アルとエルの秘密
「よそ見をするな!くるぞ!!」
優しそうで、柔和な顔つきからは想像もできない低く、真剣な声だった。
エルの自慢は冷静なところ。
戦闘を楽しむ癖はあるが、基本的なところは冷静で頭の回転も早く、咄嗟の判断力と決断力に長ける。
むしろ、咄嗟の時しか発揮できない能力だったりする。
深く考えたり、熟考するといろんな選択肢を選ぼうとしてしまい、優柔不断になるのだ。
沈着ではない。
それはアル。
アルは冷静であり、沈着でもある。
エルは冷静だが、好戦的であり、勘に頼ることもある。
だからこそ、運任せな戦闘を選んでしまうが。
エルは戦闘の時だけは集中する。
集中するのだが・・・
彼の、スカイブルーの瞳と視線が合うとドギマギしてしまう。
彼の、低く真剣な声を聞くとムズムズしてしまう。
何・・・?
何なの・・・?
これは・・・緊張?私が?緊張してるの・・・?
「なーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
エルの急な叫びに、周囲の人は(アルも含め)驚いている。
「え!?何事?何なの?」
フレンシアは、目の前にいたアルの服の襟元を掴み、何度も引っ張る。
「ちょっと・・・皇女さま。やめて・・・ちょ・・・」
アルの言葉が全く聞こえていないフレンシアは、アルの服の襟元を引っ張り続けながらエルを見ていた。
「あれ、大丈夫なのか?」
ジェイムズがアルに聞いた。
アルが半目になって黙ってジェイムズを見つめた。
ジェイムズは、まるで『お前誰だよ?馴れ馴れしくない?』的な表情に見えた。
「ジェイムズ=ヒューストだよ!別にいいじゃんか!今、自己紹介してる場合じゃないだろ!!」
半ば逆ギレな勢いでジェイムズが叫ぶ。
「・・・君、随分読心術が上手いね。」
アルは心底驚いたように言う。
「ここ驚くところじゃないから。ていうか、君結構わかりやすいから。すごく顔に出てたから!」
ジェイムズが矢継ぎ早に言う。
「ふーん」
アルが興味なさそうに言う。
ジェイムズは疲れたようにため息をついた。
「もう、何が聞きたかったか忘れたよ・・・」
「・・・なるほどね。君は苦労性なタイプだね。」
アルが少し馬鹿にしたような表情でいう。
「何だよ!苦労するだろ!貴族がうじゃうじゃいる中に放り出されてるんだぞ!そりゃ苦労するだろ!!世間を知らなすぎる坊っちゃんばかりなんだぞ!してもらって当たり前!みたいな顔してるんだぞ!どうして学院が“平等”を謳っているか、きちんと理解していないんだぞ!ていうか、教師ですらわかってるようでわかっていないような学院なんだぞ!苦労するだろ!?しないはずないだろ!!」
ジェイムズが息も絶え絶えに叫ぶ。
「・・・まずかった」
アルは小さくつぶやいた。
ジェイムズは若干涙目になりながら悪態をついた。
「何だよ!!」
アルが呟いたのは、決してジェイムズを揶揄したわけではない。
アルが契約しているルフドが問題であった。
まあ、契約というか、何というか・・・。
アルとエルの秘密。
クロエ村でも秘匿されており、決まった人にしか知らされていない。
二人は刻印持ちだった。
アルは光のヘイムダル刻印、エルは闇のディアナ刻印を持ってそれぞれ生まれてきたのだ。
アルの光の刻印は、人の精神に干渉してしまう。
気を緩めたりすると、ジェイムズのように、普段言わないような、内に秘めた言葉を発してしまったりする。
アルは、気を緩めてしまいジェイムズの精神に干渉したことに気づき発した言葉だったのだ。
アルとジェイムズのやり取りを、エドモンドとユリウス、フレンシアが黙って見ている間に、どうやらエルが大暴走の末、魔獣や魔物たちを殲滅したようだった。
呆気に取られたようなトロイと、不機嫌そうなエルが揃って、アルたちがいる方向に歩いてきていた。




