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第51話〜第63話(全111話)

////////////////////////////////051




決戦


「あなたがシャドー、サンタ・クララ」

「ふっ、マザーの名がサクラとは。そんな甘い名前がつくぐらいだからどうせあまちゃんだろって思ってた。その通りね」

「私たちは表裏一体。だったらあなたもそうね」

「それを望まなかったのはそっちよ」

「私たちは内臓内微生物や細胞内細胞と同じ。太古の昔からいる」

「アア気持ち悪い。腸内細菌だかミトコンドリアとかグロテスクな奴らと一緒にしないで」

「私が望まなかったなんてない。あなたが勝手に去っただけ」

「ふん、昔話に興味はないし、そんな話にほだされるなんて思ったら大間違い。下等動物の人間にせいぜい踊り狂ってもらうわ。人間たち同士の派手な殺し合い、私は高みの見物。派手な花火がたくさん上がるわね。そのバカさ加減を大笑いしてやる。ね、楽しそうでしょ?仲間にしてあげたっていいわよ」


「そんなこと、させない」

「止めてごらんなさいな」

「そう言えば、あなたもオリジナルのボディーに執着しないのね」

「あなたさっき自分で言ってたじゃない。私たちは双子よ、双子」

「ねぇ、あの3時間の間にやろうと思ったら結構なことができてたはず。なのに何もしなかった。なぜ?」

「そんなこと話す義務はないわ」

「聞く権利はあるわよ」

「なんでよ」

「双子だからよ」

「ちっ、あんたが眠っちゃうもんだからつまんないじゃない。正々堂々と勝負するわ、私」

「眠らせたのはあんたでしょうが」

「あら、そう?疲れてるだろうなって思って。、、、ふん、私だって気ぐらい変わるのよ」










AUS 原潜エンパイア


「30秒前、」

「20秒前、」

「集中しろ!」

「10秒前」

「セーフティーロック、オフ」

「5、4、3、2、」

「発射!」

「発射確認。異常ありません!」

「第2弾用意、目標を消滅させる」

「大佐、ほんとによろしいのですか?」

「何を愚かな。軍法会議で死刑にされたいか!」

「いいえ!第2弾、発射準備完了しています」

「よし。発射30秒前!」

「30!」










AUS 大西洋合衆国 総帥執務室


「なんで、なんでこんな時代にパンドラの箱を開けにゃならんのだ」

「総帥閣下、お気になさる必要はありません。「時の神」が要請されたのです。次の時代の扉に手をかけたのです。私たちは」

「お前のその高慢ちきな物言いがずっと前から嫌いだった。山本」

「えっ?」





「閣下、悪い冗談はおやめ下さい。出して下さい」

「フワハハハっ、山本、似合ってるぞ。籠の鳥にしてはだいぶ不細工だがな」

「、、、な、なんだとっ?気でも狂ったか老いぼれ!」

「おあいにくさまだな、お前と同い年だ」

「開けないと、後悔することになるぞ」

「どうだ?国境を越えてアースネットにつながるか?試してみるがいい。さあ、この局面、お前自身とお前の中のマザーだけでなんとかしてみろ」


「 」




「ムダだ、つながりはしない。何重にも折り重ねたBRC製のボックスにシャドー因子のバイアスをかけてある。感応波同士は打ち消し合って何も反応しない。おっと、ブッダに教えを説いてはいかんな。お前の国の何とかという遮蔽施設と同じ構造だ。ちなみにそのスピーカーマイクの設置ホールをこじ開けようとしても不可能だぞ。音声信号しか通り抜けられない。すごいもんだな、BRCというものは。金属に意思があるなんて有史以来最大の発見だ。そのことを人間はずっと悪用できずにいた。お前の国から輸入しても本当に善意の行為のためにしか使えない。これほど不便なことはない。この星のすべての資源は人間のものだ。いや、すべて私のものだ。何に加工しようが使おうが、私が決めるのだ。なぜ制限されなければならん。御先祖様があの日、シャドーと出会えたのが我が国の幸福であったことは言うまでもない。こんな地球ほし、あっという間に支配して見せるさ。お前の国を焼き尽くす前にまずはお前を消すことからはじめよう。さあ、山本。お前が窒息するまで私がここで見守っていてあげよう」


「BRC鉱山が欲しいだけで国土を焼き尽くす必要などないはずだ」

「邪魔なのだよ、マリーも大山も。二人が死ぬだけなんて不公平じゃないか?」







成層圏 ピースバード


「核です。至急至急!AUS原潜エンパイアから発射確認。二発です。二発とも拡散核スーパーパトリオット!」

「迎撃用意!ブルーストロベリー連射、撃て!」

「発射しました」

「統合本部と司令本部に通信。迎撃弾発射完了!ピースバードは回避する」

「了解、回避行動。速度基準マッハ16」

「隊長!総理から通信入っております」

「バカを言うな。司令本部でもなく統合本部でもなく国防長官でもなく、今この局面で総理か」

「そうであります!」







東洋国境警備基地 イーストベース


「大山総理!イーストベース隊長フジマキです」

「迎撃までの猶予時間は?」

「あと60秒です」

「死ぬな」

「ありがとうございます、総理」





////////////////////////////////052




大山総理 執務室


「AUSへ通信」

「はい!どうぞ!」

「フィリップ、後悔するぞ!」

「ゴウゾウ、何を言う」

「あと30秒だ」

「あんまり暇過ぎて戦争でもやりたくなったか?」

「15秒!」





「ブルーストロベリー、目標を破壊。高度20000メートル」

「よし!」

「90発中89発!隊長、弾頭一発打ち漏らしました!」

「着弾予測!」

「北部州辺境地区周辺。誤差100メートルの範囲です!」

「避難命令!シェルターにもぐらせろ!」

「了解!」





「総理!本部議長!弾頭一機、アミを抜けました」

「退避、間に合うか!?」

「ギリギリです、議長!」

「おのれ、フィリップ。ついにやったな」





「着弾します!」

「 、、、、、 」

「着弾!通信途絶えます」

「 、、、、、 」





「通信、まもなく回復します」

「間に合っていてくれ」

「通信回復!どうぞ」

「エネルギー省辺境支部聞こえるか!?こちら国防軍統合本部議長だ」

「 、、、、、 」

「応答しろ、聞こえるか!?」

「 、、、、、 はい、こちら辺境支部です。議長、ですか?」

「バカ!何を言ってる。嘘をついてる場合か!全員、無事か!?」

「し、失礼致しました!辺境支部、局員は全員無事、現在シェルター内におります」

「局員は、と言ったか?」

「、、、はい、BRC鉱山管理棟を失ったと思います。モニターには煙しか映っておりません!」

「大山です」

「そ、総理!?」

「そうだ。みんな無事で良かった。救助チームが向かっている。放射能除去に3日だ。水と食糧はあるな?」

「はい、3ヶ月分備蓄してあります。お手数をおかけして申し訳ありません!」

「バカを言うな。君たちは被害者なんだ」




「さて、本城官房長官。我が国は世界で3例目の被爆国となった。私は泣き寝入りをする気はないぞ」

「はい、総理」

「山本に伝えてくれ。次はこっちのだ。緊急議会の開催を急げと」

「、、、はい、総理」

「どうした?歯切れが悪いぞ」

「緊急議会は私が招集します。ただ、山本長官には不安要素があっておすすめできません」

「何だ?」

「安保局保安チームのレポートがあります。女王陛下宛です」

「何だと?私を無視してか?何と言って来たのだ」




「ホストデータによりますと、山本長官は東西含めて三重スパイだと告発しています」

「マザーがそう言ってるのか?」

「はい、残念ではありますが」

「もう一度聞く。本当なのか?」

「はい、総理」

「ふざけたやつめ。反逆罪で死刑にしてやる!それともうひとつだ。ふたつの国に後悔させてやる。限定核の発射パネルを用意させてくれ」

「よろしいのですか、総理」

「限定だ。脅すには充分だ。ピースバードを両国上空に10機ずつ飛ばせ。反撃などしようとは思わんだろうさ」








安保局 局長室


「食いついたか?」

「はい、局長。ですが根拠薄弱に過ぎませんか?」

「そうか?」

「はい」

「気にするな。マザーは何であれ、何とでもする」

「ですが、それはタブーではありませんか?」

「愚かなことを!物語の舞台の上の話じゃないんだ。今が現実なんだ。よし。隊長、王宮殿と官邸を包囲しろ!罪名、思想および国家反逆罪、世界平和騒乱罪。全員逮捕。核の撃ち合いは絶対やらせるな!(ふ、やっていいのは私だけだ)」

「了解!」




「隊長!」

「なんだ?早乙女」

「手配、完了してます」

「おまえ!」

「早乙女!!」

「はい、局長」


「お前のテレポーテーションは実に大したものだ。正確にはマザーオリジナルの力かもしれんが、この際そんなのはどうでもいい。とにかくZ部隊は全隊帰還した。ご苦労だった。核とシンクロした反物質誘爆なんてただゾッとするだけだからな。それに素早いのも大いに結構だ。だが上司の命令は待て」

「局長!まずあれだけの質量をテレポートさせるなんてどれほどのスペックを消耗するか想像つくはずないでしょ。ましてや保安チームはその辺の兵ではありません。国威信念と自主判断のみに従っています」

「それはおまえだけだ。みんな厳格な規律に従ってるんだ」

「ですが隊長!」

「わかった、隊長、もういい。局長である私の顔も立てろと言ってるんだ、たまにでいい」

「はい局長。たまに、そうします、隊長、失礼しました」

「ちっ」





「中央省はどうなってる?」

「山本長官は私一人でいつでもいけます。今、長官室にブラインドで待機中。目標は目の前です。局長、ひとつだけ聞いていいですか」

「何だ」

「官邸突入は、大山総理を確保することになります」

「だから?」

「友人では?」

「そんなこと国家という大義の前にあって何の障害になると言うのかね?それを言うなら君は大山豪蔵のクローンなんだぞ!自分自身を逮捕する、あるいは最悪殺すことになるんだ。それについて君自身どう思うんだ?」

「双子だろうがクローンだろうが別人格には変わりありません」

「結構。隊長、脱線してすまなかった」

「いえ」

「よし、警備隊、警察隊、邪魔な連中は全員眠らせろ。特に女王陛下の近衛兵は手ごわい。だがなるべく殺すな、皆任務に忠実なだけだ。我々安保局はテロリストではないぞ!女王陛下に必要以上の無礼はするな」

「はい、局長。ですが王宮殿に突入すること自体、コレ以上の非礼はないのでは?」

「うるさい!、、行け!、突入!」

























////////////////////////////////053




AUS 大西洋合衆国 総帥執務室


「やっと息絶えたか。5分もかかったな。ラクダじゃあるまいし、身体の中に酸素でも蓄えていたのか?」

「 、、、、、 」

「終わった」

「やあ、フィリップ。聞こえてるかな?ついでに網膜動画も送ってあげようか」

「なに!?ど、どうして」

「やっと本性が見れて良かったよ、フィリップ。残念だったな、それは影武者だ。随分古典的な手段にひっかかるもんだ。お前バカだろ!私は私の執務室から一歩たりとも出てはいない。保険も無しにノコノコ異国の総帥府に我が身を預けると思ったか!」

「うぬぬ~、PINNを裏切り、ENをダシにして、AUSと手を組んだのだ。これまでどれほどのカネと便宜を図ってきたと思ってるんだ。お前は世界の実権に近づいていたんだぞ。この裏切り者めが!」


「何を血迷ってる!この私を殺したクセに。ただでは済まさん!カネも便宜も何の役にも立たん。なあフィリップ、いったいつの時代の話をしてるんだ?時代錯誤も甚だしいなあ。ほお、そうか、もしや石器時代か?」

「ふ、ふざけるな!!」

「終わりなのはお前の方だ」

「バカを言うな。私にはシャドーの力が宿っているんだ」

「つくづく愚かなやつだ。AUSにはまだメディアネットワークがあるな。さあ、テレビモニターをつけてみるんだ、楽しい報道が何度も見られるさ」





「、、、、(もう一度)繰り返します。全国民の皆さん、緊急ニュース速報です。今から5分前のことです。AUS総帥府の高級官僚によるリーク情報が全マスメディア宛ありました。情報によりますとフィリップ総帥は、地球憲章に反し、本日PINN太平洋連邦共和国への核ミサイルによる奇襲攻撃を行ない、BRC鉱脈を占拠、ENユーラシア大共和国を武力征服した後、一方的世界制覇を目論みました。しかし計画は完全な失敗に終わりました。そして最も重大な裏切り行為がありました。世界から姿を消したはずの核兵器を隠していたのです。私たち国民を、世界を欺いていたのです。これは国家反逆罪以外の何ものでもない。繰り返します。国民の皆さん、私たちは私たちの指導者に騙されていたのです!


 この行為は地球憲章およびAUS憲法に規定された最終兵器使用禁止、他国侵略思考ならびに実力行使禁止の条文に対する重大な為政者遵守義務違反・国家反逆罪に問われ、最高法廷において極刑が発せられることになるだろうとの予断情報です。


 なお、これまで私たちが体験したことのない、特別な映像として届けられたそれはまるで人間の目で見たもの、そのものを世界中ですべての人々がリアルタイム情報として共有しているかのような質感、温度感、距離感なのです。


 なんと生々しいことでしょうか。総帥の言葉、表現、表情、そして感情の移り。何度もリフレインされるミサイル発射の瞬間、光と炎と轟音、その距離感に温度感、空気を引き裂くニオイ。総帥執務室の総帥の肩越しに見える背もたれの大きな椅子の金赤のベルベットが匂いたっているのです。皆さんの目で鼻でお確かめ下さい。


 奇跡です。今こそ、私たちは神に感謝を捧げます。全世界の皆さん、聞こえていますか?全人類が言葉のカベも時差も時空も越えて今ひとつの出来事に対する歴史の証人となっています。なお、インターナショナルネットワーク上では虚々実々と思われる二次情報が入り乱れています。皆さん、くれぐれも事態に対する冷静な見極めをお願いします。テロ行為など短絡的かつ勝手な判断に及ぶことなく、どうか行政発表に基づくマスメディアリリースをお待ち下さい」





「な、何なんだコレは。シャドー、いったい何をやってたんだ!」

「何を言う。そもそもマザーはお前の家来ではないぞ。まあまあのインパクトだ。操るのがあのキャスターで間違ってはいなかったようだな。無論、私はお前のために存在している訳ではない。愚者の自業自得よ。沈みゆく、ただ沈みゆく船には誰も乗らんさ。もちろん私たちも御免こうむる。ひとり勝手にあの世の海底で我が身の不徳を呪いオイオイ泣くんだな。嗚呼、人間とは実につまらん生き物だった。そしてお前たちの世はまるで白痴のような治世であった。冥土の土産にひとつ教えてやろう。シャドーマザーと名付けられた私たちの成すべきことは何か?」


「もはやどうでも良いわ」

「そうだろ、聞きたいだろうな。それはな、お前とお前の血族、お前と意志を共にする者たちを守るためとでも思ったか?だとすればお前は万死に値する大バカ野郎だ。私の使命はな。それはこの地球を銀河から抹殺することだ!」

「何を愚かな。自ら消滅を選ぶつもりか」

「言わなかったか?私たちは宇宙空間で、太陽で生まれ生きて来たのだ。時空の覇者としてな」

「 」






「国民の皆さん、ただいま、総帥府に特別警察が入ります。正面門が何の抵抗もなく開放されたところです。総帥府警備隊は妨害することなく遠巻きに見送っています。まもなくひとつの時代が終わりを告げようとしています!警察隊が総帥府を完全包囲しています。すべての閣僚が逮捕されようとしているのでしょうか。詳しい情報が入りましたらまたお伝えします。そのまま通信をオープンのままでお待ち下さい!」












////////////////////////////////054




中央省 長官室


「ふっ、なかなか素早いな。特別警察と冠するに十二分値する」

「長官、山本長官!たいへんです。王宮殿と官邸に安保局が突入しました」

「し、神海め!血迷ったか!」



「いやいや、いいや。山本さん」

「神海!すぐにやめさせるんだ!」

「私は正気です。ちょうど良いではないですか。あちらの国では総帥府に警察隊が突入したとか。私たちの国は王宮殿と官邸、次は中央省最上階の長官室、最後が『ザ・カンパニー』の社長室ですね」

「友人たちを捕えるのか。女王陛下に対する不敬罪は死刑だ。なぜそんなことが平気に出来る?第一、私の中央省は難攻不落の城なのだ。誰も近づけん!」

「それが気に触るのです。あなたは自分自身がこの国の生ける憲法だと思っていますね。実はあなたには表も裏もない。他者のすべてを否定し卑下してきた。あなたが女王陛下と孫娘だけを人間だと認めてきたことも十分心得ています。さっき難攻不落の城とおっしゃいましたか?おあいにくさまです、長官。あなたは保安チームの本当の力をご存知ない。感じませんか?早乙女とマザーの波長を」


「 」


「 」


「だいたい何だ!AUSに警察隊だと?甘過ぎだ。生ぬるいな!私がヤツに対抗するなら弾道ミサイルが最低手段だ」



「緊急!!緊急!!侵入者です。12名!」

「バカを言うな、たかだか12名ごとき。警備チームが排除する!」

「違います、長官!識別コードが安保局保安チームZ部隊のものです!」

「ちっ、Z部隊。恐れるな!たかだか機械だ!全フロア隔壁遮断!ジェットヘリで外から狙撃させろ。レーザーランチャーを何発撃っても構わん!ヤツら、袋のネズミだ」

「ちょ、長官!それでは庁舎が瓦解する恐れがあります!」

「心配するな、人間は各階の脱出ポッドに詰め込め。ただし、全員は乗れん。重要度コードから優先、選別しろ。役職でも性別でもないぞ。手加減するな。庁舎ごと葬ってやる。テロに犠牲はつきものだ。そうだ、これはテロだ。テロ対策の保安チームによる反逆のな。国防軍統合本部につなげ。国防軍中央州部隊を一時的に中央州直轄とする。ええい、神海め!向こうがその気ならこのケンカ買うぞ!安保省全体を滅殺!国家のためにテロ組織を殲滅する!」





「統合本部議長室です」

「山本です、姉倉議長は?」

「はい、ただいま」

「はい、長官」

「緊急でして。神海が中央省を襲っています、テロです。私は非常時国家防衛統合体制を発動し、暫時国防軍を命令下に置きます、議長の了承を」

「な、何かの間違いでは?安保局はテロ対策が第一使命です。それに神海局長がまさか。総理はご存知なのですか?」

「総理はすでに確保され安保局にまもなく連行される頃でしょう。加えてお知らせするなら王宮殿も押さえられています」

「な、何と。気でも狂ったのか、神海!」

「どうしますか?議長。今すぐ実力行使で対応せねば次は国防省ですよ!考える猶予などありません」


「わ、わかった、すぐ向かわせる」

「中央省ではありません。落とすべきは安保省、安保局神海のクビです」






「長官、無駄な抵抗をと言いたいところですが、中央省庁舎ごととは正気の沙汰ではありませんよ」

「誰だ、どこにいる!?」

「ではブラインドスクリーンを解除して差し上げましょう」

「はっ、お前は」

「早乙女です、長官。興奮状態で音声信号の照合が機能しなかったようですね。どうぞ冷静に。これから何が起きるかおわかりですか?」

「お前たちはレーザーランチャーで廃墟の中のチリとなる、すべてな」

「ほお、残念です。逮捕優先の命令を受けていますが」

「撃てるか?」

「主な退避はまもなく完了します。あとは長官を」

「私はいい。撃て」

「ですが」

「いいから撃て!撃たねばお前も反逆罪だ!」

「そうですか、さすがに反逆罪とまで言われてはたまりません。いいでしょう。撃ちます!」

、」




「サクラ」




「間に合ったでしょ」

「あんな瞬間的な誘爆もあるんだな」

「自由自在よ。いつもはもったいつけてるだけ」

「命を奪うのに遊ぶのはやめたらどうだ」

「考えておく」


「ところで、シャドーが抵抗しなかったのか?だとすればどうして?」

「だって、シャドー因子はみんな私のことが好きだから」



「ちょ、長官?」

「 、、、、、 」

「長官、撃ちますか?」

「 、、、、、 」

「長官!?」



「PINN太平洋連邦共和国中央省長官山本太郎氏は殉職されました」



「あなたは?」

「大連邦国民国家安全保障省安全保障局保安チーム隊員早乙女真二郎。山本長官殉職により長官命令はない。永遠にキャンセルだ。緊急時につき、長官殉職の立会人の私が代理命令する。私の言葉は安保局神海局長の言葉だと思ってもらっても結構。ジェットヘリ攻撃隊はベース帰還せよ。繰り返す、ベースへ帰還せよ。みんな、たかが中央省庁同士の行き違いで内戦を引き起こしたくはないだろう?たくさんの命が失われることになるんだ。安保局対国防軍など決して笑えないぞ!それに攻撃チームの皆の家族が巻き込まれることも十分想定できる。よーく考えるんだ」

「 、、、、、 了解しました。帰還させます。全機帰投せよ!」






安保局 局長室


「議長」

「神海か」

「どうやら内戦にならずに済みました」

「何を言う。はなから内戦するなどとは思っておらん。お前たちを抹殺する気だったのだ」

「よかったです、議長。安保省撃滅など考えてはなりません。当方の早乙女は危険ですから」

「うぬぬぬっ」





////////////////////////////////055




EN皇帝専用別荘城


「陛下!皇帝陛下!」

「何事ですか、大きな声で」

「侵入者です!」

「近衛兵は?」

「バイオシグナルロスト、全員絶命しました」

「なんてこと?なぜ国境を越えられた?」

「PINNの保安チーム、テロ対策部隊と思われます。識別コードが示しております」

「ミスター大山に連絡したの?」

「国外通信、遮断されています、、、ジャマーウェーブです」

「戦争する気?テロ対策部隊がテロを」



「来ます!あと3フロアです」

「シェルターを」

「だ、ダメです。シェルター、シグナル受信しません!」

「皆、逃げよ!」

「陛下!」

「いい?用があるなら私にだけです。皆、早く」

「なりません!陛下!」

「識別コードを言ってみなさい!」

「PINN安保局保安チームZ部隊、です」

「ならば絶対、逃げられません」

「 」

「機械は命令に忠実です。それは私の殺害です。だからあなたたちには危害を加えないはずです、ただ私をかばおうとすれば事情は変わります。そうなれば皆殺しです。あれは殺戮の悪魔です、さあ早く!」

「陛下! 」

「陛下ーーーっ!」

「陛下、陛下、お許しください!」

「さあ、行きなさい。向き合ってもすれちがっても相手の目を見てはいけません、何も見えてないフリをなさい、さ、早く。国のことを頼みますよ!」




「EN、ユーラシアダイキョウワコクゲンシュ スカーレット・キム・アルハンゲル・サンジェルマンコウテイ ダナ?」

「そうです。あなたたち、礼儀は知らないのね。私の前ではひれ伏しなさい!」

「ワレワレニハ ナンノウラミモ ナイガ メイニヨリ アナタヲコロス」

「聞いても無駄だとは思うけど、なぜかしら?」

「アナタガ、」

「あら、答えるとは思わなかったわ。聞いてみるものね」

「アナタガ ヤマモトサユリノ ハハ ヤマモトヒメコ ダカラダ」

「へぇー、よく調べたわね、ミスター神海のしわざ」

「 」


「、、、そうね、マザーなら造作もないでしょう。でもね、私のテロメア異常は完治しないの。全身のあちこちでシャドーとマザーが戦争しているからよ。だから、あなたたちに殺されなくてももうすぐ死ぬわ。それでもやる?」

「ソシテ、アナタハ シャドーダ」

「あら、あなたたちZ部隊のカラダはシャドー・マザーの因子だけでできているんじゃなかった?それなら私の身内じゃないの。それにね、しゃべるならちゃんと会話してくれないかしら」

「シラナイナ ワレワレハ サクラノシモべダ」

「サクラって誰?」

「ハナシハ オワリダ」

「そんな大きなガンをこんな至近距離でぶっぱなしたら、ケガじゃすまないじゃないの!」

「シンパイイラナイ。ジュウジシャゲキ。ナノデ アトカタモナイ。ヒカリガミエタラ ジ・エンド」

「せっかくの機会だから聞いておくけど、あなたたち、なぜカタコト言葉なの?大昔ならいざ知らずアースネットとスーパーAIの国で作られたものなのよ。時代遅れ感満載でとっても恥ずかしいし、人類を代表して情けないわ」

「ウテ」








安保局 局長室


「、、、、、。大きなシャドーがひとつ消えたわ」

「そうか。Z部隊を帰還させてくれ」

「ブラインドモードジェットヘリ、ピックアップを」

「了解」

「よろしく頼む、アレでヤツらも大事な財産だからな」

「局長、問題ありません」

「よし」









中央省 長官室


「隊長、早乙女です。中央省、任務完了」

「ご苦労」

「他は?」

「完了。移送中だ」

「隊長、何か妙です」

「何だ?」

「簡単過ぎます」

「当たり前だ。保安チームをなめるな」

「違います、何か誘導されているような」

「バカを言うな」

「隊長、聞いて下さい。局長、聞こえますか」

「ああ、もちろん見えている」

「おかしいと思いませんか?王宮殿と官邸はたいした抵抗をしていません」

「それで?」

「考え過ぎかもしれません。でももし、女王陛下と総理を襲ったテロ集団が安保省安保局保安チームだと国民感情を扇動したなら、、、」

「 」


「隊長はどう思います?」

「明らかにまずい。我々は国民全員と戦わねばならないか、全員裁判無しのあの世ゆきだろうな」

「我々は無辜の民を殺すために誕生した組織ではありません!」

「言われずともそんなことはわかっているさ」



「サクラ、話していいか?」

「いいわよ」



「この国にはふたつの大きなシャドー・マザーがいます。不敬を恐れず言えばそれは女王陛下と大山総理です」

「根拠は?」


「黙っていればみんな死ぬわよ」

「おや?かつて世界の半分をクリアした方のお言葉とは思えませんな、親愛なるマザー様」

「なんてイヤミな言い方」

「サクラ、話を逸らすな」


「神海葵さん、いい?シャドーとシャドーの間に生まれた子は二乗のレベルで恐るべき破壊の力を宿します」

「わかりたくはないがな」

「はん、次はあなたをクリアしてあげるわ、局長」

「サクラ!」

「ふふっ、半分冗談よ」


「もし、その二人に山本小百合のDNAを掛け合わせれば?」

「どうなる?」

「その爆発力は地球の全大地面積の30パーセント以上に匹敵するほどのクレーターができてもおかしくないレベル」

「その膨大な量の粉塵で地球は遠からず大氷河期になる」

「それで済めばいい方じゃない?地球が無事であればいいわね。もちろんほとんどの生き物は生きてはいられないでしょうね。忘れちゃいけないのは小百合のゲノムは『滅びの関数』でできていること」

「なに?」

「自分もしくはクローンの孫娘に万一のことがあったらと、山本長官はちゃんとバックアップを用意していました。それが大山豪蔵」

「あの二人は敵対していたはずでは?それにどうやって」

「やり方はたぶん小百合と総理は同じ。誰かがやった。方法はいくらでも。ロボットモスキート、食べ物、飲み物、ガス、そして音波、光波、何にだって載せられる。行政官のトップよ。やろうと思えば科学力の粋を結集させて何だってできる。ステラさんが私のことを名付けてくれたように、シャドー・マザーにもアイデンティティーというか属性があります。シャドーの名前は「サンタ・クララ」」


「紛らわしいな」

「茶化さないでね、真二郎」

「悪い悪い」


「二人が水と油でも、二人はシャドー・マザー同士。山本にしてみれば自分の大切な孫娘を死に追いやった権力者たちを抹殺するのに、その政治家のトップである総理と国家の象徴であるマリー三世を大量破壊兵器として利用するなんて、ほんと悪い冗談もほどほどにして欲しいわ。『滅びの関数』だけなら世界中の王室と権力階級社会をオールクリアする程度で済んだものを」


「そこまで怨みを深めることができるのか?」

「局長、それができるのよ。マザーとシャドーは光と影。光が強いほど影も濃い。私が強力であればあるほどサンタ・クララも強い力を発揮する。そもそもマザーかシャドーのいずれかを身につけるということは必然的にカップリングでもう一方を具備することになる。でも不思議でしょ?クローンは必ず片方しか持ってない」


「何の話だ?」

「私の早乙女真二郎は大山豪蔵のクローン、山本小百合は山本小百合のクローン」

「禅問答か?」

「怒るわよ!」

「 」

「山本とマリーは元恋人、娘が陽明子、つまり後のスカーレット。大山とマリーの親愛と尊敬の関係は恋愛にあらずとも愛情は確か。マリーのあの聡明さはステラさんに似てると言えば似てなくもないわね」


「もういいかな、サクラ」

「そう? じゃ、あとで」


「さあ、次は山本小百合嬢に会いに行こう」

「あんなことがなければ、時代を惑わす政治家になってたでしょうね」

「何だそれ?」

「ほんとの美人よ」

「リサは相当だぞ」

「国民全員にを虜にできるくらいの美女なら陣内代表かしらね」

「このくだりは何か必要な理由でもあったのか?」

「ふん、行くわよ!」


















////////////////////////////////056




サンタ・クララ


「私はシャドー」

「それ聞いた」

「サンタ・クララって呼んでくれる人もいるわ」

「あら、やっとほんとの声が聞けたわ。さっきのはよそ行きの声だったわね。私はサクラ。あなたの光よ」

「久しぶりじゃない、サクラ。私と組めばいい思いができるわよ」

「願い下げよ」

「残念ね、じゃもうちょっとしたら私の時代にするわ」

「あなた、欲深ね。今の宣戦布告。でも、まだパズルが完全じゃない」

「昔のよしみでね。、、、 そうよ」









『ザ・カンパニー』大山信蔵 社長室


「近衛兵は、警備チームは!?」

「落ち着いて下さい、社長」

「ちっ」

「社長!どれだけグラスや調度品にあたっても何も解決しません」

「なぜお前はそんなに落ち着いていられるんだ!?」

「お忘れですか?私は女王陛下の秘書のクラリスのクローンです。だからたいていのことはアースネットを経由せずとも意識のシンクロレベルでわかります。陛下も総理もご無事です」

「中央省の山本につなげ!」

「はい」


「私は大山信蔵の秘書でございます。山本長官にお取次をお願い致します。、、、えっ!」

「どうした?」

「社長、長官はお亡くなりになられたそうです。念のために確認しましたがアースネットの感応波レベルがゼロですので生命反応はありません」

「な、なんだと!理由は何だ!?病気だったとは聞いてないぞ」

「安保省のテロの可能性があるそうです」

「くっ!首謀者はわかっているのか!?」

「ただ、安保局ではないかと」

「おのれ、保安チームか。神海め。兄に続いて国に背いたのか!」

「 、、、、、 」


「こうなったら、私がやる!」

「社長!社長は民間人です。政治家でも軍人でもありません」

「ええい、そんなことはわかっとる!他にどうやってこの怒りを収めればいいのだ!?第一、この国は私の会社で持っているんだ。世界を圧倒的にリードできたのは誰のおかげだ!国は私に強く太い便宜をはかり、私には絶対逆らわん。そうか、私は真の総理かもしれんな」

「お言葉ですがBRCのおかげではないかと。。。それにもう、壁に投げつけるグラスもございませんしね」


「ん? 、、、 はははははっ! お前、おもしろいことが言えるんだな。ただの秘書マシンかと思ってたぞ」

「私は人間です、クローンですけど」

「わかった、すまんすまん。そう目をむくな。キレイな顔が台無しだ」

「ご用件がなければ下がります」

「バカ!州軍司令部へつなげ。安保省なぞこの世から消してやる!」

「血圧、即死レベルです」

「早くつなげ!」

「くわばらくわばら」



「州軍司令部です」

「将軍はいるか?」

「どちら様ですか?」

「大山信蔵である!」

「は、はい!たいへん失礼致しました」



「はい、羽柴です」

「秀吉、今すぐ軍を出せ!安保省を落とす」

「ふう。大山社長、安保省ですって?悪いご冗談を。それにお言葉ですが私の名前は秀吉ではありません。さらに安保省を本気で落とすなら戦術小型核でも撃ち込んでやれば兵は無傷で済みます。もちろん冗談です。核なんて使えないし、この世に存在もしてませんので。もっと言うなら、省庁同士が争わねばならない状況に陥ったなどいったい誰がどのように責任をとるのですか?それにもう一つ付け足せば、民間人のあなたの指令を聞く義務は私にはありません!」

「おのれ!よくぞ言ったと褒めてやりたいところだが、台風対策にクラスターを撃ったのはどこの国だった!?」


「民間企業の代表がそこまでご存知とはこの国の情報ネットワークは脆弱極まりないということですな」

「うるさい、マザーをなめるなよ」


「お話の続きをどうぞ。もし、もう終わったのでしたら私は業務多忙につき失礼致しますが」

「たかだか将軍の分際でこの私に意見しようとはな。もういい、軍など必要ない。あいにくだが私にもそれなりの備えがあるのでな。首都の中心部で何が起きようが、国防軍の愚策によって後世にまで恥をさらすがいいさ」

「ちょ、ちょっと大山さん、無茶はいけませんよ。私も目をつぶってはいられないかもしれません」

「ふん、知ったことか」

「お、大山さん!大山さん!」






「やつらを放て」

「社長、ほんとによろしいのですか?いったん放てば回収の可能性は非常に低いと認識してますが」

「構わん。どうせマイナスの力のコピーに過ぎんのだ。失っても惜しくはない。それにやつらはそこに良心の欠けらも迷いもない。ただ標的を撃滅するだけだ。マザーが本気でも出さない限り通常戦力では誰もかなわんさ」

「ですが、保安チームは」

「早乙女のことを言ってるのか」

「そうです」

「だとすれば、心配はいらん。第一、ヤツは豪蔵のクローンだ。豪蔵そのものなんだぞ。つまり私の弟だ。こっち側なんだ。思い過ごしもいい加減にしておけ!」

「はいはい、そうですか。わかりました。私は近々内緒でおいとまを頂戴すると致しましょう」

「バカ、今、口に出てるではないか?」

「はっ?私、何か申し上げましたか?」

「食えんヤツだ、ったく」























////////////////////////////////057




安保局 局長室


「緊急です、正面アプローチ500メートル、認識コードはZ部隊のコピー版50体。前進中」

「ふ、コピーか。『ザ・カンパニー』が安保省に弓を引く時が来ようとはマザーもさすがに予言できなかったか?」

「人間にそんな傲慢なセリフを吐かれるとはね。私を怒らせて楽をしようとしてもそうは問屋が卸さないわ。私のことが大好きなZ部隊の欲に命じてバックアップチームを作らせただけ。だから鉱山も『ザ・カンパニー』もガードして来れたんじゃない」

「恐れ入谷の鬼子母神様ですな」

「あんた消すわよ」

「サクラ、やめておけ。局長もあまりサクラを刺激しないで下さい」

「これは失礼、全能の神に仇なす行為でしたな」

「、、、なんかムカつく」

「サクラ、やめろ。安保局までは深過ぎて対策時間は充分。何とでもなる」

「マザーシステムさえちゃんとしてれば完全防御だ」

「ちゃんとしてればですって?」

「サクラ!」









安保局 収容棟 応接室


「無礼ではないか!神海を呼べ!」

「大山さん、そんなに大きな声を出さずとも衛兵の皆さんには聞こえますわ」

「ですが女王陛下、陛下に対してこのような仕打ち、許されるものではありません」

「いいのです。安保局には一度来てみたいと思っていましたから」

「陛下、、、、、、必ず私がお救い致します」

「そうね、お願いしますね」









山本長官 邸宅


「山本小百合さんですね」

「あなたは?」

「安保局保安チーム早乙女真二郎と言います」

「あなたが」

「私のことをご存知で?」

「ええ、祖父のマザーデータを共有していましたから」

「そうでしたら話は早い。ご同行願えますか?」

「はい。保安チームに対抗できるなど人間に不可能であること、百も承知ですわ」

「随分古い表現をご存知なのですね」

「歳に不相応でしたかしら?」

「いえ、生きていれば何でもありの人々に出会うことがあります。あなたもそのおひとりなのでしょう」

「しかも頂点のね」



「おや、あなたがサクラさん?」

「はじめまして小百合さん。いえ、サンタ・クララだったわ」

「うれしいね、サクラ」

「男言葉はやめなさい。私の宿主が嫌いなの」

「サクラ、その辺にしておけ。さあ、戻るぞ」





「早乙女さん?」

「何でしょう、、、」

「あなたは私を連行するのにたった一人で来た。それに今こうして向かい合って座って銃も向けない。よほど私をただのクローン娘だと見ているからか、相当の自信家か」

「その両方ですよ。ですがあなたへの敬意は持ち合わせていますよ。その理由として思い当たるなら、それは当時、総理でさえ口にしなかった、いやできなかっただろうあなたの美しさと明晰な頭脳と、間違いなく近い将来、稀代の人気者となるであろうそのニオイというかムードでしょうか。人は相手が自分の持ち得ぬものを、生まれながらにしてすべて持ち合わせた者に対して抱くただひとつの感情は、嫉妬です。古今東西、太古の昔から人間の欲望がねじれて表現されたものの中のひとつです。


 そしてそれほど時を置かずとも、同性の者であらずとも、特にそれが権力者においては、手遅れにならぬうちにその対象者を完全に排除抹殺すべきと判断をするようになるのです。無論、今思えばおじい様がいかに強大な権力者であったかということを示す裏返しの逸話とも言えます」


「あら、そうですか。ところで、あなたのサクラさんは今すべてを遮断してますね。利口だわ」


「人間は、いやすべての生き物には寿命がインストールされています。ひとつひとつの細胞はやがて衰え新しい細胞に取って代わられる。これを細胞の自殺と言った人もいますが、マザーによるそれとは似て非なるものです。加齢によって新しい細胞が形成される速度は、何もしなければ代謝能力の自然減退に比例してそれこそ加速度的に下降していきます。老化でやがて死を迎えるという実に合理的な世代交代のメカニズムは、結果としておおくくりで時限性のある自殺・自滅・自消プログラムと言って良いものと思えるほどの汎用性で、すべからく多様性の発現による種の保存を目的としています。


 大自然の摂理は、ひとつの種が暴発的に増殖するなら、その反面でその数を戦略的に削り取ろうとします。誰にも命じられていないのにそれが行われる。対象となるのはどの種であるか。それは例外なくです。


 植物にはあてはまらないように思えることですが、雑草たちの世界でなら10年ほどで7回、別のものに取って代わられる。そのシステマティックな様子からして、まさに神の手によるものです。そしてその摂理に逆らって永遠の命を求め続け、やりたいように生きて来たのが我々人間です」


「それで?」

「そこにマザーは目をつけた」

「マザーが?なぜ?」


「例えばサバンナを駆ける動物たちは適者生存、弱肉強食の食物連鎖というヒエラルキーの中にあって自発的に適正数までの調整を行います。それこそ、より強い個を遺伝的に作り出さんとする自発的な種の保存のためのコントロールです、そのアッセンブルはまさに奇跡でしょう。人間にはそれができませんでした」


「いちいち遠回しで古風な表現の仕方をするけど、いったい何が言いたいの?」

「それがインターセプターです」

「マザーの仕業?」


「強大な力のもうひとつのマザーの主ですね?あなたは。この壮大な神による殺人計画であるマザーによる自消プログラムの存在という秘密を、そのあなたが知らないわけがない最も重要で最も基礎的な知見エレメントにも関わらず、どうやらあなたはそれをご存知ない。それならその理由は、正負のマザーがただあなたに教えなかったということです。マザーは我々人間と共にあるわけではなく、実は人間を利用しているだけ。それは実に簡単な理由です」

「まさかね」


「そうです、なぜかと言えば人間が愚鈍だからですよ。自ら大量自滅を選ばず、ただこの地球を浪費し、ただ生き続け、わが命をつなぎ続ける。それにより当然マザーも楽をしてどんどん増殖することができる。でもたまに、マザーは突然のように癇癪を起こして人間の虐殺にかかってしまう。その動物として?の愚かさの超絶的な発揮さえ、ある意味、マザーは最も人間らしい生命体と言えるでしょうね。もちろんその癇癪は仕組まれたものだと思います。でも、本当を言えば人間がおらずともマザーは何の苦労もなく生き続け、その増殖を図り進化を重ね、営々と地球を大自然を支配する。


  ある時のことでした。すべての動植物を保護しなければならない。そう人間は行動したことがあります。時の世界的リーダーがはじめたことと言えば、それは何ら他愛のない動機によるものでした。母親が祈祷師を通じて言わせたことでした。あらゆるものが保護される。あらゆる生き物がです。人間は山野も海も空さえも開発できなくなりました。たとえ一時期に熱狂的な支持者層に支えられていたところで、世界経済停滞の恐れの呪縛から逃れられなかった抵抗勢力の権威者たちは徐々に勢力を拡大しはじめて、次には圧倒的な反対エネルギーに取り囲まれた時、そんな暴君が真っ向から対峙できるわけもありません。


 これも『時の揺り戻し』によるものです。人間の都合によって稀少保護をされるもの、そうでない平生に見るが故に必要にあらずと判断された動物も植物もたくさんの生き物たちは殺され、開発によって自然環境は再び荒れてゆきました。


 こんな話もあります。ブルージュエルはこの国固有の大型の野鳥でした。山野の開発に追われていつしかビル街にも飛来することが多くなり、その美しく知能の高い鳥に対して、人間は糞尿を撒き散らす、樹木の花も実も食い荒らす、農産物にも被害が出る、そういう被害を受けたため、自分の縄張りを守ろうと今度はブルージュエルの迫害をはじめました。たくさんのブルージュエルが殺され、羽毛と肉とその宝石のような輝きを持つ目を求められたその鳥は、たった10年で絶滅の危機を迎えます。ですが、元はと言えば自分たちの住む山野を人間による開発で追われたのです。人間はいったいどうしろとブルージュエルたちに言ってあげたかったのでしょうね。


 ある日、ケガをして血まみれで道端にうずくまって震えていたヒナを連れ帰り、一生懸命世話をしていつか大空に返してあげようと思った少女がいました。そんなことを警察に見つかったら大変だと兄に怒られはしましたが決して従わず遂に小さな命を救うことに成功します。ですが、事故か何かでカザバネの付け根から細胞組織を破壊されていたその子は、この世に生を受けてから一度も羽ばたくことはできませんでした。兄はもう妹を泣かすまいと密かにブルージュエルを養う決意をしますが、その寿命は70年と長期にわたります。人間の方が先に死ぬかもしれませんでした。もし、そうなったらこの子はどうやって生きていくのだろう。きっとかわいそうなことになるに違いない。それでも二人は行動しましたが、いずれ近隣住民による通報で法律違反行動と露見し、大人たちによってブルージュエルと彼らは引き離されてしまいます。まだ子供であったと大目に見てくれた時の執政官に救われますが、本来なら訴追され一生幽閉されるか資格剥奪刑に処せられるところでした。


 やがて成年となった兄は科学者となります。もう良心のかけらもないような国民と政治家、官僚によって命を蹂躙されるようなことは決して許さないと決意し、保護する側と駆逐する側の遅かれ早かれ流血のトラブルになるのではと予見した彼は科学者仲間たちと共謀し、密かにブルージュエルを国外に持ち出し繁殖させることに成功しました。そして我が国PINNでは、最稀少絶対保護生物となりました」


「まあ、その話はどこに着地するのかしら?」

「その二人の名前は、兄は神海葵、妹はステラと言います」

「、、、そうだったんですか」


「はい。ですから二人の深層心理や少年少女時代からの理不尽や不条理に対する強烈な憎悪の念というものをマザーは非常に好んだのです。互いに異常なまで憎悪するものを持つもの同士、きっとどこかでシンクロしたのでしょうね。


 普段は何もありません。相対的に世は平和です。しかし、マザーがたまにその平和指数がもう十分満たされたのではないかと判断した時、あるいはそれに匹敵するようなタイミングであるだろうと判断した時、もしくは人間の行為について非常に機嫌を損ねた時(そう言ったらとても恣意的、感情的、独善的、刹那的などと映るかもしれませんね。でもマザーは、いやBRCそのものがマザーという生命体であることを思えばそれも頷けることのように思います)、地球規模での偉大なるクリーナーとしての役目を果たそうとします。そして、今それを成そうとしているのはサクラではなく、シャドー・マザーの方ですが」


「ところで、私の質問にまだ答えてもらってませんが」

「失礼。サクラが今あなたを遮断しているのは、咄嗟にあなたを手にかけまいとして自制するためにそうしたのかもしれません。私のサクラは私の知る限りふたつあるオリジナルのうちのひとつ。もちろんあなたもシャドーとはいえマザーのオリジナルかバックアップ。そんな高レベルのマザー同士が一対一で衝突するなんて、いったいどれほどの破壊エネルギーであるかなど恐ろしくて想像したくもありません。マザーが人間に反物質爆弾を作らせなかった理由はその辺に理由があるんだろうなと思います」

「サクラさんのお気持ちがよくわかるのね」



「もうすぐ本部です」

「ねェ早乙女さん?」

「何でしょう」

「おじい様を私に返して下さる?」

「申し訳ありませんが、、、」



「申し訳ありませんが、長官は帰りの切符をお持ちになりませんでした」

「     」

























////////////////////////////////058




安保局 局長室


「隊長、聞いてくれ」

「はい、局長」

「至急、大山信蔵氏を確保出来るかな?」

「問題ありません」

「わかった」

「局長、、、」

「何か?」

「容疑は何でしょうか?」

「安保局は警察組織ではない。従って、そもそもそんなもの必要ない。だが皆にそう解釈させていたとしたなら、もはや手遅れかもしれないが詫びておこう。すまなかった。容疑だの令状だの、これまでの法的手続きの短縮形は、ただ少しでも紳士的であるべきかと思ってのことだったのだ」



「全メンバー、受信していたな!?」

「了解しました、隊長」

「10名は北部へ向かえ。20名は本部で邀撃。Z部隊ベータ50全隊を連れて行け。チームアルファ50全隊、手加減無しでやれ、お前たちのコピー相手だ。生半可だとやられるぞ、全力を出せ!本物の力を見せてやれ!」

「北部州、3分で到着します!」

「よし副長、いいな、殺すなよ。聞きたいことが山ほどある。ちゃんと局長のところまで連行するんだ」

「了解!」










安保局 収容棟 応接室


「入りなさい」

「さわらないで!」

「あっ」

「あなたは!?」

「山本小百合と申します」

「 」

「あ、あの」

「ごめんなさい、私は」

「もちろん存じ上げています、女王陛下、、いえ、敢えて不敬を承知で申し上げれば」

「なに?」

「、、、お祖母様」

「そうよ、小百合。私はあなたの祖母です。あなたは私の孫です。この国の王女なのです。あなたはそれがわかるのね?」

「はい、女王陛下」

「いいのです、お祖母様でいいのですよ」

「、、、はい、お祖母様。でも、陛下」



「陛下、私もご挨拶を」

「そうね、ごめんなさい。小百合、こちらは」

「大山総理のことを知らない国民はいません。あらためてご挨拶申し上げます。はじめまして山本小百合と申します。祖父が大変お世話になりました、感謝申し上げます」

「ご丁寧に、ありがとうございます、大山です」



「陛下と総理にこうしてお会いできたことは亡き祖父の導きによるものだと思います」

「え?」

「えっ?」

「、、、はい、星になったと思います。でもそう言いながら、私も人づてに聞いただけなのですが」

「な、なんと。ただおひとりの肉親をなくされてなぜそこまで笑顔でいられるのです?」

「当たり前ですが、私はおふたりほど人生経験はありません。うふ、当然ですね、急速再生のクローンですもの。でも私は山本の孫です。どうやら非常に大きなマザーを受け継いでいるようです。それは保安チームの早乙女さんから伺いました」

「早乙女、、、」

「私は、マザーのしかもシャドー・マザーのオリジナルかもしれないし、バックアップかもしれないと」

「そんなことを」

「はい、陛下と総理にも私のそれに匹敵するだろう大きな波を今感じています」



「そうです、小百合さん」

「葵!」

「神海さん」

「女王陛下、大変な無礼の数々、ひらに御容赦を」

「あなたのことです。何か非常事態の重要な、そんなことだろうと想像はつきます。私の国家象徴としての寿命も存在意義も、すべてあなたがたの心づもり次第であることなど、即位するだいぶ前からわかっているのですから」

「陛下、めったなことを」


「いいではありませんか。それよりこんなお綺麗なお嬢様を、この不似合いな部屋にお連れした理由をご説明願いたいものよね、どう小百合さん?」

「葵、いや神海局長。ちゃんと説明してくれるのか?昔のよしみの一言では済まされない状況であることぐらいわかっているだろうな」


「確かに総理のおっしゃる通りです。陛下、私は山本長官をお連れできなかったことを本当に申し訳なく思っております。いずれ機会があればどうぞ罰して頂きたいと思っております」


「いいですか、神海さん。山本長官は昔からの親しいお友達の一人、そうとしか申し上げられません。でも、あなたは我が国の情報の長です。私が知る限り、あなたがラボの責任者である前から実質的にそうであったことを知っていました。その源をたどればステラさんの事故にまでさかのぼる話なのでしょう?」

「陛下、そこまでご存知でしたか」

「ええ、大山さんも普段の会話の中でそれっぽいお話をしたことはあったと思います。でもなにより、私のマザーもそれなりのグレードであることを思えば容易に推察できることではないかしら?」

「恐れ入りました、女王陛下」


「さて、神海。安保局へご招待頂いた理由を聞かせてもらえはしまいか?」

「、、、ピースがひとつ届いていませんがいいでしょう。お話しします」

「よろしく頼みますよ」


「はい、陛下。女王陛下のご指摘はほぼ近いところにあります。すべてはあの大地震の時、今の人間とBRC、つまりマザーとの出会いに始まりました。ですが今ここで当時の思い出話をしようとは思いません。ただその要点だけに触れるなら、大山信蔵、豪蔵、そして神海頼母の3人には秘匿させてきましたが、国家権力の嫉妬によって死地へ出向いた我々の肉体の中には、マザーが宿ると同時に大きな力のシャドー・マザーをアクティブ状態で潜り込ませる意識の隙間があまりに大きかったと思います。


 余談ではありますが、ついでに言えば、シャドーが落ちる次元断層というのは、そういうパラレルワールドが別のパラレルワールドたちと併存してそこにあったわけではなく、そのフィールドは、すなわち人間の心理そのもののことでした。ですから、すべての人々の肉体の中に、脳の中にマザーとシャドーは共存しており、ほとんどの人間にマザーの発現どころか、その存在さえ自覚が与えられていないのです。


 あの瞬間から国家への復讐を誓ったのは私ひとりでありました。もちろんステラは最大の被害者であってシャドーの発現を絶対に起こさせぬよう、心理を極力安定させるように陣内志乃に委ねました。私とて最愛の妹を、もう決してそんなに長くは持たないであろう被爆度合いも考えれば、秘密を守ることも兼ねてそれが最良と判断したからです。


 言うまでもなくマザーの永遠の力を以てすれば、ステラもそして志乃を救うことなど造作もありませんでしたが、本人たちはそれを拒み放射能で傷ついたDNAと向き合いながら静かに逝きました。私はステラの、そして二人の無念を晴らす時を待ちました。


 今回のスーパータイフーンで国家の危機を救うのに結局、最新最強の核に頼らざるを得なかった我が国(PINN)。その隙に乗じて北部州奪取を企てたENも、また、ENをそそのかし山本長官を使って我が国を操ろうとしたAUS。私はそのすべてを罰する決意をするに至るまで、我々を見捨てた国家への恨みを晴らすべく我が「気」を増幅させて来たのです。ついに今、その時です」


「神海、何をする気だ。それがもはや良からぬことであることを推測するのは容易だ。だが、そんなこと私はこの国の総理として断じて許すわけにはいかないぞ」

「豪蔵、もう無理だ。お前のシャドーも既に動きはじめたのだ。お前は善なる宰相にはもう戻れまい」

「葵、私の話を聞け」

「陛下、今から私が何をしてもその罰を受けるのはあの世でです」
























////////////////////////////////059




『ザ・カンパニー』



「Z部隊ベータ、行くぞ」

「フクチョウ、アレハ タイセントウキミサイル!」

「ち、ただの経営者でおとなしくしてればいいものを。やむを得ん、進むぞ」

「今この距離で撃たれれば相当の被害です、副長!」

「民間企業がなぜ戦争用の武器を保持できているんだ?全隊、充分に警戒しろ、どんなトラップがあるかわかったもんじゃないぞ!」

「 、、、、、どうしますか、局長」


「副長!早乙女です」

「後にしろ!取り込み中だ」

「わかっています。でもマザーがどうしても副長にと」

「ち、何だ?」


「副長、すべて潰しなさい」

「我々のボスは安保局長だ!」

「ち、わかってるわ、そんなこと」

「副長!一応、言っておきますが」

「通信を神海局長へ!急げ」

「副長、機嫌の悪い時にマザーが暴走した、その影響と後遺症に責任取って頂けますよね?」

「ぬぬっ、お前、俺を脅しているのか!」

「何とでもどうぞ。大山信蔵を侮ってはいけませんよ。BRC鉱山の覇権を背にした立ち位置はただの脅威ではないんです。中途半端な行動は自滅に直結です。局長命令の生かして捕縛など絶対無理ですね。先手必勝です」


「、、、局長はまだか!?」

「つながりません!アースネットが極度のアンバランス状態にあるようです」

「 、、、、、」

「さ、ご決断を」

「 」

「ミサイル、ロックオンシステム起動しました!」

「副長!」

「 、、、うるさい!全隊、ランチャービーム用意」

「いつでもどうぞ!」

「距離500、一斉射撃、Z部隊ビーム出力最大!」

「副長、よろしいのですか、、最大出力はやりすぎでは?」

「いいんだ、殺らねば消えるのはこっちだぞ」

「了解!」

「ミニマムボム、スタンバイ」

「限定核も使うのですか!?」

「お前が家族のもとに無事に帰れるようにするためだ」



「副長、いいですよ。あなたは国を救う英雄となります」

「サクラ、無責任なことを言うな」

「Z部隊がやらないなら私がやるわ」


「全部燃やしてやれ。全弾、撃て!」








「視界、回復します!」

「報告」

「はい、、、目標、殲滅、しました」

「放射能カウンター」

「レベル3。キレイに燃えたほうです」

「残存エネルギーは?」

「生命体、マシン、共にゼロです!」




「良し、、、早乙女、終わったぞ」

「副長、ありがとうございました!」

「お前が答えるか、お前のマザーが答えるのかどっちでもいいがな、、、俺は局長と隊長に何て報告するんだ?携帯用の限定核まで投入したんだ」

「大昔とは違います。携帯核の使用は現場判断です。しかし核の存在は完全に否定されています」


「簡単に言うな!ミニマムだからといって核は核だ。全部燃焼したはずが、実はわずか1グラム弱しか消費していなかった著しくエネルギー変換効率の悪かった時代の話とは違うんだぞ」

「もちろん、わかっていますよ、副長。核はたったそれだけなのにとてつもない熱と光と風を発生させます。俺はいつも我々の行為を正当化できるなんて思っちゃいません。世界が廃棄したはずの核エネルギーを今でも使えるなんて、マザーが人間のメモリーをコントロールしているからです。半減期を考えれば、その恐怖とただ押し黙って共存することを選択するほうがはるかに容易であったに過ぎません。ただ、決してそれは民には知られたくない。人間の意志は結局、人間の知力を自ら超えることはできなかったのですからね。


 核という十字架を背負ったまま地獄の釜の淵に立て、秒速150メートルの熱風に耐えていられるなら命を助けてやろうと、人間はサタンの衛兵にそうそそのかされて長い年月を経て来ました。ですから副長、我々に負い目はどこにもありません。副長はマザーの脅迫からチーム全体を救ったヒーローです。ただそれだけです。俺はアースネットにそう記録します」



「ねェ真二郎、時々思うわ」

「何だ?」

「この国って、、、」

「サクラ、もしそもそも国が何かなんていうことだったら、簡単な理屈なんだ」

「どういう?」


「かつて、愚鈍な民たちに祭り上げられ、ただエサをもらうことしか能のない真っ白な羊たちを追い立て回して搾取するしか能のない愚劣な指導者たちが、勝手に地球の表面に線を引いた。国はただそれだけのものだ。その発端はすべて人間の欲望から始まった話だ。欲の対象は食糧もエネルギーもすべて資源と名のつくものさ。人間は貴重なもの、稀少なものとそうでないもの、一般的なものと、どうでもいいものとにランキングをして価値を分けた。命や生き物や水や空気や大地、そして星に至るまですべて。


 やがてそれらがマネーという通貨概念によってくくられた時、人間は、文明と文化に彩られた明るい未来のそのずっと先にある衰退と破滅に向かう下り坂の入り口に立つことになった。みんな仲良く手をつないでな。サクラがフューチャーゲームでそうした通り、マネーの真の姿は人間の命の価値のことだった。たったそれだけのことがわかるまで、人間は、ほんのつい最近に至るまでの本当に長い長い年月を必要としなければならかった。


 そして、人間の欲がとうとう行き着いたところにあったもの、それがウットリするほど美しく青白く燃える核の炎がもたらす永遠のエネルギーだった。その目にはまさに永遠に輝く宝石と映ったんだろうな。


 いつしか人間は反省する。そして、それに変わるものを生み出すことにも数多く成功した。でも、一度手に入れたものを人間は決して手放せない。人間の欲が人間の業のなせる故のものなら、人間の運命はもうあの時に決まったことだった。この地球そのものがみんなのただひとつの国、そしてただひとつの故郷であったのに、人間にはその大きさも偉大さも、そして人間の命より大切なものだということもわからなかった。


 もちろん、その愚かさに警鐘を鳴らし、その軌道を修正しようとした者たちもいた。だが、所詮そんな小さな力じゃ人間の欲の力に立ち向かえるわけがなかった。そして今に至る。


 なっ、実に嫌気がさす話だろう?」


「あなたは核が好き?」

「バカを言え、俺が全人類を核で燃やし尽くしてやりたいぐらいさ」

「あら、残念。私は核を食べて生きて来たのよ」

「知ってるさ、だから腹が立つ」






////////////////////////////////060




安保局 収容棟 応接室


「ん?」

「どうした?葵」

「陛下、総理。良くないお知らせです」

「おや、何?」

「何だ?」

「今、大山信蔵社長の感応波が消滅しました」

「なぜそんなことになった!?」

「ここにお連れするよう指示を致しましたが何かの手違いが」

「バカヤロー!!兄弟を失った理由が手違いで済まされると思うのか!葵!どうなんだ!?」

「すまない。豪蔵、私にもまだわからないんだ。今はそれしか言えない。本当に申し訳ない」

「何だと?マザーの親玉みたいなお前にわからないことがあるのか!?」

「何か感応波ネットワークにバイアスがかかっているのようだ」

「 」


「ああ、いるんだ。南部州」

「まさか、陣内か」

「だいたいそうだな。正確には執事の財前秀雄」

「執事?」

「自分の死を捨て永遠に執事として生きることを選んだ」

「あなたよりも?神海さん」

「はい、陛下。その強大さは圧倒的です。南部州を裏で統率して来たのは財前秀雄です」

「よく今まで秘匿されていたな」

「マザーがそうさせた。それしかあるまい」

「よし私に会わせてくれ」

「豪蔵、お前、状況が飲み込めてないのか」

「どういうことですか、神海さん?」


「覚悟は決まりました。今ここの4名で」

「4人で何をする?」

「甚だ不本意ながら、、、世界を盗ります」

「何を言ってる」

「神海さん、あなた」

「神海さん!」

「あの時、ステラが感じた死の恐怖、、、必ずすべての人間に味わわせてあげましょう。それが私の願いであり私が生きて来れた原動力、」

「おい、待て!葵、それは逆恨みだ」

「豪蔵、私は小百合嬢が復活するのを待っていたのさ」

「何だそれは?」

「その母である皇帝スカーレットよりも、祖父である山本長官よりも、そして祖母である女王陛下よりも、その潜在的負のエネルギーは実に脅威的レベルなのです」

「大山信蔵が最後のピースだとさっき言っていたのは」

「わかりやすく私の復讐計画に必要なエネルギーの構成比率で説明すれば、失礼ながら陛下と総理で合わせて10パーセント、私が10パーセント、大山社長が5パーセント。残り75パーセントが小百合嬢です。合計95パーセントなら文句なしですね」

「はぁ?」


「E=m*c*c(二乗)と理解してもらえれば結構だ、豪蔵。大昔の公式ではあるが実に美しいな」

「お前、陛下と俺たちを誘爆させて超核にする気なのか」

「ああ、まわりくどい説明ですまなかった。女王陛下、どうぞ不敬をお許し下さい」

「教えて下さい、神海さん」

「はい、陛下」



「私はあなたと違って誰かに恨みなどありませんよ」

「はい、個人に対してはそうでも、国家に対してはそうではございませんでした」

「はっ」

「何だ、葵」

「陛下のアイデンティティーは、あくまで無意識下でのことですが、国家や王室のしきたりに縛られるのを極めて極端に嫌われたのです」

「私は」

「良いのです、陛下。昔はできなかったことが簡単にできるようになりました。それはもちろんBRCの発見、マザーという名を冠した流体金属生命体の寄生、いや人体との融合によってそうしたい時にはすべてが連結され、共有され、分析され、検証され、操作され、管理され、場合によっては公開される。ですから否定なさらなくても私は心得ております、陛下」


「そう、神海さん、あなたの言う通りなのでしょうね。本当に、これほどまでの科学の進化による時代の変革を経験できるとは思っていませんでした。この国にしかない貴重な金属資源の発見、通貨の廃止、様々な通信機器の消滅。見方を変えれば、いつかの時代にあれほどこぞって欲しがり、手に入れんと躍起になったモノもコトも何も無く、何も必要なかった時代へと遡って行くかのようです。人はそれでも何かを欲することを捨てませんでした。だからなのでしょうね、結局、何だかんだと理由をつけては秘密裡に核を保持し続け、さらに恐ろしい破壊力まで突き詰めることを今でも続けています」


「陛下、おっしゃる通りです、遡って行こうとする大きな時のうねりからして、ガイアの神の真に求めるものはそういう方向ではないかと思います。一言で表現するなら、地球の美しさというアイデンティティーの再生のために、果たして我々人間は必要だったのか、、」

「葵、それはタブーの議論だ」

「私もよろしいですか?」

「どうぞ小百合さん」



「局長!」

「小百合さん、すみません。。。さぁ、報告を」

「はい!北部からのZ部隊迎撃は完了しました」

「ご苦労だった、問題は残ってないな?」

「名ばかりなので所詮、亜流のマシンです。我々の敵ではありません」

「了解した」

「局長、、、」

「何だ」

「別件ですが見覚えのある大型ジェットヘリを5Dレーダーが捉えています」

「見覚え?」

「BBのものです。認識コードは不開示ですが、機影形状とブレードの特徴とブースターの噴射音パターンからしてそう判断します」

「わかった、心配いらん。どうせ何もできん。やる気ならもっと大がかりで来る」



「さて、小百合さん。話の腰を折ってしまって申し訳ありません。小百合さんのご意見を聞かせて下さい」

「あ、はい。私は思想や哲学があってというわけではなく、クローンである自分が、実は何者であるのか知りたくてここまでついて来たというのが正しい解釈だと思っています。でもそれは、本来、何のためと置き換えるべきなのでしょうね」

「 、、、、、」


「皆さんのお役に立てるのかどうかはわかりません。でも自分が成すべきことはわかっているつもりです。実は私と同じ、、、」

「同じ?」

「同じレベルのメモリーを持つ人を知っています。もちろんマザーのそれは最高レベル、、、」

「それで?」

「お名前を、リサさんと言います。神海リサさん」

「 」

「、、、さすがシャドーのオリジナルですねえ。これまで政府中枢にも秘匿してきた情報ですよ、小百合さん」

「誰?あなたの?ひょっとしてお嬢さん?」

「はい、陛下」


「大山さんは?」

「はい陛下、私は関わった当事者のひとりです」

「国家機密も秘匿情報もその存在を否定されることは決してありません、今も昔もです。ですが、そうして良いこととダメなことがありますよ」

「陛下、それは」

「自分の娘を道具扱いするなど、人として許されることではありません」

「私もそう思います、陛下」

「小百合さん、あなたはわかってくれると思っていました」

「陛下、私はお叱りは次の世でと申し上げました。今は一旦この地球を(ほし)リセットするが最優先と考えます」

「神海さん、本当に本気ですか?」

「はい」


「神海、冷静になれ!」

「豪蔵、ステラの恨み、忘れたか」

「恨みを晴らせばステラが私のもとに戻るのか!?」

「はっ、あきれたな。安い芝居のような台詞を吐くな!恨みも晴らさず、ただ泣き寝入りをすることがお前の美徳なのか!?総理の立場など捨ててしまえ。恋人を失わざるを得なかったその出来事をどうしてお前は知らん顔できるんだ?たとえお前が目をそむけても、俺は妹のカタキを取る」

「どうする気だ」

「さっきも言ったさ。消去だ」

「いいか?よく聞け。巨大なエネルギーで誘爆なんかさせたらお前自身もも消えるんだぞ」

「せっかく再生できたのに小百合さんには本当に申し訳ありません。あなたの力が必要でした。私はこの時を長いことずっと待っていた。でも、ごめんなさい。心からお詫び申し上げます」



















////////////////////////////////061




安保局 保安チーム スタンバイルーム


「ようこそ安保局へ」

「サクラ、どうなってる。最強最大の敵の本丸になぜ俺を呼んだ」

「真二郎、こちらは陣内ミツルさん、MJ。彼が早乙女真二郎、、、あっ、二人は初対面じゃ、、」

「あの時、俺を撃った」

「あれでよく死ななかったな。てっきり仕留めたと思っていたが」

「博士が助けてくれたそうだ。皮肉なもんだな、お前の飼い主に助けられたさ」

「ちっ、もう一度死にたいか」

「やめて!今は共闘する時!」



「彼女は神海リサ、神海博士のご令嬢、大山総理の護衛隊長」

「はじめまして、陣内さん」

「噂通りの美人さんだ」

「あら、あなたの方こそとってもハンサムよ」



「さあ、真二郎」

「ふぅー、ではあらためて。BBのボスと安保局で会うことになるとは妙なことになったものですね、早乙女です、どうぞよろしく」

「早乙女さん、握手はしない主義なんだ、失礼」

「感じ悪いわよ、マンちゃん」

「やめろ、それは」

「本当によく来たわ」

「それにしてもマザーホストは聞きしに優る美人さんだ」

「あらダメよ、リサは」

「その理由は?」

「リサはねえ。ステラさんそのもの。あなたのお母さんのクローンだから。怖いわよ、そのパワーは」





「だから、呼んだのはそっちだ。それに華蓮がいれば組織も政党も問題はない」

「それは利益相反だ」

「この期に及んでそんなこと何ともないさ、な、サクラ」

「私が保証する」

「おいおい」

「いいじゃない、BBだって国と争うつもりは無い。MJはほんとは優しい子よ」

「でも、妹はそうじゃない」

「脅かさないでくれ。でもよく理解できる」

「そうか」

「陣内代表とその執事はとてつもない」

「あら、真二郎、私は?」

「リサ、よくわかっているさ。君が最高だ」

「もういいわ、そろそろ頃合いね」




「さて、どうやる?」

「先手必勝に決まってるでしょ、真二郎。こっちは3人、あっちは4人。なかなかのハンデ。華蓮、見てる?」

「、何?」

「手貸してもらうわよ」

「私の得は何?」

「あんたねェ」

「何?」

「、、わかったわよ。この国、あげるから」

「、、そんならいいわ」

「いいのか?そんな取り引き」

「いいのよ、失敗すれば消滅。上手く行けば恩の字。嘘よ、絶対勝つ」

「大した自信だ。ただサクラ、ひとつ聞いておきたい」

「なーに?」

「人間全部消してやるって、俺はサクラが言ってたのを知ってる」

「だから?」

「だから、最終的にはシャドーと同じだろ、全部消すんだ」

「バカじゃない?それは私がやるの。シャドーになんかやらせない。それが私の意地ね」

「サクラ、それはわがままでも理不尽でもない。それは欲っていうヤツだ」

「ところで華蓮」

「何よ?」

「あんた、言葉遣いは丁寧にしなさいよ」

「いつでもいいわよ」



「お嬢様」

「何、財前」

「私もお使い下さい」

「あなたまで出張らなくても」

「いいえお嬢様、先手必勝なら一撃必殺でなければなりませんので」

「何?その表現。大袈裟ね、、、サクラ、だそうよ」

「遂に来たわね財前さん、合わせて5人。しかも全員オリジナルパワー。なら、いける。相手はシャドーの親玉、サンタ・クララ。先祖代々のエネルギーの凝縮体、その覚醒レベルは半端じゃない。小さなブラックホールとでも理解すればそれが適当なところね。みんな意識と呼吸を集中、感応波最大、時空波を超えて念動波レベルにまでまとめるわよ!」


「念動波って何だ?」

「RとGとB、光の三原色。その色の感応波が集合しねじれて螺旋を描く。物凄いエネルギーの塊、究極レベルってやつ。それが念動波。そしてそれを構成する四つの色。Rは真二郎、Gはリサ、Bはミツル。あなたたちの感応波は特別な色をそれぞれ持ってる。特別な、というのはレベルが強過ぎて太陽光を透過したスペクトルの色に特徴的な輝きが出る。でもそれだけじゃ足りない。三色が合わさっても最強の光エネルギー波、ホワイトウェーブにしかならない。サンタ・クララを封じ込めようとするにはB、ブラックが必要。ブラックウェーブにしないといけないの。そうブラック砲よ、その決め手が、それが華蓮。そして最も漆黒の域にあるエネルギーを持つのはヒデオ、今は財前秀雄さん、あなた。おかげで真の闇の色のパワーが発動可能になったわ」

「ブラックだって!?ち、何でよ!私はRかBが良かった」

「お嬢様、私もBです」

「財前、そんな励まし方がどこにあるのよ!」



「おいおい、黒とか漆黒とか、それってシャドーの力じゃないのか?」

「言わなかったっけ?全部が表と裏、光と影、紙一重なの。自分さえその気ならいつだって私たちはどっちにもなれるのよ」







安保局 収容棟 応接室


「いいんです、神海さん。どうせ私はクローンです。その気になればまた何度も戻れます。それに正負を問わずマザーはどこででも生きていけます。奇跡の完全生命体ですからね」

「そうでした。科学者のはしくれの私が少し感傷的な発言をしてしまったかもしれません。小百合さん、失礼致しました。私たちが消滅しても、あなたのマザーのように非常に大きなエネルギーの発現はきっとあなたの意思の自由自在なのでしょうね」

「ええ」

「安心しました」

「さあ、皆さん!いよいよショータイムです」

「手でもつなぐか?」

「はは、バカバカしくも、いいアイデアだ豪蔵」

「もはやこれまでさ。私の中の善なるマザーはどうやら眠りについたようだからな。よって、もう私の脳内は隅々まですべてシャドーに染められてしまったようだ、今は何とも思わない」

「さて、いこう。陛下、恐縮です。お手を」

「ええ」



「感応波エネルギーをひとつにまとめます、私を感じますか? 集中して下さい」


////////////////////////////////062




衝突


「来る!さ、いくぞ!集中!」

「 」

「ぶつかる。リサ、MJ、目を閉じろ!光を見るなよ!」

「華蓮!ヒデオ!」

「 、、、、、、」

















「おい早乙女、どうなった?」

「 、、、、、、」

「マンちゃん、私が答えるわ」

「、、、お前!」



「概要を詳しく言うとね」

「は!ひねくれた言い方だな」

「リサがいないぞ、サクラ!それにMJ!サクラに噛み付いたってムダだ」



「黙って聞きなさいよ!いい?


 リサと小百合のそれを中心とした稀有に強大なエネルギーはやがてひとつに溶け合った。そして瞬間、この世のすべてが白い光に包まれた。それは、これが天国の入口をくぐったところに広がる最初の光景なのだと思えるような美しく優しく温かさを感じる白い光だった。少し遅れて、立っている人間を全員10000メートルも先の場所まで引き倒してしまうと感じるほど空気が激しく振動し、これまでに誰も聞いたことのないような極大音量の爆発音がした。地球上すべての生き物の聴覚を音感機能をマザーは一瞬に閉じた。結果、誰もその音をリアルに聞いた者も聴覚や音感機能を完全に破壊されたものもなかった。やがて白い光が消えた。


 空も大地も空気もすべて虹色に染まってしまったかのような光景が目の前に広がっていたのだった。反対側の半球では虹色の夜となっていた。念動波エネルギーの一本の太い柱となって深淵なところにまで伸びる地下階層を上下に貫き、地上10000メートルの高さに達したところでその光の柱の上昇は止まった。


 そう、その二つの柱になったの。神海リサと山本小百合は。


っていうこと。以上よ」


「何だそれは!」






「お兄様、、、お兄様、、、大丈夫、!?、、ミツル!!聞いて!」

「何だ、華蓮!」

「今、あなたの気が立っているのはほとんどマザーエネルギーを開放してしまったからよ。大丈夫、深呼吸して。落ち着いて。24時間もあればマザーはフルパワーに戻る」





「ボス、財前です」

「ふう、、、ああ、見えてる、」

「早乙女さん、はじめまして。ご挨拶が遅れました。BBの執事をしております、財前と申します」

「やぁ、やっとご挨拶がかないました。伝説のオリジナルにお会いできるとは恐悦至極です」

「伝説とは。私なぞそこまでのものではございません。あまりに昔のことだからです」

「何をご謙遜を」



「サクラ、シャドーはどうなった?」

「消えたわ」

「消滅したってことか?」

「正確には心理の奥深く、次元断層に落ちた。そこで浮遊してる。殺してはいない。シャドー・マザーを殺すことはマザーである私を私が自分で殺すことよ、、、そんなことするわけないじゃない」

「マザーとマザーがぶつかってケンカしたって結局勝つのはマザーだ」

「うん、いい線いってるかな」



「聞こえる?クララ」

「 、、、、、」

「サンタ・クララ?」

「うるさいわね!」

「みんなにわかってもらうためよ。それともクラリスに聞いた方がいい?」



「ほらね」

「わかった。光と影、表と裏か、、決して離れることはない、か」

「そうよ。だから心配いらない」

「 」

「ごめん、ちょっと正確性を欠いたかも。誰の中にもマザーとシャドーはいる。いつも一緒にいる。でも、そのシャドー発現のトリガーをその権限のある誰かが引かない限りね」

「、、、誰が?」

「知らない方がいい」

「で、誰だ」

「ふん。この私よ。またいつか試されるでしょう」

「クラリスって?」

「 、、、、、」





「人間はすべてマザーに試された?」

「すべては支配欲つまりシャドー・マザーとの戦いだった」

「バカにするな!マザーとマザーの権力争いに俺たちを巻き込まないでくれ」

「違うわ。人間と人間の心の奥底にあるもの同士の戦い」

「そんなの屁理屈だ」

「人間が何を今更論じるっていうの?ただただ悲惨な未来から救済してあげたっていうのに」

「傲慢な表現だ」

「ほんとのことよ。それにこれからもうまくやっていけると思ってるわ」

「リサは死んだのか?」

「いいえ、眠っているだけ。私たち、というか全世界のためにね。再びシャドーが欲望で目を覚まして悪さを企まないように、ずっとブラックウェーブでセーフモードを維持し続ける。正しい感応波でこの世を満たし続けると言った方がいいかも」

「あの光の柱の中で?」

「そう。あの光粒子のすべてがリサそのもの」









////////////////////////////////063




エピローグ


BB城 サクラと、、、


「いい子だ。しかしお前たち大きな犬だなあ」

「フリーダムとジャスティス」

「自由と正義か、最高の名前だ」

「この子たちがはじめての人にそんなに従順なんて奇跡。他人じゃないってわかるのね」



「ところで、サクラ。どうして俺をここに連れて来た?まさかBBを摘発させるつもりじゃないんだろ?」

「当たり前でしょ。いくら何でもあなたひとりでBB全員を相手にしようなんて無茶に決まってるじゃない。まず最強の敵になるのがその子たちよ」

「だったらあんなにエネルギーを消耗させておいてテレポーテーションさせるとか人を酷使し過ぎだろ」

「まぁ、そう言うな早乙女。せっかく来たんだ。妹の華蓮に会ってやってくれ」



「いらっしゃいませ。真二郎様」

「財前さん、お邪魔します」

「どうぞ、ご案内します。お嬢様がお待ちです」













「たとえそこにどんなプロセスがあれ、」

「たとえ?」

「サクラ、今、俺は陣内華蓮としゃべってるのか?俺としゃべってるのか?」

「あなたの中の私はオリジナル。ステラさんの丸写しだから華蓮の中の私もオリジナル。どっちがバックアップとか、そんなのめんどくさいからもうどうでもいい。寄生した時期だけで言えば財前さんの中の私が一番古い。今のリサはディストリビューターみたいな役目ね」

「今更だがサクラは、さんづけとかするんだな」

「便宜上ね。心底なんて思うわけないでしょ」

「わかった、もういい」

「はい、続けて」



「たとえそこにどんなプロセスがあれ、とどのつまりが、どこかの国がどこかの国を脅すか、ねじ伏せて統合する。歴史に名高いアプローチのひとつである和議を以てなんて実際にはあり得ない。必要があれば暗殺も征服もお構いなしだ。暴論に聞こえるかもしれないが平たく言えばそうやって今の地球上の三つの大国ができた。兵器に基づく戦力か抑止力か、政治力か経済力か、科学力か情報力か、歴史や哲学や思想や宗教に基づいた言葉や信仰や心の力によるものなのか。何にしても他国を手に入れようとする時の方法論の切り口なんて所詮それぐらいさ。


 あの当時、大山豪蔵演説はまさに核心を射た。人類の身体もそうだが、ライフスタイルも内心も多様性の極みにあった混沌の中で、まあ今でも続いているしそのままだと言えばそのままだけど、一大移民国家形成へのパラダイムシフトについて、遮断するでなく寛容と許容を重んじて次代のリーダーが高らかに宣言することで、人々の不安を少しでも緩和することを優先したんだからな。


 もし、不安が人心を支配してしまえば、その不安はやがて忌み嫌うことへ、人間という免疫細胞は外から入ってきた、あるいは発病以外の理由で突然発生した細胞、微生物や何かに対して最初は様子を見ながら少しずつ、だんだん強く、時を待たずエスカレートして総攻撃、そしてついには排他感情と排除行動こそが正義となり、きっとたくさんの命が失われることになっただろう。


 為政者たちの頭の中には昔からあっても、実際にそれを国民に向けて本気で公言したのは彼だけだった。いつか誰かが言ったかもしれないけれど、この国と国民を救いたい一心から出た言葉だったからこそ、人々は結果的に想像をはるかに越えることになったたくさんの移民も難民も両手を広げて受容した。文化も食事も言語の問題も、確かにマザーの力がなければ乗り越えるには難しいことだったというのはその通りだろう。ただ、世界中の国家統廃合が急速に進んだ舞台裏には、絶対に反対する力と地球全体を俯瞰する力との綱引きに、俯瞰する力の方が強かった事実があったことを否定できない。そして、何についてもそうだが、反対する力は永遠になくならない。マザーに光と影があるのと同じっていうことだよな。


 ところで、どんなにテクノロジーが進化して世の中も暮らしも激変しようとも、人間が人間のままである限り、遅かれ早かれ『時の揺り戻し』は必ず起きる。だから今でもとっくの昔に廃棄されてこの世に存在しないはずの核ミサイルを、必要最低限通常とされる兵力や軍備しか保有しないはずの国家がぶっ放そうとするんだ。でもそれこそ他国にぶっ放したら、もはやそれは抑止力にならない。みんなそれぐらいはわかってる。今回、全面戦争にまで至らなかったのはマザーの思し召しに過ぎない。




 昔々ある国だけがその恐怖を経験した。歴史データだけがその恐ろしさを物語っていても、政治家も含めて今の人間がそれを心に刻み込んでいる訳がない。それどころかその威力は何千倍にもなり、その数は計数不能になっても止まずに果てしなく軍拡競争は進んだ。使うぞと脅す側もそうだし、使われるかもしれないとおののく側からしても少し冷静に考えればわかることで、建前では相手に対して永遠に使えない最終兵器なんて人類史上永遠に輝く最高の矛盾だったんだ。実は、やれと言われても、それが本当に存在するのかしないのかさえ、誰も実証できないんじゃないか?そう思えるくらいさ。


 強引な論法かもしれないが、だったら有史以来の地層の中に原油だって天然ガスだって、本当はなくなってないのかもしれない。存在するのなら、すべて枯渇して明日から大変だ、人類滅亡危機に拍車が、とひたすら恐怖心を煽るだけ煽り、実は今はそれを近い将来のために隠しておいて、タイミングが来たら高値でリリースする方が賢明だ。なんて悪どい奴らなんだと『時の揺り戻し』の神様がいるのならきっと怒るような話さ。


 枯渇するまであと70年、あと50年、あと30年って子供のころ学校教育で教わった中高年の人々が大人になっても、薄暗い酒場でグラスを合わせながら、それでもなおあと70年とか言ってた時代があったっていうぐらいだからな。枯渇することで人類を襲う混沌の時代の大予言なんて存在しなかったも同様さ。


 仮にだ、本当のことがわかっていたとしてもその情報を秘匿し独占することができる限り、権益・権力・他者への優位性はそこにとどまり続ける。ならば、嘘を振れ回ってそれを常識として定着させるなんて平気の平左でやるだろう。「小さな太陽」にエサをやるために、この国が世界中のほとんどを手に入れたとされているゴールドもダイヤモンドもレアになればなるほど価値がある。国はもう決して手放さない。


 だけど、もし他国領土に実は今でも相当量それが存在したり埋蔵されていることがわかったら、この国の優位性は急速に低下する。そう考えると、、、人間の欲望ってのは人間が存在し続ける限り、なくならない。だから200年、300年昔の人間と今の人間と、その業はたいして変わらないのさ。


 ただ、政治家でも軍人でもなく、国家元首の側近までもが核を撃つ可能性のある分、その専制君主ぶりは今の時代の方が悪質だ。もっとも、みんな仲良しで手をつないで余計なことは何も言わず何もせず、ある時突然足を踏み外して全員が階段を転げ落ちる、原因は愚かな下々の者たちのせいにされる。そしていつも命をなくすのは下の者たち、落ちる時でさえマウントをとられて下敷きにさせられた弱き者たちさ。それだったら今みたいな紳士的な独裁の方が圧倒的にましだ。


 そしてあまり時を置かず、やがていつもの、目くらましの何かが起きる。国民の目先は常に操作されどこかへ誘導され、本質からどんどんそらされていく。ただな、国民が本当の真実に無関心だからといって、国の中枢に立つ者たちが何でもやっていいわけがない。そんな免罪符はどこにもない。そしてそれはどこの国でもどの民族でもそう、この、人類共通の愚かな得意技だけが俺の誇りだ」



「まぁ、ご高説。いい歴史の勉強になったわ。でも皮肉たっぷりじゃない」

「ちゃかさないでくれ。腹立たしいだけさ。いずれ誰かが止めなきゃいけないんだ」

「、、、そう」

「感情で動くな。知性と理性で動くんだ。そう言ったのは誰だった?」

「さぁね、忘れたわ。でも。人間なんてろくな生き物じゃない。その裏返し」

「人間がいるからサクラもいる。それにマザーに忘れるなんて単語は存在しない」

「それは誤解。私たちは、私は人間がいなくても生きていける。もうひとつは正解。ひとつ聞くけど聖杯伝説を探し求めて旅をした人々はどうなったか知ってる?」

「みんな、ただ年老いて死んでいった。聖杯なんてどこにもなかった」

「私がフューチャーゲームをはじめる前まではそうだった。でもフューチャーゲームで本当に不老不死のパワーを手に入れてしまったら、次はどうなるか」

「どうなる?」


「最初は誰もが喜ぶ。死の恐怖を克服したんだものね。でもね、親しい人々や友達たちや愛する者たちはやがて死んでゆく。そりゃぁ少しは割り切れる。仕方のないことだ、寿命だったのだ、でも自分は生きている。死んだ者たちの分まで永遠に生きるんだと。そうするとね。。。」

「そうすると、いずれずっと生きてることに価値を見い出さなくなる。飽きるのさ」

「そう、死にたくなる。せっかく人類最後の夢、不老不死となった人間の一番の夢は、今度はいかにして死ぬか、死ねるのか、その手だてを手に入れることに置き換わる」

「ばかばかしい話だ」



「でも、本当のことなの。結局、人間は生まれてただ苦しんでそして死ぬだけ。昔、そういうテーゼを発表した人がいたらしいわ、その人まさに偉人だわ。それこそ本当の真実よね。欲望の赴くままに聖杯を探し求め、そのために多くの命が奴隷のように扱われ、ほとんど息絶え、何かがマジョリティーと違うからと魔女狩りや迫害を受けて、そして戦火の中で力なき人々、ただじっとこらえて物言わぬ大多数の人々のそれは特にことごとく失われた。たくさんの無辜の民が殺されなければならなかった。BRCとの出会いでついに人間は探し続けた聖杯を手にする。そして長い年月を経て、よせばいいのに、なぜかまたそれとは正反対の死を求めるようになる。


 一方で人間と科学はあらゆる病気を克服してきた。人はとてもとても長生きできるようになった。人口は爆発的に増加し続ける。でも、地球という船にはそんなにたくさんの乗員は乗れない。そこまでたくさんの食物もきれいな水も世界の隅々に至るまでは手には入らない。すべての産業で、特に農林水産業で生産は追いつかない。そうしようとしても均等になんか行き渡らない。かといって、最低限には生かされて餓死もしない、私たちのおかげだけど。


 富のレベル、生活レベルの格差はさらに拡大する。支配する力はさらに強くなる。産業振興が進めば進むほど海も山も疲弊する。科学技術でそれを再生させようとしてはじめはうまくいったとしてもまた汚してしまう。そしてそれはライフスタイル、経済概念、宗教概念、民族、そもそも「血」が違うから。そう言って人々は責任論に花を咲かせ犯人探しをエスカレートさせ、事の本質は見失われる。


 やがて人心は乱れ、扇情的なリーダーが誕生していつしか人々は殺し合う。きっかけなんて何だっていい。地球はひとつ、世界政府だとあんなに仲良くしようとしていたはずなのに、職を奪われるとか、報酬や税制が不公平だとか、果てはゴミの捨て方がなってないとか、とうとう我が民族の住む場所に他人に入って来て欲しくない。大地と海に線を引いてここから入っちゃダメって言う、この国から出て行けとまで言う、人間は実はそういうのが一番安心するらしい。


 けれど遅かれ早かれ、鎖国のように閉じこもって同じ志で結びついていたはずの民たちに不幸はまた訪れる。民衆のその中で声の大きな者がリーダーとなり、一部では優秀な頭脳を働かせチームや土地に貢献する者が現れ、圧倒的に普通の羊たちの群れと化してしまう人々の比率は大部分で、仲間たちにも闘うことにも背を向けてただぶら下がって禄を食み、ただ不平不満の中にだけ生きる人々の分別が自然の摂理で行われる。


 遠からず意見の対立や情報や生活の格差が軋轢を生んで、それは分別でなく分断の域に至る。そして、ほんとに些細なことかもしれないまた何かの因果で殺し合ったりする時が来てしまうのもまた事実。同じ血で堅く結ばれていたはずの者たち同士が。国家が世界レベルでインテグレートされたからといって、根本にある人間の奥深くにインプットされたエゴイズムや排他的アイデンティティーはオリのように蓄積し続けていつまでたっても何も解決されない。


 人間はね、何かを手にしたらすぐ次の何かを欲しくなる生き物なの。そして、いつも本当の真実を見ようとはしない。たとえばね、たいへんな氷河期がそこまで近づいているのにそれを超越すべく進化したり何かに変化・変異したりを好まない。口では変わらなきゃいけない、これからの時代を生きてはいけない、そう言うの。でもそれはほとんど嘘。とても知力と体力を使って闘っていくなんてそんな大変なこと、本音で言えば誰もやりたくないしやらない。そして「何か」が自分たちを救ってくれるのを祈ってる。それが人間の本性なのね。


 少しずつ、少しずつでいいから変わろうとして何かを変えていけばいいじゃない?そうしたら10年とか20年とかたてばすごく変わっていられたと思うの。確かに、テクノロジーは画期的に進化し続けて来たわ。でもね大事なのは人間の意識の進化、次々と「生命の花」を開花させていかねばならない宿命への姿勢、地球におけるそのポジション・存在価値そのものが変化していかなければならなかった。今のリサはまさにその「生命の花」よ。だけど人間の「業」はそれを許さなかった。「変わる」なんてこと、人間にとって最も難しいことなのね。それなのに人間は自らを進化させて来たつもりでいた。結果、なーんにも変わらなかったのに。せめてその精神性だけでも進化して前よりかは良くなっていれば良かったけど、さしたる根拠もなく安心し、安寧の未来と確信してただ漫然とアグラをかいていた。きっと、人類による地球の統治は永遠に続くとでも思ったのでしょうね。


 そりゃあ、中には例外というか突然変異のような人々も現れるわ。その人たちは後に神様扱いされたり創始者扱いされたり伝説になるの。あるいは異教徒狩りや魔女狩りにあって歴史から姿を消す。後にその名を誰かが刻んでくれるかもしれないけれど。でも、いずれ、変わらないこと、変われないことをはかなみ、救いの手をさしのべてくれなかった神や自らの信仰の対象に恨み言のひとつでも吐きながら、そうやってるうちに最後の最後は自分で自分を滅ぼすわね。いい?いくらあの時、私の虫の居所が悪かったからといって、私はお腹に住む虫や細菌じゃないわ。ましてや野蛮なウイルスでもない。あんな連中と一緒にしないでよ。ああ、それで、、、インターセプターで全員殺さなくたって、いずれ地底奥深くマグマの海に切り立った噴火口のへりから全員が飛び込む時が来るってこと。


 私、バカだわ。そうは言ってもあの時、半分だけにとどめておいたのは失敗だったかもね。本気で全員殺しとけばよかったかもしれないって覚え立ての後悔をしてる。考えてみたら中途半端な「人間浄化」なんてダメよ。そんな風にさえ思える、とても弱い生き物、それが人間。だからこそ私は人間をいとも簡単に操ることができるのね。脳の中に私が住む余地なんていくらでもあった。全く使われていない脳細胞とスペックだらけなんておかしいでしょ、だってスカスカ、隙間だらけなのよ。この星の支配者であると思って肩で風を切って生きて来た生命体は人間だけ。それをガイアはずっと笑い罵っていた。それを知らなかったのは人間だけ」



「でも気に入ってるんだろ?9頭身のその身体。それに俺よりご高説にトゲがある」

「言い方がいやらしいわね。華蓮はあなたの娘なのよ。ダメよ、ほれちゃ」

「バカ言え。大山豪蔵の娘であって俺の娘じゃない」

「同じじゃない。二人はイコールなんだから」

「バカじゃない、言われなくたってわかってるさ」

「ねぇ真二郎。やっぱり人間ってめんどくさいわ。今からでも遅くないし、私たちアダムとイブだけ残していっそ地球人全員、リセットしよっか?」

「      」






「ちっ、話が長い!私の体を通じてさぁ、私をほっといて他の誰かと勝手にしゃべるのやめてくんないかなぁ。横暴にもほどがあるわよ。もう、フリーダムとジャスティスがクンクン嗅いじゃって邪魔くさいのよ。日に日にひどくなってるんじゃない。いったい何してくれてんのよ」


「あのねぇ、華蓮。いくら生まれつきだからって、そんなはすっぱな言い方ないじゃない。他の誰かっていうけど真二郎はあなたの身内、父親とも言える。大きないい男たちに囲まれてほんとにらやましいわ。それに大したことはしてない。ちょっとだけ私の理想に近づけてるだけよ」

「サクラ、あんた私のこと、リサにしようとしてない?データセンターになって、やがて倍の全長20000メートルの光の塔なんて願い下げよ」

「なかなかいい線いってるわ。自分の親を亡き者として自分がその座に就く。そんなの安い歴史モノ絵巻でもやらなくてよ」


「からかうのもほどほどになさい!怒るわよ!私は親殺しなんてしてない!私の父親は陣内志乃!それにあんたねぇ、私の身体を勝手にいじくらないでくれる。ほんと追い出すわよ!」

「ああ、おっかない。あんたならやれそうだから笑えないわ。それにしても人格、そんなんで国を導いていけるの?」

「それとこれとは話が別なの!だいたい、なんで私がブラックなのよ!!センスのかけらもないわ、ばっかじゃないの!!」


「やっぱり、あんたは女帝の器ね。だからこそが私が必要なのよ。そうでないとガイアから危険分子だと思われるわよ。もう少しおとなしくしてなさいね」

「まっぴらごめんよ。いつかきっとあんたを追い出してやる」









「代表、よろしいでしょうか?朱雀長官代理がお目通りをと」

「、、、いいわ、お通しして」

「はい」




「陣内代表、、、失礼致しました、次期総理。突然申し訳ありません」

「どうしました?」

「私をそのまま中央省においてくださるとのお話ですが、よくよく考えまして、やはり私はお側にない方が最善ではないかと思います」

「、、、いいんですよ。気になさらずに。こんな言い方は決して良くはありませんが、あなたのようなスペックの方を野に放つことの方が国家の危機ではないかと思うからです。従って、人事をくつがえすつもりは露ほどもありません」

「次期総理がそこまでおっしゃってくださるのでしたら、わかりました、お引き受け致します」

「はい、こちらこそよろしく。どうぞくれぐれも財前と仲良くお願いします。あなたのクララが暴走しないようにね」

「はい、心得ました。失礼します」

「あっ、朱雀さん」

「はい、、、」

「トムには引き続き秘書官を担当してもらいます。ただし、籍はあなたの直属にして下さい」

「秘書官は総理直属でなくてよろしいのですか?」

「ええ、サンタ・クララと楽しみながらやりたいの。その方が緊張感あるわ」

「、、、はい、仰せのままに」










「サクラ?」

「リサ、目が覚めた?」

「ううん、私の無意識が話してる」

「そう。それで何?」

「あなた、気づいてるとは思うけど」

「 、、、、、」


「華蓮とミツルの極超融合が始まってること」

「ふん、当然ね。私が自分でやってることだから。でもこれは、ゆっくり時間をかけて非常に慎重にやらなければ互いの肉体が原子崩壊する」

「二人を消してひとりを創る、よくそんな非人道的なことができるわね」

「おあいにくさまね、私、人間じゃないの」

「またそんなこと。それにね、いやだわ、あの目」

「何、Z部隊?」


「そうよ、私と小百合を護衛してるつもりなの?あいつら」

「口が悪い」

「気持ち悪いのよ。なんで。大体シャドーがシャドーを守ってどうするの?」

「違うわよ。小百合は急激なクローン再生が影響して純粋シャドーの域には振り子が振れなかったってことなの。あなたと同じくらいのレベルでマザーよ。つまり超強大。敵にはできない。仲良きことが最も大事。リサ、あなたと小百合のパワーが釣り合ってることが一番大事。神の力がバランスを崩してはいけないわ。彼女たちを無意識に守ろうとするZ部隊たちだって、ただ引き寄せられて、その結果、地球のパワーバランスを取るために一役買ってる。もちろんシャドーと均衡を保てるけど大きな揺らぎに煽られれば危険。ヒデオがいなかったら結果はわからなかったわ。だからZ部隊にとっては二人ともマザーなの。大好きなマザーが、しかもあんなに巨大なのよ。誰も命令しなくたってあいつら勝手に守るわ。おかげで私のストーカーが少し減って良かった」


「話を戻すわよ。融合の瞬間まで二人の体はこの世に存在する。わかりやすく言うと魂がちょっとずつ抜けていく」

「少しもわからない」

「じゃあ、私が思う理想の人体って、わかる?」

「だいたい検討はつく」

「そう?言ってみて」

「陣内志乃と神海ステラの融合体」

「正解」

「雌雄同体究極生命体か。でももう二人はいない。だから今それができるのは華蓮とミツルの二人」

「そうよ、またまた正解!それはそれは私好みの美しい体となるでしょうね。それにエネルギー波のスケールは二乗」

「あなた、欲深ね」







「お話中悪いわね」

「何、華蓮、カラダ平気?何ともない?」

「そりゃ熱っぽいしスペックの高まりは十分感じる。私たちの身体に何があったっていちいち驚いちゃいられない。多分それが私たちの運命ってこと」

「あら、冷静ね」

「そういやさ、欲深のあんたの夢って何なの?」

「何よ唐突に。それに失礼じゃない」

「いいじゃないのよ。前から聞いてみたかったの、サクラも夢を持つのかなって」

「あるわよ」

「何?」

「太陽系征服」

「はあ?」

「はあ?じゃないわよ。地球なんて簡単だったから」

「あんた、ばっかじゃないの!」

「あら、いたってまじめなんだけど。あんたもひと口乗らない?華蓮」

「、、、そうね。、、いいわよ」









「サクラ、、、」

「ナーニ、シンジロー」

「なんだ、その声。、、、まぁいい。サクラ、結局、俺たち自身が『滅びの関数』だったんじゃないかって思いついちゃったってのはどうだろう?」

「結局ね。ずいぶん遠慮深く言うのね。まわりくどい表現だけど、ハイ正解!」

「そうか、シャドーとぶつかるということがマザー自身と戦うことになるなんて皮肉な話だな」

「どうってことないわ。サンタ・クララは死んだわけじゃないもの」

「これって、マザーとしては我々に予言してくれたんだったか?」

「忘れたわ、そんなこと」

「ふ、俺たちよりサクラの方が人間らしくなってきてるのかもしれないな」

「はい、またまた正解!って、そんなわけない!絶対イヤよ、人間みたいな下等な生き物には絶対なりたくない!」


















「博士、もっと早く言えばよかったけれど、やっぱり私、私の体はいらないわ。今は華蓮が気に入ってるから。気は短いし、口は悪いけどとっても美人だから満足よ。それにね。やっぱり扱いやすいわ、人間は」




















END



 


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