表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

第64話〜第70話(全111話) 邂逅編

////////////////////////////////064




フューチャーゲーム 邂逅編



 この物語は、「1 欲望」「2 血脈」に続くタイトルですが、内容は「欲望」の前にさかのぼった時系列のものです。途中まで書いてはみたものの、ネタがないから過去を書く、という実に安易な創作手法を採用してしまったことをまずはご了承いただきたく思います。申し訳ありません。


 また、例によって、順不同に陥りがちな時空の設定も、おやおや?とあきれて頬づえをつくような厭世的な長い駄文や言い回し、社会や政治のあり方・考え方、科学技術やその用語やロジックも、すべては筆者の脳みそがただの平熱で熱暴走してしまった挙げ句の現実逃避とありえなさがそうさせている、そんなふうにあたたかいご理解を頂戴できれば、さらに少しでも読み進めていただけるだろう、と思う次第なのであります。     

 

 ただの田舎の庵にて

















登場人物


桜田マモル(天知アマチ) ・・・ 刑事、臨時教師、記者


藤岡 ・・・ 桜田刑事の後方支援係の警察官


富永優子(正覚寺優子)・・・ 女王の血脈、闇の継承者


竜宮タツミヤアイリーン ・・・ 教師、天知の同僚


齋藤志織 ・・・ 通称「生徒会長」、眠れる天然発現能力者?


齋藤佳織 ・・・ 志織の妹


齋藤志朗 ・・・ 志織の弟 三卵性三つ子


麻生 ・・・ 総合情報統計センター長


ヤン・リーチェン ・・・ 王宮医長


リンダ ・・・ 財前秀雄の秘書


ステファニー ・・・ 南部州警察本部長正覚寺秀雄の秘書


アントニー ・・・ 優子のボディーガード


リンカーン と ワシントン ・・・ サイボーグ犬(後のフリーダムとジャスティス)


マリー・ヒミコ・アンドロメダ三世 ・・・ PINN太平洋連邦共和国元首


山本太郎 ・・・ 中央省長官


七人の魔女(七大天使) ・・・ 香織里、由香理、宏子、圭子、佳代子、郁子、万規子


財前秀雄(正覚寺秀雄)・・・ 南部州の「組織」の長


MJ(陣内ミツル)・・・ BBブルー・ブラッドの二代目ボス


陣内志乃 ・・・ 伝説の生徒会長「陣川 忍」
































////////////////////////////////065




はじめに「母」ありき


母は万物を産みし、母は万象を統べし




宇宙は神の方舟なり、神そのものなり


真理はすべて宇宙の子らなり


聖なる母の子らなり






















////////////////////////////////066




俺は越境捜査中だった





俺がここにいることを当局に知られてはいけない


優子にかまえば遠からず表面化してしまうだろう



美しい女だった


不幸が似合うようなニオイのする女だった


だが、事実はそれと似ても似つかない女だった


真っ白な雪が白く見えなくなるだろうほどの白い指先


まばゆい街灯の光にその手をかざして、少し悲しそうに優子は笑った


目にいっぱい涙をためてこぼさぬように夜空を見た




そんな気がした




俺は優子を見逃した


憐憫の情やシンパシーなどと刑事の仕事は相容れないことが多い


失格だ


俺は刑事をやめた



生きていかねばならない


もともとそういうつもりでいたのかもしれない


流れに身を任せて教師の仕事をすることになった




光のように時が流れた




俺は死んだ、、、、、  そして、俺は記者となった






いつか、ある人に言われた




「善」も「悪」も人間界がただ創造したもの




そもそもそんなもの、この宇宙には必要なかった   と





////////////////////////////////067




「ひどく昔からゴシップ記者をやっていた気がするだろう?」

「ああ、そうだな。でもその問いは違うってことを言いたいのか?」

「そうだな。1年か2年か」

「わかるように説明してくれ」

「光の速さで駆け抜けた自分の時間と記憶があったとしたらどうだ」

「それはどういうことだ?」

「お前の名前は天知アマチ

「それが何だ?」

「本当は桜田という」

「何っ?」

「お前、ガキの頃、俺と遊んだ記憶があるだろ?」

「当たり前だ。お互い悪ガキだった」

「その部分は嘘だ」

「はあ?」

「その記憶は作られたものだってことだ」




 たくさんの果物や穀物や野菜や海産物に肉類の入り交じったニオイのバリアに包まれたマーケットを見渡すベンチに腰をかけてあいつが言った。




 なあ、MJ。  でも。  それをなぜ、今なぜ俺に話すんだ?









 テレビモニターは国会の政策検証討論会を映し出していた。


 中央官庁の役人たちが総理と打ち合わせをしているわずかの時間に、質問した野党の党首は口角泡を飛ばして言った。マイクに拾われようと意図的にだろう、それはそれは大きなボリュームだった。


「おい、そこの官僚!国会をバカにしてるのか!?私は総理に聞いている。役人はひっこんでろ!」


 その下品な響きの声の主に対して、ひとりの女性官僚とおぼしき人物がキッと睨み返した。金色のネームプレートがズームアップされた。総理筆頭補佐官兼筆頭秘書官とあった。つまり実質上、総理、官房長官に次いでこの国でNo.3の権力を持った人物ということだ。名前は山本小百合。


 彼女は、優子とうりふたつだった。






記憶の操作?


何が本当なのか

いったい誰がどこまでわかっているんだ?


すべての記憶データをすべての国民が共有して結ばれている

ランダムにその超大なデータバンクから都度与えられた記憶で

人は一喜一憂、喜怒哀楽に覆われて日々の暮らしを送る


 

もう、まもなくのことだ



なぁ、 お前の、 その記憶はすべて本当か     本当なのか?



////////////////////////////////068




「藤岡です。桜田さん、映ってますか?」

「時間か」

「はい、定時連絡をお願いします」

「動きはない。変わりのない空気感だ。もっともちょくちょく変わりがある方が問題だ」

「そう言い出したら、定時連絡の約束事自体が崩れてしまいます」

「だったら崩してしまえ」

「そんなこと組織の価値観が許してはくれません」

「そういう意味じゃ、やつらの方がはるかに進化した組織だな」

「桜田さん、それは言わないことに」

「じゃあな」

「了解しました、では」

「藤岡」

「はい、何でしょう?」

「課長に伝えておいてくれないか」

「はい」

「いやな予感がするんだ」

「どんな?です?」

「言葉にするにはむずかしい。ただ大きな何かだ。この世が全部ひっくり返りそうな。何か薄気味の悪い大きな。そんなもんだ」

「課長に何て説明すればいいですか。何か根拠のようなものがあれば」

「いや、やっぱりいい。俺の頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。忘れてくれ」

「大丈夫ですか、先輩」

「心配するな。メシ食って寝たら回復するさ」

「飲み過ぎないようにしてください」

「そうだな、反射神経の鈍らぬ程度にしておく」

「では6時間後に」

「ああ、モーニングコールを頼む」

「はい」

「お前が女で良かったと思う唯一の瞬間だ」

「訴えますよ」

「やめてくれ。気になって眠れなくなる」

「夢なんか見ないで熟睡できますように」





 サッポロ警視庁を出たのは1ヶ月前だ。課長はただハカタに行けと言った。管轄を越境するなど許されない。それは越境捜査。この国の司法の重罪のひとつだ。自分の身の安全のためにはバレないのが一番だ。


 俺は今、臨時教師をやっている。やっていることになっている。エキスパート就業IDは完璧だ(この地に永住することだって可能なやつだ。そりゃあ、南国と言ってもそこそこの熱帯気候なら息苦しくはない。すべての農水産物が自然のままに手に入って羨ましい限りだし、人口密度が世界一と言われても治安の悪さなど微塵も感じないのだ。恐るべき行政統治能力だ。だが、俺は自分の故郷の方がやはりいい。北国がほんとに好きなんだろう)。


 もっとも本物がどんなものか見たことはない。世の中のほとんどが本物じゃないかもしれないからだ。いや、むしろそっちの方が常識となり規範となり、いつしか「本物」になってしまったという解釈の方が適切だと俺は思っている。


 今、俺の目に刻まれたIDとチップ同調してるバッジだけが俺の身分と生活のために必要なデジタル通貨データを守ってくれている。護身用はおろか武器なんて当然携帯できている訳がない。そんなものを持って州境を越えることができるのは軍とSPだけだ。まあいい、そんなことは誰も気にしない。


 市井に紛れ目立つことなく平々凡々に過ごせていればいいが、もし、何か大ごとに巻き込まれでもしてそれこそ警察沙汰にでもなったらそれこそ一大事だ。身元はすぐに判明し、ハカタ警視庁はサッポロに対して、鬼の首を獲ったように高いところからクレー厶をつけてくるに違いない。挙句の果てには、随分前にお流れになったはずの本庁統合話をまたまた議論の墓場からほじくり返してこないとも限らないからだ。


 もっとも、二つの本庁がどんなに揉めたって中央本庁が仲介に乗り出してくるなんてハナから考えられない。


 ミヤコであるトーキョーはいつも冷静で国の真ん中に鎮座ましましている。それは魔界の鬼やら魑魅魍魎たちやらに恐れられるほどのボスがいるからだ。命が惜しけりゃ関わるな、、、。ふっ、わかりやすい脅し文句だ。




 そんなアレコレが頭の中を駆け巡っていたら、藤岡の声がした。左腕のウェアラブルデバイスの中の小さなモニターで微笑んでいる。


「朝ですよ、桜田さん。おはようございます」

「ああ、起きたよ」

「ご気分は?」

「う~、最悪だな、その一歩手前か」

「わかりますよ。夢を見ないようにって忠告したのに全然ダメ。雑念、多過ぎです」

「モーニングコールでお説教されるなんてさらに最悪だな」

「自動キッチンからですみませんが(なにせ遠隔操作なもので)、朝食を用意してあります、リビングへどうぞ」

「藤岡」

「はい」

「お前、いい嫁さんになるな」

「先輩」

「何だ?」

「セクハラです」

「は?そんな法律、まだこの世に残ってたのか?」

「急いでください、出発まであと30分ですよ」

「今日の、な」


 あ、アレ?今日は何曜日だ?


「藤岡」


 モニター表示が通信遮断と応えてきた。




////////////////////////////////069




 富永優子は、ハカタ警視庁の外郭団体「総合情報統計センター」のセンター長秘書だった。総合情報統計センターの任務とは、街中に、水中に、山林の中に、(そして空中にも)ビッシリ敷き詰められた超超高感度監視カメラの石畳群によって24時間南部国民を監視し、そこから得たすべての行動パターンの分析結果によって、次の行動予測を導き出し、現実に起こる犯罪との因果関係を読み解いて、より重大な犯罪の発生を事前に食い止めること、その可能性の芽を発芽する前に警察に摘み取らせるための根拠データを権力者たちに提供、対応を検討、決断させることなのだった(もちろん、同じシステムは中央州にも北部州にもある)。


 ここの歴代のセンター長はデータ分析に長けた非常に優秀な人材、特にIQレベルは180以上と言われ、そのポストに値すると選抜されるが、その反面、人としてどうかという話題になれば、それはまったく別の話で実は大きな問題点を併せ持っているのが常だった。つまり何がしかの異常性を備えているのだ。なぜかと言えば優秀な頭脳と引き換えに悪魔に魂を売り渡した結果なのだと揶揄されるのが常だった。


 現在のセンター長・麻生の異常性、それは目の前の特定の女性に対して極端に執着し、常に気色悪い愛情表現をするという独占欲に全身を支配されていることだった。


「センター長、お疲れ様でした」

「富永くん、君はまだ帰らないのかい?」

「はい、もう少し片付けがあります」

「もういいじゃないか、家まで送ろう」

「いいえ結構です」

「、、、そして一緒に食事をして一緒にシャワーを浴びて、ただ一緒に眠るんだ」


 優子は深いため息をひとつついた。


「センター長、お構いなくと申し上げたはずです。今おっしゃたようなこと、私は望んでなどいません。センター長にもご家庭や将来があります。私は仕事ですからここにいますが、あまりにご理解頂けないなら私にも考えがあります。ついでにもうひとつ言わせて頂ければセンター長は私の自宅をご存知ありません。なぜかおわかりですよね?」

「さあ?」

「私の知人のひとりにそういう力があるからです」

「君は私の秘書だ、なぜいけない?」

「仕事は仕事、プライベートはプライベートだからです。もっともいずれにおいても社会通念を逸脱しているようです」

「ああ、そうだ。だから私はちゃんと切り分けているんだが」

「はあ、、、」

「就業時間が終わったらハラスメント問題とか存在しないんだよ。私は堂々と君を送っていく。そして堂々と君を愛するさ」

「お断りしたはずです!これまで何度となく!」


 麻生はエスカレートしている。危険だ。帰りにショッピングだからと迎えの場所を変更したのはマズかった。という、フリをした?


 思った通りだ。それから、そっと優子は唇を噛んだ。


「気にしちゃいない」

「何を言ってるんですか!気にする主体は私の方なんです!それに付言するなら終業してもあらゆるハラスメント問題は成立するんです!そんなこともご存知ないのですか!」

「もちろん知っている。さっきのはただの冗談さ」

「やっぱりもう今日は終わりにします。私の方がお先に失礼します。センター長、お気をつけください。これ以上しつこくされるようなら、私は本当に私の知人の力を借りるようにします。そうならないことを私は願っています。では」

「何だ。いったいどんな権力を持ったお友達かな?」

「お話する義務はありません!」

「いいさ、そのうちゆっくりと教えてもらおう」


 優子は侮蔑と憤慨の空気をまとい、5枚ものセキュリティーゲートをくぐって表に出た。何台あるかわかりもしない大変な数の監視カメラが優子の姿を捉え、追尾した。エントランス前のとてつもなく広い芝生の中央に、悠々と横たわっていた巨大なサイボーグ犬がぬっと顔を上げて優子を見た。


「リンカーン、また明日ね」


 リンカーンと呼ばれた人間の背丈以上は有にあろうかという体高のサイボーグ犬は、ノシノシと優子の方へ寄って来た。


「いいのよ、セキュリティー優先よ」


 リンカーンは違う方向に顔を向けた。建物の陰からはもう一頭のこれまた巨大なサイボーグ犬がぬおっと姿を現した。


「そ、ワシントンが見ててくれるのね」


 リンカーンは優子に並んで歩き出した。
























////////////////////////////////070




 一生使えずにサビついていく抑止力のいくつかとは違って、まるで神の手みたいに最終奥義ですべて一掃してしまうとか何でもアリなんて、そんなの反則だろう?誰もツッコめねえじゃねえか!


 ただ、しょうがねえなあ。絵空事の世界の話の極致なんだからっていうオチをつけられて、そんなの全部がそれで終結するんだ。だからサイコパスとか超能力とか、まだこの時代にあっても地球外生命体とか、そんなものいちいち相手にして立ち止まってなんていられやしねえんだ。


 いいか、よく聞け。今日日の刑事の仕事ってのはな、大昔のどこかの誰かが言ってたとかいう「殺しのライセンス」が普通にあるんだ。正当防衛を超えた緊急回避手段として明文化されたんだったが、人の気持ちってどんどん変わるんだな。


 だってさ、どんな悪いやつにだって人権があってとか、心神耗弱に罪は問わないとか、ああ、そんな法律とおさらばできてホント良かったぜ。それはこの国が世界に誇れる気高いポイントのひとつだ。裁判所になんて絶対行かせねえ。悪いやつは問答無用でただぶっ殺すのさ。俺たち刑事は人間世界で法律根拠を持った殺し屋兼そうじ屋なのさ。


 法律に二面性があるわけじゃない。それを作った人間とそれをころがし過ぎて阿呆な解釈をしてしまう人間の側に二面性があるんだ。人と人でなしという二面性がな。


 神様なんて信じちゃいないが、自分が神様になった気分になれるってんだから、それはそれは歓迎すべきことさ。それこそ何だってアリだ。法の定めも法の裁きもそんなの知ったこっちゃないさ。クソ喰らえだ!


 まあ、それこそ俺みたいなサイコパス刑事(もっとも俺は自分のことをそんな風に思っちゃいない。たぶん、何が変わってるのか自分でもわかっちゃいないが、ただ人より変わってるだけだし、な)がこれまでこうやって、やって来れたってんだから、人間世界もほとほと辻褄の合わない世界だぜ。呆れ返ってヘドが出らあ。





 ああ今日もマズイな。ったく何なんだ、まるで排泄物のようなこの酒は。


 いつもこれしか飲まないくせに、さんざん悪態をつきながら、酒のパッケージを握りしめたままの拳で路地のカベをぶん殴って脳天まで突き抜けるその痛さを後悔していた俺は、ふと思った。



 ん、おかしくないか?



 俺はさっき藤岡からモーニングコールをもらったばっかりだったはずだ。そこから今の今まで俺は何をしていた?いったいどうなってる?





 朝、起こされて、今はもう夜のはじめだった。









 満月の夜だった。美しい、澄んだといった方が適切かもしれない月灯りが町を青白く照らしていた。


 俺は無意識の感情に身を委ねて思い切りカベを殴ってしまった痛みに、自分に呪いの言葉を吐きかけながら、大通りの方向へと路地を進む。


 俺の目の前を横切るところの大通り沿いの歩道にキレイな女の横顔が見えていた。なんて明るさだ。街灯のせいなのか?




 その時、女は驚いたかのように後ろを振り返った。すぐに怒りと恐怖の形相をした、と思った。俺の視界にフレームインして来た男が何かを声に発しながら女の手を掴もうとしているのがわかった。


 その緊張に震える空気は決して痴話喧嘩なんかではない。思わず俺は現場へ駆け出していた。管轄外だぞ、よせばいいのに。俺の頭の中で誰かが囁く声がした。



 女は男の手を咄嗟に避けた。すると今度は、髪の毛でも何でもいいから掴もうとして両手が宙をまさぐった。女はショートカットだったので、男が予期した結果とはならず、男はただオタオタと両手をせわしなく動かしているようにしか見えなかった。



 俺は気がついた。


 時がコマ送りのように過ぎていた。おそらく1秒にも満たないはずのわずかの時間が何十倍にも膨らんで感じられた。心臓の鼓動の速度に至るまですべてがスーパースローの世界に落ちていった。


 ただ、俺の頭の中で騒いでいる意識たちだけはいつもより早く情報伝達を行っているのか、周りの遅れと相対スピードは究極相当レベルに上昇している。ああ、頭の中が熱暴走でブラックアウトしそうだ。




 女が叫んだ。スローの呪縛は解けていた。



「誰か助けてーーーーっ!」


 黒い黒い大きな塊が、それも非常に大きな塊で、ひょっとしたらスリーパーボックス(長期冷凍睡眠者格納保存庫)か何かがスーパー台風で飛ばされて来たのかと思うようなデカい物体が、大通りの月灯りとスポットライトと街灯の光の数々をザッと横切るように、女に襲いかかった男にぶつかっていくシーンを俺は金縛りにあったように一歩も踏み出せずにただ見ていた。いや見せられていたのかもしれなかった。まばたきさえさせてもらえなかった、そう無意識が俺に告げていた。



 俺は走って、走っていたはずだ。


 動き始めた時間がまた止まっていた。




 そして、それらのシーンが完結する前に惨劇は起きた。


















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ