三年生は恥ずかしげもなくパンツを見せる
何の前触れもなく三年生の先輩たちが僕の教室へやってきて、僕の席を囲むようにして立っていた。話を聞くまでもなく怒っていることがわかる表情で睨みつけられているのだけれど、僕にはなぜそんな風に睨まれなくてはいけないのかと想像もつかないのであった。
「ちょっと、話があるんでいいかな」
「話って何ですか?」
「こんなに人の目があるところでそれを言ってもいいのかな?」
「良いも悪いも、僕は先輩たちが何を言いたいのかわからないんですけど」
「君には心当たりが何も無いという事なのかな?」
「少なくとも、先輩たちに迷惑をかけるような事はしていないと思いますけど」
「確かに、君は私達に直接何かをしたわけではないのだけれど、間接的に私達を傷付けたという事にも自覚は無いというのかな?」
「はい、そんな自覚はさっぱりないですけど」
「そうか、君の口から出てこないというのはがっかりだが、この際は仕方ない。申し訳ないが君を私達の部室へ連れて行くことにするよ。あんまり手荒な真似はしたくないんで、素直について来てもらえるかな?」
「はあ、お昼がまだなんでお弁当食べながら話を聞いてもいいですか?」
「そうだな。今はお昼休みだしそうするのが良いと思うよ。君が素直で助かるよ」
僕はいつもこうして注目されるのだが、何かそんなに悪いことをしてしまっているんだろうか。いや、何もしていないと思うのだけれど、この先輩方が絡んでくるという事は十中八九陽香絡みの話だろう。そうは言っても、先輩たちと最後にあったのはゴールデンウィーク直前だったし、その後にどこかで会っていたというのだろうか。いや、そんなことは無いはずだ。
僕はまるで警護されているかのように四人の先輩に囲まれているのだけれど、事情を知らない人達から見ると、三年生の女子に守らせている一年生の男子という構図に見えるのではないだろうか。何から守られているのかはわからないが、先輩たちは角を曲がるたびに何かに警戒はしているようではあった。
「あの、そんなに何を警戒しているんですか?」
「それもあとでわかる話だ。今は大人しくついて来てくれればそれでいいからね」
僕たちはお料理研究会の部室の前を通って先輩たちのたまり場である部室にたどり着いた。あんなに警戒しているので何かとんでもないことがあるのではないかと思っていたのだけれど、特に誰ともすれ違わなかったしどこかの部室から誰かが出てくると言ったことも無かった。
「最初に確認しておくことがあるのだが、君が持っているそのお弁当を作ったのは前田陽香様なのかな?」
「今日は違うと思いますよ。陽香の姉の沙緒莉姉さんだったと思います。陽香は今日の朝ギリギリまで寝ててお弁当を作る時間は無かったと思いますから」
「そうか。陽香様のお姉さんが作ったのか。ちなみになんだが、それを見せてもらうことは出来るだろうか?」
「はあ、別に見るくらいならいいですけど」
僕が食べようと思って持ってきたお弁当を開けると、四人ともそのお弁当を一斉に覗き込んだ。誰かがつばを飲み込む音が聞こえたのだが、僕のお弁当を食べようとしているのなら勘弁してもらいたい。僕はいつも以上にお腹が空いているのだ。
「そうか。陽香様のお姉さんも料理が上手なんだな。こんなに綺麗なたまご焼きは今まで見たことが無いぞ」
「確かに。私が焼いてもこんなに綺麗に巻けないし、もう少し焦げてしまうと思うな」
「それに、あの一口ハンバーグも美味しそうだよ。ソースが別添えってのもいいね」
「ご飯ものり弁になってるみたいだけど、何か工夫がされているみたいに見えるね。早く食べてもらってもいいかな?」
「それじゃあ、いただきます」
自分が持ってきたお弁当を食べるだけなのにこんなに先輩たちから注目されるというのはなんだか落ち着かない。決して気持ちの良いモノではないのだけれど、そんな事は気にせずに僕はたまご焼きに箸を伸ばした。
僕の一挙手一動見守る先輩たちは少しの事でも感嘆の声を上げ、僕はますます食べづらくなってしまっていた。それに、このたまご焼きも卵の味しかしないのでどう表現すればいいのかわからない。見た目は凄く綺麗なのに、作り物のたまご焼きを口にしているような気分になってしまった。
そして、僕はご飯を食べようとして海苔に箸を入れたのだが、一枚海苔ではなく海苔を細かくちぎって並べているので箸がスッと入っていったのだ。それだけではなく、海苔が二段になっていた。
僕はそんな細かいことをするなら醤油を少しでもつけて欲しいと思ったのだが、沙緒莉姉さんは味付けに醤油を使うという事を知らないので、それは無理な注文なのかもしれないと改めて思ってしまった。
海苔とご飯だけでも十分美味しいのだが、少しくらいは塩っ気があるものが欲しいと思い、僕はハンバーグに添えられているソースに期待をしたのだけれど、このソースは色がついただけのただの水だった。もちろん、そんなのは開けた瞬間に気付いたので大惨事にはならなかったのだが、一口試しになめてみたところ、何の味もしない普通の水のように思えた。
僕は肉本来の味と海苔の味を頼りにご飯を食べていたのだけれど、僕が箸を伸ばすたびに先輩たちは何とも恨めしそうな表情を見せてきていた。何か交換してくれるなら僕も嬉しいのだけれど、先輩たちが食べているのは購買に売っていそうな菓子パンばがりなので交換することは難しいだろう。
「食べながら話を聞いてもらって構わないのだが、君は連休中に陽香様とどこかへ行ったのかな?」
「えっと、海と買い物に行ったくらいですかね」
「海というのは、どこの海なのかな?」
「そりゃ、この時期だったら東南アジアのどこかなんじゃない?」
「いや、地中海かも知れないよ」
「それもあるかもしれないが、カリブ海かもしれないな。あそこは食事もなかなか美味かったからね」
「いや、地元の海ですよ。沙緒莉姉さんの友達に車で連れて行ってもらいました。寒かったけど楽しかったですよ」
「そうか、そうだな。地元にも海はあるんだったな。あまりにも身近すぎてその発想は無かったな。ちなみに、その時に写真などは撮っていないのかな?」
「写真は撮ってないですね。寒かったんで散歩してお弁当を食べたくらいですし」
僕のその言葉に誰かが舌打ちをしたのだが、それが写真を撮ってないことに対してなのかお弁当という言葉に反応したのかはわからない。まあ、どっちでもいい事なので気にしないのだが。
「君達は連休中はすっとこの街にいたという事なのかな?」
「そうですね。市外に出たかどうかと言われると、ギリギリ出てないですね。あのショッピングモールから向こうに入ってないですから」
「そうなのか。まあ、連休の過ごし方は人それぞれだからな。ちなみになんだが、私達は皆海外に行っていたのだ。特に深い意味は無いのだが、私達は海外に行っていたのだよ」
「海外って行った事ないけど、連休中は僕の両親も海外に行ってましたよ。陽香たちの両親に会いに行ってたみたいですけど、僕はパスポートを持ってないんでついていけなかったんです。陽香たちもついていかなかったのはなんでなのかわからないですけど、僕の両親は海外に行ってましたよ」
「君もパスポートは早めにとっておいた方がいいんじゃないかな。多少のお金はかかると思うが、いつどのタイミングで海外に行くことになるのかわからないので持っていても損は無いともうよ」
「そうなんでしょうけど、今の僕にはそんな余裕はないですね。それに、そんなに海外に行ってみたいって思わないんですよ」
「まあ、考えは人それぞれだからね。そうだ、君にここに来てもらった理由を伝えさせてもらうのだけれど、その理由は二つあるんだ。まず、一つ目を千枝ちゃんから説明させてもらうね。じゃあ、千枝ちゃんよろしく」
「舞ちゃん分かったよ。えっとね、君は連休中に何度か陽香様と何度か一緒に出掛けてたって言ってたけど、その時に陽香様の写真を撮ったのかな?」
「いや、撮ってないですけど。それがどうかしたんですか?」
「君は何を考えているんだよ。そんなに近くにずっといるというのに、なんで陽香様の写真を撮ろうとしないのかな。別に陽香様の恥ずかしい写真を撮れなんて言ってるつもりは無いよ。あくまで、日常のワンシーンを撮ってくれさえすればそれでいいんだよ。どうしてそれをしようとしないのか、私達は理解に苦しむよ」
「え、だって、そんなの急に撮るなんておかしいじゃないですか。それに、僕はスマホのカメラを使って何かを撮ることなんて滅多にないですし」
「私はね、隠し撮りをしてくれって言ってるんじゃないよ。そりゃ、私は今まで何度も隠し撮りをしてきたよ。でも、その写真には被写体である陽香様の気持ちが入っていないんだ。君が撮った写真に陽香様の気持ちが入るとは限らないけど、私が撮るよりもその可能性は何倍だって高いんだよ。だからこそ、君は私達のためにも陽香様の写真を撮るべきなんだ」
「そんな風に言われても困るんですけど。それに、急に写真を撮りだしたらおかしいでしょ」
「そこで二つ目の理由を説明させてもらうんだが、私達は海外に行っていたと先ほど言ったのだが、それは覚えているかな?」
「はい、それは覚えてますけど、それがどうかしたですか?」
「そこでだな。私達はそれぞれ陽香様にお土産を買ってきたのだ。もちろん、これは陽香様ファンクラブとして許される行為ではないと理解している。我々は陽香様に自分から関わりに行くことを禁じているのだが、お土産を渡すという行為はまさに違反行為となってしまうのだ。だが、私達はどうしても陽香様に海外で買ったお土産を渡したいのだ。でも、それは他の部員の手前堂々と渡すことは出来ないのだ。そもそも、私達は陽香様に話しかけることすらできないのだがね。そこで考えたのが、陽香様に渡せないのであれば、君に渡してしまえばいいという事だ」
「いや、僕に渡しても何の解決にもならないでしょ。むしろ、僕に渡したことで陽香から遠くなると思うんですけど」
「そんなことは無いんだよ。それが違うんだ。君に渡すことに意味があるんだよ」
「そうなんです。君が陽香様の前で私達から受け取ったお土産を見せることで興味を持ってもらい、欲しいと思わせることが出来たらいいのです。もちろん、欲しいと言われたら陽香様に渡していただく必要があるのですが」
「そんなのがうまく行くと思ってるんですか?」
「いえ、正直に言えば成功率なんてほとんどゼロに近いでしょう。でもゼロじゃ無い限り挑戦する意味はあると思うのです。どうでしょう、その作戦に載っていただけないでしょうか?」
「別に受け取るのは良いんですけど、そんな風に見せて陽香の興味を引くんじゃなくて、僕が直接欲しいのがあるか聞いてみますよ。それで欲しいって言ったら渡せばいいですよね?」
「ちょっと待て、そんなことが出来るのか?」
「普通の人には不可能だろう。でも、君ならそれも可能なのかもしれない」
「そうだね。陽香様に興味を持ってもらうよりもずっと可能性が高いんじゃないか」
「もしかしたら、これが陽香様に何か渡したいときのスタンダードなやり方になるのではないか?」
僕は四人の先輩たちからお土産が入っているらしい小袋を受け取った。どれもそんなに重量感は無いので邪魔にならないと思う。お土産なんてこれくらいのサイズ感がちょうどいいのだ。
「全くもって君の発想には驚かされるよ。高校からこの学校に通おうと思うくらいだから出来るやつなんだとは思っていたが、私達の想像をはるかに超える優秀さだよ」
「そうだね。舞ちゃんの言う通りだよ。君は本当に凄いよ」
「天才の発想力ってのは我々凡人には想像もつかない角度から生み出されるのかもね」
「じゃあ、いつものお礼をしておこうか」
僕はお弁当を入れている袋に四人分のお土産を重ねて入れたのだが、先輩たちは教室の時と同じように僕の席を囲んで一斉にスカートをたくし上げた。
この先輩たちは僕がパンツを見れば喜ぶと思っているのだろう。確かに、綺麗な先輩たちのパンツが見れるのは嬉しいことではあるのだが、こんな風に堂々と見せられるのはあまり好きではないのだ。
「さすがにブラを見せるのは恥ずかしいのでこれで勘弁してもらいたいのだが、あんまり嬉しそうではないみたいだね」
「いや、嬉しいとかそういうのじゃなくて、単純に恥ずかしいです」
「そうか。確かに私達が君の方を向いているのはお互いに恥ずかしいものがあるかもしれないな。良し、みんな、後ろを向こう。そうすれば多少は恥ずかしさも紛れるだろう」
先輩たちは綺麗に揃った動きで後ろを向くと、それぞれが得意だと思うポーズで僕にお尻を突き出してきた。
結果的に、僕の顔の近くに先輩たちのお尻が集まって触れそうな距離まで近付いてきたのだが、僕は椅子に座ったまま直立不動になってしまっていた。
先輩たちの顔が直接見えないというだけで、先程とは全然違うように感じてしまい、少しだけこれはいいかもと思ってしまった僕がここにいたのだった。




