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15 セックスオンザビーチ

 やがて、秋本のバーへついた。バーへ入ると、奥の席で秋本が手招きしてくれていたので、二人はそこへ座った。獅子丸は秋本に挨拶をし、ハットを脱いでテーブルの上へ置いた。座って間もなく、立命館と言う例の何を喋っているかよく分からない女店員がやって来た。

「いらーあすー。ごちゅーも、お決まりっしたら、おーがースー」

 前よりも何を言っているか分かりにくくなっていたので、獅子丸は吹き出しそうだった。おおかた、ファーストドリンクを聞きに来たのだろう。

そのとき、立命館が前かがみになり、豊かな胸、その谷間があらわになった。以前より、もっと胸の開けたシャツを着ている。

 獅子丸はその谷間に視線を向けながら、注文をした。

「生ビールおねがいします」

「あ、俺はセックスオンザビーチで」

 横から徳川が、耳を疑う名前の酒を注文した。

 立命館はメモをとりながら復唱した。

「生とセックス、おひとつずつですね」

 いつもは聞きとりにくいやる気のない発声をしているくせに、今の一言だけやたらとはっきり復唱すると、立命館はカウンターの方へ去っていった。

「彼女、前より派手な服になっていますね」

 と徳川。

「ああ」

「あれっすか、佐倉さんがあんまり大きくないから、巨乳の女に目を引かれるんすか」

「あのな、なめるなよ。佐倉は隠れ巨乳だぞ」

「ヴェ!」

 徳川が驚き、意味不明な声を発した。


 やがて飲み物が来て、獅子丸と秋本、徳川の三人で乾杯すると、秋本が何やら三つ折りにされた白い紙を、テーブルの上へ置いた。

「獅子丸、実はな、お前は良いタイミングでこのバーへ来たんだ。いや、良いタイミングかどうかは分からんな。だがとにかく、お前に用があった」

「はい、何のことでしょう? この紙のことですか。『果たし状』?」

 獅子丸は、机の上に置かれた紙を見た。何らかの手紙らしいが、表に綺麗な字で大きく、『果たし状』と書かれてある。

 秋本が、この果たし状について説明し始めた。

「ああ。なんともふざけた手紙だ。この果たし状が、今日このバーへ送られてきたらしい。おおかた、何かのイタズラかと思ったんだが……。とりあえず、俺は中身を開いて確認してみた。獅子丸も見て見るといい」

「はい。失礼します」

 獅子丸は果たし状を手に取り、開いてみた。表と同じく綺麗な字で、文が書かれている。


――拝啓 ししまるたいが様

  てめえに決闘を申し込みさせていただきます。そして俺が勝ちます。

二月三日  一条寺 京介――


 一条寺からの果たし状だ。獅子丸はこれを読んで、いまいちどういった反応をすれば良いのか、分からなかった。

「読みました。春山ファミリーの一条寺からの果たし状で、間違いないかと」

 獅子丸はそう言って、果たし状をテーブルの上へ置いた。

「そうだな。俺も果たし状を読んだとき、一条寺と言う名に覚えがあるなと思ったんだ。春山ファミリーでも有名な、一癖ある男のことだろう。何か恨みでも買うようなことをしたのか」

「いいえ、何も。なぜか一方的に目を付けられているだけです」

「ふむ。しかし、文面の通り決闘をするのが目的にしても、日付も場所も指定されておらんな。これでは、果たし状の意味がない。やはり、真面目に書いた文ではないだろうな」

 確かに、普通に考えるなら、秋本の言う通りだ。獅子丸は思った。そして、仮に一条寺がそばにいるなら、すぐさま頭をひっぱたき、突っ込んでやりたい。日付も場所も書かれてない果たし状を出すなと。

 こんな手紙一枚で、決闘が成り立つわけがないだろう。アホすぎる。だが、一条寺なら、本気でやりかねん。あの男なら、大真面目にこういうことやってきそうだ。

 直感的に、そんな感じがした。

「ドン秋本。確かに、この果たし状はイタズラか、本物のアホが書いたかのどちらかしかないでしょう。ただ、一条寺の場合、後者の可能性が十分にあり得るんです。言っていることがよく分からないかもしれませんが、とにかく、やつはそういう男なんです」

「そうか……。まあ、警戒のしようがないかもしれんが、くれぐれも突然の攻撃には気を付けるんだぞ」


 結局、果たし状は獅子丸が持っておくことになった。

**



 一週間が経った。寒い夜、暖房のついた部屋で、獅子丸は家に音羽を呼んでいた。いつも仕事の前にオーダーする、ヘルス嬢の音羽だ。しかし、今夜は別に仕事があるというわけでもない。獅子丸はこれまでで初めて、仕事もないのに音羽を呼んだのであった。

 確たる理由や動機があったわけではないが、なぜだか、呼びたい気分になったのだった。

 暗い部屋の中、音羽は早々に服を脱ぎ、裸になった。ベッドの上で獅子丸のシャツを脱がせながら、音羽は話しかけてきた。

「明日はお仕事で?」

「いや、明日は特に予定はない」

「まあ、珍しい。いつも明日は仕事だっておっしゃっていますよね」

「よく覚えているな」

「よく指名いただいているので、覚えてしまいました。明日、ゆっくりしてくださいね」

「ああ、ありがとう」

 そんな会話をしているうちに、獅子丸は次々に服を脱がされ、パンツ一丁になった。獅子丸はこのとき、まさか今晩、獅子丸の人生最大の命のやり取りが行われることになろうとは、思ってもいなかった。


 時間とお金が溶けていく。三〇分後。音羽はあぐらをかいている獅子丸のイチモツを舐め回していた。舐め回されながら、獅子丸は考え事をしていた。

 なんで俺は、これを止められないのだろうか。六〇分で一万三千円が消える。特別楽しいとも思わない。けれど、定期的に音羽を呼ぶ。ああ、病気だな。なんとなくそう思った。


 佐倉は、獅子丸の風俗通いを見逃している。音羽と初めて会った次の日、佐倉に会うと、「なんだか別の女のニオイがする」と言われた。

 ちゃんと風呂に入ってから会ったのに、すぐさまバレた。誤魔化しても仕方がないから、獅子丸は素直に答えた。風俗に行きましたと。

 獅子丸は、怒られることを覚悟していたし、なんなら別れを切り出される可能性すら考慮していた。佐倉は基本獅子丸に甘いが、さすがにこれは甘く見てもらえる問題ではないだろう。佐倉の価値観、考え方次第では、破局だ。

 だが、佐倉は特別怒るでもなく、涼しい顔をしていた。獅子丸は、「ビンタを何発くらっても文句は言わん」と言ったが、特にお仕置きも喰らわなかった。風俗は別に許可するらしい。

 理由を聞くと、「浮気だったら、そりゃあ許さないわよ。けど、まあ風俗はいいんじゃない? 商売でしょ。お金払って、経済回しているわけだし」といっていた。

 経済が回っていたらいいのか……。当時、獅子丸は困惑したものだった。

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