甘えたがりの伊吹ちゃん
僕たちが買い物から帰って来ても沙緒莉姉さんはまだ起きていないようだった。陽香は一人でテレビを見ていたようなのだけれど、いつか見たことのあるような映画を黙って見てた。何度も見ているような気がするのだけれど、陽香はその映画を見る時はどんなことがあっても集中力をかかさないのだ。
さっそく僕たちは芋もちを作り始めようとしたのだが、ちゃんとした手順はわからなかったので真弓に調べてもらう事にした。その間に出来ることをしておこうと思い、伊吹ちゃんと二人でジャガイモを洗うことにしたのだ。
「真弓ちゃんのパンツが見えてたのっていつから気付いてました?」
「いつからって、伊吹ちゃんと目が合ったちょっと前くらいかな」
「そうだったんですね。僕もそれくらいに気付いたんですけど、先輩が見ている手前指摘するわけにもいかなくて、どうしようかなって思ってたんです。でも、先輩が凄くスマートにスカートを直してたんで凄いなって思いました」
「まあ、真弓はあんな風にそそっかしいところがあるからよくあることだしね」
「え、そうなんですか?」
「そうなんですかって、僕は何度もそういう場面に遭遇しているんだけど、学校ではそういうの無いのかな?」
「全然ないですよ。少なくとも、僕と一緒に居る時にパンツが見えてたってことは無いですよ。真弓ちゃんは可愛いからみんなに注目されてるんですけど、パンツが見えてる時があったらもっとその話題が出てると思うんですけど、そんな話は一回も聞いたことが無いんです」
「へえ、家じゃ猿みたいに走り回ったりすることもあるんだけど、学校ではそんな風に走り回ってスカートが捲れたりしてないの?」
「ええ、そんなことしているんですか。真弓ちゃんってすっごく大人しい淑女って感じの振舞ですよ。たまにある体育の時とかは結構活発な感じですけど、普段の真弓ちゃんはお淑やかな女性ですもん。僕もそんな風になりたいんですけど、どうしても大人しくすることが出来ないんですよね。私服の時は今みたいに何とかなるんですけど、制服を着ている時、特にスカートがダメなんだと思いますけど、スカートを履いていると落ち着かないんですよ。足元がすーすーするって言うか、なんか動いてないとダメなような気がして僕は落ち着きを失ってしまうみたいなんです。先輩もそういう事ってありませんか?」
「いや、僕はスカートを履いたことが無いからわからないけど、もしかしたらそういうのは共感できるかもしれないな。何となくだけど、スカートって履いてても不安になるような気がするよ」
「そうなんですよ、僕は私服でスカートなんて履くことは無いんですけど、お母さんにはもっと女の子らしくしなさいって言われてて、真弓ちゃんの話をしたら会ってみたいってうるさいんですよね。でも、真弓ちゃんはいつも忙しそうだから家に来てもらう事が出来ないって言ってるんですよ。今日は真弓ちゃんの家に呼ばれているから遊びに行くって言ったんですけど、なんかお母さんも一緒に行きたいって言いだしたんで困っちゃいました。お母さんも僕と一緒で落ち着きが無いんですけど、さすがに友達の家に遊びに行くのに親が付いてくるってのはありえないですよね」
「まあ、そうだよね。僕の両親がいれば話は別かもしれないけど、今はそういう状況でもないしね」
「そう言えば、真弓ちゃんたちのご両親が海外にいるってのは聞いたことがあるんですけど、先輩のご両親も海外で働いているんですか?」
「いや、海外で働いてはいないよ。今は真弓たちの親に会いに行ってるんだけど、いつ帰ってくるかもわからないんだよね。本来ならゴールデンウィークが終わる前に戻ってくる予定だったみたいなんだけど、向こうで仕事の手伝いをすることになったらしくて、就労ビザが切れるまでは向こうにいるっぽい事を言ってたんだよね。僕は別にかまわないんだけどさ、もしかしたら真弓とかは寂しい思いをしているのかもしれないな。もしもそうだったとしたらさ、伊吹ちゃんは真弓と今みたいに仲良くしてもらえると嬉しいな」
「もちろんですよ。そんなことが無かったとしても僕は真弓ちゃんと仲良くしたいって思ってますからね。それに、真弓ちゃんみたいに可愛くなれるヒントを見付けたいなって思ってますもん」
「そんなものを見付けなくても伊吹ちゃんには伊吹ちゃんの良さがあると思うよ。今は真弓の事が輝いて見えているのかもしれないけど、伊吹ちゃんだってちゃんと輝いていると思うんだけどな。真剣にゲームをしている表情はカッコイイし、食材を色々と選んでいる時の表情は可愛かったよ」
「ちょ、ちょっと先輩、いきなり何を言い出しているんですか。僕がカッコよくて可愛いとかおかしいですよ。僕はそんなキャラじゃないですし、野山を駆け回る子猿みたいな感じじゃないですか」
「そっちの方がイメージ沸かないけどな。でも、快活なのは良い事だと思うよ。真弓だってみんなで遊んでる時はそんな感じの時もあるし、学校ではどうかわからないけど、意外と甘えん坊なところがあるんだよ」
「そうなんですか。真弓ちゃんって学校では出来る女って感じで、いつもリーダーシップを発揮しているからそういうのは意外です。真弓ちゃんって僕に持ってないモノを色々持ってるんですね。ちょっと羨ましいな」
「羨ましいって、どのあたりが?」
「僕は一人っ子なんで誰かに甘えるとかしたことないんです。そりゃ、両親やおじいちゃんおばあちゃんに甘えることはあるんですけど、そういうのと兄妹に甘えるのって違うじゃないですか。だから、真弓ちゃんが先輩に甘えているのとか羨ましいなって思っちゃうんですよね」
「ああ、僕も一人っ子だからそういうのはわかるな。沙緒莉姉さんは年上だけど甘えたくなるって感じではないし、陽香は同い年だから甘えるのも変だと思うし、真弓に至っては年下って事もあってそんなつもりはさらさらないんだよね。僕は誰かに甘えるとかそんなタイプじゃないけど、誰かに甘えられるのってそんなに嫌じゃないかもしれないな」
「へえ、そうなんですね。もしよかったらなんですけど、僕も先輩に甘えたりしていいですか。もちろん、いつもってわけじゃなくて、時々で良いんで僕も妹感ってやつを味わってみたいなって思ったりするんですよ」
「まあ、変な事をしないていうんだったら大丈夫だよ」
「もちろん先輩に変な事をしたりなんてしないです。そんな事をしちゃったらここに遊びに来れなくなっちゃいそうですしね」
「二人ともやけに楽しそうだけど、ジャガイモの皮むきまでやってくれてたんだね。凄く上手にむけてるけどどうやったの?」
「僕はピーラーを使って向いたよ。先輩は小さいナイフを使ってたけど、僕もいつかあんな風に皮を向けるようになりたいな」
僕はペティナイフを使って皮むきをしていた。時々手伝いをしていたこともあって皮むきは普通に出来るのだけれど、ナイフでジャガイモの皮をむくのは得意だったりするのだ。なぜなら、僕は昔見た映画のワンシーンでナイフを使って器用にジャガイモの皮をむいているのに憧れていたのだ。そんな事もあって、僕は一時期ジャガイモの皮むきを担当することになっていたのだ。真実は間違っても口にすることは無いし、今この場に両親がいないのは感謝でしかない。
「それにしても、お兄ちゃんって上手にジャガイモの皮をむくんだね。真弓もそんな風に上手にむいてみたいな」
「僕も先輩みたいに上手にむけるようになりますかね。良かったらやり方を教えてもらいたいな」
僕は真弓と伊吹ちゃんに挟まれた状態で二人に哀願されていた。こればっかりは自分でコツを掴むしかないと思うのだけれど、ナイフの持ち方だけでも教えてあげることは出来そうだ。
ただ、もうジャガイモの皮は向いてしまった後なので練習する機会はないのでまたの機会ということになったのだが、二人はそんな事に納得していないようではあった。
それに、二人が僕を挟んでいることになるのだが、僕の腕や背中にわずかなふくらみを感じていたのは真弓なりのイタズラなのだろうか。そんな風に思っていたのだけれど、僕に押し当てていたのは真弓ではなく伊吹ちゃんの方だったのだ。
僕と目が合った伊吹ちゃんはイタズラがバレた子供のように目を閉じていたのだけれど、それでも押し当ててくることをやめることは無かったのだった。
直接見たわけではないのだけれど、陽香よりは確実に大きくて、真弓よりは大きいかもしれないというような感触を感じながら僕はジャガイモの入った鍋が沸騰するのを待っていた。




