第二十一録:罪の跡 一節「終幕」
[エミリー!?なぜ─]
思わず振り返ったグングニルだが遅かった。
即座に変形したレーヴァテインは
ロスト・レクイエムを胴体に深々と突き立てた。
左手で刺さったレクイエムを握り引き抜こうと抵抗を見せる。
["ディープダウン"発動!]
リーン…鈴音が澄んだ音色が一度響いた。
その瞬間、グングニルの左手がダラリと力なく垂れ下がり
光を放っていた各部位のセンサーは暗くなり反応を示さなくなる。
「や!ヨリツグ!上手くいったかい?」
「あぁ…バッチリだ」
ニックの…グングニルの敗因はウルを放置したことだ
罰光を破壊して魔力がほとんど無い事で戦力外と判断した。
戦闘から外れたウルがエミリーとレーヴァテインの
応急処置をしたなど想像もしてなかったんだろう…
だから反応が遅れ決定打を受けてしまった。
ガシャンッ!!グングニルの頭部背面の装甲が外れ動きを見せた。
地面に落ちてきたそれは──
「やっぱり…そこにいたかニック」
戦闘の最中、ライカの願い星を発動前だ…
神聖防御があるにも関わらず、俺が投擲した
鉄棒を手で防いだ、その違和感は当たりだった。
「気安く…俺の名を口するな!!」
柏木博士の手記とは見た目が違う。
外見は人だったと記されていたが
目の前にいるニックはまさしく人形ロボットだ。
機械のフレーム、無機質な頭部、その表情はないのっぺらぼう。
[…ニック、貴方その姿!]
「穢らわしい人の皮など!とうの昔に捨てた!」
「そも!俺たちは人ではない!異邦神
あの寺に残った魂の残骸そのリサイクルだ!」
エミリー、ニックの出自…
俺たちが訪れたあの廃寺に祀られていた神の残魂
その魂を使って生み出された試作品。
だから彼らは人より神に近い、研究の末生み出された魂の正体。
「ハハ!君はなぜ動けているんだい?」
エミリーが駆るレーヴァテインの
メインウェポン、ロスト・レクイエム
能力はディープダウン、あらゆるシステムを
強制的にシャットダウンする…
しかし目の前にはニックが立っている。
[…システムを頭部と胴体で独立させて
ディープダウンが効果を発揮する前に物理的に切り離したのね]
「…正解だ、一度それを喰らえば対策はする」
「で、どうするんだニックもう勝負はついたぜ?」
「僕たちも特段、君を殺す理由はない
人類全滅をしないのであればね!」
「…貴様らに!なにが!」
怒り、怒り、怒り、ニックを支配する感情と言う名の化け物…
「…俺たちはお前の気持ちを理解できる」
「は?」
一瞬の唖然の後すぐに憤怒と怨嗟に塗れた
黒い感情を吐き出すように叫ぶ。
「貴様ァ!!人間が!俺から全てを奪い去った
エゴの塊が!!理解できるだと!?ふざけるなァ!」
「いいや、できるさ…俺とウルにも
世界なんざどうでもいいくらい大切な存在がいる。
だからもし同じ目に合えば…正直お前みたいになってもおかしくない。」
「──ッ」
隣にいるウルも頷く。
そうだ、ニックの怒りも慟哭も理解はできる
夜天羅が殺される…そんなの想像もしたくない
なにより守れなかった自分を許せない。
「なら…なぜ俺を止めた!?」
「わからないかい?答えは君の後ろさ」
「ニック…」
不安そうな声がニックの背後から聞こえる
思わず振り返ったニックの後ろには
レーヴァテインから降りたエミリーがいた。
「お前にはまだ大切な存在がいるだろ」
「それに僕らはエミリーに頼まれたのは
君を止めること、殺すことじゃない」
そう、俺たちはディープダウンの後も停止した
グングニルからニックを引き摺り下ろす予定だった
まさか対策して自力で脱出するとは思わなかったが。
…対峙するはニ千年の時を超えた二人
怒りに支配されていたニックは
今、明確に動揺している、今まで目を逸らしてきた考え。
一度でも彼女を意識してしまえば一度でも彼女に
許されてしまえば、怒りが揺らいでしまう、維持ができなくってしまう。
「ニック、私は…貴方を──」
ドンッ!街全体が揺れるほどの衝撃と地鳴り。
辺りを見渡すと夜天羅たちが急いでこちらに向かってきた。
「お前様!」
「ウル!ヤバイわ!街が!」
「てんじょーが落ちてくるー!?」
その報告に上を見る、確かに落ちてきている
派手な戦闘の影響か?なんにせよ脱出を──
「……と、止まりましたわ?」
地鳴りが収まり天井の崩落も止まった。
不可解な出来事に混乱する。
「みなさん…早くお逃げになってください」
「だな、話は後だ行くぞエミリー!ニック!」
二人に声を掛けて動くように促す。
だが二人は動かない、それに俺たちへ怒りを
向けていたニックは静かだ…明らかにおかしい
「ありがとうございます、でも…
私たちはそちらへ行くことは叶いません。」
「何を言っておるんじゃ!?」
「いちいち聞くな、お前たち生物は気にしなくていい事を
気にする…そしてこう言う"知らなければよかった"と…本当に嫌いだ」
悪態をつくニック、その様子はどこか
落ち着き払った様な…何かを諦めた様な声色。
エミリーとニック、二人の様子に嫌な予感が背筋を這う。




