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殺意転生─THE END of BIRTHDAY─  作者: 蜜馬豊後
第1章 竜虎相搏
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第5話「咆哮─サケビ─」

 

 

 バラバラに吹き飛ぶ、ドラゴンの頭部。

 肉と皮、鱗が飛び散り、目玉が転がる。

 脳漿が波のように地面を濡らしていく。


 残った身体は、糸の切れた人形のように、力なく倒れた。鉄の擦れる音が聞こえる、パイルバンカーを装填し直したのだ。血に濡れた黒い巨人は、強靭で丸みのある肩に垂れる太い腕、その右腕には小銃を抱えて、左腕にはパイルバンカーが装着されている。

 それらを支える胴体と脚部には装甲が異様なほどに盛られていた。分厚い装甲が足そのものを覆い隠して、スカートのような形状になっている。

 この為、人機の弱点である脚部の関節は守られることになったものの機体の重量がかなり増してしまっていた。

 しかし、背中に装備された追加簡易ロケットブースターのおかげで、多少の重量感は抑えられている。その他にも背中には予備の弾倉が6つほど装備されており、上半身下半身共に大きく膨れ上がっているように見えた。


 そして頭部のツインアイは赤く不気味に光っている、獲物を狙う獣か、あるいは狂人のような眼差しは人を恐怖させるには充分であった。

 そのツインアイの内部は16個のカメラが内臓されており、それが忙しなく動いている。

 それは昆虫のようであった。そして隊長機に限定されるカスタマイズが施されている、ツノだ。頭にユニコーンを思わせるツノが天を突くようにそびえているが、その役割は主に自身が強者であると誇示する為のものであった。

 そして特徴的なのが人機の色だ。全身真っ黒で、闇夜そのものであるかのようだ。全てを吸い込むような黒と、怪しく赤い光沢を放つ2つの目、まるで死神そのものである。その外見は、異形であり、サムライにも見えなくもない。甲冑を身に纏った武士、王国の守り神、機士の魂。

 鉄の杭に血を滴らせる黒い怪物。


 あれは人機だ。第二世代人型戦闘機、弍式。

 

 第一世代人型戦闘機、壱式の誕生から30年の時を経て開発された後継機である。

 ウィータ王国の正式量産モデルであり、その性能は高い。まず、装甲がとにかく厚いのだ。

 並みの攻撃では、分厚く、堅牢な装甲の表面に傷を付けるだけで、貫通することはできない。

 故に、弍式が採用されてからは事故以外で死傷者を出すことは稀になった。

 それから、機士は世界一殉職者が多い職業から、世界一殉職者が少ない職業に変わった。

 装甲だけではなく、武装面の大幅な変更も理由のひとつだ。壱式の標準装備は、対戦車ライフル未満の口径の拳銃と、刀身が3メートルほどの剣であった、その装備の性能から近接戦闘にならざる負えない上に、そもそも攻撃力が低かった。

 拳銃はオークの盾に防がれ、剣はその筋肉を裂けなかったのだ。だが、弍式は違う。パイルバンカー、つまり釘打ち機が標準装備となった。

 銃火器は小銃、ライフルに変更された。


 パイルバンカーの威力は凄まじいものがあった、一撃で鉄製の建築物を瓦礫の山にできたのである。釘が射出された際の爆発力、突貫力はあらゆる装甲を破壊できた、オークの盾や強靭な肉体など、ただの紙キレと同然になったのだ。

 そして、小銃の誕生は戦場の様を一変させた。

 拳銃の射程は50メートル弱だったのに対し、小銃の最大射程は700メートルを優に超えていたのだ。敵の射程圏外から一方的に攻撃、さらに連射も出来たので、小銃の誕生から魔物は敵ではなくなった。


 弍式の外部スピーカーから声が聞こえた。

 若く、落ち着いた男の声だった。


「わたしはウィータ王国フィーニス近衛第1部隊隊長、アクィラ・ケントゥリアだ。学生諸君は校舎に戻るように。以上」


 それだけ言って、アクィラと名乗る男の人機は走り去っていった。

 あっという間の出来事だった。


 僕達はその様子を唖然としながら見ていたが、教師の避難への呼びかけが、金縛りを解いた。何人も教師に何があったのか詰め寄っていたが、教師も何が起きたのかイマイチわかっていないようだった。僕達に共通してわかっていることといえば、王都フィーニスに魔物が、しかもドラゴンが襲撃してきた、ということだけだ。


「アクィラ、って言ったか、あの人機の機士!」


「アクィラ・ケントゥリアだって言ってたな」


 無駄口を叩ける余裕が出来たらしいドクトルが目をまんまるにして話しかけてきた。こんなときにいったいどうしたというのだ。


「王国のエースパイロットだぜ! 模擬戦じゃ負け知らずだって話だ! かっけえぜ!」


 目を輝かせるドクトル。コイツの憧れの人であるらしい。ロボットとパイロットに憧れるのは男の子あるあるなのかもしれない。

 僕としては、そんなエースが出張らなくちゃいけない事態になっていることに、不安でいっぱいだった。


 校舎に避難してきた僕達は、教師の指示に従って地下シェルターに向かっていた。

 集団で歩いていると、僕は背が低いので人の波に埋もれそうになる。

 いつの間にかドクトルとも離れてしまった。

 手を繋いでいればよかったか。


 地下へと続く道は暗かった。

 灯りも少なく、静かだ。

 ときおり揺れのようなものを感じるが、それは上で戦闘が行われているからだろう。天井から埃が落ちてくる。


 それにしても、混雑している。

 人混みは苦手だ。

 人の鼓動というか、息吹が気持ち悪く感じる。

 いつ頃からだろう、そんなことを思うようになったのは、子供のときだったかもしれない。

 

 流れに従って歩いていると、ふと、視線の隅に僕をあの部屋に連れて来た男の姿が見えた。彼は僕を見て口角をあげると、人の流れから外れて脇道に入っていった。そこは完全に明かりがなかった。男の通った道は暗闇に続いていた。


 男の姿を見て、酷い頭痛がした。

 頭の中でミミズが這うような違和感を覚える。

 おかしい、なにが、いや、なにもかもだ。

 なにもかもがおかしいだろう。

 僕は何故、ここにいる。

 なぜ、男の話を素直に聞いて、あんな部屋で大人しく過ごしてたんだ。

 馬鹿な、この僕がそんなことをするはずがない。

 異世界に転生だったか、憑依だったかを、なぜ素直に信じたんだ。普通は信じないだろう。

 ゲームやアニメじゃないんだぞ。

 それに、僕が望むのは平穏な生活だ。

 なぜ、軍人になろうと思ったんだ。

 おかしな話だ、平穏を求めるならば普通は軍人なんかにはならないはずだろう。

 名前だって、僕はもう覚えていない。

 前世の名前だ、カンケルではなく。

 あの男が何かをしたに違いない。

 確証はないが、確信があった。

 催眠か、それとも魔法なのか

 なんでもいい。1発殴って聞き出すだけだ

 僕に何をしたのか、何をさせたいのか。

 これから何をすればいいのか。

 それは聞かない。

 それは自分で決めればいい。

 あの男の干渉は受け付けない。


 僕はあの男を追いかけた。

 怒りをぶつけたい気持ちがあった。

 足元どころか、周囲が真っ暗で何も見えないが、あの男の姿だけはハッキリと見えたので、追いかけるのに苦労はなかった。だがしかし、いつまで経っても追いつけない、僕は走ってて、男は歩いているのに。

 まるで夢の中のようだ。

 そうして、追い付けない追いかけっこを続けていると、いつの間にか広い空間に出た。

 そこで男の姿を見失った。


「おいっ、いるんだろ!」


 シンと静まり返る。音が反響する。

 誰もいないのか。

 いや、確かにここに男がいるはず。

 パチン、と指パッチンに似た音が聞こえた。

 不意に、明かりがついた。

 暗闇に慣れていた瞳に、痛みが走る。

 目を細めて、歪む視界に巨大な何かを捉えた。


「これは」

 人機。銀色で、先程見たアクィラの搭乗するものよりもスマートだ。

 脚部と胸部の装甲が薄い。肩は丸みを帯びていて、両腕にはパイルバンカーが取り付けられている。モノアイの頭部には二門の機銃が格納されていた。見たことのないタイプの人機だ。


「人機……なんで、こんなところに」


「そいつは、雪風。主力人機弍式の後継機……の試作機さ」


 人機から声。違う、人機横の階段のタラップからだ。

 僕が追っていた男ではない、白髪の女児が仁王立ちでこちらを見下ろしていた。


「僕が言うのもなんだが、なぜ子供がいる?」


「子供じゃないわい!」


 失礼な奴だ、と腹を立てる女児らしき人。


「それにそれは我輩の台詞じゃい! なぜここに子供がいる! その制服、アストルム学園のじゃろ!」


「男を追ってきた。見てないか」


「男ぉ? 見とらんわ、まったく。不審者ならここにおるがの、お前のことじゃい!」


 そんな馬鹿な、確かにここにやって来たはず。

 いや、まさか誘導されたのか。

 目の前には人機がある、もしかしてあの男は僕と人機を引き合わせたのか、何の為に。

 それともこの女児と? それこそ理由がわからない。僕はタラップを上がると、人機の頭部から出ているチューブを弄っている女児に近付いた。女児は僕が近づいて来ているのに気が付かなかったようで、ふと振り向いたときに驚いて目をまん丸にした。


「ギョエェー! なに勝手に上がってきておるんじゃ! さっさと元いた場所に帰らんかい!」


 奇声をあげる女児。

 銀髪は長く、ダボダボの白衣を着ていた。

 近づいてみてわかったことがある。頭部に小さなツノが生えていた、女児は僕がツノを凝視しているのに気がつくと前髪でツノを隠そうとする。僕は屈むと髪をどかしてツノを晒した。


「な、なにするんじゃい!」


「綺麗だな」


「ぴぇっ?」


「ツノが」


「ツノが!?」


 不意に地面が揺れた。タラップもガタガタと揺れる。天井から埃がパラパラと落ちる。

 衝撃が近い、真上で戦っているのか、激しい音が頭上から聞こえる。何かが割れるような音が響いてきて、よく見ると天井には大きな亀裂が入っていた。崩落するかもしれない。


「ここもやばそうじゃの、おいお主、名前は」


「カンケル」


「我輩はルナ。この人機を見られたからにはカンケルにも手伝ってもらわなきゃならん」


「なにをすればいい」


「コイツに乗れ!」


「わかった」


「ちょっと待った!」


 なんなんだ。乗れと言ったり止めたり。


「お主、おい、カンケル。お主、躊躇いってのはないのか!?」


「躊躇ってる状況じゃないでしょ」


「まぁ、確かに、それはそうじゃが」


「それに、どうやら敵はこちらを狙っているようだ。聞こえるか、ルナ」


 耳をすまさなくても聞こえてくる戦闘の音らしきもの。

 これは戦闘の音ではない、規則性がある。

 どん、どん、どん、どん。

 叩きつける音だ。

 地上、僕らからして天井を割って、ここにドラゴンが侵入しようとしている。

 それだけわかれば判断は早かった。


「まずいの、よし、乗れ、いますぐ乗れ、早くせんか!」

 僕の言いたいことが理解できたらしい。

 ルナは顔を青くして催促してくる。

 頭部のチューブを無理矢理押し込んでいた。


「わかってる。コックピットハッチを開けてくれ!」


「もう開けた!」


 返事をせずにコックピットに飛び込む。

 シミュレータとほぼ同じだ、これなら操縦に苦労することはない。コンソールを弄っているとルナもコックピットに入ってきた。


「我輩も乗せろ!」


「座れるとこないぞ」


「膝の上でいい!」


 ちょこんと膝の上に座るルナ。

 ぬいぐるみを乗せてる気分になる。

 正直、かなり邪魔だが仕方ない。

 コックピットハッチを閉める。

 モニタが映る。

 小難しい文字列が並んでいた。

 見覚えのある言葉の羅列だ。

 シミュレータで散々見た覚えがある。

 

「メインジェネレーター起動。人機エンジン起動。武装管理、火器管制システムチェック。戦闘サポートAI起動。各部モニタ、計器確認。重力セッティング、バランサ修正、各部動作チェック、正常。全システム問題なし。出力80パーセント。メインシステム、戦闘モードに移行。……パイルバンカー、装填」


「か、カンケルお主、手慣れておるの、いまの学生はこんなに手際がいいのかえ?」


「どうだろうな……さて、来るぞ。舌噛むなよ!」


 ルナの言葉を適当に流しつつモニタを確認。

 生体反応が二つ、上部。落下。


 天井の崩落と共にドラゴンが2匹落下してきた。奴らはまだ、こちらに気が付いていないようだった。なら、先手必勝だ。

 悪いが……死んでもらう。


「ブーストッ! うおぉおッ!」


 咆哮。タラップを弾き飛ばしドラゴンに向かって弾丸のように駆け出す。こちらを認識して、状況把握する前にまず1匹。ドラゴンの顎に鉄杭を捻じ込み、パイルバンカーで粉砕。血液が水風船を割ったようにぶち撒けられた。倒れる巨体を足蹴にして、もう1匹。こちらに気が付いたドラゴンは、仲間がやられて混乱している。僕はドラゴンの首を掴んで背負い投げをした。そして、パイルバンカーで地面ごと粉砕してみせた。

 


 

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