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殺意転生─THE END of BIRTHDAY─  作者: 蜜馬豊後
第1章 竜虎相搏
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第16話「基地─キチ─」

 

「基地が! くそ、ここも襲撃されたのか!」


 この炎上している基地は大きくはないが数千人の軍人がいたはずである。フィーニスには王国軍とは別に、憲兵隊や近衛軍と呼ばれる指揮系統が独立している部隊がある。アクィラやマーテルは王国近衛軍、つまり王城を拠点とした精鋭達だ。ここの基地は、アストルム学園の一般的な卒業生が所属する、フィーニス各地にある基地のひとつである。小さい基地ながらもいくつかの人機部隊があるはずで、それがまさか壊滅しているわけがないと思いたかったが、この有様を見ては希望が持てなかった。よく見れば複数人の死体が転がっているし、人機の残骸が辺り一面に散らばっていた。戦闘の傷跡が主張を激しくしている。

 あの狂人達や、彼らの人機にやられたのか。

 悔しい、という感情よりも怒りが現れる。


「センサに反応!」


 前方から人機の反応を感知した。

 臨戦態勢を取る。

 まだ敵と決まったわけではないが、襲ってくる人機がいるので仕方がない。仲間だと油断をして死んでしまっては、笑い話にもならない。

 弾数チェック、残り24発。

 周辺のマップを表示。

 この辺一帯には建物が少ないので、身を隠せる場所も無く、撃ち合いになったら数の少ないこちらが負ける。だったら、撃たれる前にドリルで抉ってやればいい。この装備の扱いには慣れた、なんだったらパイルバンカーよりも扱い易い。


「貴様は誰だ!」


 通信だ。年配の男の声だった。

 聞いたことがない。アクィラや彼の部下であれば話が早かったが、こうなっては話が拗れる予感がした。


「我々はフィーニス第4基地王国駐留軍第3部隊、私は部隊長メンスだ! 再度問う、貴様は誰だ!」


 王国軍か、ならば仲間だ。

 仲間、本当に。

 いまいち信用できない。

 王国軍のふりをしている敵の可能性がある。

 だからといって、先制攻撃なんて仕掛けられまい。

 仮に、本当に仲間だったら大惨事だ。

 仲間同士で潰し合うなんて馬鹿な真似はしたくない。

 頭の中で戦略を練りながら返答を考える。

 相手は返答次第では撃つ気満々といった様子。

 銃口がこちらに向けられている。

 じっとりとした汗が背中を伝う。

 汗で操縦桿が滑りそうだった。


「僕はアストルム学園の学生だ! 近衛のアクィラ・ケントゥリアに確認をとれ! 名はカンケル! 敵ではない!」


「ケントゥリア隊長に?……待て、それは無理だ。反魔石がそこらじゅうに撒き散らされていて、長距離通信が不可能になっている」


 また反魔石か、邪魔ばかりしやがって。

 思わず舌打ちをする。

 これではどうしようもない。

 どうする、どうしたらいい。

 お互いの疑心が爆発する前に話を付けなければ余計な血が流れることになる。

 僕は殺人に躊躇いはないが、仲間を殺して平気な顔をしていられるほど厚顔無恥ではない。


 無言の時間が続く。向こうも僕の対処に困っているようだ。浅はかにも問答無用で撃ちにくることはないようで安心した、次の瞬間。


 ドン、と爆発音と一緒に僕の操縦する人機が揺れ、うつ伏せに倒れた。衝撃が装甲越しにコックピットへと伝わる。臓器が殴られたような痛みが走った、プエラは苦痛の声を上げる。シートベルトをしていなかったらモニタに身体を打ち付けるところだった。


 ふざけやがって、誰が撃ちやがった。

 仲間だろうが撃ったらもうそれは戦争だろ。

 怒りで血管が破裂しそうだ。

 モニタには背後に人機の反応、隠れていた人機か、いや、待てよ。


「コイツら、まさか」


 また、爆発音。メンス隊長の人機の顔面に弾丸が命中した。ツインアイのレンズが粉々に吹き飛んだ。


「敵だ!」


 誰かの叫び声、第3部隊の人機達が散開する。

 僕は立ち上がろうとするが、追撃があって上手く立てない。足腰に何度も弾丸が当たる。このままではまずい。いくら装甲が厚かったとして、何度も同じ場所を攻撃されてはさすがに耐えられない。


「援護してくれ! 最初に撃たれたんだ、敵じゃないってことくらいわかっただろ!」


「ぐぅ……わかった! 各機、一斉射開始! とにかく撃ち続けろ!」


「了解ッ!」


 迷う素振りを一瞬見せたが、どうやらこちらが敵ではないと理解してくれたようだ。

 2機の人機が僕達を庇うように展開し、さらに散開した人機部隊が一斉に砲撃する。弾丸はほとんど当たっていない、牽制射と考えていい。

 援護してくれたおかげで無事立ち上がることができた、

 各部チェック。

 センサ、バランサ共に異常無し。


「こちらも攻撃する!」


 怒りを発散させてもらう。

 機体を反転し、射撃に参加する。

 こちらは4機。後方に展開するのが3機。

 合計7機。

 対して相手は3機だ。馬鹿野郎が、なぜ彼我の戦力差を考えずに攻撃してきた。これではド素人ではないか、いや、素人なのだ、敵は。

 あの狂人共は大した訓練も積まずにノコノコと戦場に出て来ているのだ、意味不明だ、なぜそんなことをする、理由はなんだ。

 そうだ、理由だ。

 どうして僕達は戦っている。奴らは何の目的があって攻撃してきているんだ。

 ただの酔っ払いや犯罪者が人機を保有しているわけがない、これだけ大規模な攻撃を仕掛けてくるのならば、それはもう他国による攻撃なのではないか。


「1機撃破ッ!」


 部隊員の声。

 集中砲火を受けた敵人機が火を噴いて倒れた。

 血飛沫を撒き散らすように、爆炎が飛び散る。

 仲間がやられて、今更ながら自らの愚かしさを悟ったようで、ジリジリと少しずつ後退する敵人機の両膝に、僕は的確に射撃する。


 バランスを崩して、倒れそうになるのを堪える、そんな姿が隙と言わずして何と言うのか、連携して集中的に攻撃をすると呆気なく炎上した。

 いくら装甲が厚い人機といえども、ここまで弾丸の雨を食らうとその身はもたないようだ。

 残りは1機、敗北は必至であったが、誰でもいいから道連れにしようと企んだらしい、小銃を投げ捨ててパイルバンカーを装填。最大速度で僕達の元へ突撃してきた。所詮はやぶれかぶれの攻撃である。こちらは遊びでやっているわけではない。相手のスピードに合わせて僕含む3機は後退しつつ射撃。いわゆる引き撃ちという奴だ、後方からの援護もあって、結局なにもなせずまま敵人機は沈んだ。

 小銃の弾薬がちょうどゼロになったので右肩に格納した。弾倉は誰かから譲り受ければいい。


「報告!」


「敵人機、撃破3! こちらに損害はありません!」


 メンス隊長と部隊員の声が通信機越しに聞こえてくる。彼らの実力は、アクィラ達と比べれば圧倒的に格下と言っていい。これが近衛と一般部隊の差か。メンス達が弱いわけではない、アクィラ達が強すぎると思った方がいいのか。

 思い出されるのはドラゴンとの戦闘だ。

 彼らは空中を自在に舞う怪物を相手に、無駄弾などなく、確実に弾丸を当てていた。練度が異常だった、故に、あの戦いで多くの近衛軍所属の軍人が戦死してしまったことが残念でならなかった。いまこうしてフィーニスが混乱に陥っているのも、彼らのような精鋭が数を減らしたからなのではないかと考えていた。

 ……いや、それは考えすぎか。

 戦闘後の興奮状態が脳を活性化させて、余計な思考を作り上げようとしている。

 今は彼らの能力を比較している場合ではない。

 敵が周囲にいないことを確認。

 僕はコックピットハッチを開けて、部隊員達が見えるように、ギリギリの縁まで歩み寄った。

 両手をあげて、敵ではないとアピールも忘れない。


「先程も伝えたように、僕は敵じゃない。アストルム学園のカンケル、先のドラゴン戦でも人機に搭乗して戦った。王国の防人のひとりだ。」


「……わかった。もういい。そのカンケルが何をしている、君は学生だろう。それにその人機、作業用人機の、弍式心神だ、なぜそんなものに乗っている。説明をしろ」


 疲れきったメンスの声だ。

 心神、シンシンか。

 この人機、そんな名前だったのか。

 知らなかったな。

 人機は、機体の立ち上げをする際に名前が表示される仕様になっているが、既にエンジンが入ったままの状態で乗り込んだ為に、ここまで名前を知ることはなかった。確かこの機体のことは、歴史書にも記載されていなかったはずだ。

 僕は両手をあげたまま、これまでのあらましを説明する。

 現在、この人機には民間人の女の子を保護していることも伝えた


「民間人だと。……名前は」


 険な雰囲気だ。本来、人機には機士以外乗せてはいけないのだ。重要な機密が満載だからである。

 だが、この状況でそれを咎められても困る。

 緊急事態に頭の固いやりとりはしたくない。


「プエラだ、15歳くらいの女の子で、まだ体調が万全ではないから休ませている」


「プエラ?」


 何故か、メンスは緊張の混じった声を上げた。

 なんだ、どうした。

 知り合いなのか。

 なんとなく、メンス以外の部隊員達の慌ただしさも感じた。僕だけ置いてけぼりにされている気分だった。いったい、なんなんだ。


「まさかとは思うが、プエラ・スキエンティア様ではあるまいな」


 スキエンティア?

 その名前、聞き覚えがあった。

 誰だったか、どこの誰だ。

 必死に記憶を巡る。最近はインパクトのある出来事が多すぎて、小さなことは記憶の底に仕舞われているような感じだ。インパクト? そうだ、ドラゴンの襲撃前に、変な出来事があったではないか。生徒会長が性癖を露わにして僕を襲おうとした事件、というか事故だ。

 スキエンティア、スキエンティア。

 生徒会長の名前は、ステラ・スキエンティア。


「……なに?」


 素っ頓狂な声が出た。頭の中で情報が合致したものの組み合わせの異物さから理解ができなかった。僕含めて、その場にいた者が別の理由で困惑していると、僕の後ろからやや怠そうな面持ちのプエラが顔を出した。


「はい。わたしの名前は、プエラ・スキエンティアです。皆さん、カンケルは本当に敵ではありません。彼を無碍に扱うのは、わたしが許せません」


 許せません、なんて言葉が聞こえてきて驚いた。驚いたのは僕だけではなかった。プエラの言葉以前に、彼女が顔を出した段階で、心神以外の人機が敬意を表すように跪いたのだ。


「プエラ様! よくご無事で!」


 何事だ。メンス隊長はプエラを様付けで呼んだぞ。


「ちょっと待ってくれ、頭が混乱している。プエラ、君はいったい何者なんですか」


 僕の質問に困ったように笑うプエラ。

 それに答えるように、メンス隊長から通信が入る。


「プエラ様は、30年前に我が国の人機を独学で開発したデルタ・スキエンティア様の御息女。大貴族様だぞ!」


「貴族!?」


 改めて、変な声が出た。そんなお偉いさんの娘だったのか、まったく気が付かなかった。

 しかも王国による人機開発の親、その娘だ。

 それは、この国では重要な立ち位置になる。

 なら、ステラもそうなのか。

 彼女とは姉妹なのだろうか。


「ステラ・スキエンティアという女性を知っているが、肉親なんですか」


「ステラはわたしの姉だよ」


 あの頭のおかしな女の妹。

 嫌な接点が出来てしまった。


「カンケルくん! よくやってくれた、本当によくやってくれた! 君は素晴らしいことをしてくれたのだ、一瞬でも君を敵ではないかと疑った我々を許してほしい!」


 急にメンスの態度が変わった。

 通信機越しからその様子がありありと見える。

 話に決着がついたのはありがたいが、ややむず痒いような気がする。プエラは僕をニッコリとした笑みで見つめていた。とにかく、コックピットハッチを閉めてプエラに問いかけた。


「どうして貴族だって教えてくれなかったんですか?」


 至極当然な疑問だろう。初対面のときにでも言ってくれたらもっと優しく接したはずだ。


「言うタイミングがなかったし、必要もないかなって。でも1番効果的なタイミングで伝えられて良かった」


 確かにベストタイミングだ。

 これ以上はないだろう。

 効果的なのは、跪く人機を見ればわかる。


「カンケルくん、着いてきてくれ。我々は今から王城へ向かうつもりだ。そこで近衛軍から指示を仰ぐ。プエラ様はそこで保護してもらおう」


「待ってください」


 プエラを保護してもらうのは賛成だ。

 しかし、僕はマーテルに援軍を連れてくると約束したのだ。病院からここに来るまでおよそ40分。距離と時間を算出、全速力で移動しても王城までここから30分近くかかる計算になる。

 それはマズイ。いくらなんでも時間がかかりすぎるだろう。


「近衛軍のマーテルさんが病院で敵と戦闘中なんです、部隊を編成し、救助に向かってくれませんか」


「それは出来ない。見ての通り、我々にそんな余裕はない。隊の仲間も多くがやられ、弾薬もギリギリなのだ。……それに、プエラ様を護衛する必要もあるだろう。申し訳ないが、無理だ」


 好きで見捨てるわけじゃない。

 そんなつもりがないのはわかっているが、納得できない自分がいる。


「……カンケル」


 プエラの細い声が背後から聞こえる

 少し震えた声だ。

 これから何を言い出すのか察した。


「なんです」


「わたしを置いて、貴方だけでもマーテルさんの元へ行ってもいいんだよ」


 そんなことを言うと思った。

 それも考えた。だが、これはメンス達を非難するわけではないが、彼らではプエラを守りきれる気がしない。


「助けた命を投げるつもりはない、責任はとる」


「責任……」


 責任、責任、とプエラは何度か呟いている。

 言葉選びが悪かったか? まあいい。

 仕方ないが、彼らと一緒に行くしかない。

 王城でプエラを保護してもらい、アクィラに救助部隊の打診をする。自分の部下がひとりで戦っているのだ。まさか拒否したりはしないだろう。

 マーテル、どうか無事でいてくれ。


「メンス隊長、わかりました。王城まで行きます」


「了解した。よし、皆! 着いてきてくれ!」


 僕達は王城を目指して歩み始めるのだった。

 道々には横たわる人々や人機があった。

 残酷な光景である。

 恐らく、まだ戦いは続く。

 僕は気を引き締めた。

 

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