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財布譚  作者: 坂本梧朗
10/10

第10話

 緊急に必要なものはないと思っていたが、リクエストしていた本が届いたという知らせが図書館からあった。それを借り出すのには利用カードが必要だった。その本は他の図書館から取寄せたものだったので、、早急に読んで返す必要があった。私は利用カードは今は手もとにないが、二十日を過ぎれば戻ってくるという、自分でも説明しにくい事情を係の人に話して、何とか借りることができた。

 二十日を一週間ほど過ぎて、財布は私のもとに戻ってきた。着払いの小包で送られてきた。愛らしい薔薇の花模様のついたピンク色のビニールの小袋に入れられ、白い紙箱にきっちり納められていた。

 私は財布を取り出して眺めた。苦労させられた奴だった。こいつがポケットに入ってなかったばかりにどれだけ苦しんだか。確かにこいつは大した奴だ。宇佐から帰ってきたどころじゃない。海の向うの異国から帰ってきたのだ。

 私は財布を手に取って、厚く膨らんでいる黒皮を擦った。この財布に私は強い(えにし)を感じたものだ。何度姿を消してもまた現れてくる。切っても切れないような私との強い絆を。それは決して無くならない強運の財布であり、縁起の良い財布でもあった。

 財布は確かに今回もリカバリーを果した。しかし私は喜べなかった。さすがに辟易していた。リカバリーするのはいいが、それまでに蒙るダメージがひどすぎる。ちょっと洒落にならない。

 私はこの財布に引退を願うことにした。既に次の財布は手もとにあった。妻が自分の財布を買い換えた機会にお揃いのような作りの財布を買っていたのだ。それはこの財布の何回目かの紛失の折で、まだ見つからない間のことだ。しかし財布は現れ、新しい財布の出番は訪れなかった。今回、黒皮の財布が海の向うに行っている間、私はスタンバイしていた財布を既に使っていた。同じ二つ折だが、革の鶯色の色も、手触りも良く、名刺などがまだ溜っていないせいもあろうが、スリムなのがまた良かった。尻ポケットの出し入れがとてもスムースだ。

 私は黒皮の財布から、紙幣・硬貨・診察券・名刺・カードを全て取り出した。財布は平たくなった。私はそれをピンクのビニール袋に再び入れ、白い紙箱に納めた。そして書斎の机の抽出しに丁重に仕舞った。


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