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殺意転生─THE END of BIRTHDAY─  作者: 蜜馬豊後
第1章 竜虎相搏
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第22話「考察─コウサツ─」

 

 僕とプエラはガエンに搭乗して時を待つ。

 エンジンを始動させていないので、静かだ。

 この狭い空間に二人きり、後席からは、やや荒い息遣いが聞こえてくる。緊張しているのだろう、わかる、だがまだ戦場には立っていないのだ、少し落ち着いてほしい気持ちがあったが、僕は放置した。いまどんな声をかけても、僕では彼女を安らげることはできないと思った。


 狂人どもに対する反抗作戦の準備が整い次第、出撃することになっているが、何をもって整うと言えるのだろうか、奴らのアジトでも調べているのか、どうやって。王城の前にいた奴ら、あの中に捕虜となった者がいるのならば尋問できるのだろうが、素直に答えてくれるか、僕にはわからない。


 前世で僕は沢山の人を拷問したが、お話をしてくれる人というのは案外少なかった。特に軍人は死んでも情報を明かさない者が多くて、イライラしてしまって雑なやり方で尋問をしていた記憶がある。


 この世界の人々はどうだろう。

 簡単に口を割ってくれるのか。

 口を割らせることができるのか。


 いまこうして振り返っても、罪悪感などカケラも沸き上がらなかった。愛妻家の目の前で妻子の頭をバットで潰したのも、青年の指を粉砕したのも、軍人の歯を引き抜いたのも、全ては僕に必要なことだったからだ。不思議な話だ、幼い頃は虫すら殺せない人間だったのだ、僕は。それが沢山の人々を殺害し、生まれ変わっても人を殺している。

 酷い星の下に生まれてしまったものだと、思わず笑いそうになってしまった。


 そんな僕の様子が気になったのか、プエラが話しかけてくる。


「なにか、面白いことでもあった?」


「なんでもないです。それより緊張がまだ続くなら深呼吸をしておいたほうがいいですよ。多少は落ち着きます」


 不意に通信機から男の声が流れた。


「こちらアクィラだ。カンケルくん、聴こえているか?」


 アクィラ、なぜ通信を?


「キミが新型機に搭乗することはデルタ様から聞いた。私としては反対の立場だが、命令だから仕方がない」


「それで、要件は?」

 

 愚痴や説教を聞くつもりはない。

 こうしてわざわざ通信を入れてきたのだ、何か理由があるに違いない。


「……キミが先程までいた病院だが、既に無い」


「なに?」


 病院が無い。どういうことだ、それは。


「いまさっきこちらに合流した部隊が、ここに来るまで生存者を探しに病院に寄ったようだが、瓦礫の山さ。もう建物があったという痕跡しかないようだ」

 

「マーテルさんは?」


「見つかっていない」


 大きく息を吐いた。見つかっていないのならば、まだ生きている可能性はある。

 絶望するのは早い。


「話はそれだけじゃない。奴らのアジトがわかった」


「一応尋ねますが、それはどうやって?」


「子供を殺した奴がいただろう、さっき。生きていたから捕まえて、拷問したらあっさり吐いた。情報も信憑性がある。まず間違いないといっていい」


「……そいつはどうしたんです?」


「殺した。不都合あったか?」


 いや、別に。もしかしたら僕より才能あるかも。

 そんなふうに思っただけである。

 人権意識の低い世界だ、拷問内容も苛烈を極めたものだろう。ご愁傷様としか言いようがない。


「あっさり吐いたって……ということは、奴らが何者なのかも?」


「冥計会だ」


 なんだ、それ。活動家団体の名前か?


「軍施設の前でデモ活動をしていた集団を見たことないか? 奴らだよ。何をトチ狂ったのか、アイツらが攻撃を仕掛けてきたわけだ」


 軍施設の前でデモ活動。

 思い出すのは、ドラゴン襲撃の前日、ドクトルと見た集団だ。なるほど、あの連中だったのか。

 しかし、あんな奴らが人機を強奪して襲い掛かってくるなど、やはり僕には考えられない。

 そんなことができるのか、そんな度胸があるのか。


 なにか嫌な予感がする。


「ただの活動家団体がよくも大それた真似をしてくれたものだと思いたいが、恐らく奴らのバックにはどこかの国が関与している、と私は考えている」


「どこかの国?」


「まあ、予想はできる。確証はないが……」


「ウィータ王国の隣は軍事国家、アルス帝国があります。まさかとは思いますが、つまりは?」


「可能性は高い。アルス帝国は常々ウィータ王国を狙ってきていたからな。というか、大規模な戦闘が起きていないだけで10年以上は戦争状態みたいなものだ。業を煮やしてとうとう本格的に動き出したと考えても不思議じゃない」


 アクィラの言っていることが事実であれば、ウィータ王国は侵略戦争を仕掛けられたことになる。素人集団を陰で操ってこの国を混乱に陥れた、馬鹿な、とは言い難い。たかが活動家団体がここまで暴れられたのも後ろに強大な勢力がいたからだと考えれば、納得はできるからだ。

 それに、マーテルのことも──。

 

「侵略の尖兵が冥計会というわけですか」


「あくまで予想だがな」


 僕の脳裏を過ったのは、全身真っ暗で悠々と巨大な剣を抱えていた男の姿だ。奴はどう考えてもただの民間人には見えなかった。その雰囲気だって、明らかに普通には思えない。つまり、奴は帝国の軍人? 確かにかなりの手練れであった。弍式心神のドリルの先端を切り裂いたのも僕は見ている。

 マーテルも奴の中にある異様な何かに気が付いたから僕達を逃したのだ。

 奴がただの活動家団体で、民間人であれば、そもそもマーテルはもう帰ってきているだろう。


「わざわざ通信を寄越したのは、これを伝える為だけではないでしょう?」


「あぁ」

 と応えて続けた。


「キミには先行してもらいたい。弍式とガエンじゃあ機動性が違うし、そちらには制限時間があると聞いた。こちらに合わせていたら戦わずにコックピットから降りることになるぞ」


「了解」


 こちらとしても有り難い。

 いまこうして待機している時間すら惜しいのだ。

 奴らのアジト諸々のデータを貰い、通信を切る。

 アクィラはまだ何か言いたそうだったが、面倒そうなので早々に話を切り上げた。

 別に彼に対して怒っている、わけではないと思う。


「プエラ、出撃する。準備は?」


「だい、大丈夫!」


 本当に大丈夫か。不安になる。

 この人機の後席はサポートの為にあるわけではなく、あくまで魔力タンクとしてのものだし、彼女が緊張していようがあまり関係はない。ただ、錯乱して変なスイッチを押してしまったりしたらどうなる、それはもう大変だ。出来るだけプエラには落ち着いてもらいたいが、どうしたらいいだろう。


「深呼吸をしてください。緊張が解れますよ」


「わ、わかった。ひっひっふー、ひっひっふー」


 ラマーズ法かよ。この世界にもあるのか。

 呆れてしまって、僕の緊張が完全に解れてしまった気がする。先程貰ったデータの一部をモニタに映す。


「プエラ、いまから僕達はここに向かいます。先のドラゴン襲撃で被害が大きかった場所で、いまは誰も立ち入っていないはずの区画です」


「私、ここ知ってる」


「そうなんですか?」


「うん。幼い頃にお父様に連れられたことがあって。確か、大きな教会があったはず」


 この世界の宗教事情はどうなっているのだろうとふと思ったが、それは今回の作戦には無関係だ。尋ねるのはあとでいいか。


「懐かしいな。あの頃はお父様も優しくて……」

 

 あんな父親でも、娘に優しい時期はあったのか。

 それがどうして自分の子供を魔力タンクにしようだなんて考えるようになるんだ。


 そういえば、と僕は気になっていたことを尋ねた。


「どうして、僕にキスを?」


 沈黙。彼女から答えはなかった。

 ただ、大きく息を吐く音が聞こえただけだ。

 

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