こむらさき
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こむらさきは、憂鬱だった。眉間のしわの深さが、その憂鬱度を物語っている。この“ぼく”で本当にいいのか・・今度こそ大丈夫なのか・・。
前回の男児は失敗だった。たぶん、大きすぎた。前々回もダメだった。たぶん、小さすぎた。今回の、この“ぼく”は、確かに、大きさは適正だろう。でも、だからといって、うまくいくとは限らない。また失敗したらと思うと・・面倒くさい。そう、正直、面倒くさいのだ。
くろたえの望むことだから、叶えてあげたいとは思うのだ。それは、誓って。
原則として、それ以外のものの送信は、禁じられている。あくまでも、原則として。
そして、これの送信は、限りなくグレーだ。OKとNGのインターバル地点。白と黒のグラデーション地帯。稟議は通っているのだから、表立ってのお咎めはないはず。でも、決して、推奨されてはいないのだ。ただ、それとは別の文脈で、狂気じみてる、と思うのだ。彼女の弟を思う気持ちは分かるけど、かと言って、何人もの男児を犠牲にするのは後味が悪い。後処理だって、煩雑だ。自分の今のポジションに固執している訳ではないから、バレたら困るとか、保身がどうとか、そういう気持ちは、ほとんどない。でも、とにかく、嫌だ。面倒だ。後味が悪い。そう、生理的に嫌なのだ、たぶん。生理的に嫌なことを続けることが、嫌になったのだ。
今回の、この“ぼく”で、最後にしよう。失敗したら、もうやめたいーと、くろたえにはっきりと言おう。よし。
心に決めたら、憂鬱は、すっきりと晴れた。眉間のしわは、跡形もない。もともと、思い切りをつけるのは、得意なのだ。
こむらさきは、保健室へと続く階段を、さっそうと降りて行った。




