3 石崎フェリーターミナル
獅子丸はいつも通りの仏頂面で、徳川の隣の椅子に腰かけた。
徳川は、おどおどと獅子丸の顔を覗き込んだ。
「兄貴。すみません、ジョーク、つまんなかったっすよね。ねえ、そんな怖い顔しないでくださいよ」
「元からこういう顔だ」
獅子丸はロクに目も合わさずそう言うと、続いて秋本の方を見た。
「ドン秋本、いつもお世話になっています」
「獅子丸、ごきげんよう」
秋本ファミリーのドンである秋本は、おっさんとじいさんの中間くらいの雰囲気をしている。清潔感のあるまとまった黒髪には、少々白髪が混じっている。
獅子丸が秋本とのあいさつを交わすとほぼ同時に、獅子丸のもとへメニュー表が運ばれた。胸元の開いたシャツを着た金髪の女が、テーブルの上にメニュー表をおいた。メニュー表はラミネート加工されている。
金髪の女は前傾姿勢ではあるものの獅子丸の方へは目を向けず、虚空を見ながら流れるような雑な喋りで挨拶をした。
「いらっしゃーまースー。メニュー表どーぞ。ご注文お決まーなーアーったら、お呼び下ァーア」
聞き取らせる気が全く感じられない言い方である。しかも、高い声で語尾が上がる謎めいたクセがある。
金髪の女はくるりと身を返し、カウンターの方へ行った。獅子丸はその後ろ姿を眺めた。
この店に来てあの子を見るのは初めてではないが、やはりおっぱいと尻が大きいのは素晴らしい。今風のちゃらんぽらんな女なのは残念だが。獅子丸がそんなことを考えていると、徳川が耳打ちしてきた。彼女の尻を目で追っていたのは、獅子丸だけではなかったのだ。
「兄貴、あの子のおっぱいとお尻は魅力的ですよね。たぶん今、同じこと考えてたでしょ、ヒヒ」
「お前と同じことを考えていたとは、恥ずかしくなる」
獅子丸はぼそりと呟いた。
徳川と秋本は既に酒を飲んでいたので、獅子丸は自分の分だけ注文した。やがて獅子丸の酒、ジントニックがきて三人で乾杯を交わすと、秋本は本題を話し始めた。
「獅子丸、徳川。明日の二三時、石崎フェリーターミナルへ行ってくれ。松山の西にある港だが、場所は分かるな?」
石崎フェリーターミナルは、瀬戸内海の島々や広島と、松山市とを繋ぐ港である。秋本は話を続けた。
「広島へ送ったポルノグッズの報酬として、違法ドラッグが届く予定だ。受け取りの手続きや荷下ろしは、そのあたりに詳しい運び屋が済ませてくれているはずだ」
「その運び屋の名は?」
獅子丸が聞いた。
「コードネーム『レッド』。その名の通り、いつも赤い帽子をかぶっている。レッドが違法ドラッグを積んだ箱を準備して待ってくれているから、そこまで行ってその箱を受け取ってほしい。まあ、単純な作業さ。手こずることはないだろう」
「へへへ、ドラッグ。楽しみっすね。俺ら二人で行くんすか?」
今度は、徳川が質問する。
「いや、あとひとり、木崎が同行する予定だ。木崎が車を出してくれるから今から言う場所に集合して、拾ってもらえ」