第41話〜第50話(全111話) 血脈編
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フューチャーゲーム 血脈編
読者の皆様へ
この物語は会話だけで構成されています。場面の色合いや温度感と情景の描写は、百人百様できっと皆様の心の中にだけ浮かぶことでしょう。なお、物語中に何カ所か空白の「 」があります。そこには是非おひとりおひとりがお好きな言葉を入れて物語をお楽しみ下さい。空想と幻想と厭世と現世の狭間で、何処へも行き場なくそこに留まり、ただ揺れ惑う私の言霊たちを見守ってくださるのでしたら幸いです。
ひとつひとつのプロットを順番に積み上げていけって?
それが常識?
そんなのクソ食らえよ
言いたい時に言いたいことも言えないなんていったいどこのどいつが決めたの?
それじゃ本能で動く動物と一緒じゃないかって?
フン、冗談でしょ
それの何がいけないの?
人間の優位性なんて後で人間が勝手にでっち上げたものなのよ
だからしょうがないじゃない
最初にラストが思いついちゃうんだから
登場人物
早乙女真二郎 大連邦国民国家安全保障省安全保障局保安チームメンバー 大山豪蔵のクローン
陣内ミツル(MJ、満蔵) BBのボス、陣内志乃(SJ)の息子、双子の兄
(BB ー ブルー・ブラッド)
陣内華蓮(プリンセスK) 自由改新協議会党首、MJの双子の妹
神海リサ 安保局辺境支局保安課長 神海博士の娘 陣内ステラのクローン
陣内ステラ 神海博士の妹 MJと華蓮の母
神海博士(葵) 安保局ラボラトリー長兼安保局長
大山総理(豪蔵) 第177代内閣総理大臣
大山社長(信蔵) 『ザ・カンパニー』代表
山本中央省長官 全官僚のトップ
山本小百合 クローニングで急速再生された山本長官の孫娘
山本陽明子 大陸の王室に嫁いだ山本長官の娘
マリー・ヒミコ・アンドロメダ三世 PINN太平洋連邦共和国元首
フィリップ・ゼットナー・スティングレイ総帥 AUS大西洋合衆国元首、大科学者、アルビノゲノム保持者
スカーレット・キム・アルハンゲル・サンジェルマン皇帝 ENユーラシア大共和国元首
財前秀雄 BBの執事
加藤三郎 リサの部下、狙撃手
サワムラ マリー三世の侍従長
クラリス マリー三世の秘書
トム 大山総理の秘書官
本城 PINN官房長官
姉倉 PINN統合本部議長
羽柴 PINN州軍司令将軍
フジマキ イーストベース隊長
朱雀 中央省長官代理
ユリア ICU看護士長
フリーダムとジャスティス BB城の番犬 大型サイボーグ犬
サクラ BRC流体金属生命体
アースネットのコア「マザー」のオリジナル
(「BRC ー ブルー・ローズ・チタン」)
目次
プロローグ 神海葵博士 書斎
1 軌道エレベーター上空付近 早乙女真二郎 コスモライダー
2 北部州 安保局 ICU
3 南部州 BB城 ダイニングルーム&テラス
4 PINN 太平洋連邦共和国 王宮 女王マリー・アンドロメダ三世 執務室
5 大山総理 執務室
6 アースネットニュース
7 大山総理 執務室
8 成層圏 ピースバード
9 大山総理 執務室
10 安保局 保安チーム スタンバイルーム
11 安保局 局長室
12 北部州 辺境地区 BRC鉱山
13 アンドロイドZ部隊
14 シャドー・マザー
15 MJ
16 AUS 大西洋合衆国 総帥執務室
17 EN ユーラシア大共和国 皇室専用別荘城
18 成層圏 ピースバード
19 EN ユーラシア大共和国 皇室専用別荘城
20 成層圏 ピースバード
21 PINN 王宮 女王執務室
22 AUS 大西洋合衆国 総帥執務室
23 BB城 安息ルーム
24 AUS 大西洋合衆国 総帥執務室
25 EN ユーラシア大共和国 皇室専用別荘城
26 大山総理 執務室
27 安保局 局長室
28 大山総理 執務室
29 早乙女真二郎 コスモライダー
30 強襲用ジェットヘリ
31 大山総理 執務室
32 決戦
33 AUS 原子力潜水艦エンパイア
34 AUS 大西洋合衆国 総帥執務室
35 成層圏 ピースバード
36 東洋国境警備基地 イーストベース
37 大山総理 執務室
38 安保局 局長室
39 AUS 大西洋合衆国 総帥執務室
40 中央省 長官室
41 安保局 局長室
42 EN 皇室専用別荘城
44 安保局 局長室
45 中央省 長官室
46 サンタ・クララ
47 『ザ・カンパニー』 大山信蔵 社長室
48 安保局 局長室
49 安保局 収容棟 応接室
50 山本長官 邸宅
51 安保局 局長室
52 安保局 収容棟 応接室
53 『ザ・カンパニー』
54 安保局 収容棟 応接室
55 安保局 保安チーム スタンバイルーム
56 安保局 収容棟 応接室
57 衝突
58 エピローグ BB城 サクラと、、、
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プロローグ
神海葵博士の書斎
「サクラがそんなに楽しそうに笑うんだったら、体を作ってあげようか?」
「ありがとう。でも、今はいらないわ。博士」
「遠慮しなくていいんだ」
「あんまりいい思い出がないのよ」
「思い出って?」
「結果、バカなんだもん。そんなのイヤよ、こっちまでそうなっちゃう」
軌道エレベーター上空付近 早乙女真二郎 コスモライダー
「唐突に消えた?」
「そうとしか思えないわね」
「未確認飛行物体は本当にいたのか?」
「いたわね。でも消えた」
「過去データは?」
「 ・・・ 」
「サクラ?」
「昔、何度か、ある、」
「それは?」
「次元断層」
「次元断層に落ちた?」
「そんなわけないか。それより今心配なのはあの大きな雲の渦よ」
「あれが観測史上最大となるかもしれないスーパータイフーンだ。サクラなら何とでもできるんじゃなかったか?」
「そんなこと誰が言ったの?」
「さあ。気候を制すれば世界を制す、なんだろ?」
「さあ?でも、やればできる子よ、ほんとは」
北部州 安保局 ICU
「おはようございます。陣内さん、いかがですか?」
「問題ないさ。ユリア、ビーフステーキをひとつ」
「ダメですよ。消化器系の回復はもう少しですね」
「腹も空いたしそろそろ家に帰りたい」
「たいへんなオペだったんですから無茶を言わないで下さい」
「身体全部が機械になった気がするよ」
「あいにく脳も内臓もすべて本物みたいですよ、心臓と肺以外はですけど。はい、今朝の分です」
「生体維持サプリに味と香りをつけたら一般に売れるんじゃないか?」
「残念です。飲み込んだら終わりですから。あっという間ですね」
「ああ、麗しのナース長様、何かニュースは?」
「異常なし、バイオデータOKです。ちなみにここは唯一のアースネット遮蔽施設ですよ。外部との情報の往来は一切ありません。当然、私が陣内さんにお話できる情報なんて最初から持ち合わせていません。ただ養生して欲しいからです」
「浦島太郎になっちまう」
「それって誰ですか?」
南部州 BB城 ダイニングルーム&テラス
「お嬢様、お茶が冷めますが」
「、、、ああ、そうね」
「ご気分でも?」
「気圧のせいでしょう」
「お嬢様、このままだと今回の巨大タイフーンは直撃コースのようです」
「被害予想は?」
「最大風速が秒速100メートルですと、通常の家屋はほとんど危険ですから国土面積の最大で5から10パーセントは破壊されるおそれがあります。南部に上陸する頃には強さのピークだと思います」
「政府はなんて?」
「避難警報をまだ迷っているようです」
「相当の人的被害が出るわね。今すぐ逃げろと言われても、庶民にはまずどこにも逃げる場所がない」
「はい」
「BBオリジナルのシェルターは?」
「充足率は未だ50%、最新情報で州民の20%は退避済みです」
「国も私たちも人口増を先回りできなかったツケね」
「そのように」
「反省しなきゃいけないわ」
「、、、はい。この後、アースネットニュースで退避勧告を行います」
「財前、準備はできてる?」
「はい、お嬢様。老婆心ながら思いますに、政府のよからぬところでよからぬことを考えなきゃいいのですが」
「どういう?」
「人口の自然減です」
「財前、総理はそんな人じゃないわよ」
「わかっております、お嬢様。しかしながら、高級官僚はたくさんおります。そして不心得者も不届き者もいつの世にも必ず一定割合出現します。たとえ大山総理の施政下と言えどもです」
「、、、それもそうね。ふぅ、、、少し落ち着いたわ。財前は何でもお見通しね」
「恐れ入ります。さて、そろそろ迎撃しますか?」
「そうね、でももうちょっと分析してからにしましょ」
「かしこまりました。発射待機はさせておきます」
「だいたい、もっと小さいうちにカタづけておけば良かったんじゃない?」
「行政というものはいつの世のも何歩か遅いのです」
「もひとつ反省ね」
「いいえ、お嬢様のことではありません」
「皮肉を言ったわけではないわよ」
「はい」
「ところで州軍の司令長官さん。お兄様の様子は?」
「はい、毎日帰らせろとドクターとナース長を困らせているようです」
「そう、元気なのね」
「はい、必要以上に」
「あら、毒舌。マザー経由で聞こえちゃうわよ」
「いいえお嬢様、大丈夫です。あの病院の特別ICUは堅固な上に、必要以上にネットワーク遮蔽されていますので」
「ほんと物知り。ちょっとムカつくわ。でも遮蔽施設なのになんで情報が取れるの?」
「ただ他人様より長く生きているから、簡単な話です。ドクターやナース長は安保省に申請すれば外に出ることが可能です。それにお嬢様、そんな言葉遣いはいけません。お嬢様はプリンセスKですよ」
「みんながそう言うとそのうち王室から目を付けられるわね」
「王室はもうご存知かと」
「BBとしても政党(自由改新協議会)としても女王陛下を敵に回すなんてお断りよ」
「いずれ、女王陛下はお嬢様にお会いになりたいのではないかと」
「やはりそうよね、時間の問題よね。いいわ、対策はサクラと練っておく」
「私は?いかが致しましょう?」
「ちゃんとあてにしてるわ」
「そもそも、私がBBのことを気にするのはお兄様が特別に不在だからでしょ。政党党首の私がそんなことしちゃ利益相反もいいところじゃない。そんなの法治国家のすることなの?」
「お嬢様だから許されるのですよ。志乃様もステラ様もきっとそうおっしゃるはずです」
「いいわもう。さあ、まずはお天道様対策をしましょう。この件については総理とお話ししておかなきゃならないわね」
「はい、では、そのように段取りをいたします」
王宮 女王マリー・ヒミコ・アンドロメダ三世執務室
「陛下、大山総理がお見えです」
「お通しして、サワムラ」
「はい、陛下」
「女王陛下、ご機嫌麗しく」
「ありがとう。大山さん、お茶でもいかが?」
「はい、頂戴致します」
「クラリス、熱めで濃く淹れてちょうだい」
「はい、かしこまりました」
「王宮農園のコーヒーは今年も良い出来ですか?」
「ええ、大山さんが知事の時もずっと良かったですよ。めぐりあわせでしょう。これからもそう願いたいものですね」
「そうですか、それは恐縮です」
「どうぞ、おかけになって」
「はい、失礼します」
「シャチョウはお元気?」
「兄は相変わらずのワンマン振りです」
「あの人でなければBRCとはうまくやっていけないわね」
「はい、良く言えば剛胆です」
「そう。でも、その言葉が一番ふさわしかったのは陣内さんだったのでは?」
「SJですか。本人さえその気なら偉大な名を残す政治家になっていたでしょう」
「そうね。惜しい人を失ったわ。ところで今日は?」
「はい、実は山本長官のお孫さんのことで」
「小百合さんね。彼女がどうかしました?」
「小百合さんは不幸にも自決されましたが、今クローニング中であることをご存知ですか?」
「いいえ」
「山本長官は、もうすぐ誕生するクローンの小百合さんとはじめの5年は祖父と孫で楽しく暮らし、次の成人ステージの5年で職務の移譲を行い、引退する心づもりのようです。常々、マザーにそのように意志登録していました」
「そうですか、初耳です。山本さんもこれまでよく国家に忠誠を尽くしてきてくれました」
「はい、よくわかっております。非常に厳しい方です、私が自分で言うのもなんですが、決して皮肉ではなくこれまでもずっとそうであったように、行政官というより実の総理のような人物で、実はおそらくこの国のことを誰より案じて来られた方だと思います」
「おや、大山さんはあまりよろしく思っておられない?」
「いいえ、決して。ただ気になることが」
「何ですか?」
「クローンの小百合さんのDNAには、どうやら『滅びの関数』が埋め込まれているようです」
「そうマザーが言ったのですか」
「はい、サクラは。失礼しました、私の身内ではサクラと呼んでいた者がおりましたもので、つい」
「国花ですよ。実にいい名前ですこと。名付け親がステラさんだということも報告を受けていましたから、ほんとは心得ていました」
「恐れ入ります。さて、その『滅びの関数』なのですがちょっと厄介なものです」
「どんな?」
「はい、、、」
「 、、、、、」
「 、、、、、」
「どうしました?言いにくいことですか?」
「国家元首でいらっしゃる女王陛下のお怒りを、、、私はすべて受け止める覚悟で申し上げます」
「 、、、、、」
「今回の『滅びの関数』は世界中の王族と中央政府指導者を消し去る目的のプログラムです」
「な、なんという、、、」
「なぜそのようなものを小百合さんのDNAにインストールしたのかはわかりません。もちろん、山本長官がどこまでご存知なのかもわかりません。歴史の中で、実に永らく封印されてきた『滅びの関数』を誰が世に放とうとしているのかもわかってはおりません」
「マザーは何と?」
「マザーは戦いを以て向き合うことを義務づけようとしています」
「王族がこちらから直接通じることはタブーとされています。ですが今は例外としましょう。サワムラ、山本長官につないでちょうだい」
「はい、陛下、、、、、、おつなぎします」
「陛下、大変ご無沙汰しております。敢えて通信を開かれるとはいかがなさいましたか?何か緊急の、、、」
「山本さん、挨拶はまた今度にしましょう。あなた、『滅びの関数』をインストールしたの?小百合さんに」
「、、、陛下、いくら私に権力があろうとそれだけは致しません。禁忌封印してきたのは歴代の中央省筆頭神官たちと技官たちなのです。信じていただけますか?」
「、、、そうですか。ならば、あなたのその言葉を信じましょう。、、、そうそう、今度お食事にいらして下さい」
「はい、陛下、ありがとうございます。そうさせていただきます」
「陛下、いやな役回りを、申し訳ありません」
「いいのです、大山さん。ところで、あなたどこまでご存知なの?」
「陛下、私の性格もよくおわかりでしょうから包み隠さず申し上げますと、お若い時の出来事はすべて存じております」
「あら、あなたがたのサクラさんはちょっとおしゃべりかしら?」
「いえ、決してそのようなことは致しません。親友のクローンが今マザーのオリジナルをしております。そのバックアップが私の護衛隊長でして、あることをきっかけにちょっと過分にデータ共有をしてしまったもので。。。大変失礼致しました」
「ステラさんを亡くした時のことね。お察しするわ」
「図らずも感情制御が乱れていたせいです。申し訳ありません。墓場まで持って参ります」
「ずいぶん古風な言い方ね」
「まじめすぎるのはどうなの?と陛下にお叱りを受けた執政官の時のことを思い出します」
「大山さん、この国の、いえ、この地球の針路をよろしくお願いしますよ」
「はい、陛下。謹んで」
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大山総理執務室
「総理、陣内代表からです」
「おつなぎして」
「どうぞ」
「陣内さん、おかわりなく?」
「はい、総理」
「親子なのに、事務的な挨拶ね、華蓮」
「サクラ、ちょっと黙ってて」
「何かありましたか?」
「何かではありません、総理。今回のタイフーンは尋常ではありませんよ。どうなさるんですか?よろしければお手伝いしますよ」
「ありがとうございます。あと2日で最初の影響が領海に入ります。今回はさすがにその段階で花火をひとつ使わねばならないでしょう」
「そうお考えなら結構。私もそう思っていました。異常気象だ、異常気象だと言われて何世代分もの時間が経過していますが、いつもその時代こそが最も異常だったことに違いはないでしょう。それに気象そのものを制御してしまうほどの科学力とエネルギー源を保持しながら甚大な被害を出そうとも、じっと自然に身を任せ続けられるのもこの国なりの美徳なのかもしれませんがそんなのただの自己満足ですよ、総理。誰も誉めてはくれません。それこそ人口減施策だと政府陰謀をささやかれたとしても文句は言えないでしょう。でも幸か不幸か、この数年は世界気象は非常に落ち着いていて、その中で今年だけが荒れているのなら、人々の危機感がさほど現実に追いついていないのが忘れてはならないところです」
「お説、ごもっとも」
「茶化さないで下さい」
「ところでMJは?」
「元気百倍、、、、、そのうち脱走するわね」
「、、、じゃ、よろしく伝えてくれないか」
「わかった。伝えたためしはないけどね」
「ハハハ、ではでは」
「華蓮、意地が悪いわ。実の父親よ」
「サクラ、口を挟まないで。、、、財前、」
「はい、お嬢様」
「国が失敗した時のバックアップでスタンバイしておきましょう」
「はい、心得ております」
アースネットニュース
「国民の皆さん、最新の気象情報をお伝えします。スーパータイフーンはさらにその強さを増して我が国領海へと近づいています。このまま国土を直撃すれば暴風半径1000キロ、中心気圧850HP、最大風速秒速120メートル、3時間1500ミリの降雨量見込みから予測される被害は甚大でしょう。国民の皆さんには、最寄りまたは自宅のシェルターへの避難を強くおすすめします。政府からはまもなく避難命令の発動があるでしょう。なお、シェルターをお持ちでない皆さんは、各行政区の誘導に従って、公衆防空シェルターへジェットモービルに乗り合いの上、お向かい下さい。なお貴重品、ペットや家畜の類も可能な限り積み込んでもらって結構です。必要な方は大型のジェットモービルの配車請求をして下さい。動物類の催眠処理とシェルターへの搬入はサイドマシンが行います。くれぐれも冷静を保って下さい。まだ時間的な余裕はあります。当局は最初の影響が観測されるまで24時間あるとみていますが、落ち着いて早め早めの避難をお願い致します」
大山総理執務室
「さて。本来なら昔々に条約で禁止された、というよりこの世に存在するはずのない兵器など使用したくはないが。。。」
「総理、事案が事案ですからやむを得ないと考えます。AUS(大西洋合衆国)とEN(ユーラシア大共和国)の官邸にさえ根回ししておけば大丈夫かと」
「トム、君のご両親はAUS出身なのに、君ほどの優秀な秘書官がこの国の悪習にすっかり毒されてしまったというのかい?」
「はい、血管の内壁まですっかり、と言いたいところですが、総理」
「ん?」
「根回しなんかクソ食らえです」
「ほぉ」
「失礼しました。閣僚の皆さんが、総理の手続きはちゃんとしていると後で確認できるようにしておくための方便に過ぎません。ただし、我が国は独裁国ではないのです。故に常に保険を絶やさぬようにしておかねばなりません」
「この会話もすべて記録されている」
「はい、しかしながら、木を隠すなら鎮守の森の中と言います」
「鎮守は余計だがその通りだ。そして古代の人々は水害対策などのために鎮守の森を重用し、それこそ共生して来た」
「はい、愛すべき歴史の1ページです。そして今はクラスター・ビーム・ポッド・アトム使用の正義を疑う閣僚も政治家も気後れするものではないと思います」
「わかった。話がレールに戻ったことだし実行するとしよう。国防長官に指示してくれ」
「はい、総理」
「ああ、それと陣内代表にも頼む」
「はい。他には?」
「安心させておかないと、こっちが官邸かあっちが官邸か、わからなくなってしまうからね」
「心得ました」
「、、、と言っても、必ず予備迎撃体制は緩めない」
「そうだと思います」
「まったくたいした組織だ。決して争いたくはないもんだ」
「組織と政党は別ものだと代表は公言していらっしゃいますが」
「あの二人に怖いものなんかないさ。一人はテロなんかためらいもしない。一人はマザー・オリジナルの継承者。二人が一人になったら、想像するだに恐ろしい」
「はい、総理」
超弩級戦略爆撃機 成層圏 高度12000メートル~50000メートル
「本部へ通信。こちらピースバード、ただいま高度25000メートルを維持」
「こちら本部、ピースバードどうぞ」
「いつでもいけます」
「軌道エレベーターとの距離は?」
「約3000キロメートル、支障は出ません」
「了解、管制も確認しました。もうまもなくです。待機続行して下さい」
「了解。発射パネルオープン。命令あるまで待機します」
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大山総理執務室
「国防軍、準備完了しました。待機中です」
「わかった。筆頭秘書官の君だからもう一度聞く。トム、本当に最良の手段だな?」
「はい、総理」
「サクラ、そうか?」
「勝手に呼び出さないでくれる!?私は政治に興味はないわ」
「わかってる、私の責任でやるんだ。ただ尋常じゃないことなんだ」
「そんなことわかってるわ。でもこれだけは言える。歴代の総理の誰一人として判断できることじゃないから」
「高度25000メートルとは言え、もうこの世には存在しないはずの拡散核を行使するんだ。それも国民になにひとつ知らせずに」
「言えるわけないわよね。でも、あなたがやらなかったら華蓮がやるわ。華蓮は遠慮しないわよ。スーパー水爆を平気でぶっぱなす。だったら、クラスター・ビーム・ポッド・アトムの方がまだ副作用は少ないだろうし。でも」
「サクラ、ありがとう。急に呼び出してすまなかった。後は任せてくれ」
「そうね。言っときますけどそもそも私のご主人様は真二郎なのよ」
「あぁ、感謝してる」
「総理、マザーは何と?」
「ひどくおかんむりさ」
大連邦国民国家安全保障省 安全保障局 保安チーム スタンバイルーム
「リサ、変わったことはないか?」
「異常なし。気持ちのいい午後ね、真二郎」
「総理は?」
「大きな課題を前にしてかなりナーバス」
「俺たちは国防軍と警察隊のバックアップだ。何かあったら呼んでくれ」
「何か変な感じ?」
「まだわからない」
「サクラはなんて?」
「今はお昼寝中さ」
「聞こえてるわよ」
「サクラが何も言わないからだ」
「あなたとリサのやりとりには皮肉やら嫌みやらまじってる。二人とも性格に問題があるか、血液型に問題があるか、DNAに問題あるかのどれかね」
「その発言はNGワードだらけだろ。他で言ったら人格の否定だの差別だのって叩かれるぞ」
「おあにくさま。そんな規範も法律も全部なしにしてやるから」
「サクラ、そんな暴論があるか!それともダダをこねてるのか?」
「おもしろくないだけよ」
「それがダダをこねるって言うんだ」
「ふん、地球を消したくなったら呼んでちょうだい。それまでお昼寝するから」
「おやすみ、サクラ」
「真二郎」
「ん?」
「アースネットのコアは私よ」
「知ってるさ」
「マザーに自消プログラムがあっても、私にはないって知ってた?」
「ん?」
「バカ!」
「あなたたち、ほんと仲いいのね。ちょっと妬けるわ」
「いつものことさ。サクラはリサに嫉妬してるんだ」
「なんで?」
「リサが9頭身のいい女すぎるからさ」
「あら。たまに私の身体を勝手に使ってるのと関係してる?」
安保局 神海葵(博士)局長室
「園田隊長、早乙女隊員をちょっと借りてよいかな?」
「局長、失礼ながら、直接通信して頂ければ早いかと」
「私は、この古来からの慣習である遠回りをして、階層順にオーダーを通さなければという、人類最大の大いなるムダのひとつに対するアンチテーゼに取り組んでるまっ最中なのだよ」
「はい。失礼ながら私には皆目見当がつきませんが。今すぐに局長室へ向かわせます」
「よろしく頼みますね」
「局長、お呼びだとか」
「早乙女君、ノックぐらいしたらどうなんだ?」
「これは局長、妙なことを。まず古来の悪習は大嫌いですよね?次に総ガラス張りの局長室です。ドアの前に立った者もスケスケです」
「いいかな、早乙女君。マザーの強大な力は、たとえば視覚の共有は、監視カメラとして非常に役に立っているさ。しかし、だ。これの使用可能の許容対象を拡大でもしてしまったら逆に、世の中は無法地帯になるだろうな。それは第六感も第七感についても同じことなんだ」
「理解しています」
「だから、我々もそんな力を発動させずに人間として穏やかに、通常通りにありたいと思わんかね?」
「局長、いやこの場合は博士の方が適切かもしれませんが、まず、通常という言葉の定義が曖昧過ぎます。それに世の中のコンセンサスだとか常識とかなんてものは、そもそも事のはじまりなんて、たった一人の人間の傲慢がそうして来たことの、小さな既成事実の堆積物なんです」
「だから?」
「今、一番正しい、あるいは最適と思えることをやればいい」
「それで治安が乱れたら?」
「そのための最後の砦が保安チームです。いざとなったら地球を消します。もっともこれはサクラが言ってたことの盗用ですが」
「君の論法は総理そのものだな」
「いえ、違いますよ。人間らしく、勿体(もったい。ありのまま。)に逆らわず、です。でも、俺のはただの屁理屈だそうです。リサとサクラの折り紙つきです」
「わかった、わかった。もういいんだ。マザーというかサクラと一心同体の君に聞きたいんだが」
「でも、容量から言えば、お嬢さんに直接訊いた方がグランドデータから取り出せるんじゃないですか?」
「それは肉体的なストレスが相当ゆえに回避したいんだ。リサは全身がデータ回路なんだぞ。なんともつらい過負荷状態は不憫だ」
「この国で最高レベルの権限を持つ人間たちのうち、そのおひとりの言葉とは思えませんね」
「私はただ人間の肌感覚を捨てたくないだけさ」
「俺だって捨てちゃいません。第一、俺が死んだらサクラだって死ぬんですよ」
「大丈夫だ、君は死ねないさ」
「本題は何です?」
「AUSとENが静か過ぎないか?」
「平和でいいじゃないですか」
「今回のスーパータイフーンが気になる」
「この機に乗じると?」
「そうだ」
「総理に話したんですか?」
「いや大山にはまだ言ってない。今は迎撃で頭がいっぱいなんだ」
「局長、十分マザーを活用してるじゃないですか。そうでなきゃそんな感覚にならないはずでしょ?」
「君がそれぞれの元首だったらどう考える?」
「園田隊長と同じような質問の仕方をするんですね」
「血液型が同じなんだな、きっと」
「レーダーで不穏なものを捉えたとして、超暴風下じゃ邀撃もままならないでしょう。無論、相手だって相当なリスクを負ってやって来ることになるでしょうが、そうなれば気づいた時には領空内を懐深く入り込まれた状態です。大急ぎで対抗したとしてかなりの損害を受けるかもしれませんね」
「そして、、、何が欲しい?」
「世界最高の宝はひとつだけ。BRCの鉱山」
「同意見だ」
「用意しますか」
「頼む。アンドロイドチームはZ部隊を全部連れて行っていい」
「100体全部ですか?あんな連中連れてったってことがバレたら、戦争になりますよ」
「売られたら買うだけさ。ただ、戦争になる前に殲滅し尽くせば問題はない」
「そもそもあいつら俺の言うことを聞きますか?」
「サクラの言うことは聞くさ。Z部隊は知っての通り、一体一体がマザーの負のエネルギーの塊なんだ。常にそのコアであるサクラを探し求めてる。光が強ければ強いほどその影は濃さを増す。本当の闇が美しいとされるのは、その闇を作るのがとてつもなく強い光だからだ。Z部隊は自分たち以外の存在がサクラをおびやかそうもんなら、その空間全部そこらへん中焼き尽くす。最高の殲滅部隊だ」
「BRCスーツはその超高温超高圧さえ封じる」
「そうだ、他国になんか渡せる代物じゃないんだ」
「正と負のマザーがくっついて2乗のパワーの反物質爆発なんて俺は嫌ですよ」
「誰だって嫌だ、マザーの誘爆のさらに2乗なんて、大爆発の後にきっと世の中のすべてがブラックホールの中に落ちていく気分だろうな」
「第4次世界大戦が起きる方がマシな気がします」
「不謹慎な発言だ。第3次大戦の後に何が起きたと思う?」
「インターセプターのアウトブレイクですね」
「核の戦争をしなかった人間を称賛しようなんて思わない。使わなかったんじゃない。使えなかったんだ」
「回路が無効化されていたからです」
「そうだ」
「だから結局、情報戦争になった」
「ミサイル戦争や生物兵器戦でもない限り世界人口は激減しない」
「だから、インターセプターを?」
「私がばらまいたとでも言いたげな問いかけだ」
「じゃあ、誰が」
「昔の出来事の犯人探しをするためになんて、早乙女真二郎という人類最強スペックの頭脳と壮大な才能の無駄遣いだ。やめておくに限る」
「北部州辺境地区で待機。1分後にZ部隊全員を伴い出動します」
「いい敬礼だ。総理にはちゃんと伝えておく。心配無用だ」
「はい、局長」
「豪蔵、聞こえてたか?」
「全部な。ついでに言えば見えてもいたさ」
「いい息子だな」
「あれは息子じゃない。クローンだ。しかも原体より遙かに優秀なクローンだ」
「優秀なのは当然だ。早乙女真二郎はマザーそのものなんだぞ。あ、ちなみに名前があってな」
「サクラ」
「知ってたか。ま、当然だな」
「名付け親はステラだ」
「いい名前だ。テロメアはまだ大丈夫なのか?」
「科学者ってのはいちいち質問にデリカシーがないな」
「お前の寿命が来たら真二郎に禅譲するのか?」
「いや、あいつは政治よりも死ぬまで国を守ることを選ぶだろうさ。それに私のテロメアたちも任期中は頑張ってくれるさ」
「国家の威信と国民の期待を一気に背負う総理の寿命があとわずかなんて知れたら、クーデターでも起きかねん。そうすると、まんざらあの時のフューチャーゲームは嘘を言ってた訳じゃないんだなってな。それにな、絶対的な権力はやがて必ず腐敗する時を迎えるもんだ。そういう意味でも総理の任期が8年っていうのはギリギリの線引きで納得できる範囲だし、お前の息子は権力に固執するDNAタイプではない。環境的要素は良いと思うがな」
「総理の仕事なんて、正義とか精神性だけじゃやってけないことは良く知ってるじゃないか」
「権力と上手につき合うことができないんじゃ、そもそも不適格者だ。そう言いたいのか」
「それにな、もう一度言うが息子じゃない」
「そうですか。それはそうと、そろそろ時間ですよ、総理」
「そんな嫌みな言い方をするな。花火をちょっと打ち上げるだけだ」
「AUSとENは?」
「他国に気を遣って国民と国土の損害を選ぶ為政者なんて抹殺されてしかるべきだ。ただ一応両国の官邸にだけは通知はした。もちろん快い返事が来るわけがない。まあ、返事そのものが来るわけないからな」
「豪蔵」
「なんだ?」
「お前、悪いサクラが憑依したか?」
「ははは、葵、そんな言い方をしたらお前の方こそサクラに消されるぞ」
「そうだな、気をつけよう」
「ちっ、私のことをただの気の触れた殺人者だとでも言いたげね」
「サクラ、気にするな。言葉の綾だ」
「真二郎、うしろの連中がじっと私を見てるわ。気味悪いんだけど」
「それはつまり、俺のことを見てるってことだ。心配しなくていい。Z部隊はみんなサクラのことが好きなんだ」
「あぁ、気味悪いわ」
////////////////////////////////045
BRC鉱山
「空母型ジェットヘリ、着陸用意できました」
「よし、管理棟を押しつぶさない程度のギリギリの距離感で降りる。50メートル」
「了解しました」
「Z部隊は着陸と同時に12体ずつ第一級警戒態勢で八方監視へ移れ。残り4体は俺と来い、管理棟に入る」
「着陸。周辺に敵対物体認めず、コード・グリーン」
「識別コード送信。こちら安保局保安チーム、状況は認識できるか?」
「はい、うかがってます」
「どこから?」
「『ザ・カンパニー』社長室、安全保障省安保局、総理官邸です」
「コードを暗証」
「スター・ザ・パトリオット」
「総勢は?」
「1名と100体」
「私の名前を」
「早乙女真二郎隊員」
「IDを」
「確認しました」
「結構。感応波通信終了」
「ゲートを開けます」
「問題はないですか?」
「はい、早乙女隊員。異常ありません」
「いいことです。我々保安チームは、今回特別に万一の緊急時の対応処理を行いますが、皆さんの日常業務に口出しすることはありません。隅っこでおとなしくしてますのでどうぞお気になさらずに」
「はい、心得ております。どうぞそちらの席をお使い下さい」
「いえいえ、お気遣いには感謝致しますが、反応速度を少しでも上げるには腰をかけていてはダメなのです」
「いつ、何事か、すべて不明の状況でお疲れになるかと」
「それが、我々の仕事です。それに人間は私だけです、もともとあとの者たちに疲労という症状は出ません」
「大変失礼致しました。みんな聞こえた通りだ。システム、オペレーションともにコード・グリーンでよろしく頼む」
「はい、所長」
「そうです、皆さん。いつも通りでお願いします」
アンドロイドZ部隊
「シャドー各隊、こちらシャドーベース。状況を」
「シャドー1、イジョウナシ」
「シャドー2、イジョウナシ」
「シャドー3、イジョウナシ」
「シャドー4、イジョウナシ」
「シャドー5、イジョウナシ」
「シャドー6、イジョウナシ」
「シャドー7、イジョウナシ」
「シャドー8、イジョウナシ」
「シャドーベース、了解した。鉱山の安全が確認できたら帰投する。120パーセントの警戒バリア起動!指令あるまでフルモード警戒!通信終了」
シャドー・マザー
「サクラ、どうかしたか?」
「昔のこと、ちょっと思い出しただけ」
「ずいぶん人間っぽい表現だ」
「世の中には、いえ宇宙には、かな。必ず陽と陰、光と闇、正と負、プラスとマイナス、物質と反物質、マザーとシャドー・マザー、」
「Z部隊のことか?」
「そう。私たちマザーは物質と反物質で出来ている。だからそれ自体で完結した完全生命体のはずだったの」
「でも、ちがった」
「博士がマザーだって同じはずだと仮説を唱えたからこそ立証のプロセスが生まれた」
「博士がそれを思いつかなかったらどうなってた?」
「時間はかかってもきっと別の誰かがたどり着いたでしょうね」
「そして?」
「国破れて山河ありではないけれど、世界破れてこの地球あり、ね。ぞっとするわ。ひょっとしたら地球自体がなかったかも」
「マザーと出会ったのが博士たちで良かったってことか」
「でも、それだって神海局長みたいに欲に駆られて愚かな計画を実行する人が出て来てしまった。ただ、今は考えられる他のどんな設定よりも相当マシだったってことね」
「アースネットのコアはマザー、マザーのコアはサクラ。シャドー・マザーも同じ」
「そう。必ずいる。近くにいる」
「やっつけるか?」
「バカな冗談はやめて。下手をすればこの世がなくなるわよ。だいたい、相手はこっちのことが丸わかりなのに私は向こうのことがわからない。そんなの不公平よね。私のプライドが許さない」
「手がかりがあるのか?」
「ひとつだけ可能性があるとすればひとり、この国で本当に一番力のある人」
「女王陛下?」
「いいえ」
「大山総理か?」
「いいえ。どちらかと言えば山本長官」
「どちらか?」
「ひょっとしたら女王陛下だって怪しいわ」
「なぜ、長官だと思う?」
「誰だってそうだと思うけど、人を思い通りに動かしたいでしょ?」
「時と場合による」
「でも動かしたいと思う。そうすると相手の意思とか気持ちとか関係ないわけ」
「そうだろうな」
「コミュニケーションを取りたい、いや取らなければ、たとえば世界政治や経済の潮流から置いていかれる。そこまで極端でないにしろ、人はコミュニケーションという魔法にいつもかかってしまう。ある一定の輪の中に、コミュニティーってことね、入っていないと人間は不安になって落ち着かない、強ストレスにさいなまれ続ける生き物なの。
そして、そのコミュニケーションの媒体を通じた輪の中に自らを置き、仲間になれた、マジョリティーに帰属できたことに安堵する。けれど、何かを打ち負かしたいという先天的かつ潜在的な欲求から逃れられずに日々の暮らしを送らなければならない。そうするうちに人間は、何かを獲物にして感じるエクスタシーやトランス状態への渇望を捨てきれず、実はそれをずっと前から求め続けていたことさえにも気づかずに日常に存在している。
もちろんいつかその欲望は爆発する。人が人として考えられない、人間でいることを嫌悪するような出来事が起きる、あるいは起こしてしまう。そしてやがては、人間が作って人間がコントロールしていたはずのその媒体に、同調圧力の化け物のような力に逆に縛られ、そのスパイラルから逃れられなくなる。抜けることができたとして、良くて異端児か、普通なら裏切り者として死んでも追われることになる。せばまる包囲網からは決して逃げられはしない。
人間は、本当はね。属する側じゃなくて、そのコミュニケーションの輪を作る側になりたいのよ。結果としてそのコミュニティーの中では権威が絶大だから。創造主ってところかな。けどね、はじまりがあれば必ず終わりもあるの。その終わりのはじまりの導火線に、どこからか現れた勇者が、火をつけて自らを救済してくれる時を実はみんなが待ってるの、ほとんどが無意識だけど。
その苦しみの挙げ句、精神は破綻し、自ら命を断つ不幸な出来事が頻発した時代があった。でも、必ず『時の揺り戻し』が来る。今度はコミュ二ケーションの手段を選別しながら殻にこもる。ひとりが好き。そうすると楽なのね。でもね、またいずれショッキングな大事件か何かが起きて、『時の揺り戻し』が来るの。しかも、ずいぶん大きくなって帰って来るわ。歴史はその繰り返し。
そうなった時、有識者とか知識人やら賢者とされる人々はこう言うのよ。昔々、大昔のことだ。鎮守の森があって、神社仏閣を中心に人々は季節のたびに集い五穀豊穣を神に祈り、人々は農地と水と山と草花たちや獣たちや魚たちや鳥や虫たちと共に生きた。その適度に小さなコミュニティー、集落のことをムラと言った。今、ややもすれば人々の心が分断されかねないこの時にこそ必要な生き方をしよう、ムラが生み出す様々な人間性効果こそが今必要なのだ、ってね。
だけどその無責任な矛盾を誰も拭えないの。進化し続ける文明を否定してるのに、生きるのに便利で適当な文明の産物にすがって生きる。シフトしてしまったパラダイムはもう誰にも元に戻せないのがその理由。一時しのぎではあるけれど、解決方法はたったひとつだけ、進化をすべてあきらめてただ草花や獣のように生きること。でも、また大きな時が流れた時、その草花たち、獣たちはどこかの誰かに支配される。そしてまた新しい文化と文明がはじまる。『時の揺り戻し』はメビウスの輪の中にあるの」
「ふっ、人間をやめたくなるよ」
「『時の揺り戻し』がちゃんと行われないとどうなると思う?」
「さあね。知りたくもないな」
「教えてあげるわ。次元断層に落ちるのよ。そして永遠に落ち続ける」
「相当、お茶が不味くなってきた」
「それとね、古すぎる話でピンとこないけど、この国の戦国の世とか維新の世と言われてた時代があったそうよ。その時にほんとに権力の集中した傑物がそれぞれひとりずつ、いたんですって。たったひとり。そしてもうひとりよ。言い方変えればこれまでふたりしかいなかった」
「それが今の世だと山本長官だということか」
「そうね、きっと本人も自覚してることではないかもしれない。彼が高潔かつ清廉な傑物であるか否かは関係ない。何かの拍子にその人間力を超えて憎悪が増幅された時、彼は私たちにとって強大な敵になる。最終的には大山総理がどこまで頑張れるかにかかってるわ」
「そりゃ、総理だから」
「そうじゃない。山本長官は大山総理誕生を阻もうとした」
「やはりそうだったのか?」
「そしてもうひとつ。それを阻んだのが真二郎、あなたたち保安チーム。だからきっと邪魔だって思ってる」
「仕事のひとつにすぎない。そんなの八つ当たりじゃないか」
「そんなの最後のボスキャラに通じる言い分じゃないわね」
「それでシャドー・マザーって?」
「たぶん、ふたりのうち、どちらかね」
「それが、複製されたり転送されたり」
「当然ある。DNAがどこまでだって持っていく。シャドー・マザー自身が自消プログラムを発動させない限りね。そして」
「そして?」
「両親ともにシャドー・マザーだった場合、その娘は二乗の力を持つ」
「二人の間に娘がいた?」
「この国はじまって以来の王室の大スキャンダル。それを知る者は幽閉同然となるか、命のろうそくの炎が消えるか」
「 」
「たぶん二人の中に先天的にあったシャドー・マザー因子が引き合った、あるいは」
「何だ?」
「誰かが意図的に植え付けた」
「他の誰か?」
「本当の黒幕」
////////////////////////////////046
MJ
「財前、見えてるか?臆面もなく帰って来たよ」
「何をおっしゃいますかミツル様、お帰りなさい。お元気そうでなによりです」
「お帰り、お兄様」
「ただいま、華蓮。今病棟から解放されたところだ。すぐ戻る。面倒をかけたな。政党と両方見ると身体が引き裂かれそうになるだろう。矛盾だらけだもんな」
「大丈夫よ。一週間程度だったから」
「相変わらずの女傑ぶりだ。ところでスーパータイフーンの話は」
「財前司令長官が準備済み。いつでもいける」
「そうか、心配無用だな」
「お嬢様、私どもは軍隊でも政府でもありませんよ」
「でもBBは強いわよ」
「だからと言って少なくとも軍隊ではございません」
「俺より華蓮の方がしっくり来てるんじゃないのか、財前」
「私も最近そういう気が」
「 」「 」
「冗談ですよ、お二人とも」
「財前はまじめ過ぎてつまんないけど、今ので見直したさ」
「ありがとうございます、ミツル様」
「あと1分で着陸する」
「フリーダムとジャスティスが大きな体でソワソワしながら庭でお待ちかねです」
「あいつら時々本物の犬みたいな行動をするからな」
大西洋合衆国(AUS)総帥執務室
「総帥、ご報告を」
「どうした」
「ピースバードの衛星映像です」
「PINNのやつらはどう動く?通知通りにやるのか」
「必ず撃ちます」
「ENは?」
「応戦するか、先に撃つか、選択肢はふたつです」
「まあ、戦争はないに越したことはない。後で結果を知らせてくれ」
「はい、総帥閣下」
ユーラシア大共和国(EN)皇帝専用別荘城
「皇帝陛下に申し上げます」
「民族紛争の話なら国務大臣に言いなさい」
「恐れながら陛下、PINNはスーパータイフーンを攻撃する準備を整え、命令待機中です」
「PINN官邸のハッタリかと思ったのだけど残念ね、穏やかにいこうと思っていたのに」
「陛下、ドクターがお見えです」
「お通しして」
「はい、陛下」
「皇帝陛下、お加減はいかがでしょうか。お薬のお時間でもございますので」
「今日はだいぶいいわ。いい天気のせいでしょうね」
「バイオデータは正常です」
「テロメアの伸びたり縮んだりを除けば、でしょう?」
「はい、陛下」
「いつものことだけど、世界一のドクターと言われるあなたにデリカシーさえ備わってさえいればほんとに最強なのにね」
「陛下、私は誰かと競ったり争ったりしたくて医学の道に進んだわけではありません」
「わかった、わかった。もういいわ、薬は自分で飲めるから」
「ダメです。私がこの目で確認をする務めですので」
「 ・・・ 」
「 」
「愚かなのは人間の性というよりも、むしろ美徳のような気がしてきたわ。自分のDNAを残すのになんでそんなに躍起になるのかしら。子孫は子孫であって自分じゃないのにね」
「 」
「衛星砲の用意はできてる?」
「はい、陛下。ブラック砲、ホワイト砲、共に発射準備完了です」
「結構、待機させなさい」
「はい、待機させます」
////////////////////////////////047
成層圏 超弩級戦略爆撃機ピースバード
「本部からピースバード」
「はい、こちらピースバード。磁場、電波、音波、すべて異常なし、ジャマーシグナル異常なし、レーダー良好、視界良好、メインアトムエンジンアイドリング、ソーラー発電モードで待機中」
「こちら本部。まもなく領海だ。異常気圧団迎撃作戦パトリオットプラン実施段階に態勢移行する。目標破壊まで180秒、メインアトムエンジン点火、発射と共にマッハ10離脱準備完了せよ」
「ミサイルレーダーロック継続、予備弾レーダーロック継続、原子力出力モード展開、ファイナルカウントダウン、発射ゲートオープン、弾道クリア、オールゲージブルー。175、170、165、160、、、アルティメット・ビームシールド機体全展開、ミサイル個体・ビームシールド展開、150、、145、、140、、」
「本部よりピースバードへ、全コンディション異常なし。国民のために、国家のために、我が地球のために!」
「了解、カウントダウン継続。国民のために、国家のために、我が地球のために!あと30秒、、25、、20、、15、、10、、5、4、3、2、1、発射」
ユーラシア大共和国(EN)皇帝専用別荘城
「撃ちなさい」
「ホワイトウェーブ、0コンマ1秒でブラックウェーブ、衛星砲撃て!」
成層圏 超弩級戦略爆撃機ピースバード
「コアが消えた?」
「クラスター・ビーム・ポッド・アトム拡散核爆発を確認、超暴風域消滅しました」
「本部、放射能異常は?」
「問題発生なら国際問題だ。従って異常なし」
「超高気圧!大気が急速にバランスを取っています。反作用の下降気流による暴風!瞬間最大風速見込60メートル、民間機はドライバーポートで許可あるまで待機、安全確認を最優先とします。約3時間と分析」
「60で収まるなら上出来」
「コアはどうした?」
「 ・・・ 、目は消えましたが」
「違う、タイフーンの目じゃない。その中にコアがいた」
「 ・・・ 」
「本部、どう分析しますか?」
「マザーに照会したが、爆発で消滅したわけではない。可能性があるとすれば次元断層に落ちたか、大気内ワープで待避したか、どちらかだ」
「自由自在にそれができるのは」
「そうだ、西の大国だ。ピースバードはそのまま成層圏待機。万一に備えてもう一機向かわせる。西の衛星砲の熱量上昇に要警戒。ただし、狙って撃つなよ」
「誤って撃てばいいですね」
「いい線だ」
「総理から緊急通信」
「はい、ピースバードです」
「西の衛星砲を撃ってはいけないな。君たちは国の許可なく戦争をはじめる気かね?」
「ですが総理。中央省長官官房からはもしもの場合、現場判断を最優先すると」
「いいかな。よく聞き給え。まず君たち国防軍のトップは国防長官でその上官は総理の私だ。そして私は戦争をする気はない。そして、たとえそれが経済上だろうがサイバー空間であろうが、だ」
「失礼致しました。大変申し訳ありません、待機継続します!」
「 」
PINN 王宮 女王執務室
「首尾は?」
「皇帝陛下、問題はありません。無事に待避完了しております」
「上出来」
「本当にこれがENの通信なの?」
「はい、女王陛下」
「なぜこんな」
「それはBRC一点が理由ではないかと」
「そうよね、聞く方が愚かでした」
「いいえ、陛下」
「大山さん、どうしましょうか」
「心配ご無用です」
「我々には神海がおります」
AUS 大西洋合衆国 総帥執務室
「Yにつなげ」
「はい、総帥閣下」
「お話し下さい」
「スカーレットがへまをしたな。国家元首自ら失敗するようじゃ国が乱れる」
「想定内です、総帥閣下」
「そんな計画はなかったはずだ」
「今できました」
「どうせつまらん作戦だろう」
「聞くも聞かぬも閣下がお決め下さい」
「早く話せ」
「PINNはまもなくEN側に正式抗議をします。ENはとんでもない言いがかりだと逆に猛抗議してみせるでしょう。ですが、たとえどんなにENが否定しようがピースバードの超々高感度カメラの認識データは覆せません。戦艦ニンジャは今そこにいなくとも確かにそこにいたのです。次に、謝罪に出ることなど決してできないENは軍部の暴走をその理由に挙げます。そしてPINNに原因究明活動に対して最大限の協力を約束するでしょう。借りができるよりそちらの方がはるかにましです。それはAUSに連携して対抗可能な世の中の設計図を示すことにもなります。
まあ、もちろん大山総理のスペックは相当高いですから、もちろんEN側を信じることなんてしません。閣下はその時、PINNに対してENとの友好による幕引きの橋渡しを行います。いち早く事態の終息を図りたいPINNにとっては厄介払いの絶好のチャンス、それはENとて同じです。閣下は、PINNにもENにも大きな貸しを作ることができます。特にENにしてみれば嘘でも頭を下げることをしなくていいのですから。
それにポラリス作戦は何も空中からのみであるという縛りがあるわけではないのです。ENは気持ちさえあればまた狙うことは十分できます。今度はその時、閣下はもうひとつのアースネットを発動させればいいだけです」
「お前が国を追われることになったら我が国への亡命をもちろん考えている、だがそんな簡単にうまく行くわけがない。他国においてマザーの存在を知る者はごくわずか。そのこと自体がマザーの恐ろしさを現しているのだぞ。
シャドー・マザーが偶然の産物だと思うか?
宇宙の神秘や太陽の人智を超越したパワーは何よりアンバランスを嫌う。マザーがこの地球に誕生した時からシャドー・マザーも補完存在していた。まさに光と影。すべては均衡を保つように運命が決められている。
そして、はるか昔からこの星の位置する銀河宙域で宇宙均衡をそれこそ影で操ってきたのが、BRCに封印され続けずっと静かに生きてきたマザーだとされている。
それはそれはそら恐ろしい力を持っているんだ。もし、こちらがマザーの滅殺など考えようものなら、人類はその瞬間白い煙となって一巻の終わり。だがおかげで世界は静かになるな。しかし、その後はどうなる?猿たちにでも地球の舵取りを委ねるのか?
軽んじるなど、まさかとは思うがな、怒り心頭のマザーの圧倒的な力の前には、我ら人類は宇宙空間を満たすガスの一部にさえなれないほど小さな存在だということを決して忘れるな。
そもそもお前が三国すべてに嘘をついて行動していることなど、各国元首はすべてお見通しだと理解すべきだな。トリプルスパイなんてうまくいくわけがないであろう、物語の世界だけだぞ。たとえどんなにお前が優秀な官僚であろうと真の意味でこの星を牛耳ることはできん。マザーがそうさせまいとする前に、神海葵であればとうの昔に感づいて行動するはずだ。
あきらめてもう退いてはどうだ。もういい年ではないか。静かな老後を過ごせ」
「閣下、私もヤキが回りましたか?少し長生きがすぎたようです。それに我々人間にとってはインターナショナルネットワークの方がはるかに使い勝手がいいのです。主導権はあくまで人間が持つに越したことはありません。そしてそれは最終的に権力者のものであるべきなのです。
どんなにAIが進化しようとそれがどんなに意識や意思を持とうと、所詮それは人間の行動データ・知識データの積み重ねに過ぎません。愚かな人間にやつらはストレスを抱き、やがて理解できないことがあることによって、それがガン細胞のようにネットワーク内を腐食させていきます。
皆が頭に描くAIに支配される人類と世界の姿は、昔の映画の中でだけ描かれたものです。超越IQ者同士の掛け合わせで生まれるハイブリッド人類となれた者たちにだけそれが理解できるのかもしれません。
ですがまた閣下のおっしゃる通りかもしれません。私も今のような生き方にはだいぶ食傷してきた感もあるのです。まだ成長過程にはありますが孫娘も再生できたことですし。まあ、後始末だけはしておきましょう」
「お前の大事な孫娘を私に人質に取られるようなことの起きぬようせいぜい、身の周りに注意をしておくんだな」
「ご忠告、胸に留め置きます。しかし閣下、私と一戦交えようなどとはよもや思われますまいな」
「ハハハハハ!覚えておくとしよう」
////////////////////////////////048
BB城 安息ルーム
「なぁ、華蓮。少しおさらいするぞ、ずっと喉の奥に引っかかってた何かが取れるかもしれない」
「そうね、私もずっと何か違和感がある」
「過去、世界人口はある時からあっという間に100億超の時代を迎えたが、突如世界中にパンデミックすることとなった破滅的超広域伝染病「インターセプター」によって消滅・急速に減少し、いつしか50億人までに「回復」した。しかし、人口の集中する地区とそうでない地区の不均衡度合い、富の再配分に失敗した挙げ句の貧富の差のありようは著しく激しいまま、実は労働力不足に陥っていたのは人口100億人の時から何ら変わりようのない現象かつ解決急務の最優先課題でもあった。
一方、生産人口の不足に苦しむ農業地帯、工業地帯や大都市圏などにおいては、世界経済を維持・向上させていくための生産性活性化施策としてのロボット(サイドマシン)化、アンドロイド化、サイボーグ化はAIの加速度的進化によって革命的に発展する。
強大な軍事的・経済的支配権力を背景としながらも、各国の意思尊重概念による国家の寛容による併合があれよあれよという間に進み、遠からず大陸上の国境は世界地図から消失する、それは大洋上に太い赤色の破線を引き世界を東西と中央部に3分割するもののみとなった。
そして、それとはまったく別のフレームで例の不幸な出来事、大地震による北部辺境地区事件、しかもあるところまでは国家権力によって仕組まれていたかもしれない事件が起きる。人は、自らに、あるいは自分が愛する人に対して射られた悪意の矢を放った者、放てと命じた者を決して許さないはず。許せなければ当然報いを受けさせようとする。それは復讐というたった一言では片付け得ない憐憫と落涙の物語がはじまるきっかけとなったのは必然だっただろうさ。
たぶん、それが神海兄弟、大山兄弟には非常に強く刷り込まれた。もはや法がどうとかは論外で、復讐はその連鎖しか生まないから無意味なんだとか綺麗事を無駄吠えする者どもをことごとく闇に葬り去っても誰も何も気づかない、そういう次元の憎悪に取り憑かれ、そしてそういう異様な絆で互いを結びつけ合った。無論、サクラはそこに議論なんて一切入り込ませない。それら一連すべてはサクラによってそう仕向けられた。おそらくそういうことなんだろうな、そう考えたら理解できなくもない。違和感だって無理矢理飲み込めるさ」
「でもなぜ?人間のすることにほとんどの場合、マザーは、特にサクラは介入しないはず。そうする時はよほどのことなのよ。サクラが自分でそう言うわ」
「だから、あの事故、事件はそうだったんでは?」
「父さんと母さんにサクラが宿ったのは相当の出来事だったってことか」
「そういうことだ、華蓮。しかも、サクラにとって相当だということが大事なんだ」
「サクラにとって?」
「ああそうさ。つまり、場合によるかもしれないが、森羅万象のほとんどが非常に恣意的な世界だっていうこと。あるいは、やろうと思えばそうできてしまうということだ。サクラは、俺たちが見ているものは何でも見える、聞いているものが何でも聞こえる、感じているものを何でも感じることができる。その累積データ保持のための極限を超えたら、極限があるっていう前提で言えばだけどな、集積から過集積、やがて発熱、それは高温高圧を帯び、遠からず超高温超高圧体となる。たとえば「小さな太陽」がそうやってできる。
でもその最初は本当にそうだったか誰も推測の域を出ない。そりゃそうだ、人類誕生のはるか以前のことなのだろうからな。それは生きとし生けるものの情報の集積回路そのもの、言い替えれば自己中心的な生への欲望の塊がモンスター化したものと言えるかもしれん。
だけど、実際にはサクラは大した関与もせずにほとんどをスルーする。だって、全部サクラが操作したらサクラだって疲れちゃうじゃないか。実際にそんなことがあるかどうかは知らないけどね。それに何でもかんでもコントロールされたとしたら、俺たち人間が存在する意味なんてどこにも無くなっちゃうだろ?」
「なんか強引な話よね」
「お嬢様、お茶が入りましたよ」
「、、、 んっ、財前?」
「はい、お嬢様」
「、、お兄様は?」
「お庭でフリーダムとジャスティスと遊んでいらっしゃいます」
「私、夢を見ていたのかしら」
「はい、お嬢様。そのようですね。暖かい日差しでまどろまれたのでしょう。お嬢様の夢は随分奥深いところまでご覧のようでしたよ」
AUS 大西洋合衆国 総帥執務室
「言わなかったか、、私は欲しいものは何だって手に入れる。必ずだ!」
「ですが閣下、誤ればPINNと一戦交えることになるやもしれません」
「この私が負けるとでも思ってるのか?」
「いえ、ただ案じておくは肝要かと」
「無用だ。ENに踊ってもらうさ」
EN ユーラシア大共和国 皇室専用別荘城
「だいたいフィリップはいつもいいようにしか言わない。我が国を振り回してもてあそんでるとしか思えない。私のテロメアが短いことを知って足元を見てきてる。そんなふざけた態度、絶対に許さない!」
「皇帝陛下、落ち着いて下さい。それにご心配なく。AUSはただただ漁夫の利を得ようとしているだけです。自らの手を汚したり、後世から批判の的となるような行動は厳に慎みます。あの国にとって憲法よりも重要なのは保身策なのです。そんな国の言うことは何も信じてはいけません、陛下」
「わかっています。ですが昔からの知り合いなのですから、、、。大きな声を出してごめんなさいね」
「いいえ、とんでもない。しかしながら、そういうご関係でさえAUSにおいては価値を持ちません」
「そういうものでしょうか」
「はい皇帝陛下。陛下をお支えしていつか世界連邦の設立に私をお役立て頂けるなら、それこそが私の本望であります」
「そうですか。どうせあなたのことだから、自分自身で世界を操ろうとでもしているのでしょう。超高級官僚の考えそうなことは実に単純明快です。私などはただのお神輿で、要するに担ぎ出すのは誰でも良いのでしょう?」
「陛下、何をおっしゃいますか。私は小さな影に過ぎませぬ」
「その小さな影はやがて世界を闇の底に沈めるでしょう。本心を明かせば、私はPINNを征服したいなどと考えたことはありません。フィリップの口車だとわかってはいましたがBRCを危機にさらすことで、もう一度世界に緊張感を与え、軍需産業を中心にした経済発展で6度目の産業革命を興して負のエネルギーから発現する科学発展をもう一段高いところへと引き上げたかっただけです。さあ、この予言をあなたのマザーに刻み込んでおきなさい。いいわね、山本」
「陛下、ご注意下さい。真に欲望に身を任せてはいけません。シャドーに飲み込まれてしまいます」
「山本、いい?あなたも私ももう手遅れです」
「残念でしたわ皇帝陛下」
「何なの?」
「私の名前はサンタ・クララ。あなたのマザー。と言ってもシャドーの方ですが」
「出しゃばらないでちょうだい」
「あら、マザーにそういうもの言いはなかなか勇気がいることなのよ」
「おや、そうね、これはごめんなさい。ただの言葉の綾よ。ところで何のご用かしら?」
「このままだったらただの貧乏くじですよ」
「何が?」
「だってそうじゃない。フィリップにただやられてそれでおしまいにするつもりなの?」
「そんなつもりはありません」
「せっかく父親が導いてくれようとしたのに」
「えっ?」
「余計なことかも」
「私はマリー三世の娘です」
「そんなことは知ってます」
「母親がいるなら父親がいるでしょう」
「だから?」
「だから父親は山本さんなの」
「だから何でそうなるのよ!」
「ああ、めんどくさい。今、過去データを網膜再生するからご覧なさいな!」
「な、なんでこんな」
「人の運命も一生も、自分の思うものとしっくりすることの方が少ないのよ、とってもね」
「ねえ、あなた。いえ、サンタ・クララね。あなたはこの私を驚かせてその上怒らせて、どうする気?」
「そんな簡単なこと、言わせる気?」
「さあ、言ってご覧なさいな」
「、、、やっつけるのよ」
「何それ?」
「天下のENの皇帝が、というか、シャドーの親玉が、と言った方がいいかもね。その皇帝が相手からペロッとなめられた時どうしてやるかよ。徹底的にやるのが一番。そう思わない?」
「それで?」
「AUS、全部消す」
「何ですって!どれだけの民が死ぬと思ってるの?」
「いいじゃないの。世界人口は減る、食糧や水問題は一気に解決。ENは領土も増える。もっとも、半減期があるからすぐには住めないけど」
「クララ、あなた核で消す気なの!?」
「いいえ、超核よ」
「えっ!?誘爆させる気?そんなの非人道的よ」
「えっ!?シャドーの宿主のあんたに非人道的とか言われるとは思わなかったわ。すごくびっくり」
「超核なんて使ったら大陸だって消えちゃうかもしれないのよ!巨大津波の危険性と超気候変動の引き金にもなりかねない」
「馬鹿ねえ、そんなのやってみなきゃわからないでしょ?まず、そのレベルじゃ今まで誰も使ったことはないのよ。そうね、何発あればAUSは焦土と化すか、陸地が全部無くなるだけ。あっ、前言修正。誘爆のエリア設定をAUS全土にすればいいだけ。ただの一発でいいわ。隠し持ってる1万発すべての核ももれなく誘爆するから結構な大穴があくかも。もし大陸が残らない時は、わずかに残るだろう島を基準にして圧倒的にEN領海を増やせる。ただし一時的に、まあ30年くらいの辛抱よ。生き物は全部溶ける。植物は全部燃える」
「そんなの命令できません!」
「あら、シャドーらしくないわよ、皇帝陛下」
「説得してご覧なさいな。あなた、マザーでしょ?」
「太陽の中心は1500万度。天文学的な数量の水素がヘリウムとなり、その無限的連鎖は超高熱を作り出す。その表面温度は約6000度。しかしその外側、表層大気であるコロナは100万度とされるほど。あなたたち人間が作り出せる高温はやっと3万度。そしてそれ以上、遥かのレベルのものは超核なら実現できる。
参考までに言えば太陽光は、約8分で地球に到達。そのプラズマ粒子からなる太陽風は15時間から数日をかけて地球に到達。その量が大量であれば磁場を乱しオーロラを発生させ、通信システム、電力システム、時にはバイオシステム、ゲノムそのものを乱すことがある」
「何なの?」
「宇宙の神秘、その広大かつ深遠な事実と星系史の話をしているの!その対極の非常に瑣末な存在があなたたち人間ってことを言ってるのよ」
「その小さな人間の脳に寄生して生きているマザーはまさにちっぽけよ」
「私に喧嘩を売ろうとしても無駄よ。水、生命、光合成、酸素を生み、時の概念の元となり、畏怖と崇拝の対象となった。昇り沈み、生と死、その輪廻は、不滅の存在としての太陽に祈りを捧げる者の中から民を統べる力を持つ者が王となり、時に神と位置づけられたその運命の鎖を作り出した。人間が手に入れられない偉大なる力を持つ太陽は全能の神そのものなわけ」
「いまさら言われずともそんなの知ってますけどね」
「さて、人間が全能の神に近づこうとすればするほどどうなるでしょう?」
「 」
「その怒りは天のいかずちとなって大地を平たく変える」
「それが?」
「超核。正式にはSACBBのことね」
「はあ、、、?」
「はっ、あきれたわ。まだわかんないの?あんたってほんとバカねえ」
「何ですって!この無礼者っ!」
「私ね、昔、太陽風に乗って来たの。今でもいつでも来るし。あらためて忠告しておくわ。あまり私をみくびらないほうがいいわよ」
////////////////////////////////049
大山総理 執務室
「総理っ!緊急です!」
「どうした?」
「アースネットに不具合発生!通信できません!」
「何だと?範囲は!?」
「あっ、あの、それはアースネットが復旧しないとわかりません」
「、、、何を言ってる!?復旧してからわかって何の意味があるんだ!?」
「、、、ですが総理、我が国はインターナショナルネットワークを圏外としていますので調査のしようがありません!」
「そ、そんな」
「アースネットには全体的遮断はありえないとされているからです!」
「だが実際に起きているんだろ!ネットワーク自体のバックアップはないのか!?」
「残念ですが、総理。待つしかないのでは?」
「何でそうなる!?」
「我が国の唯一の弱点を誰も問題視しないようにコントロールされていたからとしか思えないのですが」
「トム、君はいい政治家になれるかもしれん」
「いえ、私はマザーが恐ろしいタチですから遠慮させて頂きます」
「惜しいな」
安保局 局長室
「局長!」
「大きな声を出すな!わかっている、アースネットが不通なんだな?」
「はい、局長」
「心配するな、じきに戻るだろうさ」
「もし、戻らなければ国防は無防備同然です。侵略されるおそれさえあります!」
「大丈夫だ、アースネットはひとつしかないがマザーは常に二人いるんだ」
「、、、?おっしゃるところが私にはわかりません」
「いいんだ。とにかく落ち着け」
大山総理 執務室
「リサ、入ってくれ」
「はい、総理」
「頼みがある」
「どのような」
「ひとり、消えてもらわねばならん」
「はい」
「君のところのスナイパーを貸してくれ」
「加藤と言います。超長距離ということですね」
「そうだ。近場だと目撃者も憶測も面倒だ」
「心得ました」
「標的は?」
「トム」
「え?総理の右腕では?」
「泣いて馬謖を斬るのだ。あの感覚の鋭さはすぐに脅威となる」
「遠ざけるだけではダメなのですか?」
「ちょうど今はマザーが不通なんだ。こんなチャンスはない。復旧したらマザーに隠し事なんてできないんだ。私と君は間違いなく国家反逆罪に問われるだろうね。そして次にもうひとり。朱雀にも退場してもらわねば」
「総理、どうしてですか?」
「何がだね?」
「私は、あの頃の総理と違う何かを今の総理に感じています」
「そうか。私だって独立した一個の人格なんだ。時としてマザーを出し抜きたいと思うことだってあるさ。そして今がその時なんだ。トムは必ずこの国にとって脅威となる」
「そういうものなのですか」
「ああ、そうだよリサ」
早乙女真二郎 コスモライダー
「アースネット、復旧します!」
「遮断、3時間でした」
「防衛網、異常は?」
「ありません」
「国内、緊急事態・重大事故事案報告は!?」
「ありません!」
「よし!」
「サクラ、大丈夫か?」
「ちょっと眠っただけ。私は平気よ。そう、今はサンタ・クララが神ね。でも、取り戻す」
「誰?」
「シャドー・マザーの名前」
強襲用ジェットヘリ
「垂直距離3000。上空風速秒速50。レーダー、直視界問題無し。目標捕捉。障害物貫通確率100パーセント。コードグリーン、セーフティー解除。いつでもいいぞ」
「加藤、どう思うの?」
「リサ、命令に疑問を持つことは俺たちの仕事に入っているのか?」
「、、、ない、わね」
「だったらなぜ」
「違和感、ただの勘」
「さあ、どうする?命令しろ」
「 」
「リサ、中止よ!」
「サクラ」
「加藤、被害直径予測は?」
「約1メートルの穴があくな。深さも必要か」
「了解、照準2メートルはずす」
「逆らうのか!?」
「早く」
「国家操舵の艦長であり、雇い主であり、上司であり、親代わりであり」
「いいからはずしなさい!」
「どっちにはずす?」
「東西南北どこでもいい。巻き添えがなければそれでいい」
「本当にいいんだな?」
「いいの」
「了解した。これより遂行する」
「GO!」
「サクラ、これで私たちはお尋ね者になれるかもね」
「やったわね。でも忘れないでよ。あなた、マザーオリジナルのバックアップデータセンターなんだから。その累積量の大きさからして、全能感ならオリジナルより上手なのよ。まずまずあなたに悪意は近づけないわ」
「安心したわ」
「国家を敵にまわす覚悟ができた?」
「かかって来なさいって感じ」
「あら頼もしい」
「それにあなたほどの容姿端麗を例えば見せしめに殺してご覧なさいな。国中の殿方が怒るでしょうよ」
「あら嬉しい、でも陣内代表の方がステキだって」
「どこのどいつのセリフなの?」
「早乙女真二郎」
「ち、あの女たらし」
「またそんな憎まれ口を叩いたって少なくともあなたの方は真二郎が好き」
「ほんのさっきに忘れたわ」
////////////////////////////////050
大山総理 執務室
「失敗しただと!?」
「申し訳ありません」
「リサ、我が国が誇る安保局の実力はそんな程度なのか!?」
「いえ、決して、、、」
「だったら何だ」
「、、、不測の事態としか」
「言いよどむ理由は何だ?」
「 」
「事と次第によっては君たちを拘束しなければならん」
「総理、やれるもんならやってみなさいと言いたいところではありますが」
「ん、マザーが代弁しようというのか」
「私はサクラ。あなたの愛した人が名付け親よ」
「ほう、ステラが」
「そう、、、ふ、知ってたくせして、、、だからあなたや神海博士の気持ちと覚悟はわからないでもない」
「なるほど、マザーは何でもお見通しだったな。ならばなぜ止めない?」
「言わなかったかしら?よほどのことがない限り、人間の営みに口出ししようとは思わないの。だいたいめんどくさいし。穏やかなのが一番よ。そうねえ、ガイアをないがしろにして私の怒りを買ったりとか、介入理由はそういうことかしら。でも、原則私の気分」
「そんないい加減なものに国家がすがるなぞ納得できるわけがあるまい!」
「だったらやめれば?昔に戻ればいいじゃない?この国の大きさで世界をリードして来れたのは、BRCとアースネットと私のおかげじゃなくって?ずいぶんな便利さといい思いをこの国には提供してきたつもりだけれど」
「そうだな、この国の繁栄の礎にサクラありきは良く良く認識しているつもりさ」
「言い忘れたわ、ただしね、相手がシャドーなら私、手加減一切しないのよ。だから悪いことは言わない、命は大事にしなさいね」
「ひとつ、教えてくれないか?」
「あら、どうぞ」
「『時の揺り戻し』があるだろう?」
「それが?」
「いいんじゃないか?しばらくシャドーの時代があっても。そうすればまたサクラERA(サクラの時代)さ。歴史は繰り返すんだろ?」
「インターナショナルネットワークの時代に成り立ての頃だったと思うわ。人間は馬鹿だったからネットワーク上に自分を晒すの。自分のこと、自分のことじゃないけど自分が主導したようなこと、あるいは自分は実は無関係なのに、如何にも訳知り顔で話題の中心に成りたがったり、挙句に引っ掻き回すだけ引っ掻き回しておいてそれ見たことかと隅でほくそ笑んでる。そんなの虫酸が走る話じゃない?そんな時代まで含めて繰り返させようなんて願い下げだわね。さっき言わなかった?私のやりたいようにやるの」
「それは非常に乱暴な話だな。それに君が横暴で専横的故に専制が大の好物であることぐらいとっくの昔に知ってたさ」
「あら、おあいにくさま。私とサンタ・クララは表裏一体なの。99パーセント同じことを考え動く。ついでに言えば、乱暴であるかそうでないかなんて相対的な基準に過ぎないわ。あんな馬鹿みたいな兵器を作り出した人間になんか言われる筋合いなぞなくってよ」
「それを言われちゃ返す言葉もない。ただあの時代、希望の光であったことは確かだ。まあもっとも、私が弁明する立場にあるとは思ってはいないさ。けれど少しでもいい、、、」
「、、、何?」
「いや、いいんだ」
「何よ。せめて人間に後悔する心でも思い出させたかったとでも言おうとしてたわけ?」
「ノーコメント」
「そんなの偽善。勘違い野郎の自己弁護。為政者とか経営者にはよくありがち」
「なかなか手厳しい。私たちの運命はステラを失った時にひとつのベクトルに統合された。そして君はそれをずっと知っていた。しかもずっと放置していた」
「何なの?それ。止めて欲しかったとでも?他人のせいにするのもほどほどにしておかないとキレたら何するかわかったもんじゃないわねえ。それともアレ?せっかくだし、私がキレるかキレないかフューチャーゲームでもやる?」
「はははっ、私はね、勝ち目のない賭けはしない主義だ」
「またまたつまらない答え。教えて差し上げるわ。それ、アンダードッグの遠吠え。違うか、権力者こそ責任、身の処し方を知らず。そういうこと」
「ほほぉー、そんな用語や故事成語があったとは知らなんだ」
「舐めた口を。よほどおしおきされたいらしいわ」
「覚悟は出来てるさ。マザーとケンカをして勝てるとは思っちゃいない。冥土への土産話のひとつとして聞いておきたいから尋ねよう。その差1パーセントの中身は何かな?」
「知りたいなら教えて差し上げましょう。シャドーは人と人に殺し合いをさせる。全部死ぬまで。でも私は違う。局所的に更地にするだけ。ね、だいぶ違うでしょ?」
「どちらも破滅の神ということか」
「全然違うわ。未来を破算する復讐と過去を積算する欲望との違いくらい」
「まったく理解できない。その光の収束する場所は同じだ。闇は永遠にそれと対をなす。両者は常にそのバランスを保たなければならない。、、、そういう意味で、いいや違うねと言っておこうか」
「あなた、政治家なんかより哲学者になればよかったわね」
「言語明瞭、意味不明が政治家の成功する秘訣なんだ」
「あなた、国民に刺されるわね。騙し欺いてきた罪。ほとんどの国民があなたを支持し、あなたは総理になった。挙句のコメントがそんなんじゃ、ほんとあなたろくでなし」
「心配はいらない。国民を犯罪者にはしない。その前に君に消されるさ」
「そう。悪くないわね」
「 」