茂みに入っていく
小屋の件もある、何か見せたいものがあるのだろう。
「いこう!」
「じゃな!」
すぐに二人で小走りでコイスケを追う茂みに入って少しの所で俺たちを待っており
俺たちを確認すると走り進んでいく、コイスケを追う事10分。
ひっ…ひく…うぅ
か弱い、声を殺して泣いている声が聞こえて来た。
だれか遭難している?どこだ?
にゃーう
俺達を呼ぶようなコイスケの声が聞こえてそこに
行ってみると大きな倒木した古い木。
夜天羅とアイコンタクトを取り彼女は少し離れた場所に待機してもらう。
倒木の朽ちて空いた穴の隙間に子供が蹲っているのを発見した。
目を抑えて泣いている為かまだ俺には気がついついない様子。
にゃん
コイスケは子供の前で一声短く鳴いた。
「うっ…ひぐっ…ね、ねこちゃん?」
顔をあげて泣き腫らした目をコイスケに向ける
ただの迷子、ならそれでいいがあの木の爪痕が悪い予想を掻き立たせる。
「やぁ、大丈夫か?」
考えは一先ず置いておいて俺はしゃがみ子供の目線に合わせて話しかける。
ビクッと驚き怯えて俺を見て懐疑的な視線を送る子供。
悩んでいる、突然現れた俺を信用していいのか
助けを求めてもいいのかを、無理もない。
まだ幼い女の子、ここに来るまでに必死だったのか
服装の汚れと擦りむいた傷があちこちにあった。
「大丈夫…落ち着いて、俺はヨリツグ、この子はコイスケ」
にゃんにゃー
コイスケは俺の隣でお座りをしてしっぽをゆらゆらと揺らしていた。
そんなコイスケは不意に歩き出して少女に近づき少女の手が届く範囲に座り直す。
「撫でられるのが好きなんだ」
俺がそう言うと少女は恐る恐るコイスケに手を伸ばす
小さな手がコイスケの背を撫でた。
コイスケはゴロゴロと喉を鳴らすと少女の表情が一変する
「わぁ…」
笑顔になる少女。
手を伸ばし助けるのは簡単だでもそれは
少女がこちらに対して全幅の信用がある場合。
信用のない余所者が意思を無視すれば良くない方向に進むだろう
年端もいかない少女ならなおさら信用を得るのが先。
少女はコイスケに触れて心の余裕が出て来たのが窺える。
「…君はどうしてこんな所へ?」
「み、皆んなと遊んでたらね、ここまで来てね
ママに行っちゃダメって言われたのに。」
「そっか…お兄さんは休めるところを探しているんだ」
「そうなの…?」
「うん、良かったら…君の住む村まで案内してくれないかな?」
「怖い魔物がいて道、わかんなくなっちゃった」
やはり…あの爪痕の主が近くにいるのか…
と、なると全部を俺一人で対応するのは厳しい
夜天羅を呼ぶか?かなりの賭けになる。
人外に対する認識が少女と大人で齟齬があれば終わりだ…
コイスケがピクリと反応した、同時に─
「お前様!やっばいのじゃ!」
俺の背後から夜天羅が姿を現した
彼女が姿を現したということは緊急事態。
「どうした!?」
「なんかがくる!それもかなりの速さでじゃ!」
クソ!お出ましか!しかもこんな森の中を音を立てずにか!?
「っ荒っぽくなる!ごめんな!」
「う、うん!」
少女とコイスケを抱えて夜天羅と共に走り出す
自分たちだけがガサガサと草木の音を立てている。
「まだ距離は離れてるか!?」
「そうじゃな!まだ距離はあるのじゃ、姿は見えんが変わらず早いのう!?」
マジか!上手く撒ければいいが森の中を逃げるのはダメだ
相手のホームグラウンド、かと言ってこのまま道に出て少女に村を
案内してもらいつつ逃げても村に迷惑がかかる、仕方がない!
「夜天羅!道に出たら女の子を頼む」
「!戦うんか、お前様!?」
俺の考えを察した夜天羅は走りながらこちらを心配そうに見た。
「大丈夫!」
彼女の視線に対し笑顔で返す。
他にも何か言いたい事がありそうな様子だが状況を飲み込んでくれる。
全力で走り元の道に出て来た。
少女を腕から下ろしたこんな形で少女を夜天羅に託すことになるとは。
再び少女の目線に合わせて目を見て話す。
少女の瞳には不安、恐怖が見て取れる、俺は肩に優しく触れて話す。
「いい?あのお姉ちゃんと一緒にいれば安全だからね?」
少女は夜天羅を見上げた、その目には─
「こっちに来るのじゃ童よ」
夜天羅も少しかがんで手を差し出す。
「う、うん!」
迷いなく夜天羅の手を取った少女。
その目には珍しさと安堵が垣間見える
悪くない反応だ、さて…




