中村さんはのせられると脱いでしまう
僕を見つめる信さんの目が真剣な表情になっているのは萌さんにそうしろと言われたからで、本心からそうしているとは思いたくない。いや、これは演技でしているのだと言ってもらいたい。
しかし、ここまでカッコいい人にこの距離で見つめられてしまうと、僕が男で相手も男だとわかっていても照れてしまうものなのだ。
「ちょっと、二人ともいい感じじゃない。どうせだったら課長も呼んで三人でもっと凄いことしてもらおうか」
「さすがにそれはダメでしょ。俺と萌ちゃんが今以上に会社に行きづらくなっちゃうよ」
「別に誰にどんな風に思われたってかまわないでしょ。私は最初から女子社員に相手にされてなかったからいいけど、あんたは自分の趣味とか隠さなくなったら一気にみんなが離れていったもんね。でも、そんなの気にしてないでしょ?」
「まあ、気にしてはいないね。正直に言って、俺に寄ってくる人って俺の見た目しか見てくれなかった人ばっかりだったし、そんな人に評価されたとしてもそれは下駄を履かされた評価でしかないんじゃないかなって思うんだよね。でも、萌ちゃんはそんな俺を見た目だけじゃなくて中身で評価してくれたんだもんね。その点は大好きだよ」
「私はその軽いノリは大嫌いなんだけどね。でも、私のお願いを聞いてくれるところは好きよ。だから、そのままもう一枚シャツを脱いでみようか?」
信さんは何の抵抗もなくシャツを脱いでいくのだけれど、なんで僕の部屋でこんなに自然に服を脱ぐことが出来るのだろうか。僕はそれが疑問であった。もしかして、信さんは何か物凄い弱みでも握られているのだろうか。
「でもさ、俺だけが服を脱ぐのっておかしくないかな。ここは一つ、萌ちゃんもその肌を晒すべきなんじゃないかな?」
「何言ってるのよ。私がそんな事したって誰も得しないでしょ。それにさ、初対面の人の前で服を脱ぐのってどうかと思うな」
「いや、そういう風に支持してくる方もどうかと思うけど。それに、昌晃君も萌ちゃんの脱いだところを見たいって思ってるはずだよ。ねえ、昌晃君も見てみたいよね?」
「え、そう言われても。萌さんの言う通りで、初対面の高校生の前で服を脱ぐのはどうかと思いますよ。それに、女性がそんなに気安く裸になるなんて変ですよ。それは信さんにも言えることなんですけどね」
「ちょっと待ってくれよ。僕はシャツを一枚脱ぐだけのつもりで言ってたんだけど、どうして萌ちゃんは裸を見せるって話になってるんだい?」
「だって、シャツを脱いだら下着姿になっちゃいますよね?」
「いやいや、さすがにシャツの下に何か一枚着てるでしょ。僕だって一枚Tシャツを着てからシャツを着てるんだよ。女性である萌ちゃんが下着の上からシャツを一枚だけ着てるわけないじゃないか。昌晃君は女性というものを知らなすぎるよ。そんなに無防備な女性なんているわけないじゃないか。って、萌ちゃん?」
僕は先ほど萌さんのシャツの隙間からブラジャーが見えていたので知っているが、萌さんはシャツの下にキャミソールなんて着ていない。信さんが僕に対して言った事は萌さんにも刃となって刺さっているように見える。萌さんはちょっと下を向いてプルプルと震えていた。
その様子を見て何かを察した信さんではあったが、なぜか慰めるでもフォローをするでもなく楽しそうに萌さんを見ていたのだった。
「あれ、もしかして、萌ちゃんってそのシャツを脱いだら下着一枚なのかな?」
「知らない。そんなこと知らない」
「知らないって、自分の事でしょ。なんで知らないのかな?」
「なんでって、知らないものは知らないでしょ」
「おかしいな。そんなに大きい胸があるのに下着一枚だけってのも変な話なんじゃないかな」
「別に変じゃないでしょ。そんなこと気にする方が変だと思うけど。そんな事より、あんたはさっさとシャツを脱ぎなさいよ」
「別に俺はシャツを脱いでもいいんだけどさ、その場合はこの場にいるみんなも脱ぐことになるけど、それでいいんだよね?」
「何言ってるのよ。私は脱がないわよ。脱ぐのはあんただけよ」
「それは良くないと思うな。こういう時に平等の精神を持たないってのは良くないことだと思うよ。自分の都合のいい事だけ相手に要求するのって、よくない事だと思うんだけどね。まあ、萌ちゃんがそこまでワガママで独善的だとは思わなかったな。いや、そんな傾向はあったかもしれないな」
「そうよ。そうなのよ。私は独善的でワガママで傍若無人なのよ。だから、あんただけ脱いで昌晃君の陰に隠れなさいよ。それで、私の視線をもっと怖がりなさい」
「そんな風にすごんだって駄目だよ。俺はその程度では折れたりしないからね」
「でも、私が言ったとおりにした方が信の良さが引き立つと思うんだけどな。信のフォロワーも喜ぶと思うよ」
「そんな風におだてたって俺は騙されないよ。それに、俺のフォロワーがその程度で喜ぶとは思えないんだけど」
「もちろん、もっといい風に私が背景もエフェクトも変えちゃうよ」
「そんなこと言ったってさ、いつものパターンで茶を濁すだけでしょ」
「それが違うのよ。新しい編集ソフトを買っちゃったんで今までよりもリアルに出来ちゃうわけ。それと、加工前の信の写真をフリー素材として提供しちゃおうかとも思ってるんだよね。その時は昌晃君の顔は見えないように変えとくけどさ」
「そ、そんな事を言ったってさ、俺の関係ないところでやられても知りようが無いじゃない」
「その辺は大丈夫よ。モデルとして信のリンクも貼っておくし、他にも望むものがあったら載せとくわよ」
「じゃあ、萌ちゃんも一緒に写った写真が欲しいな」
「ちょっと、それはさすがに載せたくないんだけど」
「大丈夫。それは載せなくていいからさ。三人でこうして仲良くなれた記念に写真が欲しいなって思ってね」
「個人的に楽しむようって事ならいいけど、三人で自撮りは上手く撮れる自信ないな」
「それは課長に頼もうよ。写真くらいなら撮ってくれるでしょ」
「ちょっと、課長にその格好を見られても良いっていうの?」
「違うよ。さすがに写真を撮る時は普通の格好に戻すよ。今だってすぐに戻したいけどね。でも、萌ちゃんも一枚くらいシャツを脱いだ方がいいんじゃないかな。ほら、室内の気温も上がってきちゃってるし、俺達以外誰も見てないんだから大丈夫だよ」
「大丈夫の意味が分からないんだけど。ちょっと、トイレに行ってくる。廊下の突き当りにあるトイレって借りても平気?」
「大丈夫ですよ。一階のトイレよりも少し狭いですけど」
萌さんは慌てるようにして部屋を飛び出していった。それはトイレを我慢していたからではなく、信さんに言いくるめられそうになって慌てて逃げ出したようにも見えた。
「ぶっちゃけさ、昌晃君も萌ちゃんのおっぱいって見てみたいよね?」
「え、どういうことですか?」
「いや、男だったら誰でも見てみたくなると思うんだよね。あの身長であれだけ大きい物を持ってるのって才能だと思うんだ。会社の女子社員たちはそれを妬んで嫌がらせとかしてるみたいんだけど、そんな風に嫉妬するのってみっともないよね。俺も結構男子から嫉妬されることは多かったから少しは気持ちもわかるんだけどさ、なんか男女でする嫌がらせって質が違うように思えるんだよな。でも、一度くらいあの胸がどんな感じなのか見てみたいって思うんだよ」
「信さんって、萌さんの胸を見た事ないんですか?」
「無いよ。あるわけないじゃん。付き合ってもいないのに見るチャンスなんて無いでしょ。それにさ、俺は萌ちゃんにそういう目で見てもらえないと思うんだよね。萌ちゃんの趣味から結構離れてるからさ。萌ちゃんって、年下で頭が良いいのに守りたくなるような男の子がタイプだって言ってたんだよな。あれ、もしかしたら、昌晃君って結構いい線言ってるんじゃないかな」
「いやいや、僕なんかよりも信さんの方がお似合いだと思いますよ。それに、僕は信さんと萌さんが付き合ってるんだと思ってました。さっきのやり取りとか見てたら特にそう思いました」
「良く言われるんだけどさ、俺が萌ちゃんを好きな気持ちと萌ちゃんが俺を好きな気持ちって違うものだと思うんだよね。だから、みんなが思ってるような関係ではないんだよ。会社でそれを見抜いてくれたのって課長だけなんだ。これは秘密だけどね」
僕はてっきり信さんと萌さんは付き合っているものだと思っていた。とても仲が良いし、一緒に居るところを見ても当たり前にそこにいるように違和感もない。そんな関係に見えていた。あれ、これって、僕と陽香の関係と似ているような気がする。もしかしたら、学校の人達から見た僕と陽香の関係って、信さんと萌さんの関係性に似ているのかもしれない。
しかし、そんな二人の関係を見てもちゃんとわかっている父さんは凄い人なのだろうか。そんな二人の関係を理解している父さんと僕と陽香の事をちゃんとわかってくれている林田さんは似ているところがあるのだろうか。もしそうだとしたら、林田さんが僕の事を好きでいてくれるように父さんも信さんか萌さんの事を好きだったりするのだろうか。そんな事は考えたくないのだけれど、自然とその事が頭をよぎってしまっていた。




