第二録:異世界 五節「あの夜と同じ」
─夜、王城別館。
「だぁ!!クソ!!」
メガネを放り投げベッドに身を投げ大の字に寝転びイラつきを抑える、あれから色々と説明を受けて部屋へ案内されフィリッツランド王は他のクラスメイトには「答えは今出さなくて良い、今日はまず休息を取るといい」そう言われて従者から部屋へ案内されていたが俺だけはゴルドー直々にこの誰も使っていない別館に案内された。
それは別にいい、あの枢機卿を納得させる処置だっていうのは理解してるし部屋に文句もない,ぶっちゃけるとギフト云々は俺には関係がない。
問題は王様が言った異界の扉のある場所だ。
異界の扉、名前からどこの異界に繋がっている変わらないと思ったが特定の手順を踏むと任意の異界に行けるらしいだが外魔とかいう奴に奪われた最北の土地、要するに敵の本丸ときた。何もかもが最悪だ!
最北の地を目指すにしても確実に一年以上は掛かるしそもそも許可が降りないだろう。
勝手に行くこともできるがそれは愚策だ、結局…何も出来ずただ時が過ぎるのを待つ他ない…歯痒い、ただただ歯痒さがイラつかせる、俺は右腕で顔を隠す。
「クソッ…」
負け惜しみのような独り言…両親は心配してるんだろうな、それに夜天羅も…今頃は二人で過ごしていたはずだったと考えれば考える程、怒りの感情が強くなる。
ボフッ、ベッドの柔らかな布団を右拳で叩く気の抜けた音ともに衝撃が吸収される、虚しい行為だ。
右を向き寝る体制へ、もう不貞寝をするしかすることがない。
明かりを消すのすら面倒くさい…しばらくするとウトウトと睡魔がやってきた。
このまま睡魔に身を任せようとしたその時────
フッと部屋の明かりが消え風が吹く、眠気が吹っ飛びすぐに起き上がり警戒体制になる。
目下一番の警戒対象はあの枢機卿予想ができるのは俺が一人の時を狙って殺す、冷や汗が頬を伝う。
「………」
おかしい、何も起きない。
明かりが消えた直後が一番油断をしていたその時に襲ってこないのはどう考えても悪手、かと言って警戒を緩めるわけにはいかない…何がしたいのか理解出来ない。
ジッ…ジジ…ノイズの様な音が静寂の邪魔をする、何かが起きようとしている。
だが何だ?…この違和感は?嫌な感じが全くしない明らかな異常事態にも関わらずだ…一年前位同じ様な状況にあったことある…じゃあ次は────
予想通りパッと明かりが部屋を煌々と照らす視界が確保され後ろを振り向くもベッドがあるだけだった。
「…なんだったん─
「お前様ぁ!!!!!」
突如響いた声、その声に驚き前を向く、いや、まさか本当に!?目に映り込んだのは俺に抱きつこうと飛び込んできた。
「や、夜天羅!!」
会いたかった愛しい恋人を受け止め抱き締めた…色々と混乱することはあるしかし今は、今だけはただただ再会を噛み締め彼女を強く抱き締める。
同じ様に彼女も俺を強く抱きしめている…その腕は震えていた俺の胸に顔を埋めて表情は見えない。
「…ごめん、心配かけた」
「…いいんじゃ、お前様のせいでないのは分かっておる」
お互い無言になる、しばらくこうして抱き合っていたいがそうもいかない。
「夜天羅、逃げるぞ」
「ここは…」
夜天羅は周りを見てすぐにここが家屋内ということを察した。
「わかったのじゃ」
普段理性的な彼女がなりふり構わずここまできた…聞きた事はあるしかし先ずはここを離れる、邪気の件もあるにはあるがそれよりももっとヤバい奴がいる。
そいつに見つかるのはまずいなんせ夜天羅を悪鬼と断言した奴だ残滓であの警戒のしようだ、本人を見たら何をするかわからない。
フィリッツランド王から無理を言って貰ったバックパックにメガネを放り込み急いで扉へと向かおうとしたその時、ギィ…扉が開かれたそこには─
「どこへ行くおつもりですか?」
そう言い部屋に踏み入ったのはアルメリア・マーセナル枢機卿が外に行こうとした俺たちの前に立ちはだかる…クソ、よりにもよって一番会いたくないヤツに!いや…妥当か、コイツが一番俺を警戒していたんだからな。
「いい夜だからな気晴らしに夜の散歩へ行くだけだ」
夜天羅を背中に庇いながら慎重に行動を起こす、まずいな…十メートル圏内で夜天羅が外にいる…邪気の拡散は遅いが今こうしている間もジワジワと邪気が広がってしまう。
早く脱出しないと取り返しがつかない事になる。
「後ろにいるのが悪鬼ですか…なんと邪悪な魔力それにその貴方の瞳、禍々しい魔眼、やはりは敵…残念です」
しまった!メガネ!元々敵として見てるコイツからしたら印象は最悪だろう、杖を構え臨戦体制を取り魔法の準備をするその標的は…夜天羅。
「悪鬼に宿る邪悪な魔力は私、いやこの世界では通用致しません、我々の神が許しません」
さっきからペラペラと!!
「さぁ、悪鬼を─
「おい、さっきから俺の恋人を悪鬼、悪鬼と侮辱するんじゃねぇよ、それ以上は許さない」
流石に我慢が出来なかった、こいつの言い分もわかるだがな夜天羅の苦悩も知らずに粛清しようとする。
それを大人しく聞いているほど恋人を侮辱されて黙っていられるほど俺は大人じゃない。
左手を顔の少し前に手をやや開き気味にし右手は拳を作り顎下当たりに構え臨戦体制を整え相手を見据えるしかし────
「…は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情で固まるアーセナル枢機卿…なにをそんな驚いているんだ?
直後に廊下の方からドタドタと大きな足音とガチャガチャと鉄がぶつかる音が耳に入ってくる、現れたのは─
「アルメリア枢機卿!貴女の魔力を感知したと思ったら何の騒ぎですか!?彼に何を!!」
扉の外に現れたのは騎士ゴルドー、彼もアーセナル枢機卿に目を光らせていんだろうでなければこんな早く到着はしない。
「これは!?その後ろの方は一体!?」
状況が飲み込めず混乱しているんだろうアーセナル枢機卿もゴルドーさんに注意が逸されている、チャンスだ!!
「ゴルドーさん、修理費はそこのシスターに頼む!!」
間髪入れずに近くの椅子を窓に投げ入れた、甲高い破砕音が耳に突き刺さるアーセナル枢機卿の視線がこちらに戻るがもう遅い!夜天羅を抱えて窓へ直行。
「わ!?」
急な事に短い声を上げる夜天羅、だがしっかりと俺に抱き着く。
「待ちなさい!!」
アーセナル枢機卿の声は虚しく二人は窓から飛び降りた高さは7〜8メートル通常の人間なら大怪我をする高さ、ましてや人一人抱えて降りるなんて自殺行為だが縁嗣の解魔の瞳の副産物である強靭な肉体は高さをもろともせず着地。
アーセナル枢機卿が急いで窓から下を見ると凄まじいスピードで森の方へ走って消えてゆく。
「っ!やられました、追います」
そのまま窓から外へ飛行魔法で飛び去ろうとしたが突如として窓は強固な覆われたこの状況でこんな芸当が出来るのは─
「アルレッド・ゴルドー近衛騎士隊長!!血迷いましたか!?」
「アルメリア・アーセナル枢機卿…行かせてあげてください」
一触即発の雰囲気、だがゴルドーからは敵対的な様子は見られない剣は腰に収めたままに左手で結界の維持をするのみ。
「あの悪鬼を見たでしょう!?邪悪な魔力を宿したあの悪鬼を!!」
声を荒げ説得という名の激情をぶつける。
アルメリア枢機卿から見た夜天羅はこの国に神に仇をなす厄災でしかない。
「やはり貴女からはそう…見えてしまいますか」
「そうでしか見えないでしょう!?あの悪鬼はかならず─
「アルメリア枢機卿…それはあり得ませんよ、あの魔族は確かに貴女の言う通りかもしれませんしかし…悪を持って邪を持って生まれたからと言ってその通りになるとは限りません」
「なぜ言い切れるのです!?」
「ヨリツグ殿を見るあの魔族の表情は純粋な愛しかありませんでした、逆もです」
「な、にを言っているのです…?」
心底、理解ができない否理解を拒んでいる。
アルメリアの様子にゴルドーの表情はどこか暗く目の前のアルメリアを憐れむ様な目をしていた。
「…もう少し、もう少しだけ人を信用してみませんかアリア」
「っ!その愛称で私を呼ばないで頂きたい!ゴルドー近衛騎士!!」
愛称に対して怒りを見せ睨みつけるアルメリア、肩を揺らしながらゴルドーの方へ向かうとその脇を抜ける直前に彼女は際立ち止まりこう言った。
「…今回は引きましょうしかし3度目はありません。」
そう言い残すと彼女は闇世に消えてゆく。
1度目は謁見の間、2度目は今、どちらもゴルドーが間に入り諫めた。
しかしこの忠告は次は貴方ごと始末するという宣告は信仰に基づく確固たる意思の表れ。
「…私では彼女を救えないのか」
ゴルドーは破れた窓から月夜を見た、彼の誰にも聞こえぬ独白を孤独な月だけが優しく受け止める。




