あっち側に入る
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皆既日食。太陽が月に食べられること。オカルトチックで宗教がかっててノアールの匂いがするから、ある種の人たちはこういうの、大好物だよね。
ただの天体現象なのに。あ、語感も紛らわしいんだよ。皆既と怪奇がかぶるから。
で、どうする?見なかったことにして、帰る?それとも、梯子、下りる?ここはいったん考えよう。しばし三人で沈思黙考・・ってこのくだり、二回目だよ・・。
どうしようもないよ。見ちゃったら、行くしかない。懐中電灯・・ないし。ヘッドライト・・もっとないし。とりあえず、下りてみよう。真っ暗で見えなくなったらスマホライトで照らせばいい。怖くなったら戻ればいい。僕、みちる、あおいの順でサクサク梯子を下りていく。
梯子を握る手にサビがくっつくのが気になるけど、案外怖くはない。下りていくにしたがって暗くなるかと思ってたけど、それほどでもない。うす暗い、程度。いちばん下まで着いても、上から覗き込んだ感じとほぼ変わらない。思ったよりも深くないんだ、たぶん。
でも、広い。すごく。ざらっとした灰色のセメントの床がずーっと奥まで広がっている。
奥まで・・行ってみようか。暗くないから怖くないかも。三人横並びで、いつもの隊列。これが僕らのニュートラル。それほどドキドキもバクバクもしてなくて、いたって平常心で歩いて行く。なかなかの不思議空間にいるっていうのに、なぜだかあんまりそんな気がしない。うす暗い、っていうよりはうす明るい、セメント床の広場をなんとなくな方向感覚で進んでいく。方角としては・・西に向かっている。すると、改札口があった。地下鉄とかのあんな感じの、カードタッチするとピって開くヤツ。え、マジか。ないわ、カード。ここまでか。でも、周りに誰もいないし、またぐの無理でもくぐれそう。ビーって大きな音が鳴ったら警備員とかとんでくるかな。それはいやだな。でも、引き返すのもいやだな。って逡巡してたら、あおいが「行け」だって。こんな時、こういう決断するのはいつもあおいだ。
僕、みちる、あおいの順でなるはやで改札みたいなゲートくぐって、あっち側に入った。