フレンシアの思惑
「・・・・どういうことだ?」
エドモンドが呟いた。
トロイやユリウスは声を発することすら忘れている。
魔獣を一瞬で倒した少年。
謎の少年が笑いながらこちらに走ってくる。
走ってくる。
かなりのスピードで。
「えっ?・・・何?」
ユリウスが後退りながらつぶやく。
何せ、ものすごい速さでものすごい笑顔で向かってくるのだ。
トロイもユリウスも、その少年の言動に若干引いて、フレンシアを連れ少し離れようと、振り返った。
が、しかし。
いるはずの人がいない。
「殿下!?」
トロイがいう。
「どこ行った?・・・殿下ー!」
ユリウスもキョロキョロとする。
ジェイムズが右側の道を指し示す。
そこには、赤髪の少年を引っ張って走り去るフレンシアの後ろ姿があった。
全員が走り出した瞬間だった。
「早く!早く逃げなきゃ!!」
半ばフレンシアはパニック状態ながらも懸命に走っていた。
「もしかして皇族?光のルフドが使えるの?」
アルの質問に答えることもせず、懸命に走るフレンシア。
「・・・ちょ・・・ねえ。きちんと力をコントロールしないと、魔獣は追ってくるよ?」
アルの言葉にフレンシアは急にとまった。
はあ、はあ、と息切れをするフレンシアの目の前で、疲労感などなく、息切れもなく、走った形跡すら見せない少年は、飄々とした表情でフレンシアを見る。
「い・・・今のっ、どういうことっ・・・!?」
息が上がって、まともな声が出ない。
「・・・魔獣は、光に引き寄せられるんだよ。お姫様みたいに、ルフドと契約したばかりだと、コントロールできていないから、寄ってくるんだ。」
なんで私が姫だってわかったの!?
ていうか、光のルフドってわかったのは?
あ!もしかして、ヘイムダルの刻印者だから!!?
「あんたさあ・・・」
アルの瞳が氷点下まで下がり、とてつもない冷たい視線になった。
な、何・・・!?
「顔に出過ぎ。」
アルの言葉にフレンシアは両手を思い切り顔に当てた。
「いだい!!」
自分を思い切り叩いたようなものだ。
だが、フレンシアは彼だけは絶対に怒らせてはいけないことを知っていた。
どうしてって!?
私が原作を知ってるから!
と、言っても彼は主人公ではないけどね!!
彼はとても冷酷になれるんだよね!
家族とかが関わると特に。家族大好き!って感じかな?
特にシスコンで、妹を守ることが使命かのような人だけどね!!
あ!待って!
私ってば、彼を強引に連れて来ちゃった。
せめて連れてくるなら、彼女でしょ!最悪よ!
彼女が私を嫌ったらどうすれば良いわけ!!?
彼女も結構なブラコンなのに!!
だって、私が助けて欲しい相手は彼女!
エル、またの名をルイーズ!
最強のシュヴァリエ、闇のディアナの刻印者で、主人公!!味方にしたいのに!!
フレンシアの表情が青くなったり、赤くなったり、白くなったり、紫になったりと、コロコロ変わっていた。
そんなフレンシアの姿を、遠くにいながらも面白うそうに影を通して見つめているエルだった。