表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮のシュヴァリエ  作者: Rio
7/10

エルと魔獣

ーギイイイイイヤアアアアア


トロイたちは一瞬何が起きたかわからなかった。


どこからともなく現れた大きな丸太が、ものすごい勢いで魔獣に向かって突進したかと思うと、右目に刺さった。



痛みに悶えている魔獣を呆気に取られてみる面々。


その時、風に乗って声が聞こえた。


『魔獣が仲間を呼ぶから、注意して』



「え?」

「誰だ!?」

「な、何・・・?」



トロイたちが驚いて周囲を見回していると、巨大な火柱が魔獣を包んだ。


魔獣は声を上げることもできないまま、塵となって消えた。



「よかった!」

フレンシアがホッとしたようにいう。


「まだ安心できないから」

とてもクールな声が先ほどより近くで聞こえた。


フレンシアの後ろに、赤くピンクがかった髪に、セピアの瞳をした少年が立っていた。

「何ものだ!!?」

ユリウスとトロイが剣を少年に向けようとした時、反対の方向から同じ声だが少し楽しそうな声が聞こえた。


「魔獣が集まってくるよ。スタンピードになる前に止めないと。」


「僕はこの人守るから、そっちよろしくね。それとあんたたちは自分の身くらい守れるよね?」


同じ顔をした、同じ髪をした二人の少年が交互に会話する。


トロイたちは唖然としながら二人を見比べていたが、フレンシアだけはホッとしたように胸を撫で下ろした。


「早く倒してちょうだい」

ため息を吐きながらフレンシアがつぶやくと、フレンシアのそばにいたアルが目を見張った。


「・・・助けてもらうのが当たり前みたいだね?」


アルの言葉にユリウスが反応した。


「貴様!この方はアッシュラビア帝国の第1皇女様で在らせられるぞ!!」

ユリウスの声が響き渡るが、アルの表情は変わらなかった。


「だから?ここはティアメイルとの国境沿いの辺鄙な村だよ?最近では魔獣や魔物がウヨウヨ出てるんだよ?そんなところに何の装備もせずにきてる貴族が、おかしくない?」


アルの言葉に、フレンシア、トロイ、エドモンド、ユリウス、ジェイムズは全員自分の装備を見下ろす。


基本的な装備だ。

魔物狩や魔獣討伐で着用する装備。


防備魔法がかけられた楔帷子に、腰巻き。

その上には対魔法の制服。

帯剣もしている。


これが普通の装いだ。


一同は同時にアルを見上げる。

アルはあまりの動作のユニゾンに笑ってしまう。



「・・・なるほど。実戦が初めてなんだ。なるほどね。とりあえず、あれを見ておいたら?」


そういって指を刺す。

その方向には少年と同じ顔で同じ髪の少年がいた。








エルは目の前の魔獣を見上げる。


この辺で出るには少し小さめの魔獣だ。



エルがじっと魔獣を見つめると、魔獣の瞳が揺れた。

真っ暗で何も写さないはずの魔獣の瞳が、ほんの一瞬揺れて光が戻った。


その瞬間エルは、視線を細め魔獣に集中した。




この魔獣は最近魔獣にされたみたい。

まだ自我がある。

わざと魔獣にされたにしても、狙われたのはクロエ村かそれとも彼らか。

「なんてことを・・・」


エルの表情が一瞬だけ消えた。


「ごめんね」


魔獣になれば、元の姿には戻れない。


魔獣と魔物。


魔物は魔物から生まれる。

だからこそ団体で動く。


しかし、魔獣は元々普通の動物だったが、瘴気に当てられ異形に変貌し、とてもつよい力を手にしてしまう。



エルはその辺に落ちていた石を拾い上げ、右手に握りしめた。

エルの手の中が光、周りに水が集まり出した。



大量の水が、魔獣を取り囲み、魔獣の周囲を回り続ける。

水の牢獄に閉じ込められた魔獣は、水の流れを見つめながら徐々におとなしくなった。

瞳に光が戻りつつある。

目からは涙が出ていた。



エルは石を持ったまま、右手を前に突き出す。

そのまま、魔獣を取り囲む水の中に手をいれた。



石が赤黒く光、水の渦の中で魔獣が苦しそうに喘いだ。


ーギイイイイ・・・


徐々に魔獣を取り囲んでいた瘴気が薄れ、魔獣がおとなしくなった。

黒い塊でしかなかった魔獣は、徐々に形を崩し、塵となった。


塵は舞うことはなく、赤く光った石に吸い込まれた。


徐々に水の勢いが落ち着き、一気に地上に落ちた。



エルは右手にある赤黒い石を見下ろした。


「濁ってる・・・」


エルは悲しみのような、憎しみのような、焦燥のような、複雑な表情をした。

ふと顔をあげアルをみる。


アルの表情は変わらない。

いつものようなクールで、呆れた表情。


エルは満面の笑みでアルに手を振った。

アルはため息を吐きながら、苦笑した。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ