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三行半を突きつけろ

 久しぶりに頭が痛く、左目も痛かった。おそらくは気圧のせいだ。もうなんだってかんだったって体調の変化は気圧のせいにしてしまえばいいんだ。それだけで安心できる人たちはいくらでもいるんじゃないか。得心も貰える。すべてがうまく回る。なにしろ回転を早めることが何よりも重要視されるんだ。勢いは最初だけだ。大抵のやつがそうだ。用済みの役立たずはさっさと満足させて、退いてもらわなければならない。最初の勢いだけは、余さずに頂いて。

 持続できるやつ、立ち止まれるやつはそうそういない。成長という幻想という病に冒されて、ドブ臭い夢の中でシコッてるやつばかりだ。いつかおれを馬鹿にしたやつを見返してやる! 鼻息荒くそんなことを抜かしている前に、さっさとペイバックを実行しちまった方が話は早い。まずはスッキリしてからだ。話はそれからだ。

 やられたら、やり返す。ただし、その場でだ。禍根は残さない。遺恨や怨恨とは仲良くしちゃいけない。そんなもんを推進力にしたって、いずれ破滅するだけだ。恨みで動けば、恨みを買うぜ。恨みつらみが積み重なって身動きがとれなくなって何もかもが塞がって、ものを見る目が腐りきっているやつらが大勢いるぜ。醜いぜ。哀れだぜ。道を外したなれの果てだぜ。

 腐敗と上手く付き合う必要はない。はね除けて拒否をするのが礼儀だ。そして、ただ自分のリズムで打ち続ければいい。足踏みも地団駄も野生のビートであり、周期的に繰り返し時間的な旅を感じることができれば、自然に身体は動き出し、踊り出す。


 時間的感覚を操り、スタート地点を振り返り、それから今いるこの場所を考えれば、自分がどれだけ長い旅をしてきたかが理解できようというものだ。区切りをとっぱらい、同一線上の端と端を考えてみればいい。連続性は一種の幻ではあるが、そんなことを言ってしまえば断絶だってそうだ。途切れ途切れの夢も、終わる素振りすら見せないこの悪夢も、すべてを強引に繋げてしまえば、それはもしかしたら一本の小説と言えるかもしれない。そういった手法で書かれた小説の辿り着く先は決まっている。消失との和解。

 ある日突然、自分の人生に意味を見出さなければいけなくなるかもしれない。そうでもしないと、乗り越えることのできない夜が、突如として襲いかかってくるかもしれない。そんな来るか来ないかもわからないような脅威に備えてあらかじめ答えを用意しておく必要はないと思う。だが、少しくらいは考えてみたって損はないはずだ。なにもそいつを披露せよと言っているわけではないのだ。はなっから鼻で笑って小馬鹿にするような態度はイケてるとは言い難い。無いと決めつけず、もちろん有るとも決めつけず、とりあえず今いるこの場所を起点として、消失への一歩目を踏み出してみるのだった。


 そう、いつかはクソ野郎どもとだって和解しなければならない。究極的なことを言うならばだ。受容するわけではない。認めるわけにもいかない。だが和解は必須だ。しかし、言葉がある限りはそれなんだか無理っぽくないっすか? という予感はおそらく正しい。となると、やはり内に籠もらざるを得ないわけで、幸運にも、おれは内に籠もることがまったく苦ではないというか、籠もれるものならいつまでだって前向きに籠もってみせますよ、ってくらい気合いが入っている。もういいんです。一生分のコミュニケーションはとった気がする。楽しいことも、気持ちいいことも、狂おしいことも、お腹いっぱいなんです。そうなんですよ。相変わらずムカつくことだけは、こっちの事情には構わず、お代わりが次から次へと届いちゃいるが、おれはもう反応しないようにしている……のだが、やっぱり反応しておいた方がいいんじゃないか? そういう煩悶のなかで書かれている文章群が、摩天楼の少年だということだ。

 暇空とかね。石丸とかね。クルド人差別とかね。ミソジニー連中とかね。このあたりを見ていると、おれが憤死しそうになるので、もう見ないようにしようと思うんだけど、でもやっぱり見たくないから目を逸らすというのは、それってどうなの? どうなのだろう。本当にどうなのだろうか。連中との和解……できる気がしない。成立する気がしない。殴る気しかしない。でもわかっている。殴ったら連中の思うつぼ。もし本当に殴っちまったら、連中ウレションするくらい喜ぶと思う。それは悔しい。でも、殴らずにいるのも悔しい。悔しいというか、憎たらしい。ムカつく。超ムカつく。こういう時、人はどうするのだろうか。我慢するだけ? それだけ? だからあいつら調子に乗るんだと思うんだよな。強いんだよ、あいつら。この社会の死角というか、弱点をしっかり突いてくる。殴った方が悪いっていうアレね。闇落ちした持たざる者は厄介極まりないね。殴られたら、その途端に弱者ヅラするんだろうし、実際に弱者だから困ってしまいますね。

 だからもう、自分の人生なんてどうなったってええんじゃって覚悟を決めて、やっちまうしかないかなー、って思ったりもするんだけど、それもね……いろんな人に迷惑掛かるじゃんね。自分の家族とかだってそうだけど、連中と対峙してる人らとか、被害受けても我慢してる人らとかにもね……。

 だからもう、ひとりひとりが良識を持って圧力を掛けていくしかないんだよね。マンパワーを使って追い詰めていくしかない。最早おまえらがはしゃげる場所なんてどこにもないんだぜってことを理解させるしかないんだけど、あいつら悲しいくらいに理解力が乏しいんだよ。そして多くの人がこういうことに無関心を決め込んでいる。悪い意味で大人なんだよな。怒ることはカッコ悪いって思っちゃってる。もっと幼稚に攻めてもいいと思うんだけどね。バーカ、バーカ、死ね、くたばれーって感じで。幼稚には幼稚で対抗。でも、それをすると、どっちもどっちって言われちゃうんだよな。是々非々の大人たちにさ。どこがどっちもどっちなんだって。いつまでも悪辣な臆病者たちにデカいツラさせっぱなしでいいのかよって言うね。


 とりあえず、ひとり屋上に上って、カンパリソーダを飲んでいた。風は穏やかで、湿った暑さは猛烈だ。この風景のどこかで、誰かは泣いているし、誰かは笑っている。両方いっぺんにって誰かもいるだろう。そんなこと、おれにはもちろん関係のない話だけど、どうしてもまったく関係ないとは心の底から思うことができない。大きなお世話の過ぎるおれは、ひとり屋上でカンパリソーダを飲むくらいしか、心を鎮める方法を知らないんだ。部屋の中に籠もっていると鬱屈が溜まるばかり。たまにはこうして外気に触れる。ひとりひとりは余りにも無力で、おれはこうして文章を書くことくらいしかできないが、いや、文章をまともに書けているかどうかも怪しいものだが、それでもまあこうして書き続けるから、これからもよろしく頼むよ。

 乾杯、ってわけでもないけれど、なんとなく屋上の柵とコリンズグラスを軽く合わせた。思ったよりも強く当たって、一瞬、やべって焦ったけど、グラスは無事だった。ほっとした。グラスから滴る水滴が、足下に小さい小さい水溜まりを作っていた。

 カンパリソーダを飲み干し、部屋に戻りながら、もう一杯作って屋上に上がろうかと考えてみたが、そもそもなんでわざわざ屋上に上らないといけないのか。いやだから、外気にね、たまにはね。でも日中はちょっと外に出ていたし、言うほどおれって部屋に籠もっているわけでもないんだよね。

 結局、センチな気分を抱えて屋上でカンパリソーダなんていう、クソダサい真似をした自分に恥ずかしくなって、二度と部屋から出ないことを心に決めて、換気扇の下で煙草を吸った。

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