第18話「淫雨ーインウー」
怒りで神経が煮えたぎっている。
敵人機の攻撃を潜り抜け、ようやく王城に着いたらスプラッタショーが始まっていた。しかも相手は年端もいかぬ子供である。ミンチになった子供、人質になり泣き叫ぶ子供達。こんなものを見て怒りに震えない人間はいない。僕は狂人共の仲間のフリをして近付き、新たな犠牲者が出る前に、パイルバンカーの先端を子供達に向けていた敵人機をドリルでぶん殴った。唖然とする空間に轟く、倒れ伏す人機の音。一瞬の間のあと、慌てたように敵人機の群れが僕に照準を合わせた。
僕はいま、敵に囲まれた状態である。
つまり、発砲すれば同士討ちになる可能性があった、彼らは素人ながらもそれを理解しているのだろう、引き金を引くのに躊躇いがあった。
「いまだ!」
叫びと共に敵人機が弾丸の波に飲まれる。
遠方で待機していたメンス達による狙撃だ。
どこからの攻撃か把握できていない敵の群れは、混乱と恐怖に錯乱して、辺り一面へ闇雲に銃撃をし始める。
僕は両手両膝を地面につけて、心神で傘を作るように子供達を守った。
巻き添えにならないようにだ。
何発もの弾丸が胴体、足や腕に命中する。
この程度、問題ない。敵は、どこからともなく放たれる攻撃にばかり気を取られているから、こちらに目も向けていない。
「援護だ! ドリル付きには当てるなよ!」
「了解!」
水堀を挟んで向こう側、王城を背にする部隊からの射撃が敵に炸裂する。四方八方からの攻撃に素人が対応できるはずもなく、最後の1機が倒れるまでに時間はかからなかった。
索敵を終えて、周囲に敵の姿が見えなくなってから、メンス達が近付いてきた。
僕含め、損害なし、素晴らしい戦果だ。
「大丈夫か、カンケルくん」
「問題ないです。……君たちは、怪我ないか」
外部スピーカーに切り替えて、子供達に問いかける。心神を起こすと怯えた様子の彼らの姿が見えた。
危機は去ったが、恐怖は消えないだろう。
これは一生モノのトラウマになったに違いない。
もっとスマートに助けられればよかったんだが、そんな余裕は僕にはなかった。
王城に続く橋が降りる。
「カイザ、イーリス! 子供達を保護しろ!」
「了解しました!」
3機の弍式が橋を渡ってくる。
そのうちの2機は子供達を手に乗せて、王城へと戻っていった。あとに残ったのは、煙を吹く鉄の塊と、子供だったモノの残骸だ。
「またキミに助けられたな、カンケルくん」
「アクィラさん、話があります」
「キミが心神に搭乗している時点で何があったかは察する。悪いが救援は寄越せない」
予想通りの答えだ。彼らは王城を守るという任務があるし、この場を離れられないだろう。
それならば、プエラを彼らに任せて僕が病院に戻ればいい。
「わかりました、僕は戻ります」
「それは許さない」
なんだって。
「緊急時とはいえ、民間人を人機に乗せることは出来ない。ドラゴンの件はわたしとルナ女史が擁護したからなんとかなったが、二度目はない」
「マーテルさんが。貴方の部下が戦ってるんですよ、敵と! 助けにも行かずに放置しろってことですか。いいんですか」
「そうだ。悪いが、降りてくれ」
反抗は許さないと、アクィラは心神に銃口を向けた。至近距離の銃撃は致命傷になり得る。
こちらにはプエラもいるし、仲間同士で戦うような問題を起こすつもりはない。心神の片膝を落として、コックピットハッチを開いた。
僕は、疲れきったプエラを抱きかかえて、雨に滑らないように心神から降りる。
アクィラの人機がこちらを見下ろす。
「アクィラさん、本当にいいんですね」
再度問いかける。アクィラからの返答はない。
これ以上は無駄だ。プエラが風邪を引く。
王城に向かって歩き出す。
彼の人機は沈黙したままだった。




