林田さんの下着は海外で買ってきたものである
「こうして二人っきりになるのは久しぶりだよね。昌晃君は元気そうだったけど、連休中に何かいいことでもあったのかな?」
お料理研究会の部室で林田さんは僕の正面に立っていた。僕はこれと言っていいことも無かったので無言で考えていたのだが、沈黙に耐えきれなくなった林田さんは僕の言葉を待たずに次の質問を投げかけてきた。
「ねえ、なんで私には連休の間に連絡をくれなかったの?」
「なんでって言われてもね。特に変わったことも無かったからかな」
「何も無くてもさ、たまには連絡をくれてもいいんじゃないかなって思うんだけど、昌晃君にとっての私って、連絡をしなくてもいいような関係なのかな?」
「それはよくわからないけど、連絡をしなくてもしても気にならないような関係じゃないかな。でも、林田さんも僕に連絡はくれなかったよね?」
「そうなの。私は家族でエジプトに行ってたんだけど、どうせ海外では自分のスマホは使えないと思って持っていかなかったのよ。帰って来て連絡が着てるかなって思ってみたんだけど、いつものメルマガしか私には届いていなかったのよ。十日くらい家に置いてあったスマホも充電しなくても着信が無ければ意外ともつんだなって初めて知ったよ。そんな感じなんだけど、昌晃君は楽しく過ごせてた?」
「僕はほとんど家でゲームをして過ごしてたかも。寒い中海に行ってみたけど、まだ海は早いって結論を得たくらいかな」
「そうなんだ。海に行った時は前田さんたちも一緒だったんだよね?」
「そうだよ。沙緒莉姉さんの友達が車で連れて行ってくれたんだけど、思っていたよりも風が強くて大変だったな。今日みたいに風も穏やかで暖かい日だったらもう少し楽しかったかもね」
「確かに、今日みたいな天気だったら少しは楽しいかもね。でも、ちゃんと夏になってからの方がいいと思うわ。そう言ってみたけど、この辺の海は海水浴なんて出来ないからあんまり意味が無いかもしれないけどね」
「そう言えばそうだね。海水浴をするには遠出しないと無理かもしれないよね。桃は海水浴とかしたことあるの?」
「私は小さい時にしたことがあるみたいなんだけど、記憶にないのよね。写真では見たことがあるんだけど、本当に小さい時だったから覚えてないのよ。私が幼稚園に入った頃には家族もみんな忙しくなってたから海に行く機会なんて無くなってたんだけど、纏まった休みが出来たら海外に行くようになったんでますます海水浴なんてしなくなっちゃったわ」
「海外って行った事ないんだけど、海水浴とかはしないもんなの?」
「他の人はどうか知らないけど、私の家族は海の近くに行ってもレストランに入るくらいで海には入ったことないわ。プールとかは時々行くけど、海には入ろうと思ったことが無いかもしれないわね」
「そう言うもんなんだね」
僕は海水浴に行った経験がないのだけれど、僕の家の近所に住んでいる人はほとんどそうだろう。僕の通っていた小学校や中学校に通っていた人も海水浴をした経験がある人なんてほとんどいないと思う。海に入って遊ぶなんてこの辺の人にとっては漫画やアニメの世界の話なのだ。
それと同時に、僕が今通っているこの高校の生徒のほとんどは大型連休になると海外や国内の有名リゾート地に行くようなのだが、それも漫画やアニメの世界の話のように思えてならない。
「私はさ、クラスの人とあんまり仲良くないじゃない。昌晃君と男子が仲良くないのとは違う理由で私には友達がいないんだけど、今回の旅行でお土産を選んでいたら家族に驚かれちゃったんだ。誰にあげるお土産を買ったんだって帰りの飛行機でもずっと聞かれてたんだよ。おばあちゃん達はずっと気にしてたんだけど、お父さんはちょっと嬉しそうにしてたな。でも、私がお土産をあげた相手が昌晃君だって知ったら、お父さんはどんな反応をするのか気になるかも」
「それって、あんまりいい反応じゃないかもしれないって事かな?」
「どうだろう。私のお父さんって私がいっつも一人でいるのを心配しているみたいだし、昌晃君みたいにしっかりしている人だったら何にも言わないんじゃないかな。それに、お友達にお土産を買うのっておかしなことじゃないもんね。私と昌晃君はお友達同士だもんね」
「そうだね。やましいことなんて何もしてないから問題ないって思われるんじゃないかな」
「だよね。私達ってクラス代表と副代表として真面目に話し合いをしているだけだもんね」
そんな事を言いながらも、林田さんはいつものように僕の太ももの上に座ってきた。いつものように僕の上に乗ってお弁当の残りを食べるのだろう。これが本当に健全な関係なのかと言われると、僕は何も言えなくなってしまうと思うのだけれど、林田さんは週に一度こうしていないと何も手につかなくなってしまうそうなのだ。連休中は家族の目が合ったので何とかなったそうなのだが、今はそうもいかないようで今まで以上に僕の体に密着してきていた。
制服越しでも伝わってくる林田さんの柔らかな感じだったのだが、真弓を膝の上に乗せたのとは違う感触が僕の脚を通して全身を駆け巡っていた。
もしかしたら、林田さんが僕を求めていたのと同じくらいに僕も林田さんを求めていたのかもしれない。林田さんじゃなくて他の人を乗せたらどうなるのか気にはなるのだけれど、こんなことを頼むことなんて僕には出来なかった。なので、僕は林田さんのしたいように好きなようにしてもらう事しか出来なかった。
「今日はね、海外で買ってきた下着をつけてるんだよ。でも、今日はまだ見せてあげない。でも、昌晃君がどうしても見たいって言うんだったら考えちゃおうかな。ねえ、どうしても見たいって思っちゃうかな?」
「どうしてもってわけではないけど、見てみたいとは思うよ。でも、どうしてもってわけではないんだよね」
「じゃあ、見れなくても平気って事?」
「うん、桃にはそんなに簡単に下着を見せるような事をして欲しくないって気持ちの方が強いかも。だからさ、無理に見せなくても大丈夫だからね」
「そんな風に思ってくれているなんて嬉しいな。じゃあ、嬉しいから特別に上だけ見せてあげるね」
林田さんは僕から少しだけ離れると、少し恥ずかしそうにしながら制服のボタンを一つずつ外していた。僕は黙ってそれを見守っていたのだけれど、無理に止めるような事はしなかった。
林田さんはボタンを最後まで外すと、僕の前に立って制服を左右にゆっくりを開いて見せてくれた。
林田さんの綺麗な白い肌から浮いているような派手な下着ではあったのだけれど、不思議と違和感はなかった。むしろ、派手な分だけ林田さんのきめ細やかな肌が際立っているようにも見えた。
僕も林田さんも何も言葉は発することは無かったのだけれど、お互いに緊張で鼓動が早くなっていたと思う。あまりにも静かな空間になってしまっていたので、お互いの吐息に混ざって心臓の音が聞こえているような錯覚さえ覚えていた。
手を伸ばせば簡単に触れられそうな距離にいるのだけれど、僕はどうにか理性を保ってそれだけは抑えることが出来ていたのだ。ただ、もう少し林田さんが違い距離に立ってしまうと、それを継続することなんて無理になってしまうと思っていたのだった。
お弁当はまだ二人とも残っているのだけれど、とてもそれに手を付けられるような状況ではなかった。でも、残さずに最後まで食べないと作ってくれた陽香に悪いと思いつつも、今はお弁当を食べるタイミングではないとわかってはいた。わかってはいたのだけれど、教室に戻る前にはちゃんと食べようと心に誓っていたのだ。




