フレンシアと双子の出会い
フレンシアが馬から振り落とされ、腰をさすりながら体を伸ばしていると、かさり、と草がかき分けられる音が聞こえた。
ふとそちらを見ると、目の前には巨大な、フレンシアよりも何倍も大きな真っ黒の体が、ドス黒いオーラを纏って立っていた。
揺れる二つの光が、鋭くフレンシアに向けられ、フレンシアは体が固まる。
「魔獣だー!!全員戦闘体制!」
フレンシアの後ろから叫び声が聞こえる。
剣が鞘から出される音が聞こえる。
しかし、フレンシアは初めてみた魔獣に足が動かなくなった。
「殿下!」
トロイがフレンシアを呼び、意識を自分に向けさせる。
「後ろに下がっていてください!」
トロイに押されるように、たった四人しかいない、しかも学生の後ろに隠される。
トロイは構えた剣に手を添える。
「ルグリア」
トロイに呼ばれたルフドは剣の周囲に炎を纏わせる。
剣を握りしめ、司令塔のエドモンドを振り返る。
先ほどフレンシアに目を瞑るな、といった男である。
エドモンドは呆気に取られているようだが、トロイと視線が合い少し冷静になったようだ。
元々冷静な男だ。トロイの眼差しに頭が冷えたのだろう。
「ユリウスは支援、トロイとジェイムズは魔獣の気を逸らしてくれ!殿下を安全な場所まで行かせる!!」
エドモンドの号令に全員が頷き、各自指示に従おうとした。
しかし、そこで大きな声が彼らを静止させた。
「いるんでしょ!!わかっているのよ!!さっさと出てきて助けなさいよ!!」
フレンシアが叫んだ。
そう、フレンシアは探しにきたのだ。
将来的に最強のシュヴァリエとなる人物を。
「さっさと出てきて助けてってばー!!!!」
フレンシアの言葉が響き渡った。
木の影からアルとアルスは不思議そうに、叫ぶフレンシアを見ていた。
結界の狭間にいるため魔獣にも気づかれていない。
にも関わらず、フレンシアはわかっているようなそぶりだ。
表面上のクロエ村は廃れた貧乏村だ。
本来のクロエ村は女神の加護に、村人が神力を与えることで結界が張られている。
外界からは見つけられないように。
アルの隣から立ち上がる気配がする。
「エル?何してるの?」
アルの質問に、キョトンとした表情で当たり前のようにエルがいった。
「助けろーっていってるから助けるよ?」
エルの言葉にアルは、ガシッとエルの肩を掴んだ。
「父さん。とうとうエルがおかしくなった。」
「そうだな。そこに縛っとくか」
アルスが太い木を指差す。
クロエ村の掟。
外界に干渉しない。
外界からの干渉も許さない。
「エル。村の掟を破ったら女神の鉄槌が入るよ?」
アルが心底呆れ返った表情でいう。
「ううん。女神様は怒らないよ。あの子を助けないと逆に怒られる。あの子が世界を戻す希望のかけらだから。」
エルの言葉に、父と兄は怪訝な表情しかできない。
じゃあ、といって行こうとするエルの腕を二人で掴む。
「ならば、せめて私が行こう!」
アルスが焦ったようにいう。
「そうだよ。父さんに行かせよう。」
アルも続く。
「父さんはダメ。隠れてて。母さんが起きるから待ってて。それと、アルは一緒に来て。」
そういってぐいっとアルの腕を引っ張る。
「ちょちょちょ!僕を巻き込まないでよ!」
「大丈夫。運命だから。ここの結界も消えるし、母さんも目を覚ますの。」
エルの言葉に訳わからなくなり、混乱する二人。
「待って!結界が消えるって?」
アルの言葉に、エルはニコリと微笑んでそままアルの腕を引っ張った。
アルは簡単に体が前のめり先へ進んでしまう。
双子で、今のところアルは男児、エルは女児だが、運動神経抜群のエルは力もバカみたいに強い。
アルのような、筋肉がなさそうな細い子供は簡単に引っ張られてしまう。
ずんずんと歩きつづえるエルに、アルはもはや諦めの境地。
とりあえず、こういう時はエルの勘に従うのが得策だと知っている。
人差し指をたて、父に向ける。
草木が伸びて父を縛りつけ始めた。そのまま地面へと吸い込まれてしまった。
アルの魔法にエルは微笑む。
「そこまでしなくてもよかったのに。」
「聞きたいことと、いいたいことが沢山あるけど、とりあえずはエルに従うよ。」
エルは近くにあった大きな木の丸太を持ち上げて、フレンシアたちに向けて投げた。
「はあ・・・大雑把すぎ」
アルは呆れ返って、またため息をついた。。