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ブリンブリンのペンダントトップ

 どれだけ大口を叩いたとしたって、おれの本当の姿の片鱗は、皆さんよりもおれの方が知っているつもりだ。しかし積もり積もった時の砂に埋もれてしまった少年の姿を復元するためには、不遜な態度をとることだって必要な儀式のひとつだということ、理解はしてもらえないとは思うが、まあすこしは心に留めておいてほしい。

 だがもう時間がない。折り返し地点はとうに過ぎてしまった。なにしろおれは無駄に過ごし過ぎた。砂時計の砂がサラサラと落ちる様をうっとりとした表情で眺めている間に星は巡っていた。これはおれの勝手な思い込みだが、おれの生まれついた星はもう少し愛と祝福に溢れていて、そして苦難に満ちていたものだったはずだ。おれは全部そいつをシカトしたのだった! 

 それはそれで、まあ良かったとも悪かったとも論ずる立場におれはないが、それでもそういうことなのだと述べておきたいし、おれの中に残っている時間はあまり残っていないこともしっかりと自分に言い聞かせておきたいのだった。

 しかしこの文章というやつが、おれの時間を食い潰してゆくのだ。それはまさしくおれの望むところではあったのだけど、それにしたってやり過ぎじゃないか、そうも言いたくなってしまう。なにしろおれが文章を書くというただそれだけの行為にどれだけの熱量と苦悩を注いできたことか。こんなことをしている間にいったい何本のビデオゲームタイトルを遊び尽くせたか。改めて考えてみてほしいが、おれはおれの中に流れる時間の中でしか活動することはできず、実感としてはその大半をこの文章という仕事に費やしてきたのだが、書けば書くほどにこの文章というやつの正体は、とてつもなく馬鹿らしくてたまらなく、むしろおれのことを馬鹿にして遊んでいるのではないか、そんな風にさえ思えてくるのだった。

 それでも情熱という意味で言えば、衰え知らずのうなぎ昇りだ。いったいどういったメカニズムが働き、こういった状態におれは陥ってしまっているのだろうか。まったく罠に嵌まってしまった気分だ。がっちりと食い込んで抜け出せそうもない。普段のおれなら、こんなことを言った矢先にあっさりと罠を外して、涼しい顔してすたすたと歩いて行くような裏切りを好んで行うのだが、今回ばっかりはそういう悪ふざけができそうもない。やられた。ミスった。おれとしたことが。

 こうやっておれの文章が綴られているのも、そういった事情からだということを、知る者は少ない。少ないどころか世界中でおれしかいないのではないか。だがおれが思っているほど世界は狭くない。なんでも知っているワイズマンが、大峡谷の崖の淵からおれを視ていたとしたってなにも不思議ではない。


 不思議ではないが不思議な気持ちになってしまう。つまりは、なにも大峡谷まで行かずとも、視線を上げれば摩天楼の少年が、今日も塔から塔へと飛び遊びまわっているわけで、少年こそがおれの事情のすべてを始めから知っているじゃないか。そんな簡単なことさえ忘れてしまうなんて、おれはどうかしている。

 おれはちょくちょく少年を見失ってしまうが、そのほとんどが少年のいたずら心によるものなのだが、今回ばかりはおれに咎があるようだ。と言うのも、おれはおれ自身のことばかりに気をとられすぎていて、まったくなにも見えちゃいなかったというわけだ。おれはもっと外へと意識を向けなければならないし、おれの中にはもう見るべきものなど何もないということをいい加減に認めたらどうなんだ。

 どういうつもりかは知らない。かじりつくほどの価値がどこにあると言うのだろう。痛みと歯形だけを残して、頑固に居残るその根性はどこから湧いてきた。少年が笑っている。おれはなんだか泣けてきたよ。惨めで情けない気分になっちまう。アホな女でもおちょくって、女が呼び出した乱暴な男にボコられて、路上で大の字になって倒れたい。そんな気分だ。たまにそんな気分になってしまう。実行に移したことだって何度もある。いまはもうそういうことはしない。ただ痛いだけで、なにも良いことなどないと理解しているからだ。血が流れたり、折れたり欠損してしまうだけだからだ。そういう意味ではおれは大人になった。なり腐りやがった。ちくしょう。おれのなにが間違っているというのか。少年よ。そんなに笑わないでおくれ。いまにもおれは泣いてしまいそうなのだから。


 なにも実際に涙を流すわけじゃない。別に流れたってどうでもいいのだけど、流れてもいないものを流れたと申告するのはうっとうしいやつのすることだ。そういうやつは他人のケツを舐めすぎなのだ。他人が気持ちよくなることばかり考えて実行している。でも実は、本当は、自分が一番きもちくなりたいだけ。お返しを期待しているだけ。醜悪だ。気持ちよくなりたいのなら、そう言えばいい。ワタクシ決してそんなつもりはありませんから、舐めたいから舐めているだけですので、なんておつに澄ましていないで、正直になればいい。醜い部分を殊更に隠そうとするから余計に醜くなるんだ。それくらいのことがわからないのなら、マジモンの馬鹿なので、人間やめときな。畜生道をひた走って、地獄の餓鬼とでも仲良くしていればいい。だってあんた、そっくりだ。もしかして本人ですか? ファンなんです、サインください。


 自慢じゃないが、おれは他人にサインをねだったことはない。自慢に聞こえたら申しわけないが、本当に自慢じゃないので放っておいて欲しいのだが、結構有名な人間、主に芸能関係で有名な人間とも同じ空間にいたことが何度かあるが、サインなんてこれっぽっちも欲しいなんて思わなかった。だってサインだぜ? なんだかグチャグチャっとした、文字だか落書きだか判然としないものだぜ? そんなものを欲しがる理由がいったいどこにあるんだ?

 おれが思ったのはいつも同じこと。こいつただの人間じゃねえか。悲しいくらい情けないくらいに人間じゃねえか。どうしてこんなやつが人気者なのだろう? どうしてこんなやつの一挙手一投足が注目に値すると信じられているのだろう? そんなようなことだ。

 結局のところ、クラスの人気者と世の中の人気者はほとんどが大差ないということだ。ごく稀に、例外中の例外としてどてらい人間は確かにいるけれども、大半はまあ毛の生えた鼻クソだ。片足で踏み潰せそうだ。指で弾けばどこかに飛んでいきそうだ。でもなんだか偉そうだ。鼻クソのくせに、おれを明らかに下に見てくるのだった。おれも負けじと見下してやったが、毛の生えた鼻クソはどうにも勘が悪いようで、なにも通じなかったみたいだ。それとも、よくいるんだよなこういう素人、なんてムカつくことを思いながら見下しに拍車をかけていたのだろうか。いまとなっては知るよしもない。名前すら忘れてしまった。お互いに。


 おれは残念に思うとともに、心配をしていた。他人の心配をする前に、まず自分の心配をしたらどうなんだ。なんてことを言ってくるやつは多いが、そんなもの大きなお世話というやつだ。おれのどこに心配するところがあると言うのだろう。だっておれは完璧におれじゃないか。なにも問題はない。なにがどうなろうと、おれはおれのまま、おれとして生きるだけだ。それよりもあんただ。あんたは誰なんだ? おれの目に映るあんたは、あんたであったりおれの知らない誰かさんであったり、どうも一定しないように思える。大丈夫か? なにか悪い病気なんじゃあ? おれはあんたのことが心配なんだ。あんたのことが気がかりでしょうがないんだよ。

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