第21話「驚愕─オドロキ─」
「テメェ、いい加減にしろよッ!」
僕の怒号が静かな格納庫に響き渡った。
ガエンのコックピットから飛び降りて、そのまま真っ直ぐデルタまで走り寄って、その胸倉を掴んだ。そして睨め付ける。貴族にこのような真似をして、ただで済むとは思っていない。だが、この怒りをぶつけなければ気が済まなかった。
「自分の娘をなんだと思っているんだ! 魔力タンクだと、人間だぞ、この子は!」
「自分の娘だから、こう使えるんだろう」
「ふざけた理屈! それでも人の親か!」
「私は親である前に技術者だ……離したまえ」
胸倉を掴んでいた手を払われる。
「プエラは魔法の才能はないが、魔力そのものは豊潤でね。この子であれば、キミと折半すれば魔力欠乏症にはならないだろう。計算が正しければ、1時間は連続で乗り続けられる」
「それを聞いて、はいそうですかわかりました乗ります、だなんて言うと思ったのか? つくづく度し難いな、貴族の物言いというやつは!」
「キミは自分を救ってくれた機士を救いたいんじゃなかったのか?」
「別のやりようはある」
「ないよ」
ここは格納庫だ、であれば──。
見渡せば佇む人機の姿が見える、整備済みのもので、武装の換装も完了しているものだ。
この男を押し退けて、それらに乗り込めばいい、そしてそのまま助けにいけば何も問題ないじゃないか。こんな人機に乗るより、遥かにいい。
「人機というのは機密のオンパレードだよ。本来であれば、キミのような学生風情を試験機や練習機以外に乗せたりなどできない。先の戦闘でも、キミが雪風に勝手に乗り込んで大問題になったというじゃないか」
「それがなんだ」
「次、許可なく人機に搭乗すれば、待っているのは極刑だよ。それでもいいのか?」
「僕の命はそこまで重くない」
と言ったときだ、これまで静観していたプエラが僕の手をとったのだ。その表情には怒りが見えた。
「そんなこと言わないで!」
彼女の叫びは僕を驚かせた。
プエラのこんな声を聞いたのは初めてだ。
弱々しく握った手が震えている。
「自分の命を軽く見るような、そんなこと言うのは……やめて」
「プエラ、だけど僕は──!?」
不意に何か柔らかい感覚が唇を包んだ。
鼻腔を通り抜ける甘い香り、僕は思わず瞼を大きく開いた。目の前には、プエラの顔が大きく映っている。つまり、これは……。キス?
「ん!?」
「え!?」
僕、さらにデルタですら驚きの声を上げた。
なぜ、どうして急に?
生暖かい感触が唇全体に伝わって、そして離れた。唖然としている僕と、顔をまるで熟れた苺のように真っ赤にしているプエラとで視線が交わる。
それから、静かになった格納庫で、彼女は何度か咳払いをして、自分の父親に向き直った。
「私、乗ります。ガエンに」
そう告げたプエラに、僕は困惑したのだった。
────
少しして、ドレスから着替えたプエラを出迎えた。彼女はパイロットスーツを身に付けている、それは僕も同じ。前回と今回は学生服や病衣で人機に乗り込んでいたけれど、本来なら対G加工されたこのスーツを着ていなければならない。いままで僕がやっていたのは、戦闘機に薄着で乗り込んで動かしていたようなもので、ハッキリ言えば自殺に近いのだ。つまり、ようやくそれなりのコンディションで人機を操縦できる、ということだ。
「一応聞きますが、本当にいいんですね」
「私もキミと同じ、助けられたからには助けたい。そう思ったの」
「死ぬかもしれない」
「キミは助けた命を投げ捨てない、責任を取ると言ったよね」
「あぁ」
「だから、安心してる。キミは、責任を放棄するような人じゃない。きっと私を想って無茶をしない。そうでしょう?」
「……それが目的で?」
呆れて、思わず笑ってしまった。
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