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すべてのスパイが真夜中に動き出す

 始めるにあたって、ひとつだけ言っておく。おとぼけビ~バ~は最高だ。カッチョイイ。


 どこまでもストーリィは続いてゆく。終止符が打たれたとして、誰がそんな小さな点の言いなりになるというのだろうか。指で弾けば、鼻息を吹きかければ、猫にじゃれつかれれば、どこかに転がっていって消えてしまうようなものの言いなりに誰が?

 乱立するバベルの塔。言葉だけではない。すでにあらゆる混乱が蔓延している。多くの者が嘆き悲しんでいるが、それはそれとして、しょうがないものはしょうがないものとして、どうしようもないものはどうしようもないのだ、という共通認識のもと、人々は無理矢理納得しながら、乾いた笑いを心の潤いとして日々を死にながら生きてゆくのだった。

 少年は飛びまわる。屋上が少年の寝床だ。ヘリポートの赤い明滅。一晩中点いている高層の灯。鏡のような窓からの照り返し。少年からのサインを見逃すな。ニヒリズムに埋没することなく、生きる意味を追求することだ。情熱の火を絶やさないことだ。リアリストになることだ。現実から目を逸らさないことによって、ロマンを信じられるようになる。

 もちろん、これらはおれの勝手な解釈だ。おれはなんだって好き勝手にやるんだ。だから好き勝手に少年の代弁をしようとしているというわけだ。少年は信じている。ようにおれには見える。なにを信じているのか。人間の精神だ。人間は気高く生きねばならない。地べたを這いつくばりながら、バベルの塔を見上げながら、ぺしゃんこに潰されながら、それでも気高く生きねばならない宿命をもっている。

 宿命を忘れた者の行く末は悲惨としか言いようがない。欲と俗に塗れて、自分自身を一度も見ることなく、生きながら死んでゆく。おれはそうはなりたくはない。もちろんきみだってそうだろうさ。

 少年のサインを見逃すな。摩天楼から送られてくる反逆のサイン。おれはそれに応えたいと思う。


 女とすれ違った。かわいい。だが、話をしてみればあくびの出るような退屈な女に違いない。男とすれ違った。いけ好かない。きっと話をしてみてもコピー用紙のような退屈な男に違いない。

 この世界は狂っている。はっきり言って、つまらん奴がデカい顔をしすぎている。たとえば列車に乗り込むとしよう。人々の会話に耳を澄ませてみたまえ。驚くぞ。本当にどうしようもなさ過ぎて。

 連中の繰り出す言葉はなにもかもが薄っぺらく、自分自身の言葉を吐いている人間がほぼ存在しないという事実におれは恐怖すら感じてしまう。なにもかもが他人からの借り物だ。テレビで人気のコメディアン。理由はよくわからないが人気のインフルエンサー。その他諸々。もう例を挙げるのすら面倒くさい。

 他人の言葉を自分の言葉のように吐くやつに相づちを打ち、からくりを知りながらも笑ってあげるのが会話コミュニケーションだと言うのならば、おれはもう唇を縫い付け、笑顔を封印した方がマシだ。笑いさえしなければ、連中もつまらんことを言ってこないだろうからだ。

 

 しかしそんなことはまあ、なにも今に始まったことでもないのであった。きっと昔から、連綿と続いている事象に違いない。江戸っ子全員が粋だったわけではあるまい。野暮な連中の中にほんの少しだけ存在した粋なやつが伝説となっているに過ぎない。

 生活をする上で、適当極まりない会話を交わすことは、まあ必要なことなのだろう。おれはとても嫌だが。そんなことをするくらいなら、手の皺を数えていた方がマシってもんだが。最強につまらないやつには殺意すら芽生えるが。そういうやつがまた、自分の言ったことに自分で笑って、相手にも笑えと暗に伝えてくるから困ったもんだ。で、こっちが真顔でいると、冗談の通じない暗いやつってことになるのだろう? いい加減にしておけよ、てめえ。

 いや、まあ、でもいい。そういうものだから。ここら辺のことに関しては、おれが潔癖過ぎる自覚はある。だから、とてつもなく嫌だけど、おれも場合によっては、つまらない冗談に、唇の端をごく僅か上げてあげることはある。本当に心から嫌な気分になるが、そうせざるを得ない瞬間は確かにある。理由は同情からであったり、面倒を呼び込まないためであったり、様々ではあるが、まあしょうがないと納得をするように頑張っている。


 だが文章領域においては話は別だ。まったく別の話なんだ。誰も知らなかっただろうが、ここはおれの縄張りなんだ。おれのような人間が、この領域でしか満足に呼吸もできないような人間が、この領域をシメていたし、そうであるべきだ。

 しかし、ここ最近の文章領域の治安はすこぶる悪い。もはや無法地帯と言ってもいい。なぜか。強欲な侵略者どもが大挙として押し寄せてきたからだ。連中は、まともな文章を読んだこともなく、文章は意味が通じればそれでいいと思い込んでいる。連中は、腐った綿飴のような、軽くて臭くてべとついた文章を撒き散らす。はっきりと人体に有害な文章をだ。

 なぜだ。おまえたちは、列車の中とかファミレスとか、マクドナルドとかショッピングモールとか、そういう縄張りを持っているじゃないか。サイゼリヤとかスシローとか焼肉きんぐとか、ぜんぶおまえたちに、あげたじゃないか。国道沿いの風景はすべておまえたちに明け渡したのに、それでもまだ足りないというのか。

 足りないんだよな。連中は自分たちがなにをしでかしているのかまったくわかっていないのだった。クソどもめ。まったくしょうもない。おれはおまえたちがこの国の癌だと思っている。おまえたちが文化をぶち壊し、世の中を退屈なものに塗り替えてゆく。クソどもめ。おれはおまえたちが憎いよ。すべてを喰らい尽くすイナゴどもめ。目障りだ。消えてくれ。頼む。消えろ。

 そう言って消えてくれるようなラクな相手ではないことはわかっている。と言うよりも、既になにもかもが手遅れなのはわかっている。だからといって、なにもしないわけにはいかないじゃないか。


 摩天楼の少年。怪人摩天郎とはなにも関係はない。もう誰も、おもいっきり探偵団・覇悪怒組のことなどは覚えておるまい。おれだってほぼなにも覚えていないよ。おまえパチンコ組なめんなよ。

 おれはこんな風に、摩天楼の少年からのサインを受け取り、解読し、ここに書き付ける。もちろん、おれの個人的な恨みつらみが多分に含まれていることは認めよう。この文章を読んで嫌な気分になってしまう人もいるかもしれない。ささくれだったおれの心も、良心からくる痛みを完全に忘れたわけではない。本当に申しわけないと思っている。わかってほしいとは言わない。わかれ、そう命令する。わかりやがれ! 力強く、そう打ちつける。

 だから、わかるんだ。わかった方がいい。絶対にそっちの方がいいから。考えるな、感じろ? 笑わせるな。考えて、感じるんだ。両方やれた方がいいに決まっているじゃないか。二刀流だ。大谷だ。大谷を持ち出した途端に、文章としての格が下がった気になるのはなぜだろうと考えたことがおありかな? 決して大谷翔平が悪いわけではない。それはおまえらのせいなんだ。この理屈、わかるかにゃ?


 さて、そんなわけで、おれはちょっと本気を出そうと思っている。あなたたちを文章で楽しませてあげよう。摩天楼の少年とおれのレジスタンス活動から目を離さないことだ。なにしろかなりのスピードだ。きみが瞬きをしている間に一粒三百メートルだ。準備はいいか? おれはこの手で世界を引き裂くぞ。

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