余談「集団失踪事件」
──慌ただしく動き回るスーツの人々。
その顔には焦り、混乱、苛立ち…
鳴り止まない電話がオフィスに響き
職員は怒声に近い声が指示を飛ばす。
カツカツと…早足の足音が廊下を歩く。
その歩みにもやはり焦りがある。
「どないなっとんねん!?異常も異常やぞ!?」
青鐘寺は少し後を歩く部下の荒垣に声を掛ける
荒垣も慌てながらも集めた情報を語る。
「どうもこうもないっすよ!急激に妖力値が爆発的に
上がったかと思ったら一クラス丸々35人が消えたんス!!」
パラパラ急拵えで用意した書類をめくる
ある一点の項目に目が奪われる荒垣。
スタスタと歩く青鐘寺は違和感を覚えて振り返る。
「なんや!はよ行くで!」
「青鐘寺先輩…ヤバいっス…」
青ざめた顔で青鐘寺を見つめる荒垣。
そのただならぬ様子に何があったか何を見たか尋ねた。
「…慧山…慧山高校の、2、2-Bデス」
「はぁ!?!!?」
誰よりも大きな声は慌ただしいオフィスに響く
偶然、そう呼ぶにはあまりにも確率がおかしい
「…予定変更や!覡家に行くで!!お前ら!
すまんがまかせるで!ええ感じに収めといてな!
終わったらたらふく美味いもん食わせたる!」
バタバタの現場の部下たちに檄を飛ばす。
投げっぱなしに見える指示
しかし青鐘寺はできない者にこんな頼みをしない。
再び足早に歩みを進ませて車に乗り込む。
「こういう時の特権や!」
パトランプを鳴り響かせて緊急走行で車をかっ飛ばす
…あらゆる信号を無視し最速で走らせる
その結果15分ほどかかる道を5分で走破
覡家の寺に到着、階段を駆け上がり本堂が見えた誰もいない広い敷地。
「…なんや?なんでこんな妖気が
感じられへんのや…いや、まさかそんな!」
「ちょ先輩!速いっスよ、あっちょっと!」
荒垣の制止も聞かずにズカズカと本堂の隣にある家屋に向かう。
インターホンを鳴らそうと手を挙げたその時
ガラ…引き戸式の玄関が開いた。
現れたのは覡 柳子、縁継の母。
「どうぞ、お待ちしておりました。」
「…お邪魔します」
「あ、お邪魔しますっス」
彼女は待っていたと言った…
つまり俺がここに来ることをしっとった…
靴を脱ぎ家に上がる、覡 祥子の後をついてゆく
ついた先の襖が開かれる。
「青鐘寺さん、荒垣さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
覡 宗高…覡家の現当主。
俺は挨拶もそこそこに本題を問う。
「宗高さん…息子さんの件ご存知ですよね?」
「…正確に全て知っている訳ではありません
息子がいなくなる事は知っていますがそれが
いつ起きるのかは記されていませんでした」
「そんな!なんで報告してくれなかったんすか!」
荒垣が声をあげた。
確かに…他の生徒まで巻き込まれてる。
怒りも全うだろう。
「…簡単に言ってしまえば未来が崩壊します」
「な、なにを!?」
「来空の手記ですか」
「…ご存知でしたか、あの手記は今を生きる者とっては
呪いに近いです。それを知っていても祖先の来空は残した」
…未来を知るということはそこに
至るまでの行動を一切狂いなく動くと言う事。
些細な狂いでさえ時が進むにつれ
その狂いは取り返しのつかないものになる。
「…もう一つ、夜天羅さんは?」
半分、分かっている事を聞く。
俺の予想が正しければ──
「夜天羅ちゃんも息子の後を追いました」
やはりか…ここに来てから妖気を感じなかった
あの独特の妖気がない…予想はついていた。
「…帰ってくる保証は?」
「あります、いつになるかはわかりませんですが必ず帰ってきます。」
「そうですか…手記を見せて頂くことは?」
「役目を果たして消えたのでそれはできません」
妖術の類だな、時を迎え消失…
…これ以上ここでは情報を拾えないないだろう
「突然、押しかけてすみませんでした」
「いえ…大丈夫ですよ、それではお気をつけて」
俺たちは覡家を後にする。
「先輩…よかったんスカ?」
「何がや…」
車の中、運転する横の助手席では荒垣が不服そうにしていた。
「こんな大事件のそれも重要な証人じゃないスカ…」
荒垣の言う事も一理ある
あの夫婦が重要人物な事は間違いないしかし──
「…あの夫婦は語った事以上のことを知らん
覡 宗高が手記から解放されたんや」
「それ自体が虚偽なら?」
「そりゃないわ、あの二人は一般人や…
お前の妖術に反応せんかったやろ?」
「そうっスね…」
荒垣の妖術"心眼"は対象の機微を読み取る
嘘や隠し事は看破されてしまう。
妖術師なら何らかの術を使って
回避ができるだろうが彼らはできない。
「ま、俺らなりに調べるしかないわな…
しかし今は事後処理が最優先やな」
「…はいっス!みんなに任せっきりっスからね!」
「は〜忙しなんなぁ」
その後は…関係者や家族に説明と言う名の
もみ消しをしてから本格的に妖術での捜査を開始。
だが…捜査は難航する。
妖術的な証拠が何もない、記録としては
莫大な妖力がその地にあった事実だけ…
失踪者の足取りが掴めない。
まるで…まるで世界から消えたみたいだ。




