第三録:仮初 二節「太陽を君に。」
チュン…チュン、鳥の囀りが耳に入ってくる。
窓は閉ざしているため部屋は暗いがほんのわずかに入ってきた日光がうっすらと光の筋が差していた起きると見知らぬ小屋、隣では夜天羅が眠り空いたスペースにコイスケが収まっていた。
寝ぼけた頭を無理やり始動させて記憶を探る。
「あぁ…そうか」
昨日の記憶が鮮明に思い出されるのは夜天羅に出会った日の次くらいに衝撃的な日だった。
「んぁ…?」
色々と考えていると夜天羅が目を覚ました。
「おはよう、夜天羅」
「お前様、おはようなのじゃ」
夜天羅は寝起きでまだ少しぼーとしていた俺はベッドから立ち上がり蝋燭に光を灯す、古いマッチだが使えたのは運がいい蝋燭を持ちベッドボード上に置き再び彼女の隣に座る。
「夜天羅、ここは少ないが陽の光が入ってくる大丈夫か?」
ベッドの近くにある窓を見る雑な様に見えて意外に光の漏れは少ない。
夜天羅は陽光を浴びれない。
彼女の根源である邪気は日光に弱い、陽の光が邪気を焼き霧散させる…なら日中は外に出れるのでは?答えはノーだ。
邪気は夜天羅と一心同体、邪気が焼かれてしまうと夜天羅にも害が及び焼かれたような感覚に始まり体調を崩し徐々に衰弱、死に至る…だから陽の光は夜天羅にとって天敵だ。
「大丈夫じゃ」
「よかった…起きてすぐだけど状況を整理したい夜天羅はどうやってここに?」
どうやって来たのかわからない。
それは俺も同じ、解魔の瞳があるのにも関わらず魔法転移に巻き込まれた。
しかし原因はわかる、解魔の瞳は害をある物を分解する能力という事つまりは転移を人体に無害と判断したのだ実際、五体満足だしな。
これは悪い事ばかりではない、おかげで夜天羅と姻縁を結べた。
夜天羅は目を覚ます為両手で頬を軽く叩く。
「うむ、では話そうかの」
夜天羅はここきた経緯、昨日を語る…
「─てな感じでのう指輪のおかげで何とかの」
「なるほどな…」
手に付けている指輪に視線を向ける、この指輪にそんな機能があったなんてな…
しかし俺側は何もなかったが?それに邪気を気にするな…か、どういう─
「それからのう…邪気の事なんじゃが」
少し気まずそうにこちらを見つめてくる、やはり何か問題があるのか?それとも隙間から入ってくる陽光が辛いのか?
「やっぱりきついか?」
「…邪気が増幅しておらんし外に一切漏れてないんじゃ」
うーんと自身の身に起きた異変にどこか納得していない様子の夜天羅。
「え…?」
衝撃の発言に言葉が出ないあれだけ苦労をしている邪気が?抑えられている?寺の結界内でもないのに完全に抑えられ周りに被害を与えなくった?本当に親父の言葉通りなのか?しかし理由がわからない…。
「…異世界だからか?」
一番の原因としたらこれしかないふとあの枢機卿の言葉を思い出す。
"悪鬼に宿る邪悪な魔力は私いやこの世界では通用致しません。我々の神が許しません"ハッとなり、ある可能性が思い浮かぶ。
「夜天羅、推測だが周りの水準が上がったせいじゃないか?」
「…ありえるのう」
元いた地球ではこの世界で言う魔力が極端に薄いだから邪気は広がっていくがしかし邪気=魔力と考えるとこの世界の魔力は濃い、それは世界が魔力で周っているからだろうがなぜ邪気が広がらない事に繋がるのか?推測を例えると地球は水だ、濃い夜天羅の邪気は広がるし水はその色に染まっていく対してこの世界はすでに色つきの高粘性液体、無論染まりにくいし広がりにくいその結果として邪気は抑え込まれ外に害を及ばなくなった。
「課題はあと一つ…陽の光か…」
邪気は抑えれていても邪気の陽光の弱さがネックだ。
「それも大丈夫じゃないかのう?あの世界の日の光に問題があったわけじゃしこの世界の神が日の光に破魔を宿してなければじゃが」
…そうか!地球の神は太陽自体に破魔の光を宿した日本ではアマテラス、海外なら別の神、いわゆる太陽神その国によって神も違うため破魔の効果も違う。
日本の破魔は邪なる者を焼き払い清き者に神威を与える、解魔ノ瞳も神威の一つだ。
地球の神は破魔を太陽に与える事で悪を払い人の世に文字通り光をもたらした、この世界の神様事情によっては陽光が無害なのは充分にありえる。
「…窓、開けてみるか?」
恐る恐る夜天羅に提案…自分で言っておいてあまり良い気はしない痛みを伴うのは彼女だ。
「そうじゃのう、やってみようかの今の状況で昼に動けないのは不便じゃからな」
確かに昼に動けるのは大きい、この世界から帰るのならなおさら。
「わかった」
夜天羅の返事を受け窓に手を伸ばし取っ手に指をかけ開けるために力を込める緊張の一瞬。
「…いくぜ」
「いつでもよいぞお前様」
ギィ…窓が開き眩しい陽の光と風が入ってくる蝋燭は消え彼女は─
「はは、何ともないのう」
隣に座る夜天羅に陽の光が当たる彼女は痛がる様子はないその光景を目の当たりした俺は─
「あぁ…陽の光とはよいもじゃっ!?」
感極まって夜天羅を抱きしめてしまった。
彼女を苦しめていたものが一時的にとは言え全てが消えた、夜天羅の苦悩を知っている身として恋人としてこんな…こんなに嬉しい事はない。
「おお、お、お前様」
普段は抱きつくのは夜天羅からで俺は気恥ずかしてくあまりできていない、夜天羅は急な事に顔が赤く動揺していた。
「よかった…!」
「ん…ありがとうお前様」
少しあたふたしていた夜天羅だが抱き返しふたりで喜びを分かち合う。
「お前様!ちょっと外に出ないかの!」
ハグをやめ夜天羅は立ち上がり俺の手を引く、無邪気な彼女に止める間もなくドアを開けて二人一緒に外へ出た…辺りには澄んだ朝の空気が漂い朝露が草葉を濡らす。
「いい空気だのうー!」
「あぁ…いい朝だ」
んにゃあ〜ん
俺たちが騒いだせいかコイスケも外に出てきてあくびをして背を伸ばし毛繕い。
「さぁ!お前様!」
「ん?」
「わしらこれからどうしようかの?」
忘れていた…夜天羅の問題が仮解決して舞い上がってしまってた。
尼さんの千里眼は夜天羅と俺をここにくる事までは見通していたがそこまで。
これから先は未知、しかし尼さんは知っていて俺たちを此処へ送り込んだ、多分…ここでするべき事があるはずだでなければ異世界入りを回避している。
考えるべき事はあるが異界の扉を目指す、帰り道が分からないことにはどのみち意味がない。




