中村さんはBLの人である
座っているとわかりにくいのだけれど、信さんは僕よりも身長が二十センチくらい高くて萌さんは二十センチくらい低い。一列に並んでみると階段みたいに見えるなと思っていた。そんな風に思っているのが萌さんにバレているのか、それとも先程胸元を見ていたことがバレていたのかわからないが、僕は萌さんに睨まれていた。
「昌晃君ってさ、よく見ると男受けしなそうな顔だよね」
「そうですか?」
「うん、私は色々な男の人を観察してきたからわかるんだけど、君って男の子よりも女の子にもてるタイプだと思うわ」
「へえ、それは意外です。僕はどっちにもモテるとは言えないと思うので」
「そうなのかな。でも、本当は身近な人に好かれてるとかあるんじゃないかな?」
「そう言われたらそうかもしれないですけど、あんまり意識したことは無いですね」
「それってさ、女の子にモテてるって考えてもいいんだよね?」
「そうですね。逆に男からモテルってのは無いと思いますけど」
「ふーん。そう言うもんなのかね。でも、そういうところが好きだって言ってくる男がこれから出てくるかもしれないよ。例えば、隣に座ってる大男とかね」
「え?」
僕は信さんの方を向いたと同時に少し距離を空けた。これは無意識の行動なのだが、身を守るためには必要な行動なのだ。
でも、信さんは萌さんの言葉を笑って受け流した。
「いやいや、それは萌ちゃんの悪い癖でしょ。近くにいる男同士で適当にカップリングさせて膨らめばよし、膨らまなければ次に行く。そう思ってるでしょ」
「まあね。でも、信と昌晃君は意外といいかもよ。背の高い信が責めると見せかけて、優しい顔をした昌晃君が信を必要に責めるとか。ちょっといいかもしれないわね」
「毎回毎回俺で想像するのやめて欲しいんだけど。そんなことして楽しいの?」
「もちろん楽しいに決まってるじゃない。あんたみたいに背も高くて顔もいい男が身近にいるなんてとんでもないことなのよ。そんな宝の地図が目の前にあるのに財宝を探さないやつなんていないでしょ。あんたはどんな風にでも輝ける宝石でもあるのよ」
「それって、褒めてるように思えるけど、意味を知ってる俺から見ればとっても複雑なんだけど。それて、昌晃君に見せても大丈夫なやつになるの?」
「そんなの描いてみなくちゃわからないわ。全年齢にしようとは思うけど、そこにこだわってしまうと面白みに掛けちゃうのよね。ねえ、写真でだったらあんたの良さも際立つと思うし、一回くらい試してみない?」
「試すわけないでしょ。昌晃君もこんなヤバいのに深く関わっちゃダメだからね。俺はもう慣れたんで平気だけど、きっとショック受けると思うから萌ちゃんの作品にはまだ触れないようにしてね」
「触れないようにしてねって言われましても、どこで見れるのかもわからないのにそんなこと出来るはずもないですよ」
「確かにそうかもね。でも、こればっかりは萌ちゃんが何て名前で活動をしているのか教えることは出来ないんだ。もちろん、配信の方も俺が直接教えることは出来ないからね」
スマホをいじりながら信さんは言っていたけれど、そのスマホの画面は綺麗なイラストが描かれたどこかのページのようだった。どこかの同人誌を集めているサイトのようなのだが、信さんにとってもよく似ている男性が上半身裸で両手を上に縛られてロープで吊るされているイラストが大きく表示されていた。雑誌の表紙に見えるのだけれど、そこにはタイトルと共にペンネームも大きく記載されていた。
信さんは僕がそのページを確認したのを確認すると、小さくうなずいて僕に向けて右手の親指を立てていた。それと同時に萌さんが信さんの後頭部を思いっ切り叩いていた。
「だから、未成年に見せるなって言ってんだろ。自分がモデルになってるって本当は嬉しくて見せたいのか?」
「いや、俺はもともとモデルをやってるんでどんな風にみられるか興味あるだけなんだよ。
でもさ、昌晃君のリアクションが今一つ返ってきてないような気がするんだよね」
「リアクションを返さないんじゃなくて、リアクション出来てないだけだと思うよ。ほら、大きく口を開けてポカーンっとしてるもん。まあ、会って間もない大男が自分に似てるイラストが描かれたページを見せてきたら戸惑うでしょ。しかも、その吊るされてる男は上半身裸なんだからな」
「まあ、モデルをやってる時も似たような恰好をしたことはあるんだけどね。その時はシャツは着てたけど前は思いっきり開いていたんだよ」
「クソ。そこが陽キャの集まりじゃなきゃ私も見に行ってるのに。でも、その時の動画とかはあるんだろ?」
「たぶんどこかで見れると思うよ。そういうのを誰かに見てもらう事で俺の仕事も次につながるってもんだしね」
「それにしてもさ、なんでそこまで自分を見せるのに抵抗が無いわけ?」
「なんでって言われてもな。あの会場では多くの女性に見られてるってのを感じていたし、ここでは昌晃君一人の視線を感じているからかな。見られることに慣れちゃうと、逆に見られていないと不安になったりもするんだけどね」
「私は逆に誰かに見られていると不安になるけどね。何か変な風に見えてるんじゃないかって思ったり、バカにされてて陰口叩かれてるんじゃないかって思っちゃうんだ」
「そんな事ないと思うけどね。萌ちゃんは普通にしていれば可愛いと思うし、その変な趣味さえやめてくれたらもっとモテると思うよ」
「そうは言うけどさ、それに付き合ってくれてるあんたも大概変だと思うよ。自分で言うのもなんだけどさ、こんな趣味に付き合ってくれるのって何か裏でもあるわけ?」
「裏なんて無いよ。しいて言えば、俺はどっちでもイケるってだけの話さ。でも、気持ち悪い人が相手ってのだけは無しにしてね。ま、そう言うわけだから、昌晃君も気にせずに萌ちゃんに協力しちゃおうね」
「協力って何の話ですか?」
「ほら、萌ちゃんが描いてる漫画のモデルになってほしいってやつだよ。年齢区分の事なら気にしなくても大丈夫だよ。昌晃君が成人になるまでは見せないようにするからね。自分から探しに行ったりしたらダメだからね」
なぜかわからないが、萌さんは恥ずかしそうにしているのだけれど、信さんは本当に嬉しそうな笑顔で僕を見つめていた。
とても嫌な予感しかしないのだけれど、きっと協力しなかったとしても協力させられてることになるんだろうな。そう思うとある程度は自分の意見も取り入れてもらった方が良いのかもしれない。
ん、僕の意見や要望なんて何も無いんだが?




