あるSNS上の告白
本日、8:00と16:00の2回更新です。
はじめまして。こういった場に書き込みをするのは初めてなので、不手際等があるかもしれませんが、ご容赦ください。私は、今世間を賑わせている「金成絵莉朱」の母親です。証拠を見せることはできませんが、本物です。どうしても伝えたいことがあるので、長くなりますが、読んでいただければ幸いです。
本題に入る前に、まずは絵莉朱が起こした事件について、被害者である金成さんと迷惑をお掛けしました方々に、深くお詫び申しあげます。我々は絵莉朱が結婚したことすら知らされておらず、事件直後に適切な対応をとれなかったことについても、重ねてお詫び申しあげます。本当に申し訳ありませんでした。
今回私がこのような場で発言しようと思ったきっかけは、某週刊誌で連載されている絵莉朱についての記事です。絵莉朱が起こした事件に関しては、なんら擁護するつもりはありません。母親として、娘が犯した罪から目を逸らしてはならないと思っておりますし、私にも責任の一端はあると猛省しています。
ですが、あの記事における幼少期の「絵莉朱」と夫である「太田潤」については、あまりにも一方的な発言だと、私は憤っております。“悪女”としての絵莉朱ではなく、“娘”としての絵莉朱の姿を、私の口から語らせてください。と同時に、夫である太田の現在についても、お聞きいただきたく思います。
まず始めに、私の前夫は事故で亡くなっています。これについては週刊誌の記事の通り、間違いありません。死亡した前夫の体内からアルコールが検出されたということで、酩酊状態の前夫が誤って川に転落したことによる事故死だと、結論づけられました。幼いエリスを抱えて、当時の私は心中も考えました。
そんな時に私達に手を差し伸べてくれたのが、現夫である「太田潤」です。前夫の知り合いである彼は、前夫の葬儀や死後の手続きに関してもアドバイスをくれましたし、私はそんな太田を頼りにしていました。生前、前夫とそれほど親しかったわけでもないのに、なんて親切な人だと、そう思っていました。
太田からプロポーズされたのは、再婚禁止期間が経過してすぐの頃でした。彼に対して恋愛感情があったわけではありませんが、前夫の死後私を支えてくれた彼には好意を抱いておりましたし、金銭面を考慮しても、その申し出は非常に魅力的なものでした。私は彼の申し出を快諾し、私達は夫婦になりました。
夫婦になってすぐに、太田が“外の顔”と“内の顔”を使い分ける人間であることに気がつきました。結婚前に見ていた「頼りになり、気遣いもでき、社会的にも評価されている太田」が外向きの顔であり、内では「弱い立場の人間を見下し、罵倒し、思い通りにならないと許せない太田」の顔を現すのです。
今であれば、太田の行動は完全なるモラハラと言えるでしょう。しかし、当時そのような言葉は存在していません。普段は穏やかな彼をこんな風に怒らせてしまう私が悪いのだと、そう思って自身を責め続けました。そうして毎日、少しずつ自分が擦り切れていくことに、私は気づくことができませんでした。
そんな私に、絵莉朱は何度も「別れなよ」と言ってきました。「あいつは普通じゃない、おかしい」と。しかし私は、絵莉朱の言葉を聞こうともしませんでした。子どもの絵莉朱に何がわかるんだと、そう思っていました。いつしか絵莉朱は私に言葉を掛けることをやめ、次第に親子の会話もなくなりました。
物心がついてからは、絵莉朱は太田と一切関わりを持とうとしませんでした。しかし一度だけ、二人が大喧嘩をしたことがあります。太田の私に対する態度を、絵莉朱が強く非難したのがきっかけでした。「お母さん、目を覚まして。二人で幸せに生きて行こうよ」と、絵莉朱が言ってくれたのを覚えています。
しかし私は、差し出された絵莉朱の手を取りませんでした。あの瞬間、私は絵莉朱よりも太田を選んだのです。私のことを愛し、そして救い出そうとしてくれた絵莉朱を、切り捨ててしまったのです。あの時の絵莉朱の絶望的な表情を、私は一生忘れないでしょう。その日から絵莉朱は家に帰らなくなりました。
「あいつと何かがあったら、書斎に隠されている日記を探したらいいと思うよ」と、絵莉朱が私に言ってきたのが、私の記憶の中で最後に絵莉朱と交わした会話です。しかし、私がなんと返したのかは覚えていません。久しぶりに家に帰って来て、いきなり何を言い出すのだと、真剣に取り合わなかったのです。
そして時は過ぎ、絵莉朱が事件を起こし、太田は入院することになりました。週刊誌には「絵莉朱の起こした事件に責任を感じての精神的な不調から来る入院だ」というようなことが書かれていましたが、とんでもありません。今回の事件も、彼は「義理の娘が私の顔に泥を塗った」程度に捉えているはずです。
ではなぜ太田は入院しているのか。現在の彼は、いわゆる植物状態にあります。私が内にのみ向けていると思っていた彼の顔は、職場でも立場の弱い相手に対して向けられていたそうです。そのことが職場で問題となり、彼は閑職に追いやられました。プライドの高い彼は、そこで自殺という道を選んだのです。
しかし太田の思い通りに事は運ばず、彼は一命をとりとめ、今も生命を維持しています。病室の中でたくさんの管に繋がれ、意識がいつ戻るのか、そもそも戻るかどうかすらもわからない状態で。このような状態になってやっと、私は太田との歪な関係に気づきました。そして、絵莉朱の言葉を思い出しました。
先に言っておくと、おそらく絵莉朱は日記の内容を見ていないでしょう。太田が毎日何かを書き記していること、そしてそれを厳重に保管していることから、彼の弱みになるようなことが書かれているのではないかと考えての言葉だったのだと思います。しかしそこには、想像を絶する内容が記されていました。
私の前夫に強い酒を勧めて酔わせて、川へ突き落したこと。前夫が残した家や私を手に入れるために手を回したこと。前夫と太田が学生時代の友人であるということや、当時人気者だった前夫に太田が劣等感を抱いていたこと、そして前夫の残した家屋に相当な資産価値があることも、日記を見て知りました。
もちろん、日記の内容がどこまで本当のことなのかはわかりません。全てが太田の妄言である可能性もありますし、今更真実を明らかにしようという気概もありません。しかし、某週刊誌で書かれているような“悪女としての絵莉朱”が絵莉朱の全てではないと、そのことだけは知っておいてもらいたいのです。
本来の絵莉朱は、家族を大切にする優しい子です。人を見る目もありますし、悪に立ち向かう勇気も持っていました。だからこそ、私は何度も考えてしまうのです。絵莉朱を信じて、あの子の言葉に耳を傾けていれば、と。そんなことは無意味だとわかっていながらも、何度も何度も、繰り返し後悔するのです。
これで私の話は終わりです。長々とした文章をお読みいただき、ありがとうございました。繰り返しますが、絵莉朱の犯した罪に関しては許されるものではありません。しかし私は、生まれ変わった絵莉朱が、本来の自分が持つ素晴らしさを発揮し、幸せに生きてくれることを、どうしても願ってしまうのです。




