司書雑談
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「まったく。こむらきは小生意気なのよ。“黒縁”だからって、威張っちゃって。」
せいらんは、ブツブツつぶやきながら、自分の持ち場に戻るべく、螺旋階段を上っていた。
「なにがコスパよ。コスパなんてうっちゃっておけばいいのよ。だいたい、タイパって何よ。新しいつるつる言葉でしょ。そういうのは、裏国には似合わないのよ。そういうのとは別の次元で、私たちは、業務を遂行してるんだから。」
「せいらんたら、かなり頭に血が上ってるわね。落ち着きなさい。気を付けないと、足、挫くわよ。」
「どうして、あおやぎはそんなに落ち着いていられるの?小生意気なこむさきのこと、どう思ってるの?だいたい、あのこは昔から・・」
「それ、韻を踏んでるの?」
「韻なんか踏んでないわよ。何言ってるのよ。呑気なんだから。くれない?黙り込んでどうしたの?おなか痛いの?」
「・・・空調が滞ってるって言われて・・反省してる。はやく戻ってチェックしたい気持ちが抑えられない。」
「私も同じよ、くれない。ブッカーが滞ってるなんて言われたら、平気じゃいられないわ。」
3人は、後になり先になり、それぞれの速度で螺旋階段を上がっていく。
「ところで、“つるつる言葉”ってなに?」
「あら、知らないの?井上ひさし大先生が最初に使ったーって言われてるんだけど。つまり、流行語のように広く浅く使われているうちに、その言葉の本来の意味や豊かなニュアンスが失われ、注意を引くことなく聞き流される言葉、のこと。」
「なるほど、言い得て妙ね。大切なものが、つるつると滑り落ちていくイメージを端的に言い表している、さすがは井上ひさしだわ。」
「ねぇ・・ところで・・」
「うん・・」




