くれないさん
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「ここは、設備棟。私はくれない。裏国の空調の管理責任者。よろしく。」
そこは、昨日までいたアップルストアとはまったくの別世界。
まるで・・昭和レトロな廃工場。壁は鉄板。天井にはむき出しの配管。そして、上部がアーチ状になった巨大な鉄扉。その大扉を背にして佇む銀縁メガネの可愛いさんは、なんと。
ベリーショートの桃髪で、レンガ色のツナギを着て、右耳には星形のピアス(それとも、イヤリング?)。そして、かなり小柄で、ぼくらと身長差があまり、ない。
ここに来て以来(つまり裏国に来て以来)、ちっとやそっとじゃ驚かなくなっていたぼくらだけど、これは、何と言うか、ミスマッチ度がすごすぎる。
まさしく“ポカンと口を開けちゃってる”状態のぼくら。
「それって、何に対する驚き?ここのビジュアル?それとも私のビジュアル?どっちかしら?」
「あ、いや、ちがうくて。」
「何よ。」
「あの、ツナギ着てる・・・。」
「はぁ?そこ?」
「だって、今までは、みんな・・。みんなって、せいらんさんも、かなりあさんも、あおやぎさんも。みんな、先生っぽいっていうか、ジャンバースカートみたいな、ワンピースみたいな・・でも、くれないさんは・工場のヒトみたいな・・ツナギ着てる。」
「そんなに珍しい?自分じゃかなり似合ってると思うんだけど・・え?もしかして、口ポカンってしちゃうくらい似合ってないとか?」
「あ、いや、ちがうくて。」
「何よ。」
「かっ・・わ・・いい・・」
「はぁ?なに?」
「いえ、いいです。」
「あのね、最初にいっておくけども、私は片耳しか聴こえないの。右耳は死んじゃってる。生きてるのは左耳だけ。だから、話しかけるときは左耳に話しかけてね。右耳に話かけられても反応出来ない、たぶん。だから、無視された、とか勝手に思わないで。アーユーオーケー?」
「はい。オーケーです。」
「では、早速。楽しいお仕事の時間のスタートよ 。」




