吉川さんからのプレゼント
今日はいつもと違って吉川さんが一人だった。喧嘩でもして距離を置いているのかと思ったのだが、実際はそうではなかったようだ。
「私は迷惑だからやめなっていったんだよ。でも、雅美は陽香さんの事を見に行くって聞かなくて、休み時間の度に見に行ってるんだよ。今だってさ、お昼も食べないで見に行ってるんだけど、齋藤君からも何か言ってやってもらえないかな」
「何かって言われてもな。見るだけだったらいいんじゃないの?」
「みんなはそういうけどさ、実際に見られている方からしたらたまったもんじゃないと思うんだよ。陽香さんなんて学校中から注目されているんだよ。それなのにさ、わざわざ隣のクラスから見に行くなってどうにかしてるんじゃないかって思われるじゃない。それに、雅美が見に行くことで他にも見に行こうって思う人が出てくるかもしれないじゃん。それって、ヤバいことだと思うんだよね」
「そうかもしれないけどさ、陽香ってそんなに注目されているの?」
「そりゃそうでしょ。齋藤君だっていっつも陽香さんの隣にいるから注目されているんだよ。最初は何であいつが一緒に居るんだ。殺すぞ。って感じでみんな見てたと思うんだけど、今では一部の人を除いて、齋藤君が陽香さんのいとこだって知れ渡っているからね。それなら仕方ないって落ち着いているんだよ」
「ちょっと待って、一部の人はまだ僕の事を殺すぞって思ってるってわけ?」
「さあ、そう思っている人がいてもおかしくは無いと思うけどね。でも、そんなのは当事者じゃないとわからないと思うんだよ」
僕は知らないうちに命を狙われていて、知らないうちに許されていたようだ。
最近の登下校時に見かける同じ制服を着た生徒たちは、もしかしたら僕の命を狙っていたのではないかと考えると、ちょっと恐ろしいものがあったのだが、そんなのは吉川さんが僕をからかっているだけの話だろう。そう思わないと僕はこれから生きて行けそうにない。
「でもさ、雅美の気持ちもわかるんだよね。私だって陽香さんを見ていたいよ。でも、そんなのって自分の欲求だけで相手の気持ちを確かめてない事じゃない。そんなのって、フェアじゃないと思うんだよね。だからさ、齋藤君には陽香さんが見られても平気なのかそっとしておいてほしいのか聞いてもらう事って出来ないかな?」
「それくらいだったら出来ると思うけど、陽香の答えでみんなの行動が変わったりするの?」
「それは変わるでしょ。陽香さんが良いよって言えば今まで通りになるだろうし、ダメだって言われたらみんなひくと思うよ。好きな人に嫌われることを進んでやる人なんていないでしょ」
「そうかもしれないけどさ、そこでやめない人も出てきちゃうんじゃない?」
「まあ、そういう人は力づくでどうにかしちゃうってだけの話でしょ。陽香さんの嫌がることをしちゃう人はそれなりの扱いでもいいと思うんだよね。そうだった、お願いするばっかりだったら悪いからさ、私から先にお礼を渡しておくね。齋藤君のラインにプレゼントを贈っておいたから、後で見といてね。絶対に今じゃなくて後で見るんだよ」
「あとで見ろって言うんだったら、そのプレゼントは後でもらう事って出来ないのかな?」
「できるけどさ、忘れちゃいそうでしょ。齋藤君の事をそんなに覚えてるわけでもないしさ。そう言えば、お姉ちゃんから聞いたんだけど、齋藤君って三年生の先輩方をペットとして扱ってるって本当なの?」
「そんなことしてないけど。いったいどんな噂だよ」
「お姉ちゃんから聞いた話なんでどこまで本当かわからないんだけど、陽香さんの名前を出して三年生の先輩方を好き勝手弄んでるらしいって。そう言えば、この前も先輩方が齋藤君の席を囲んでなんかやってたよね。先輩に囲まれている割には齋藤君ってすっごく落ち着いていたし、お姉ちゃんの話も嘘じゃないのかもしれないって思っちゃったよ。それくらい齋藤君は凄く落ち着いていたんだよ。私だったら、あの状況で泣き出しちゃってるかもしれないよ」
「あの先輩たちは別に怖い人達じゃないから大丈夫だと思うよ。吉川さんとか今井さんとも話は合うと思うし、あの先輩たちも陽香のファンだって言ってるからね」
「それは知ってるんだけど、やっぱり先輩たちに囲まれるってのは怖いと思うんだよね。齋藤君は平気かもしれないけど、私達には今までの経験で先輩たちはちょっと怖いって思うからあんまり近い距離にいると緊張して逃げ出したくなっちゃうんだよ。それにさ、齋藤君は陽香さんのいとこだからってのもあって、誰も危害を加えたりしないと思うんだ。あ、私達が先輩たちから何かされていたって事じゃないからね。単純に、関わり合いのない先輩たちってどんな人かわからなくて怖いってだけの話だからね」
「まあ、僕は中学までで先輩どころかクラスメイトともあんまり関わりをもたなかったからそういうのは分かってないかもしれないけど、社会に出たら二年くらいの年の差なんて気にしなくなるもんなんじゃないかな。社会に出たことは無いんでわからないけど、年齢以上に大切なものってあると思うよ」
「そうかもしれないけどさ、ここは社会じゃなくて学校だからね。少なくとも、先輩たちが大学を卒業するまではそんな風に思って過ごしちゃうと思うよ。これは私達だけの問題じゃなくて、今の中学生たちもそう思ってるんじゃないかな」
僕は空になったお弁当箱を片付けながら、吉川さんの言っていることを考えていた。確かに、吉川さんの言う事はもっともだと思う。それに、僕の言っていることも間違ってはいないと思う。どちらも正しいと思うのだが、どちらも正しくないともいえるのではないだろうか。
きっと、高校生である今は吉川さんの言っていることの方が共感されると思うし、正しい事なんだとは思う。でも、僕の言っていることの方が正しいと感じる日もやってくることは間違いないだろう。
吉川さんも自分の席に戻り、いつの間にか今井さんも教室に戻ってきていた。
僕は吉川さんからもらったプレゼントが何なのか気になっていたので、授業が始まる前にそっとそれを確認しておこうと思った。
通知を見ると、吉川さんから写真が送られてきていることが分かったのだが、なんとなく嫌な予感がしていた。誰にも見せられないような写真が送られてきているんではないかと勘繰ってしまう。
僕は誰にも見えないように画面の大半を机で隠れるようにしてファイルを開いてみたのだが、そこに映しだされていたのは水着姿の吉川さんと今井さんだった。いや、これは水着姿なのだろうか?
とにかく二人の写真なのは間違いないのだが、大きい物を持っている吉川さんは黒に金の刺繍が入っているビキニで何となくゴージャスな印象を受けた。一方の今井さんはスレンダーなボディを隠すように装飾がそこそこついたワンピースを着ていた。
二人のスタイルは対照的なのだが、どちらも楽しそうな表情を浮かべているのが印象的だった。その写真をしばらく見ていると、吉川さんからメッセージが届いていた。
「そんなに真剣に見ちゃダメだよ。スケベさん」




