勝負に負けた僕は中学生とデートするべきなのか
僕がこれからやるべきことは何だろう。そう、沙緒莉姉さんを起こしに行ってさっきの勝負をうやむやにするという事だ。なぜなら、僕は今日初めて会った中学生の子と二人でどこかに行って遊んだりなんてすることが出来ないのだ。勝負に負けた上にそんな風に逃げるのなんて男らしくないと自分でも思っているのだけれど、そんな事を言っていられるほど僕は器用ではないのだ。
さあ、ここは勇気を出して逃げに徹するのみ。そう思っていたのだけれど、真弓はなぜか僕をじっと見つめていたのだ。何か言いたいことがあるのなら言って欲しいのだけれど、真弓は何も言わずに僕をじっと見ているだけなのだ。
真弓が何を思っているのかはわからないが、僕が負けたのをわざとだと思っていたとしたら訂正しておかないといけない。でも、あの負け方はわざとだと思われても仕方が無いと思うのだ。
何せ、僕の残機は最後の一機だけだったのだが、クレアさんは普通に二機残っていたのだ。あそこで避けられていなかったとしても、僕は普通に負けていたのだ。それはどう言い訳しても納得してもらえそうには無かったが、何とかするのが大人の力というものだ。でも、僕より頭のいい真弓を納得させることなんて出来るのだろうか。いや、するしかないのだ。
「ねえ、伊吹ちゃんはお兄ちゃんと一緒にどんなことをしたいの?」
「どんなことって言われてもな。今日は先輩に会ってみたいなって思って来ただけなんでそんな事を思いもしなかったんだよね。ゲームを一緒に出来たのは嬉しかったんだけど、僕はあんまり上手じゃないから少ししか出来なかったんだ。でも、真弓ちゃんとかお姉さんとか先輩とゲームが出来てとても楽しかったよ。だから、僕はそれだけでももう満足なんだ。せっかくの休みだし、先輩は僕の事なんて気にせずに好きなことしてくれたらいいと思っているよ」
何だよ。伊吹ちゃんって凄くいい子じゃないか。こんないい子とかわした約束を反故にしようとした自分が恥ずかしいよ。よし、何か伊吹ちゃんが喜ぶような事を一緒にしてあげよう。ゲームがしたいんだったらゲームに付き合うし、他にしたいことがあるんだったら出来る範囲でしてあげるしかない。
「あのさ、僕がクレアさんに負けたのは事実なんだし、伊吹ちゃんがやりたいことあるんだったら遠慮しないで言ってくれていいよ。でも、出来ない事はあるんでその所を考慮してくれると嬉しいな」
「え、いいんですか。でも、僕は真弓ちゃんから聞いているように先輩とお姉さんたちが楽しそうにしているところを見れたらそれで満足ですよ。今日だってそれを見るために来たようなもんですし」
「それくらいだったらいつでも出来るし、今日は僕うが勝負に負けたわけなんだし、伊吹ちゃんが望むことを言ってくれていいんだよ」
「そうですか。じゃあ、先輩と一緒にお昼ご飯を作りたいです。何が食べたいとか思いつかないですけど、一緒にキッチンに立って料理をしたいな。真弓ちゃんは料理が苦手みたいなんで一緒に出来ないって言われたんですけど、先輩は料理するんですよね?」
「まあ、するけど。そこまで上手じゃないよ。普通に食べられるくらいの味にしかならないんだけどね」
「それが良いんですよ。僕って誰かと料理を一緒にしたことが無いから要領が悪いかもしれないですけど、そういうところを先輩に教えてもらいながら作りたいなって思ってます」
「そうだね。お昼までまだ時間があるし、何か食べたいものとかあったりするかな?」
「なんだろう。そう聞かれると思いつかないですけど、真弓ちゃんとお姉さんは何か食べたいものありますか?」
「真弓は特に食べたいものが無いんだけど、陽香お姉ちゃんは何かあるのかな?」
「私も特にないけど、昨日見た芋もちが食べたいかも」
「あ、真弓も芋餅食べたいかも。ちゃんとしたの食べた事ないかもしれないし、真弓も少しはお手伝いできるかもしれない」
「ちょっと、真弓はお手伝いしちゃダメだよ。今日は伊吹ちゃんと昌晃のデートなんだからね。でも、ジャガイモを買いに行くのに付き合うのはいいんじゃないかな」
「そうだったね。スマブラでお兄ちゃんが負けたから今日は伊吹ちゃんとお兄ちゃんがデートするんだもんね。でも、デートはお昼ご飯を作るやつって決まったからさ、その為のお買い物に真弓がついていくのは問題無いよね?」
「え、うん。真弓ちゃんが一緒について来てくれた方が僕は嬉しいな。先輩と二人だけで買い物に行くのはなんだか緊張しちゃいそうだし、上手くお話出来る気がしないんだよね。真弓ちゃんが間に入ってくれたら大丈夫だと思うんだ」
「でも、真弓は二人の間には入らないよ。お兄ちゃんを挟んで伊吹ちゃんとは反対側を歩くからね。デートの邪魔をしないように反対側を歩くからさ」
「それって、僕が先輩の隣を歩くって事?」
「そうだよ。手を繋ぐわけじゃないんだから大丈夫だよね?」
「大丈夫だと思うけど、大丈夫じゃないかも。考えただけで緊張しちゃうかも。どうしよう、僕困っちゃうよ」
「そんなに気にしなくてもいいと思うよ。真弓は伊吹ちゃんを煽りすぎだと思うけど、隣にいるのが昌晃なんだから気にする必要は無いでしょ。別にイケメンの芸能人じゃないんだし、気楽に隣を歩けばいいと思うよ。私だって通学中は隣を歩いているけど、緊張するような相手ではないと思うな」
「そうは言いますけど、僕はお父さん以外の男の人とこんなに一緒に居るの初めてですし、どうしていいかわからないんですよ。もう、どうしたらいいんですか」
「じゃあ、昌晃を使って男の人に慣れるようにしたらいいんじゃないかな。真弓だって最初は似たような感じだったし、すぐに打ち解けて仲良くなれると思うよ。昌晃は悪人じゃなくていい人だからね」
僕は陽香の言葉に多少棘があると思っていたけれど、それも陽香なりの優しさなのではないかと思っていた。伊吹ちゃんの緊張を解くために考えて言ってくれていると思うのだけれど、その言葉の奥には何か皮肉めいたものも聞こえるように思えて仕方がない。
まあ、今のうちに買うべきものをまとめておこうと思ったのだけれど、芋もちを作るのに必要なものなんて芋くらいしかないのだ。あとは、どれくらいの量を買えばいいのか考えるだけなのだが、どれくらい買えばいいのか見当もつかない。その辺は真弓に任せても問題無いだろう。真弓は味付け以外は完璧なので今回もお願いして問題はなさそうだ。
「でも、芋もちってどれくらい食べられるんだろう?」
「さあ、私は自分で作ったことないからわからないけど、余ったやつも焼く前だったら冷凍して保存できるみたいだよ。だから、たくさん作っても問題無いんじゃないかな」
「じゃあ、たくさん作ったらおじさんとおばさんの分も残しておけるかもね」
「そうね。その為にもたくさん買ってきちゃいなよ。ジャガイモなら余っても色々使えそうだしね」
おそらく、伊吹ちゃんは気付いていないと思うのだが、真弓は何げない普通の会話をしながらも僕にパンツを見せてきているのだ。陽香もそれには気付いていないのだろうけど、真弓は僕にお尻を向けているのだが、そのお尻を覆っているはずのスカートが完全に腰まで捲れあがってパンツが丸見えになっているのだ。
僕はそれを見てももはや何の感情も生まれてはいないのだが、この時に一つ気になったことがある。僕の位置から真弓のパンツが見えるという事は、僕の隣に座っている伊吹ちゃんにも見えているという事なのではないだろうか。
何気ない感じで横を向いて伊吹ちゃんの目線を確認しようと思ったのだが、僕が伊吹ちゃんの目線を確認するまでもなく、伊吹ちゃんが真弓のパンツを見ていることが丸わかりだった。伊吹ちゃんは真弓のパンツが見えているのに気付いているが、それを教えるとパンツが見えていることがバレてしまうと思っているような表情をしていた。もちろん、その顔は真っ赤になっていたのだ。
優しい僕は真弓の頭をポンっと叩いてこちらを振り向かせると、そのまま立たせてさり気なく捲れあがっているスカートを直すことに成功したのだ。僕の隣に座っている伊吹ちゃんは僕がさり気なく直したことに感動していたようで、他の二人に聞こえないように僕の耳元で「ナイスです」と囁いてくれたのだった。




