隠された皇女と影
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ーアッシュラビア帝国 離宮の庭ー
オレンジの巻毛を指に粗めながら、嫌そうな表情をする少女が、ガゼボで一人お茶を飲んでいた。
彼女はこの国の皇女、フレンシア=ロマーナ・アッシュ。
今まで放って置かれて、肌も髪もひどい有様だった。
しかし、ルフドとの契約により、外に出ることが決まり、焦った侍女たちが体を磨き始めた。
フレンシアの金色の瞳が憎悪に揺れる。
「・・・死んでたまるものですか。悪役令嬢なんてやってられない。世界を救うのは私よ。」
彼女の周囲には誰もいない。
何せ放置され続けていたから、彼女の居場所を予想できる人などいない。
しかし彼女の呟きをしっかりと聞いてる者がいた。
彼女にも、その他の誰にも気づかれない。
フレンシアの影が僅かに揺れる。
まるで微笑んでいるような、楽しそうな小さな揺れだった。
「いつまで見てるのさー。あんまりやりすぎると、タエルに怒られるよ。」
ピンクがかった赤髪の少年が、隣にいる自分にそっくりな人に声をかける。
「だって、クロエ様みたいな魂を持っている人だよ?しかも、昔からじゃなくて最近だよ?気になるもん。面白そう」
セピアの瞳が心底楽しそうに光る。
笑っている子供は胡座をかいて床に座り込み、自分の影に両手を当てている。
自分の影を覗き込み、くすくす笑う。
それをゲンナリしたようにため息をつく少年が人差し指を立てた。
そこから小さな光が現れ、影が一瞬にして消えてしまう。
「あ!アル!なんて事するの!!」
笑っていた子供は不貞腐れた表情になり、アルという名の少年と自分の影を交互に見ながら、眉間に皺を寄せて怒る。
「むやみにディアナを使うなって言われてるだろ!」
少年は自分にそっくりの子の腕を持ち上げ、その場から立たせる。
そのまま引っ張って部屋の外へ出た。
クロエ村ーー
アッシュラビア帝国とティアメイル公国の国境にある、名もなき村。
人口も数人しかいず、誰にも気にされないような貧しい村。
それは表向きの評価。
実際は神秘的な村。
世界が3つに分かれた時、フィルディナの愛子がこの世界を守り導いた。
その名はグレリエント。
グレリエントは多くのルフドに愛され、全てのルフドを使役した、とされる。
クロエ村に伝わるグレリエントの伝記。
“グレリエントはフィルディナから授けられた女神の神器を使い、この世界を守った。
その後、ある土地に定住した。誰にも知られる事なく。
それがこのクロエ村。
グレリエントの血縁者はいないが、フィルディナとグレリエントの加護をもらった人々がひっそりと暮らし続けていた。
いつか起きる、世界異変の時のために。“
クロエ村では、その伝記を“予言書”とされ、外界との交流を一切遮断したのだった。