ある悪女の話④
本日、8:00と16:00の2回更新です。
【連載 vol.4】悪女:金成絵莉朱の学生時代②
〈前回の記事は こちら 〉
幼い頃から周囲を巻き込み、多くの者の心に傷を負わせてきた、“悪女”こと金成絵莉朱。
中学校を卒業した絵莉朱は、県内の公立高校へと進学する。
絵莉朱が通っていた高校の近所に長年住む住民はこう語る。
「言葉を選ばずに言えば、酷い高校ですよ。県内で一番偏差値の低い学校でしょ? 不良か、何らかの理由で中学校に行けてなかった子ばかりが集まっているみたいです。ここ最近はマシになりましたけど、十数年前は悲惨な状態だったと、人づてに聞いたことがあります」
入学当初から、絵莉朱は素行の良くない友人とつるんでいたという。
絵莉朱が属する集団が去った後には、必ずと言っていい程にたばこの吸い殻が散乱しており、度々問題になっていたとのことだ。
そのような環境下で、絵莉朱はまたもや問題を起こす。
同じクラスの女子生徒を、不登校へと追い込んだのだ。
我々は、当時絵莉朱と同じクラスに在籍していたという男性に話を聞くことができた。
―――当時の絵莉朱は、どのような人物でしたか?
「そもそも素行の良くない人間が多く集まっているクラスでしたが、絵莉朱はその中でも特に目立っていました。学校内での喧嘩もしょっちゅうでしたし、喫煙を注意してきた相手を殴って停学になったりもしていました」
―――不登校になったという女子生徒について、教えていただけますか?
「大人しい感じの、地味な子でしたね。真面目なのに学校を休みがちだったから、元々不登校のけはあったんだと思います。あの高校に来たくらいですから、中学時代もあまり学校には行っていなかったのかもしれません」
―――絵莉朱はその子に何をしたのでしょう?
「被害者生徒が久しぶりに登校した際に、絵莉朱とその友人が、彼女に話し掛けていました。話の内容まではわかりませんでしたが、被害者生徒はその時点で顔面蒼白でしたね。しばらくすると、激昂した様子の絵莉朱が彼女を罵倒する声が聞こえてきたのです。彼女は何も言い返さず、ただただ俯いて泣いていました」
―――“罵倒”とは、具体的にどのような?
「『馬鹿じゃねえの』とか、『おまえみたいなのがいるから世の中が悪くなる』とか、そんな感じのことだったと思います。絵莉朱の友人も、さすがに引いていましたよ」
―――その後、絵莉朱はどうなったのでしょう?
「数名の先生が絵莉朱を連れ出して、その場は収まりました。絵莉朱は謹慎となり、その後退学したそうです」
―――ちなみに、被害者生徒は?
「彼女も、翌日からしばらくは休んでいました。その後は何度か登校している姿を目にしましたが、教室まで来ることは稀で、保健室で過ごしていたみたいです。いきなり因縁を付けられて怒鳴られたら、トラウマになりますよね。可哀想に…」
我々は、事件の被害者生徒の家にも取材に向かったが、すでに一家は引っ越した後のようで、取材をすることは叶わなかった。
隣家にすむ住民によると、挨拶もなくひっそりと引っ越して行ったという。
「あそこの娘さん、やっぱり学校で何かあったのかい? 子どもの頃は活発で可愛らしいお嬢さんだったんだけど、大きくなってからはあまり姿を見ることもなくて。最後に見たのは高校生くらいの時だったかな? げっそりと痩せこけていて、驚いたのを覚えているよ」
そう言って目頭を押さえる隣人の姿は、悲しみに満ちていた。
何が絵莉朱をそのような行動に駆り立てたのか、今となってはわからない。
その後、高校を中退した絵莉朱は水商売の世界へと足を踏み入れ、そこで出会った金成利一さんと結婚するに至ったという。
さて、我々は“悪女”絵莉朱について、全四回にわたって取り上げてきた。
多くの人物の話を聞く中で、まさしく絵莉朱は“悪女”として生まれて来た人間なのだと、そう思わずにはいられなかった。
絵莉朱のせいで心身に傷を負った方々が、平穏な暮らしを手に入れられる日は、一体いつになるのだろうか。彼らの回復を、心から願うばかりだ。
取材/山田




