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殺意転生─THE END of BIRTHDAY─  作者: 蜜馬豊後
第1章 竜虎相搏
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第19話「理由─ワケ─」

 

 王城の中に設けられたテントで少しばかりの休息をとっている頃、屈強な兵士に案内されて大きな部屋にやってきた。何の為の部屋なのかわからないが、無駄に豪華絢爛な様子であり、香水を振り撒いているのか、柑橘系の匂いがする。民間人の税金を使って意味のない装飾を施しているのだと思えば、溜め息ばかりが出るのだ。そんな部屋で僕を待っていたのは、桃色のドレスを見に纏ったプエラと、黒いスーツの60代ぐらいの男だった。そこまで背は高くないが、背筋が真っ直ぐなので高身長に見えた。そして、普段から鍛えているのがよくわかる、服の上からでも厚い筋肉を想像させた。非常にガタイがいい、軍人に間違えられることもあるのではないか。少なくとも、贅肉に支配された貴族の人間には見えない。


「キミがカンケルくんか。わたしはデルタ・スキエンティア。プエラの父親だ」


 だろうと思った、プエラとデルタは目が似ている。

 彼はこちらに歩み寄ると僕の手をとって強く握った。がっしりとした手であった。触れてみるとわかったが、マメの跡がある。ただの技術者だと思っていたが、まさか自身で人機に乗っていたのか。


 お互いの手が離れると、デルタは僕と握手した方の手をハンカチで拭った。少しばかりカチンときたが、落ち着けカンケル、お前はいま色々あってイライラしているだけだから、あんなことで怒るなと釘を刺す。


「キミには感謝しかない。よく娘を助け出してくれた。本当にありがとう」


「いえ、感謝されるようなことは」


 ありがとう? 

 言葉に中身がないように感じたのはデルタの印象が最悪だからなのかもしれない。


「いいや、いいや。わたしの娘だぞ。スキエンティア家の娘だ。そこらの小娘とは価値が違う。キミはとても素晴らしい働きをしてくれたのだ」


 なるほど、貴族らしい価値観だ。

 彼の後ろにいるプエラは苦い顔をしている。

 顔に似てる部分はあれど、思想は違うらしい。

 こちらとしては、別に貴族だから助けたわけではないが、一々言うことではない。


「僕を呼んだのは感謝を伝える為だけに?」


 それだけが理由ならば早々に退散したい。

 こんなところで油を売っているほど僕の心に余裕があるわけではない。いまなお外では戦いが続いているし、マーテルさんのこともある。


「いやまさか。その程度のことでキミを呼ばないよ」


 その程度のことだって?

 僕がどれだけ大変な思いをしたのか、一から十まで語り尽くしたい気分だ。

 デルタは口角をあげる。

 ふざけた嫌味たらしい顔をぶん殴りたい。

 出会ってまだ5分も経っていないが、僕はコイツが嫌いだ。

 自分の娘が死ぬかもしれない危機に陥っているにも関わらず、こんな場所に引き篭もっていたその根性も気に入らないし、貴族感バリバリの思想も不快だ。


「ではなんです。大した用事でないのなら僕は戻りますが」


「いいのか、そんな口を利いて」


「なに?」


 何を言い出すつもりだ、この男。

 デルタの背後で人形のように佇むプエラの様子を窺うが、彼女は困惑しているというか、どうしたらいいのかといった様子だった。なんて役に立たない女だ、さっきから何も喋らずにいるし、この無礼な男に物申すぐらいしてくれ。と、理不尽な怒りが胸の内から浮き出てきた。立場的に何も言えないのはわかっている。だからこれは八つ当たりだ。


「プエラから詳しい話は聞いている。助けたい人がいるそうだが……なぜわざわざ助けに行こうとする? 所詮はただの女、ただの機士であろう?」


「どういうことです?」


「キミを助けてくれた、その女機士とはそこまで仲が良かったのか? 深い関係なのか? 長い付き合いなのか? 違うんじゃないか。ただ一度、命を救ってもらっただけで、なぜまた死地に赴こうとするんだ?」


 僕とマーテルにそこまで深い関係はない。

 ハッキリ言えば他人だ。

 というか、この世界で僕と親密な人間なんていやしない、ドクトルとは一応友人ではあるが、長い付き合いでもないし、その程度の関係である。ルナとは一緒に戦場を駆けたが、それだけだ。彼女のことを僕は何も知らない。アクィラだってそうだ、彼が誠実で有能な人間であることならわかるが、結局のところそれ以外でわかっていることは少ない。

 僕はこの世界で生きていながら、この世界に住む人々との繋がりが薄いのだ。


 ドラゴンや狂人の襲撃など、あまりにもあんまりな日々を過ごしてきたから実感しにくいが、この世界にやってきてからまだ2週間も経過していないのである。


 だから別に、命を賭けて守りたいとか、死んでもこの街を守りたいなんて、そんなことは思えないし、思わない。

 だけれど。


「助けてもらったんなら、助けるだろ」


 僕の意思に反した言葉かもしれない。

 デルタは、意味がわからないという様子で眉を下げた。プエラは一瞬だけ驚いたように目を見開いたあとに、優しく微笑んだ。


「助けてもらった恩を、仇で返す真似はしたくない。人間ならば、そう思うんじゃないですか」


 ドラゴンとの戦いで逃げなかったのも、ドクトルとその両親が僕を家に泊めてくれたからだ。

 そんな些細な理由で、最終的に僕は左肩と左腕を吹き飛ばし、生死の境を彷徨った。


 いま僕が焦燥感に襲われて、どうにかしてでも助けに行きたいと願っているのは、マーテルが助けてくれたからだ。こうして貴族の男と会話している最中だって、人機を奪取してでも助けに行くべきか考えている。


 僕は、こんな人間なのだ。

 こういう人間だからこそ、悲惨な人生を送ったのだ。

 悲惨な終わりを迎えても、僕の考えは変わらない。


「なるほどねえ」


 なにがなるほどなのか、わからない。

 どうしてそんなにニヤニヤしている?

 不安感が僕の中に現れる、この男が何を考えているのか、なにもかもが不明だ。この世界の貴族がどんな風にモノを考えているのか、中世や近世でギロチンにかけられた王族貴族と変わりがないないのであれば、気に入らないから処刑だとも言いかねない。もしそんなことになったら魔法で大暴れしてやると誓ったところでデルタは真っ白な歯を見せて笑った。


「ギリギリ、合格だ」


「合格?」


 なんのだ。なおも笑うデルタに視線で問う。

 彼は、ふむ、と頷いて僕に指を差した。


「キミには、新型機に乗ってもらう」

 

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